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Entry 2019/08/08
Update

映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』感想と評価レビュー。伝統の世界で活躍する女性に酔いしれる

  • Writer :
  • もりのちこ

日本を代表するお酒「日本酒」。
「日本酒」を知ればもっと日本が好きになる!

近年、世界に広がり続ける日本酒ブーム。その裏には、日本酒を愛する女性たちの活躍がありました。

カンパイ!日本酒に恋した女たち』は、蔵元や杜氏、そして世界市場へのPR、接客と、日本酒業界のあらゆる側面で活躍している3人の女性にスポットをあてたドキュメンタリー映画です。

彼女たちの「日本酒」への愛情と、情熱、そして行動力に刺激を受けます。長らく女人禁制とされてきた日本酒の世界が、新しい時代の扉を開いたのです。

女性ならではの自由な発想と、柔軟なコラボレーションを取り入れることで、日本酒はもっと多くの人が楽しめるお酒となっています。

日本酒をもっと知り、日本酒を飲みたくなる映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』を紹介します。

映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』の作品情報


(C)2019 KAMPAI! SAKE SISTERS PRODUCTION COMMITTEE
【日本公開】
2019年(日本・アメリカ映画合作)

【監督】
小西未来

【キャスト】
今田美穂、千葉麻里絵、レベッカ・ウィルソンライ、久慈浩介、ジョン・ゴントナー、神吉佳奈子、木村康司、生江史伸、リッチー・ホウティン、池田健司、今田之直、今村友香、薄井一樹、大西唯克、金光秀起、栗林直章、小林忠彦、小林正樹、坂田賀昭、佐藤祐輔、田村誠、土井鉄也、山本友文、渡邉康衛

【作品概要】
ジャーナリストとしても活躍する小西未来監督が、前作『カンパイ!世界が恋する日本酒』に続き日本酒ドキュメンタリー映画を製作。

今回は日本酒の世界で活躍する女性にスポットをあてたドキュメンタリー映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』となりました。

広島の今田酒造の女杜氏である今田美穂、日本酒バー店員で日本酒ソムリエの千葉麻里絵、ニュージーランド出身で日本酒コンサルトのレベッカ・ウィルソンライの日本酒を愛する3人の女性が登場します。

映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』のあらすじとネタバレ


(C)2019 KAMPAI! SAKE SISTERS PRODUCTION COMMITTEE
日本の代表的なお酒「日本酒」は、単純に見えて複雑なお酒です。

長らく女人禁制と言われてきた日本酒の世界に、最近は女性の介入が増えています。それは、日本酒の新しい時代を開き、世界中に日本酒を広めるきっかけとなっています。

広島県で100年以上続く老舗の酒蔵。「富久長」を醸す今田酒造の4代目にして杜氏の今田美穂は、広島の蔵元集団「魂志会」のメンバーでもあり、近年台頭している女杜氏たちの先駆者的存在です。

今田酒造では酒の仕込み作業が社員総出で行われています。今田は、男たちに混ざり、手慣れた様子で力仕事もこなしていきます。

幼い頃は「子供だから女だから蔵に入っちゃだめだ」。と言われていました。東京の大学生に憧れ、上京。

そのまま就職するも、結婚もせず30代になりこの先何で食べていこうかと考えた時、実家の跡継ぎ問題が持ち上がります。

今田は、腹をきめ実家に戻り、前杜氏のもとで修業を積みます。時代は不景気を迎え、日本酒は人気低下。閉める酒蔵も増えて行きました。今田の新しい挑戦が始まります。

東京のとあるBarで、日本酒の講演を行う外国人の女性の姿がありました。フランクな雰囲気で開かれた会では、様々な国の人たちが日本酒を飲みながら交流をしています。

講師の名前は、レベッカ・ウィルソンライです。ニュージーランド出身のレベッカは、金閣寺に憧れ日本へ移住。伊豆半島での暮らしの中で飲んだ「磯自慢」の味に魅せられます。

世界で唯一、日本人以外で「利酒マイスター」の称号を持つジョン・コントナーの下で酒修行をしました。

レベッカは、日本酒イベントや品評会に日本国内だけじゃなく海外にも足を運びます。海外ではどのように日本酒が飲まれているのか、どんな新作が出たのか、常に情報を得ています。

始めは外国人ということもあり、イベントに参加しても観光客と間違わられ相手にされませんでした。何度も通い、会話をし、時間をかけて酒蔵の皆さんと関係を築いてきました。

東京・恵比寿にある日本酒バー「GEM by moto」の店長、千葉麻里絵は酒どころ岩手県の出身。幼い頃は、自給自足を営む実家で新鮮な食材を食べ、山を駆け回り遊んでいました。

その頃から食べることが大好き。食と日本酒の組み合わせにハマり出したのは、大学時代のアルバイトがきっかけでした。

飽き性で習い事も長く続かなかった千葉。日本酒は「これでわかった。と思うことがありません。それが心地いいんです」。と飽きることのなく取り組んでいます。

千葉は毎日、同じ時間に店にきて、その日出す日本酒を全部テイスティングします。毎日、同じ時間に同じ酒を飲む。そのことで、お酒の今日のコンディションがわかると言います。

同じ日本酒でも料理に合わせ温度を変え、お客様の好みに合ったお酒を選び、そこにある蔵元の思いを丁寧伝えます。食と日本酒の新たなマリアージュを追求し続けています。

日本酒を口に運んだお客様の顔が綻びます。「美味しい」。「好きな味」。千葉は決してコミュニケーションが上手なタイプではありません。しかし、日本酒を通して会話も弾みます。

千葉の日本酒への探求心は衰えることがありません。酒蔵で酒造りを体験したい。自分のお酒を造ってみたい。彼女の挑戦が始まります。

以下、『カンパイ!日本酒に恋した女たち』ネタバレ・結末の記載がございます。『カンパイ!日本酒に恋した女たち』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019 KAMPAI! SAKE SISTERS PRODUCTION COMMITTEE
今田酒造代表で女杜氏の今田美穂は、大学時代学んでいた古典芸能の世界で、成功の裏の見えない努力の素晴らしさに惹かれていました。

杜氏になった今田は、品種重視の酒造りに注目します。広島酒米のルーツである「八反草」を復活。時間をかけ妥協しない姿勢にまわりも協力的です。

また、ハイブリッド酵母の開発や、魚介類との相性を考えた「海風土(シーフード)」の開発など、古き良きものと新しい革新の両方に取り組んでいます。

レベッカは秋田の山本合名の蔵見学に来ています。そこで、計算された美しい酒の化学に触れます。白神山地の天然湧水で育まれた米と水で醸される味わい深い銘酒「白濠」。

蔵に足を運ぶことで、作り手のこだわり、地元の自然の恵みを知り、そこで産まれた日本酒の魅力をリアルに伝えることが出来ます。

レベッカは、現代美術家の村上隆氏と秋田の若手蔵元集団NEXT5とのコラボレーションで完成した、純米大吟醸の味のコーディネートの担当をしました。日本の伝統を勉強しながらも、外国人だからこその柔軟な発想は、多くのコラボ商品の開発へと繋がります。

「GEM by moto」の店長・千葉麻里絵は、日本酒の世界へどんどんのめり込み、本で得られる知識だけでは物足りず、熱心に蔵見学を重ねてきました。

栃木の小林酒造の代表は千葉が初めて来た時の事を語ります。「本当にどんくさくてね。ラベル張りを2年やった。7年たった今も変わらないのは、メモを取り続ける熱心さ。今では酒造りのフィーリングの話も出来るよ」。

千葉のお店での接客を見て、この人に自分のとこのお酒を任せてみたいという酒蔵もあります。

そして、千葉は出身地でもある岩手の酒蔵「南部美人」で酒造りに挑戦します。江戸時代の酒母の製法「生酛(きもと)造り(6号酵母)」にこだわり、理想の味を目指します。

完成した「南部美人 生酛KAMPAI!」は、昔ながらの作り方に、現在の酒造りの知識、技術を集大成した、新しい生酛造りのお酒となりました。「後味が酸味により綺麗に消えていくバランスの良いお酒」と、南部美人の代表も太鼓判を押します。

2019年の春。東京六本木で「CRAFT SAKE WEEK」が開催されました。各日異なるテーマで、1日10蔵ずつ日替わりで日本酒が楽しめるイベントは大盛況。

その会場にレベッカの姿がありました。中田英寿が代表を務めるJAPAN CRAFT SAKE COMPANYに所属するレベッカは、スタッフとして忙しそうです。

参加酒蔵をひとつひとつ巡るレベッカは、広島の今田酒造・今田美穂を訪ねました。日本酒の作り手として尊敬している今田を前に、レベッカは涙ぐみます。

そこには、女性として新しい道を切り拓いてきた絆が見えました。伝統の日本酒の世界で輝く女性たち。日本酒は時代に合わせ、もっと自由に、もっと美味しく変化し続けています。

映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』の感想と評価


(C)2019 KAMPAI! SAKE SISTERS PRODUCTION COMMITTEE
まさに日本酒に恋した3人の女性が登場します。彼女たちの日本酒にこだわる姿勢を通して、日本酒がもっと身近に感じられる映画となっています。

現代だからこそ、全国で女杜氏が活躍していますが、以前は女人禁制とされていた日本酒の世界。蔵はもとより、日本酒はオジサンの飲み物というイメージがあったものです。

女杜氏の先駆者的存在、今田酒造の今田美穂は、そんな男社会の中に飛び込み、物おじせず道を切り開いてきました。

映画の中では、彼女が神の酒と呼ぶ、ライバル酒蔵「土佐鶴酒造」の池田の元に酒造りを教わりに行った経緯が語られています。

池田は女性だからとか、ライバルだからとか一切関係なく、時を忘れるほど熱心に教えてくれました。それは広島の杜氏の歴史を受け継ぎ大事にしていく同志だからです。

新しい挑戦をするのは、酒造りの世界だけではありません。良い仲間と良い仕事をし、良いものを多くの人に届けたい。自分の立場に置き換えてみても、勉強する部分がたくさんありました。

ニュージーランド出身のレベッカ・ウィルソンライは、外国人の目線を持ちながら、日本酒を日本人よりも勉強し愛しています。私たちが、海外のワインを楽しむように、日本酒を楽しんでいます。

その真剣なまなざしは、いつしか伝統ある酒蔵の人たちにも伝わり、多くのイベントを開催するに至っています。

レベッカの柔軟な発想で、新しいコラボレーションが生まれ、日本酒に興味を抱く外国人が増えています。まさに、日本酒と海外の橋渡し的存在です。

また、「GEM by moto」の店長・千葉麻里絵の食と日本酒のペアリングの追求には、驚かされました。

お寿司にあわせて即興で日本酒を提供するライブ感あふれるパフォーマンス。これは一度体験したい。日本酒が苦手な人も、飲みなれない女子も、料理と合わせて日本酒を楽しめればハマること間違いなしです。

日本の伝統のお酒「日本酒」。日本酒を知れば、日本のことをもっと好きになれる気がします。

まとめ


(C)2019 KAMPAI! SAKE SISTERS PRODUCTION COMMITTEE
伝統ある日本酒の世界で活躍する女性たちにスポットを当てたドキュメンタリー映画『カンパイ!日本酒に恋した女たち』。

2015年のサンセバスチャン国際映画祭でワールドプレミアを迎えて、東京国際映画祭、ハワイ国際映画祭など国内外で数多く上映されてきました。

その人気は、日本酒が世界中で認識され、興味を持たれている証だと感じます。

世界中に日本酒ブームを!まずは、地元のお酒で自分のお気に入りを探してみてはいかがでしょうか。

岩手県八幡平市のお酒「わしの尾」を飲みながらの執筆となりました。

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