「お前こいつとヤッたの?」この言葉がきっかけで巻き起こる大論争!
50分間の短い会話劇のなかで、様々な人間ドラマと爆笑の瞬間が生まれるアドリブを活かした映画『疑惑とダンス』。
ワンシチュエーションと限られた状況ですが、『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』や『チワワちゃん』で知られる新進気鋭の二宮健監督の演出力が光る作品です。
見れば虜になる映画『マンガ肉と僕』やドラマ『荒川アンダーザブリッジ』でもお馴染みの徳永えり主演の映画『疑惑とダンス』をご紹介します。
映画『疑惑とダンス』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
二宮健
【キャスト】
徳永えり、木口健太、小村昌士、福田麻由子、川面千晶、小林且弥
【作品概要】
『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』『チワワちゃん』で知られる気鋭の若手監督二宮健がリハーサルも脚本もない中で撮りあげた意欲作。
50分間若者たちが「セックスしたかしてないか」を延々と口論し合うだけの内容ですが、その中で役者のアドリブによる奇跡的なアンサンブルや映画的な技工が光る作品です。
主演は朝ドラ『わろてんか』などにも出演した徳永えり。その他、木口健太、小村昌士、福田麻由子、川面千晶、小林且弥がそれぞれリアルな演技を見せます。
映画『疑惑とダンス』のあらすじとネタバレ
カンナとマサオの結婚が決まり、カンナの大学時代のサークル仲間のサトシ、サナ、ツバキ、コムラはお祝いパーティを開こうとしていました。
コムラが幹事として小さなレンタルスペースを貸し切り、装飾などの準備をしていると、マサオが入ってきます。
マサオとはあまり面識がないながらもコムラは雑談で場をつなぎます。
しかしコムラは、カンナとの思い出を語っているうちに、ポロっと7年前に2人きりになった時に酔った勢いでラブホテルに行って情を通じたとこぼしてしまいます。
戸惑うマサオ。コムラはうっかり言ってしまったと謝りますが、マサオはそのまま店を出て行ってしまいます。
しばらくしてカンナとサトシ、サナ、ツバキがやってきました。マサオがいない理由を聞かれコムラははぐらかします。彼らはマサオを待ちながら雑談をしていました。
サトシはサークルのコムラやカンナの少し上の先輩。彼はカンナのことが好きだったのに、昔からの後輩のマサオを紹介したとたん、そちらと付き合ってしままい、びっくりしたと明け透けに語りながら祝福の言葉を伝えます。
ツバキは皆よりも早く結婚していましたが、映画監督をしている夫とセックスレスだと打ち明けました。
カンナと仲のいい後輩サナは清楚で大人しく見えますが、ずけずけと人に言うタイプで、突然コムラに向かって「もしかして童貞ですか?」と聞いてきます。コムラは「童貞ちゃうよ」と反論。
皆は本当かと囃しますがカンナは無言でタバコを吸いだします。
中々マサオが来ずみんなが不審がる中、コムラはカンナを呼び出し、「マサオにうっかり俺らがセックスしたこと話してもーてん」と謝りますが、彼女は何のことかわからないと言います。
「え?やったやん?」と驚くコムラ。そこにマサオがやってきます。彼は明らかに思いつめた表情をしており、皆が歓迎ムードのなかカンナに向かって、「こいつ(コムラ)とヤったの?」問いただします。
『疑惑とダンス』の感想と評価
本作は6人の男女が結婚祝いのパーティで、昔の性行為したかしてないかの疑惑を巡って、不毛な言い争いをするだけの映画です。
カメラは舞台となる狭い店を一歩も出ませんし、俳優の演技はほぼアドリブです。
演出を務めた二宮健監督は、マサオがカンナに「コイツとヤった?」と聞く場面からは、ほぼ俳優たちの即興に任せずっとカメラを回していたといいます。
アドリブだけあって、それぞれの会話はとても自然で演技をしている感じるは、ほとんどありません。
この映画の肝は「コムラとカンナが本当にヤったのか⁉︎」ということなどではなく、そのどうでもいい話をめぐって言葉の応酬を続けていくうちに、それぞれの人格や社会性が出てくる点に面白さにあります。
序盤でコムラが童貞かどうか聞かれている際に、カンナはタバコをふかしながら知らんふりをしているので、おそらく本当はヤった記憶もあるんだろうと見て取れますが、そんなことは、どうでもいい話なのでしょう。
ただその真相を巡って言い争いが続くと、「え?お前そんなこと思ってたの?」「なぜそこに必死になるんだ⁈」、または「なんかこいつわかったような顔してんな」。
そして、「こいつメンドクセーな」と観客がそれぞれ同調するような感想を持ち始めていくでしょう。
観客が誰に感情移入して、誰を嫌いになるかも徐々に変わっていように巧みなバランスで6人全員のキャラクターの気持ちが描かれています。
53分間の会話劇ですが、それぞれのキャラクターがどんな人間なのか、どんな人生を送ってきたのかなんとなく想像ができるところが面白さでもあります。
劇場鑑賞した際に、主演を務めた徳永えりさんがトークショーをされていたのですが、「6人全員がそれぞれ一人だけ目立とうとすることもなく、ちゃんと作品に寄与しようとアドリブをしていた」と語っており、二宮監督の思惑が見ごとにハマったのでしょう。
例えば、コムラがカンナが何も覚えていないことに対し「2回ヤったやん⁈」や「そっちからきたやん」という台詞は会話のなかで流されてしまうのですが、それも絶妙に笑えるギャグになっています。
しかし、アドリブ任せの演出とはいうものの、本作は単なる実験映画ではありません。
そもそもキャスティングからしても朝ドラにも出ていた徳永えりや、子役出身でキャリアも長い福田麻由子も出ていて、無名キャストを使ったインディーズ映画という訳でもありません。
そのような俳優たちの会話の間は、カメラワークでショットを切ることや編集でテンポを保ち、ラストでみんながいよいよ揉め始める頃には、さらに手持ちカメラで臨場感を出しています。
会話はほぼアドリブで構成されているのにも関わらず、商業映画としての技巧もしっかりとある稀有な作品だと言えるでしょう。
2019年初頭に公開された映画『チワワちゃん』で成功を納め、今度は撮影時間が僅か10時間でこのような秀作を送り出してきた二宮健監督。まだ27歳ですが大いに注目です。
まとめ
本作品『疑惑とダンス』のタイトルにある「疑惑」の部分はわかるけど、「ダンス」とはってなんでだろうと思うかもしれませんが、この映画にはキャスト陣が皆で踊る場面が2箇所登場します。
映画序盤と終幕で踊るのですが、それぞれのキャラクターを特性が見て取れます。特にラストの踊りは散々言い争った後で観客が心配を持った瞬間、絶妙なタイミングところで始まります。
踊り終わったところで6人の関係性の回復の可能性が提示されるで、言い争いを目撃したことへの気分も救われます。
ちなみにオープニングとエンドロールの文字の出方は、完全にクエンティン・タランティーノ監督作品へのオマージュになっているので、二宮健監督の映画愛も感じられますよ。