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Entry 2019/10/05
Update

映画『キューブリックに魅せられた男』感想とレビュー評価。逸話を持つ巨匠にすべてを捧げた生き様

  • Writer :
  • 映画屋のジョン

映画『キューブリックに魅せられた男』は2019年11月1日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかで、『キューブリックに愛された男』と全国カップリング上映!

没後20年、今なお伝説の巨匠として語り継がれる映画監督、スタンリー・キューブリック

その巨匠の素顔に全てを捧げ、誰よりも巨匠に近づいた男の、壮絶な姿が紹介されます。

『2001年宇宙の旅』、『時計じかけのオレンジ』を見て、キューブリックの映画の虜になったイギリスの俳優、レオン・ヴィターリ

既に若手俳優として成功していた彼は、『バリー・リンドン』に出演後、俳優の道を捨て敬愛する映画監督の身近で、彼の映画作りを学ぼうと決意します。

全てを投げ打って、完璧主義者のキューブリックの助手となったレオン。こうして彼は、人生の全てを巨匠に捧げる事になったのです

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映画『キューブリックに魅せられた男』の作品情報


C)2017 True Studio Media

【日本公開】
2019年11月1日(金)(アメリカ映画)

【原題】
FILMWORKER

【監督・撮影・編集】
トニー・ジエラ

【出演】
レオン・ヴィターリ、ライアン・オニール、マシュー・モディーン、R・リー・アーメイ、ステラン・スカルスガルド、ダニー・ロイド

【作品概要】
スタンリー・キューブリックの創作現場で、少しでも彼の才能に近づこうと、誰よりも身近に仕えた男の姿を、本人と様々な人物の証言を交えて描くドキュメンタリー映画。

キューブリックの現場助手として、彼の映画製作のみならず、配給・宣伝・マーケティングに品質管理…あらゆる場面に関わる事となったレオン・ヴィターリ。

その姿を紹介したこの映画は、伝説の巨匠の撮影現場の裏側だけでなく、産業・芸術としての映画を隅々まで紹介してくれます。

そしてキューブリックの過酷な要求にこたえ続けたレオン。彼の歩んだ人生と現在の姿が、全ての映画ファンに衝撃と感動を与えます。

映画『キューブリックに魅せられた男』のあらすじ


C)2017 True Studio Media
ロンドンの音楽演劇アカデミー卒業後、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』と『時計じかけのオレンジ』を見たレオン・ヴィターリ。映画に圧倒された彼は、将来この監督と仕事がしたいと心に誓います。

その後役者として活躍、順調にキャリアを伸ばしていたレオンは、『バリー・リンドン』のオーディションに合格、ついにキューブリックの映画への出演を果たしました。

俳優として厳しい要求に応え、監督に認められたレオン。彼は映画製作の隅々まで指揮するキューブリックの姿に感銘を受け、2人は親交を深めていきます。

撮影終了後レオンは、キューブリックの元で働き、映画製作について学びたいと申し出ます。興味を示した監督は、『シャイニング』の撮影現場に彼をスタッフとして招き入れます。

俳優としての経験を持つレオンは、出演者の演技指導などで監督の信頼を勝ち取ります。またレオンはキューブリックから全てを学ぶべく、あらゆる現場で身近に仕えます。

やがてキューブリックは、気難しい完璧主義者の一面を露わにします。身の回りの雑務から映画に関するあらゆる仕事、その常識を越えた仕事の量は膨大で、週7日、1日24時間の全てを捧げる事になるレオン。

監督からのプレッシャーは激しく、彼は肉体的、精神的に追い詰められていきます。その衰弱した姿は誰もを心配させます。

そして『アイズ ワイド シャット』の公開前にキューブリックは死去します。しかしそれは、レオンが巨匠からの解放される事を意味していませんでした。

今や誰よりも、スタンリー・キューブリックを知る人物となったレオン。最後まで巨匠に尽くした男の奮闘は、今も終わりを迎えていません…。

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映画『キューブリックに魅せられた男』の感想と評価


C)2017 True Studio Media

逸話1:成功した俳優業を捨てキューブリックに師事!

『バリー・リンドン』で主人公ライアン・オニールと対決する、義理の息子という大役で出演し、役者としての才能をキューブリックに認められたレオン・ヴィターリ

既に若手俳優として名を成し、成功を約束されていた彼は、キューブリックの映画作りに感銘を受け、彼の下で働き映画作りを学びたいと申し出ます。

そのレオンの姿は後に人から、明るく輝く炎に引き寄せられ、その身を焦がす蛾のように例えられる事となります。

レオンが魅了されたのは、キューブリックの才能でしょうか。それとも初対面の誰もが魅了される、“人たらし”と呼ばれる彼の態度だったのでしょうか

キューブリック作品に出演した結果、国立劇場からオファーがあり、映画『Terror of Frankenstein』では、主役のフランケンシュタイン博士役をレオンは演じます。

キューブリックからのアドバイスで、『Terror of Frankenstein』撮影後は作品の編集・音響作業に加わり、映画製作の経験を積んでいたレオンに、キューブリックから連絡が入ります。

彼は役者としての全てのオファーを断り、キューブリックの新作映画『シャイニング』に、スタッフとして参加する道を選びました

逸話2:逸話2:巨匠から全てを学ぼうとした男

撮影現場で憧れの巨匠につき従ったレオン。キューブリックのこだわりはメモを取らせる事でした。レオンは彼と過ごした時間の半分は、メモを取っていたと振り返ります。

映画製作のあらゆる場面を指揮するキューブリック、そして巨匠から学ぼうと常に付き従うレオン。

その姿は皮肉にも、常にフランケンシュタイン博士の傍らにいる、助手のイゴールの姿を人に想像させるものでした。

『シャイニング』で彼は、重要なダニー少年役のキャステイングを任され、演じた子役のダニー・ロイドの世話や演技指導を行っています。俳優としての経験が生かされ成果を出し、キューブリックからの信頼を得ます。

しかしキューブリックはレオンに、徐々に気難しい完全主義者の正体を露わに見せ始めます。監督から映画に関する無数の、あらゆる細かい用事や仕事を申し付けられるレオン。

映画の撮影が終わっても彼の仕事は終わりません。現在は簡単にポスプロと呼ばれる撮影後の作業のすべて、編集や音響のみならず、プリント現像などあらゆる業務を、キューブリックの望むレベルで行わねばなりません。

映画完成後も宣材の製作や公開スケジュールの管理に、各国版予告編の製作とやる事は山積みです。そんな中で劇場に発送する膨大なプリントの、1本1本の品質チェックまで要求されます。

さらにビデオやDVDが発売となれば、パッケージ製作とそのセールスの宣伝展開を行います。それらが落ち着いても、映画のネガやプリントの品質および在庫管理が待っています。

ここにあげたのは一例でしかありません。完全主義者のキューブリックは、大人数のスタッフが分担して行う映画製作の各パートだけでなく、製作・配給・宣伝会社が別々に行う業務まで、すべて自分で管理監督して行っていたのです

その全ての業務が、レオンの身に押し寄せたのです。しかし巨匠の映画作りに憧れた彼は、キューブリックからの要求に応じ続け、身も心もすり減らしていきます。

逸話3:巨匠亡き後に遺されたもの


C)2017 True Studio Media

やつれ果てたレオンの姿を誰もが心配します。しかし全てをキューブリックに捧げたレオンから、仕事を取り上げた結果を考えると、家族はそのまま見つめるしかありませんでした。

監督に罵倒されても、なお従い続けるレオン。そこには映画への情熱だけでなく、幼い頃の経験も反映されていたのかもしれません

『アイズ ワイド シャット』の最初の試写の後、急死したキューブリック。悲しみにひたる間もなく、映画が師の望んだ形で公開されるべく、レオンは行動を開始します。

しかし映画会社は巨匠本人では無く、1人の助手に過ぎないレオンに対し、冷たい態度を見せます。それでも今や、世界で最もキューブリックを知る男となった彼は、映画を完成させ師の遺作として世に送り出します。

その後もレオンは、キューブリック作品が再リリースされる際の復元などに、誰よりもキューブリック作品を知る者として、手腕を発揮します。

しかしキューブリック亡き後、今まで巨匠の横暴に苦しめられていた、関係者の怒りの矛先は、師の作品の品質を頑なに守ろうとするレオンに向けられます

映画会社からも疎まれ金銭的に恵まれず、肉体も衰弱したレオン。世間的には存在しないかの扱いを受けます。

美術館で大規模な「キューブリック回顧展」が開かれても、その準備に招かれるどころか、招待すらされませんでした。

しかし彼は怒る事なく、巨匠の業績を知りたい人のために、回顧展を案内する役目を引き受けます。今やレオンは、師の業績を正しく後世に伝える事を使命にしていました

参考映像:4K/BD『2001年宇宙の旅 HDデジタル・リマスター』予告編(2018年リリース)

『2001年宇宙の旅』の4K・HDデジタル・リマスター版の製作にも関わったレオンは、今はスタンリー・キューブリックのアーカイブ製作に関わっています。

自らを本作の原題、”FILMWORKER”(映画仕事人、または映画奉公人)だと話すレオン・ヴィターリ。今までの人生に満足し、生涯最後の日は仕事場で迎えたいと語ります

まとめ


C)2017 True Studio Media
映画『シャイニング』にまつわるドキュメンタリー映画を撮影していた、監督のトニー・ジエラ。その過程でレオン・ヴィターリに出会い、彼を世に紹介すべきだと決意し、製作された映画が『キューブリックに魅せられた男』です

その生き様は偉大な王に仕え、その王に先立たれた忠臣の姿を描く、将にシェークスピア劇を見るような感動を与えてくれます

そして映画産業の全ての部分に関わろうとした、完璧主義のキューブリックの姿を通して、改めて映画作りのあらゆる局面を再確認する事ができる映画です。

完成したプリントの1コマにまで、こだわりを見せたキューブリック。その命に忠実に従いチェックしたレオン。もはや2人には執念を越えた、鬼気迫る姿が感じられます。

また映画ファンには貴重な、キューブリック映画の舞台裏を教えてくれる映画でもあります。例を挙げると、『フルメタル・ジャケット』に関する関係者の証言があります。

新兵を罵倒し観客に強烈な印象を残す教官、ハートマン軍曹を演じた R・リー・アーメイ。しかしこの役は、当初ティム・コルチェリに与えられていました。

ティム・コルチェリには別に、ヘリコプターの機関銃手役が与えられ、このシーンも彼のセリフと共に、ベトナム戦争の狂気を表した名シーンとして記憶されています

この交代劇と2つのシーンの誕生に、レオンがどのように関わったか紹介されます。そこには興味深い事実がありました。

様々な面で映画ファン、そしてキューブリックファン必見の作品です。

参考映像:『ROOM237』予告編(2014年日本公開)

ところで『シャイニング』には、この映画に魅せられたファン、研究家の独自の検証を集めたドキュメンタリー映画『ROOM237』があります。

この作品について訊ねられ、世界でキューブリックを最も知る男・レオンはどう答えたか?色んな解釈をするのも映画を見る楽しみ方の1つ、どうかお手柔らかにお願いします。

映画『キューブリックに魅せられた男』は2019年11月1日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかで、『キューブリックに愛された男』と全国カップリング上映!




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