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映画『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』感想評価と解説考察。アート作品に携わる人たちの情熱と真摯な仕事に迫る

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』は2023年7月15日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

ル・コルビュジエが設計し世界文化遺産に登録された、東京・上野の国立西洋美術館の舞台裏を描いたドキュメンタリー映画『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』が2023年7月15日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショーとなります。

2022年、国立西洋美術館が創建時の姿に近づける整備のために休館した際、美術館の内部にカメラが入り、1年半の長期間にわたって密着しました。

所蔵品の保存修復作業、コレクションの調査研究や海外・地方美術館への巡回展、特別展の企画開催など、「美」を守り伝えることに尽力する人々の多岐にわたる活動を詳細に記録したドキュメンタリーです。

さまざまな分野のプロたちの手によって、数々の名品が守られてきたことがよく伝わってきます。

映画『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』の作品情報


(C)大墻敦

【日本公開】
2023年(日本映画)

【監督・製作・撮影・編集】
大墻敦

【作品概要】
ル・コルビュジェ建築の世界遺産であり、東アジア最大級の西洋美術コレクションを誇る国立西洋美術館の舞台裏に迫るドキュメンタリーです。

ル・コルビュジェが構想した創建時の姿に近づける整備のために2020年に休館した館内に、1年半にわたり密着取材しました。

監督は、永青文庫「春画展」の内幕を描いたドキュメンタリー『春画と日本人』や『スズさん~昭和の家事と家族の物語~』(2021)などを手がけた大墻敦。

映画『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』のあらすじ


(C)大墻敦

1959年にフランス政府から日本へ寄贈返還された「松方コレクション」を基礎に、彫刻、版画、素描など約6000点の作品を所蔵する国立西洋美術館。

ル・コルビュジエが構想した創建当初の姿に可能な限り近づける整備のため、20年10月に休館となりました。前庭や動線まで復活させる大事業がおこなわれる中、内部にカメラが入り、1年半の長期間にわたる取材がおこなわれました。

モネの「睡蓮」やロダンの「考える人」といった数々の所蔵品を紹介するほか、「美」を守り伝えることに尽力する美術館スタッフの多岐にわたる活動を細部まで記録した一作です。

絵画の収蔵、それらを搬送する様子、修復作業の意味、前庭にある彫刻類の移動など、緊張感あるプロの仕事が映し出されます。

館長やキュレーター、美術関係者へのインタビューからは、彼らの美術への情熱とともに、日本の文化行政が抱える難問や美術館が抱える危機的状況があぶり出されます。

映画『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』の感想と評価


(C)大墻敦

普段は決して見ることのできない、国際的にも高く評価されている国立西洋美術館の舞台裏を見ることのできる、大変貴重なドキュメンタリー作品です。

世界的建築家のル・コルビュジエが構想した創建当初の姿に近づけるために改装に入った美術館の内部を、カメラが細部まで映し出します。

大きな絵画類がどのように収蔵されているのか、またどのようにそれらが搬送されるのかなど、興味深い現場を観ることが出来ます。

工事に伴い停電となるため、学芸員の指揮監督のもと美術専門配送者が空調のある場所へ作品を移動させたり、パズルのように大小の作品を組み合わせて保管して場所を節約する工夫など、細やかな作業に頭が下がります。

神経を使い貴重な作品を運ぶ様子を見るだけでも、じんわり汗ばむようなスリルを感じることでしょう。

前庭も当初の姿に戻すために、銅像の移動も行われることとなりました。像の台下にもぐりこみ、どのような方法で運べば作品を傷めずに済むのか丁寧に模索していきます。

館長をはじめ、学芸員など21名の仕事内容や真摯な仕事ぶり、彼らのふつふつと燃える情熱は感動的です。

美術品購入の際にコロナ禍で直接現物を見ることができず、写真だけで行う難しさと緊張など、学芸員の苦労も伝わってきます。彼らが美術に心惹かれるようになったきっかけが語られるなど、ひとりひとりの一面も垣間見ることができる一作です。

展覧会の出資者がマスコミであるために利益が美術館に入らないシステムや、そしてそのためスポンサーがいなくなった際に展覧会が開けなくなるなどの大きな問題点も浮き彫りとなります。

さまざまな方面のプロたちが力を尽くして工事にとりかかる様を見たら、すぐに美術館を訪れて素晴らしい作品群を間近で見たくなるに違いありません。

まとめ


(C)大墻敦

日本が誇る世界遺産・国立西洋美術館の舞台裏に迫る貴重な一作です。

ひとつの展示会を開くためにどれだけ大変な作業がおこなわれているのか、携わるプロたちがどれほど細心の注意を払って仕事に臨んでいるのかがよくわかり、静かな感動を味わえます

多くの人々にいかにして美術の素晴らしさを伝えていくかに心を砕くスタッフたちの日々、美術を愛し守り抜く覚悟が伝わり、そのような熱い思いによって芸術がこれまで守られてきたことを実感できることでしょう。

ドキュメンタリー映画『わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏』が、2023年7月15日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショーです。

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