芸術家の頑固親父に振り回される異母兄弟達の狂騒曲
異母姉弟たちが、ニューヨークで暮らす老いた父親のもとに集まり、翻弄されながらも絆を強くしていく様をユーモラスに描いた、『マイヤーウィッツ家の人々』をご紹介します。
彫刻家のハロルド・マイヤーウィッツは、自分勝手な偏屈男。彼には結婚した3人の妻との間に1人ずつ子供がいます。彼らはそんな父親の生活に振り回された人生をおくり、父親にトラウマを持っていました。
監督のバームバックは自身の両親を描いた『イカとクジラ』で、アカデミー賞の脚本賞にノミネートされ注目を集めました。『ヤング・アダルト・ニューヨーク』『デ・パルマ』などで監督・脚本家としての実力もあげています。
映画『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』の作品情報
Netflixオリジナル映画「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」
【公開】
2017年(アメリカ映画)
【監督/脚本】
ノア・バームバック
【原題】
The Meyerowitz Stories (New and Selected)
【キャスト】
アダム・サンドラー、ベン・スティラー、ダスティン・ホフマン、エマ・トンプソン、エリザベス・マーベル、グレース・バン・パタン、 アダム・ドライバー、シガニー・ウィーバー
【作品概要】
『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』の監督は、自身の離婚裁判体験を描いた『マリッジ・ストーリー』(2019)が、2020年アカデミー賞の作品賞・脚本賞にノミネートされるなど、話題の映画をてがける、ノア・バームバック。
長男ダニー役のアダム・サンドラーは『パンチドランク・ラブ』(2002)で、ゴールデングローブ賞の男優賞にノミネートされた、アメリカで大人気のコメディ俳優。次男マシュー役は『メリーに首ったけ』でキャメロン・ディアスの相手役でブレイクし、「ナイトミュージアム」シリーズで人気のベン・スティラー。
彫刻家で頑固な父親ハロルド・マイヤーウィッツ役を、オスカー俳優のダスティン・ホフマンが演じ、他には「エイリアン」シリーズのシガニー・ウィーバー、「スターウォーズ」続三部作でカイロ・レン役のアダム・ドライバーなど、豪華な出演者の作品です。
本作は2017年のカンヌ国際映画祭で初上映され、Netflixオリジナル映画として配信。この年のカンヌ国際映画祭で初めて、Web配信作品として『オクジャ/okja』とともに出品されました。
映画『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』のあらすじとネタバレ
Netflixオリジナル映画「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」
ハロルドは4番目の妻(内縁)モリーンと、ニューヨークの家で2人で暮らしていますが、モリーンはアルコール依存症で、まともな料理も作れない状態です。
長男ダニーは生計を立てていた妻と離婚し、大学に通う一人娘のイライザと一緒に翌日からハロルドの家を訪れました。
父親は頬にケガをしていて、ダニーは気に掛けますが、犬の散歩でヤブに突っ込んだだけと言います。モリーンもケモノ(子供)に襲われ、ケガをして財布を取られたと話します。
家には姉のジーンも来ており、親族が集まった夕食が始まりました。
イライザはハロルドが教鞭をとっていたバード大学で映画製作を専攻しています。ハロルドは「もっと、家族に芸術家がほしかった」と言います。
ダニーには音楽の才能があったと言いますが、芸術家としては認めていません。ピアノ講師やレストランでピアノ演奏をし働きましたが、イライザが生まれたあとは妻が働き、ダニーは主夫をしていました。
ハロルドは、一番金の稼ぎ方を知っている“会計士(起業コンサルタント)”になった末息子のマシューを、「音楽と美術の才能があった」とほめます。
そして、娘ジーンの顔をジッとみるとしばらく考えて「ジーンは写真に興味があったな」と、思い出したように言います。ところがジーンは「子供の頃はね」と答えました。
実は、ダニーは仕事をみつけて新生活ができるまでと、実家を頼ってやって来たのです。
モリーンが、家にいる間に上階の荷物を処分してほしいと、ダニーとジーンに言いますが、2人ともこの家にはほとんど住んだことがないから、マシューの物だと言います。
すると、ハロルドはそのマシューが顧客に“作品”を見せるため2週間後、ロサンゼルスから帰ってくると言いました。
時代の流れに乗っていたらもっと成功していたが、我が道を選んだと話します。同時期の彫刻家「LJにも前衛的だと言われた」と、言います。
そのLJがMoMA(近代美術館)で、回顧展を開くとジーンから知らされました。
モリーンはホイットニー美術館が作品を買ってくれたと話すと、ハロルドは「もっと買いたがっていたが、ディーラーに止められた」と言います。
そして、「ホイットニー美術館に問合せてみたけど、“みつからない”と言われたわ」とジーンが言うと、話が“ある、ない”で食い違います。ハロルドが「絶対にあるはずだ!」と激高し、ジーンも折れてしまいます。
ダニーはマシューが来訪すると聞き、会っておきたいとジーンに相談し、メールをしても返信がなかったため、迷惑ではないかと遠慮をするので、「でも弟よ?」と後押しをします。
ダニーとジーンはバード大学を退職したハロルドのために、作品集を作ってプレゼントをしました。そして、イライザが入学するのを機に、バード大美術館の館長と話したら、作品展に興味を持ったといいます。
ところがその作品展は教員たちとのグループ展だと知り、プライドの高いハロルドはオファーがきても断れと、不機嫌になってしまいました。
映画『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』の感想と考察
Netflixオリジナル映画「マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)」
この作品を観終わると思わずため息が出ました。この作品のジャンルは「コメディ」のはずなのに、どうにも心から笑えないのです。
それは年齢がこの子供たちや親の世代に近く、映画の中の架空のキャラクターではなく、実際に「あぁ、こういう人たまにいる」と思える現実味があるからでしょう。
ハロルド・マイヤーウィッツ役のダスティン・ホフマンは、インタビューで「これは自分の親父ではないか!」と、思ったと言います。
気難しくて頑固ですぐにカッとなるなど、昔の親父アルアルなのです。さらに、そんなひどい親を反面教師だと思っても、自分もそのDNAは確実に受継いでるという事実が……。
親からしっかりと愛情を注いでもらえないで大人になると、自分でも気がつかないくらいに愛を欲して、いつまでも親の顔色をうかがって生き、憎み切れないでいるようになるのでしょう。
ともあれ今で言うところの毒親・老害・サイコパス、そんな要素をたくさん含んだ親と、巻き込まれた子供たちのこじれた親子関係を、ユーモアでオブラートしているのが救いです。
まとめ
『マイヤーウィッツ家の人々』は、一流になりそこねた芸術家の見栄と意地に振り回された子供たちの姿を描いていますが、承認欲求は強ければ強いほど、親への憎しみには転嫁しないと思わせています。
そんな親だったからこそ、疎遠だった姉弟同士でも気持ちの共有は早くて仲良くすることもでき、結束の強い家族に生まれ変わったと言えます。
この映画は親へのトラウマから、子供が心の葛藤する姿が描かれています。
共感した人には、親との向き合い方や姉弟のあり方を知るヒントになり、結局自分もその親に似てしまっていると気がつく日がくることでしょう。