ヤマザキマリの大人気コミック『テルマエ・ロマエ』を実写映画化!
武内英樹が監督を務めた、2012年製作の日本の大ヒットコメディドラマ映画『テルマエ・ロマエ』。
古代ローマ帝国から現代の日本にタイムスリップした浴場設計士が、日本人の洗練された風呂文化に衝撃を受け、そのアイデアを用いた斬新な浴場を古代ローマ帝国に築いていく姿とは、具体的にどんな内容だったのでしょうか。
マンガ大賞2010や第14回手塚治虫文化賞短編賞を受賞したヤマザキマリの同名コミックを、阿部寛主演で実写映画化した大ヒットコメディドラマ映画『テルマエ・ロマエ』のネタバレあらすじや作品解説をご紹介いたします。
映画『テルマエ・ロマエ』の作品情報
【公開】
2012年(日本映画)
【原作】
ヤマザキマリの『テルマエ・ロマエ』
【監督】
武内英樹
【キャスト】
阿部寛、上戸彩、北村一輝、竹内力、宍戸開、勝矢、キムラ緑子、笹野高史、市村正親、外波山文明、飯沼慧、岩手太郎、木下貴夫、神戸浩、内田春菊、松尾諭、森下能幸、蛭子能収
【作品概要】
映画『テルマエ・ロマエ』は、「のだめカンタービレ」シリーズや『翔んで埼玉』(2019)などを手掛ける武内英樹が監督を務めた、日本のコメディドラマ作品。
原作であるヤマザキマリの漫画『テルマエ・ロマエ』をもとに、実写映画化された作品です。
「劇場版TRICK」シリーズや『チーム・バチスタの栄光』(2008)などに出演する阿部寛が主演を務め、2013年第36回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞しています。
映画『テルマエ・ロマエ』のあらすじとネタバレ
古代ローマ帝国の始まりは、紀元前753年にまで遡ります。幾度もの戦争や謀略を繰り返しながら、他民族を制圧し属州とすることで、ローマは世界最大の帝国として繁栄を極めていきました。
帝国の繁栄に貢献した歴代の皇帝たちは、神格化されることで神として崇められ、後世にその名を遺しました。
紀元128年、時の皇帝ハドリアヌスは、反対勢力を粛正するなど、暴君として恐れられていました。
そうしたローマにあっても、民衆は「テルマエ」と呼ばれる公衆浴場を愛し、皇帝は巨大な浴場を建設することで、民衆の支持を集めていきました。
アテネまで赴き、最高の建築技術を身に着けてきたテルマエ技師ルシウス・クイントゥス・モデストゥスは、古き良きローマのテルマエを民衆に思い出して貰おうと、あえて古いデザインのテルマエを設計しました。
しかし今の流行は、斬新な発想による派手なテルマエです。そのためルシウスの設計は時代に合わず、彼は職を失ってしまいました。
そんなルシウスを見かねた彼の友人であり、ローマに住む石工兼彫刻家のマルクス・ピエトラスは、テルマエに入ろうと誘います。
ただ今のテルマエは、本来あるべき「日々の疲れを癒しくつろげる空間」は微塵もなく、水泳をしたり格闘したり、脱毛したりと騒がしいところでした。
静寂な空間が広がっているのは湯の中だけです。ルシウスは静寂を求めて湯の中に潜り、派手なテルマエがもてはやされるこの現状を打破できるような斬新な発想を思いつこうとします。
その時、ルシウスはふと、湯が流れていく排水溝が目に留まりました。しかし、排水溝に顔を近づけすぎたせいで、ルシウスは流れに飲み込まれてしまいます。
ルシウスが死の物狂いで湯船の底から這い上がると、そこはローマではありませんでした。ルシウスは2,000年後の日本の銭湯へタイムスリップしてしまったのです。
ただ、ルシウスはここが日本であることに気がつきません。それどころか、ここは奴隷が入る属州のテルマエだと思い込んでいます。
ルシウスはシンプルで機能的な日本の浴場スタイルに感銘を受け、これを斬新さを求めるローマのテルマエに取り入れようと考え、ローマ人とは違う顔つきの日本人「平たい顔族」に、この浴場スタイルを仲間の技師に見せていいかと頼みます。
しかし、ルシウスの言葉は銭湯にいる日本人には通じません。それに全く気づかないルシウスは、まだ何か隠している風呂文化があると考え、隣接している女湯に入り込んでしまいます。
1人のおばちゃんから体重計を投げられ、ルシウスはその場で気絶。慌てて駆けつけた日本人男性に男湯に戻され、意識を取り戻したルシウスはフルーツ牛乳を貰います。
ローマのテルマエを遥かに凌駕する日本の風呂文化に、感銘を受けるとともに敗北感を感じたルシウス。必死にそれを悟られぬよう涙を堪え、目を瞑った彼は、いつの間にかローマへ帰っていました。
その数ヶ月後。ルシウスが風呂桶や富士山の壁絵、衣服を入れる籠、フルーツ牛乳など日本の浴場スタイルを取り入れ、設計したテルマエはローマ人にとても好評でした。
しかしルシウスは、マルクスと彼が一緒に暮らしている老齢の師匠と一緒に入った際、「家に風呂があったらいいのに」という師匠の言葉を聞き、湯の中でこう思いました。
「(確かに年老いた身で大浴場へ足を運ぶのは大変だ。入浴を諦めている老人も少なくないだろう)」
「(それはテルマエを愛するローマ人にとって、自分の生きがいを奪われるようなもの)」
「(何とかしてやれないものか。家に風呂、家に風呂、家に風呂…)」………するとルシウスは、再び現代の日本へタイムスリップ。
今度は銭湯ではなく、漫画家志望の山越真実がアシスタントをしている漫画家の家でした。浴槽にシャワー、湯の温度を逃がさないようにしているバスタブトレー、シャンプーハットにルシウスは感銘を受けました。
そこへ要介護者の漫画家の父が現れます。漫画家の父は、風呂場にいたルシウスを外国人のヘルパーだと勘違いし、彼にあかすりやシャンプーハットの使い方を教えました。
それにまたもや敗北感を感じ、洗面所前で項垂れるルシウスを見て、真実は漫画家としてデビューするために必要な「インパクトある主人公」だと思い、急いでスケッチブックを取りに行きました。
しかし真実が戻ってきた頃には、既にルシウスの姿はありません。何故ならルシウスは、洗面所に置かれた害虫駆除のスプレーを、誤って自分の顔に噴射しローマに帰ってしまったからです。
その1ヶ月後。ルシウスは師匠のために、家庭用のテルマエを設計しました。シャワーとシャンプーハットもついた画期的なテルマエに、ルシウスの評判はまさにうなぎのぼりです。
ただルシウスの顔はどこか浮かない様子。彼は日本で見た浴場スタイルや知識を再現しただけで、自分で考えたものではないと落ち込んでいたのです。
そんなルシウスの元に、思わぬ依頼が舞い込んできます。何と第14代ローマ皇帝プブリウス・アエリウス・ハドリアヌスから、別荘の個室風呂の設計を頼まれたのです。
民衆から暴君と呼ばれているハドリアヌスですが、実は彼はローマの平和を維持するため、属州を視察し、軍事力ではなく文化で圧倒できればいいと考えていました。
「テルマエとローマの在り方は似ている。広ければいいというものではない、派手であればいいというものでもない。安らげる場を与えてこそ、人々の幸福に繋がる」
「心を落ち着かせ、ローマの平和を施策するためには、テルマエが必要だ」「ローマ帝国のためだと思って、そなたの力を貸してはくれまいか」
映画『テルマエ・ロマエ』の感想と評価
ローマのテルマエ技師ルシウスは、愛国心が強く、それ故にローマ人の生きがいであるテルマエの設計・建造への思い入れも強いです。
良く言えば真面目、悪く言えば頑固者なルシウスは、斬新な発想を欲していました。その彼の願いがきっと、神に届いたのでしょう。
いつしかルシウスは、古代ローマ帝国と2,000年後の日本を行き来するタイムトラベラーとなりました。それが、ルシウスが名建築家として名を馳せるきっかけとなります。
ルシウスが日本へタイムスリップするたびに、ローマにはない風呂文化に感銘を受けている姿、そして言葉が通じないが故に生じる日本人との温度差がとても面白いです。
なかでもルシウスが、自動温水便座を体験した場面が印象深く、観ている人も思わず笑ってしまうギャグ場面となっています。
ギャグ要素が強い物語の前半とは打って変わり、物語の後半はローマの行く末がかかっているシリアスな場面が多く、ルシウスは自分の実力で名声を得たのではないことに自責の念に駆られてしまいました。
そんなルシウスを立ち直らせてくれたのもまた、日本人でした。日本での体験と真実たちとの出会いが、ルシウスを成長させ、そしてローマの風呂文化を変えたのです。
ルシウスと真実たちの共同作業と、ルシウスと真実の約束が描かれた場面はとても感動します。
まとめ
愛国心が強い頑固なローマのテルマエ技師が、ある日突然現代の日本へタイムスリップし、そこで得た知識と体験を活かして、ローマの風呂文化を変えていく日本のコメディドラマ作品でした。
エンドロール前、ハドリアヌスたちのその後が記されたテロップが流れました。ハドリアヌスはそれまでの帝国拡大路線を止め、現実的な国内安定化路線へと変革させ、138年に死去。のちにアントニヌスにより神格化されました。
アントニヌスは138年に第15代ローマ皇帝に即位し、先帝ハドリアヌスの国内安定化路線を継承し、その治世は終始平穏でした。161年没。
ケイオニウスはアントニヌスに代わり、137年にパンノニア属州総督に就任。ハドリアヌスの養子として、帝位継承者に指名されていましたが、史実どおり赴任先のパンノニア属州で疫病にかかり、翌年138年に死没しました。
ルシウスは当時革新的な浴場などを次々と作り、名建築家として名を馳せましたが、後世に残る文献が少ないため、晩年は不明です。
真実はローマでの体験を活かし、ルシウスを主人公とした漫画『テルマエ・ロマエ』を描き、出版社に持っていきました。その帰り道、真実は川から這い上がってきたルシウスと再会しました。
エンドロール中の映像には、ルシウスたちがそれぞれテルマエを楽しんでいる様子が描かれていました。愛国心が強いローマのテルマエ技師が、現代の日本人との出会いを機に、ローマの風呂文化を変えていくコメディドラマ映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。