ジェフ・ブリッジスとロビン・ウィリアムズが奏でるファンタジックコメディ
『未来世紀ブラジル』(1986)のテリー・ギリアム監督によるファンタジックなヒューマンコメディ。
アーサー王伝説に登場する漁夫王フィッシャー・キングのエピソードをモチーフに、人気DJだった男とホームレスの出会いが互いの人生を変えていく様子をあたたかく描きます。
ジェフ・ブリッジスとロビン・ウィリアムズという名優ふたりが、切なくもおかしみある奇妙な友情を結ぶ主人公を演じます。
まるでおとぎ話のような心あたたまるヒューマンドラマの魅力についてご紹介します。
映画『フィッシャー・キング』の作品情報
【公開】
1992年(アメリカ映画)
【脚本】
リチャード・ラグラベネーズ
【監督】
テリー・ギリアム
【編集】
レスリー・ウォーカー
【出演】
ロビン・ウィリアムズ、ジェフ・ブリッジス、アマンダ・プラマー、マーセデス・ルール、マイケル・ジェッター
【作品概要】
『未来世紀ブラジル』(1986)、『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』(2020)のテリー・ギリアム監督作品。1991年ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)受賞作。
主人公のジャックを『クレイジー・ハート』(2010)のジェフ・ブリッジス、ホームレスのパリーを『グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち』(1998)のロビン・ウィリアムズが演じています。
ジャックの恋人役を演じたマーセデス・ルールは、本作で第64回アカデミー賞で助演女優賞を受賞しました。
映画『フィッシャー・キング』のあらすじとネタバレ
ジャック・ルーカスは過激なトークが人気のDJでした。ある晩、ラジオだけが友人という孤独な青年から相談が寄せられます。「ヤッピーたちを殺せ」とジャックが言うのを間に受けた彼はレストランで銃乱射事件を起こし、7人を殺害して自殺してしまいました。
それから3年後。すっかり落ちぶれ人嫌いになったジャックは、恋人のアンの経営するビデオショップを手伝って暮らしていました。追い詰められたジャックは酔っぱらって海に飛び込もうとしますが、そこを突然暴漢に襲われます。
「その騎士に汚らわしい手をかけるな!」そう叫んで現れた奇妙なホームレスのパリーにジャックは助けられました。
パリーは自宅にしているボイラー室にジャックを連れて帰り、自分は神の門番でジャックに使命を果たす手伝いをしてほしいと頼みます。彼は富豪宅にある聖杯を求めていました。ジャックは自分にはできないと断って必死で逃げ出します。
部屋を出たところでボイラー室の管理人に会ったジャックは、実はペリーが乱射事件に居合わせ、彼の妻は殺されたことを聞かされます。
再びパリーのもとを訪ねたジャックは管理人から、パリーの本名がヘンリー・セイガンといい以前は大学教授だったこと、事件後入院していたが1年前から突然パリーとして話すようになったことを教えられました。
ジャックはアンにパリーとの事情を話し、苦しみを打ち明けます。アンは泣きじゃくる彼をあたたかく抱きしめました。
映画『フィッシャー・キング』の感想と評価
聖杯に救われる男たち
男同士の奇妙で深い友情をユーモラスにあたたかく描いた『フィッシャー・キング』は、1991年ベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)ほか数々の映画賞を受賞した名作です。
主人公のジャックは売れっ子DJで、栄光や成功を強く求めるタイプの男性でした。しかし、彼の不用意なことばが若者の心をあおり、とんでもない乱射事件を引き起こしてしまいます。
その後彼は、その事件で愛妻を亡くして精神に異常をきたしてしまった気のよいホームレスのパリーと偶然出会いました。良心の呵責に苦しむジャックは、パリーを幸せにすることでその苦悩から抜け出したいと奮闘することになります。
子どものように純粋な魂を持つパリーが、フィッシャー・キングの物語をジャックに語ります。それはこんな物語でした。
王子は人の傷をいやす聖杯を託されます。しかし、彼が求めたのは権力と栄光の夢でした。炎の中の聖杯に手を伸ばした少年は大やけどをしてしまい、成長につれ傷は悪化していきます。彼は自分がなぜ生きているのかわからず、人も自分も信じられなくなり、愛し愛されることを知ることもありませんでした。
そんなある日、城に迷い込んだうつけ者が苦しむ彼に声をかけました。水を求めた王子に、男はそばにあった盃に水を入れて渡します。飲むと痛みは和らぎます。それは長年探し求めていた聖杯でした。なぜおまえが?と聞かれたうつけ者は、自分はただ、あんたに水をあげただけだとこたえます。
ジャックはまさにフィッシャー・キングのような男でした。ずっと自分の名声や栄光を求める生き方をしており、素晴らしい女性であるアンの深い愛情に見向きもせず、愛し愛される幸せを理解できずにいたのです。
しかしそんな彼が、暴漢に襲われて心が壊れてしまったパリーを引き戻すために、富豪宅にある聖杯を盗むという無茶な行動に臨みます。
「やるとしたら君のためだ」そうパリーに言って聖杯をとりにいくジャックの姿は感動的です。うつけ者が王子に水を入れた盃を渡したことで王子が回復したように、聖杯を渡せばパリーは治るとジャックは信じたのです。そしておとぎ話である本作では見事にその願いが叶います。
目を覚まして笑顔を見せるパリー。しかし、本当に救われたのはジャックの方でした。呪いが解けたかのようにジャックは自分の心に素直になり、アンへの深い愛を初めて自分で自覚して彼女とともに本当の幸せを手にします。
胸を打つ美しすぎるふたつの恋
ジャックとパリーの友情物語に加え、本作ではジャックとアン、そしてパリーとリディアとの美しい恋も大きなみどころとなっています。
前述したとおり、女性に対して不実だったジャックは、パリーのために聖杯を持ち帰ったことで自身の心にも向き合い、自分が持つアンへの深い愛に初めて気づきます。
アンという女性は本当に素敵なキャラクターです。パリーにつき合って帰って来ないジャックに女ができたのではないかとやきもちを焼き、苦しみながらも純粋に彼を愛し続け、彼が嫌がらないようにと過度に干渉しないけれど言いたいことはきちんと言う、そんな女性です。
彼女は恐ろしい事件を引き起こしたことに苦しむジャックを支え、やさしく包み込みます。あぜんとするほどひどい理由であっさり彼女のもとを去ろうとした彼が戻ってきたときも、一発頬を殴って許すというかっこよさです。
素敵なアンを演じたマーセデス・ルールの演技は素晴らしく、見事アカデミー賞助演女優賞を受賞しました。
しっかり者のアンとは対照的に、パリーが恋したリディアの不器用ぶりは見事です。4人で中華レストランを訪れるコミカルな場面は最高です。転がる餃子にブロッコリ、ずるずるすすって焼きそばを食べる姿を見て、アンやジャックといっしょに笑いころげてしまいます。
不純な動機を持つ男性としか付き合ったことがなく恋愛に傷ついてきたリディアに、パリーが純粋な愛を告白するシーンは本当に美しく、何度も観返したくなります。
こんな風に愛されたらどんな境遇にあっても幸せになれないはずがありません。愛することの素晴らしさに素直に感動できる名シーンとなっています。
まとめ
ひとつの銃撃事件によって人生を狂わされた男たちに芽生えた友情をあたたかくユーモラスに綴り、愛することの素晴らしさを教えてくれる名作『フィッシャー・キング』。
不条理に襲いかかる暴力、失った愛する妻、狂気のなかに現れる騎士の悪夢など辛いワードがたくさん出てきますが、テリー・ギリアム監督が描き出したのは明るく美しい希望ある世界でした。
抜け出せないと思える苦しみでも、きっといつか人はそれを乗り越えられるという強烈なメッセージが貫かれています。苦しみから解放された主人公たちの笑顔が心に残り、幸せな気持ちになれるに違いありません。
愛し愛される幸せについて改めて考えさせられ、自分を支えてくれる人たちにもっとやさしくなりたいと思わせてくれる作品です。