映画『ファンシイダンス』は周防正行監督、本木雅弘主演によるコメディ映画。
本作は、『Shall We dance?』の周防正行監督の初期作品で、本木雅弘のアイドル路線脱却の一歩となりました。
ロックバンドをしていたシティボーイの陽平(本木雅弘)が実家の寺を継ぐために、お寺での修行に奮闘するコメディ作品。
岡野玲子原作の同名漫画の映画化で、脚本・監督は「変態家族・兄貴の嫁さん」の周防正行、撮影は「二十世紀少年読本」の長田勇市がそれぞれ担当しています。
映画『ファンシイダンス』の作品情報
【公開】
1989年(日本映画)
【監督】
周防正行
【キャスト】
本木雅弘、鈴木保奈美、大沢健、彦摩呂、田口浩正、近田和正、渡浩行、ポール・シルバーマン、入江則雅、徳井優、宮坂ひろし、ジーコ内山、大木戸真治、清田正浩、松本泰行、玉寄兼一郎、竹中直人、甲田益也子、菅野菜保之、村上冬樹、みのすけ、吉田マリー
【作品概要】
『ファンシイダンス』は第34回小学館漫画大賞を受賞した、岡野玲子の同名コメディ漫画の映画化です。
周防正行監督は、本作が商業映画監督デビューを果たし、『シコふんじゃった。』(1992)で日本アカデミー賞最優秀監督賞、最優秀脚本賞を受賞。そののち、『Shall We dance?』(1996)では同賞にて作品賞、監督賞、脚本賞など13部門受賞しています。
本木雅弘は本作が初映画主演。シブがき隊のイメージを払拭するために挑んだ本作では、坊主頭で僧侶役を見事にこなし、俳優としての評価をあげました。
映画『ファンシイダンス』あらすじとネタバレ
シティボーイの塩野陽平(本木雅弘)は、バンドをやっていましたが、家業を継ぐために恋人の赤石真朱(鈴木保奈美)に見送られて、田舎のお寺に住職修行のためにやってきました。
同じく弟の郁生(大沢健)、信田珍来(田口浩正)、笹木英峻(彦摩呂)とともに入山し、住職の北川光輝(竹中直人)から、厳しく住職の作法を叩き込まれます。
寺の公務をもくもくとこなす日々。陽平は鐘を鳴らす公務に当たっていました。17種類の鳴らし方やタイミング、服装など700年以上前に決められたやり方を覚えて行わなければいけません。
少しでも間違えると北川から厳しく罰策を受ける(棒でたたかれる)のでした。
掃除とお経と座禅、公務に追われる日々、眠るときの態勢も厳しく決められています。食事中は音を立てないように、がつがつ食べないようになど、決まりがたくさんあります。
陽平は、作法の道に生きることに美学を感じ始めていました。そんな時に友人のアツシ(みのすけ)から恋人の真朱が別の男性と付き合い始めたと聞かされます。
気が気じゃない陽平は修行に集中できず、罰策を食らうのでした。
晶彗(甲田益也子)が不在の間に、ため込んであった菓子折りを食べたり寿司を食べて過ごしていた陽平や珍来、英峻。
新しい入山者を迎える9月に初めてお山を降りることになりました。修行生活になってから初めての街に出た陽平は、ナンパをするなど不真面目な行動をとります。
夜にはキャバクラに行き、郁生、珍来、英峻らはおおいに楽しみます。しかし、同じキャバクラにサラリーマンの変装をして来ていた北川にばれて、夜には罰策をくらうはめになりました。
ほかの坊主に悪影響を与えないように、住職のお世話役をすることになった陽平。テレビの取材を受けることになった与平は、用の足し方を事細かにインタビューされた内容が放送されました。
その番組を真朱は見ていました。職場の同僚らにひやかされました。年越しの座禅のときに、珍来は糖尿病になり救急車で運ばれ下山しました。
春になれば修行が終わるので、陽平は休暇願いを早くから提出していました。郁生はお寺で修行を摘んで晶彗の行者になりたいと決めていました。
英峻は恋人が別の男性と駆け落ちをしたという知らせを聞いて、お山を降りない決意を決めました。
陽平は652回の座禅と、108回の東司掃除。5000発を超える罰策に耐えました。
そして、あと3日で春を迎えるというある日。住職から、休暇願いは取り下げられ、2か月先に行われる法戦式で首座を任されることになってしまいました。
首座は法戦式の間にみんなの手本になる役です。法戦式とは、首座と修行僧が禅問答を戦わせる儀式のことです。25人を相手に問答をしなければならないのでした。
そして、それを終えるとようやく住職の位をもらうことができます。
映画『ファンシイダンス』の感想と評価
一般的な生活を送っていると知ることのないお寺のお坊さんの世界。本作は、その神聖な文化を不謹慎ともいえる笑いで和やかに描いたコメディ映画です。
煩悩とのたたかい。いや、もはや戦わずに欲求のままにふざける主人公の姿に笑いがこみあげ、まわりのキャラクターのコミカルさもあいまって独特の可笑しな空気を作っています。
日本の文化を笑いに変える
本作は、お寺のお坊さんの生活や、住職になるまでの修行の様子を知ることができます。
聞きなじみのない用語や、その作法に関する説明は驚くことも多々あり、勉強になる内容ともいえます。しかしその厳格な雰囲気を壊すのが、主人公の陽平の軽々しい態度です。
彼の軽さや不真面目さが、良い意味で日本の文化に緩さを加えてエンタメ化していると言えます。
はじめは家業を継ぐことに乗り気ではなく、仕方なく修行しにやってきた陽平でしたが、次第に僧侶の世界に美学を見出すところも面白味を感じられる箇所と言えるでしょう。
マイペースな陽平が、お寺のしきたりや所作に染まっていく姿は好感を覚えますし、その上で規律を乱すようなことをしてしまうところに可愛げを感じる人は多いはずです。
僧侶になるまでの成長物語というと少し敷居が高いですが、煩悩とたたかう若者の成長物語というと親しみが持てるのではないでしょうか。
肩ひじ張らずにまったりと観ていられて、くすくす笑える作品だと言えます。
若き日の名優たち
本作は日本が誇る映画監督のひとり周防監督作品ということで、キャストがとても豪華です。その後の周防監督作品常連の俳優が数多く出演しています。
その中でも笑いポイントをしっかりと抑えていたのが、竹中直人でした。先輩修行僧のひとりとして後輩たちにきつく当たったり、キャバクラに変装してまで行くという癖が強いキャラクターを当然ながら見事に演じて、存在感をしめしていました。彼の出演シーンはほとんど笑えるといっても過言ではありません。
また、陽平の同期見習い坊主役である珍来を演じたのが田口浩正です。食欲旺盛で、食べ過ぎてつぶれてしまうというおちゃめなキャラクターでした。
田口浩正はテレビドラマシリーズ「警視庁捜査一課9係」に2006年から、続編の「特捜9」のseason4(2021)に出演しています。
最近の出演映画では、『マスカレード・ホテル』(2019)、『おとなの事情 スマホをのぞいたら』(2021)など数多くの作品で名バイプレーヤーとして活躍しています。
ほかにも、住職役として村上冬樹、陽平の母親役として宮本信子、真朱の会社の社員役に柄本明、蛭子能収、岩松了。そして、飛行機の乗客で陽平ら兄弟と言葉を交わす乗客役に大杉連が出演しています。
本木雅弘の新境地
今では、『おくりびと』(2008)や『永い言い訳』(2016)などで主演を務め、演技派俳優として認知されている本木雅弘ですが、1989年当時はシブがき隊のイメージが強く、本作が初主演映画でした。
坊主頭で役に臨み、その演技力に注目が集まりました。彼の演技は、本作にとって欠かせないコミカルさと厳格さのバランスを絶妙に保っています。
端正な顔立ちに整った坊主頭。そして僧侶の袈裟姿がとても様になっていて、黙っていれば見とれるほどの美青年僧侶。
しかし流れるように軽口をたたき、女たらしなセリフや愛嬌ある笑顔を見せるチャーミングさがこの主人公の魅力です。
そして、本木雅弘は同監督による『シコふんじゃった』(1992)で主演を務め、第16回日本アカデミー賞にて最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀主演男優賞など6部門受賞しています。
その前にタッグを組んだ本作『ファンシイダンス』は、本木雅弘のキャリアの大きな転機となった作品だと言えるでしょう。
まとめ
本木雅弘演じる魅力的なキャラクター。竹中直人や田口浩正ら個性派俳優らによる、コミカルな世界観が楽しめる作品です。
恋人の真朱役を演じる鈴木保奈美の演技も、まさに漫画のヒロインといった小悪魔的かわいらしさが際立っています。
独特なセリフまわしや間の置き方が、だんだんとクセになる。絶妙な緩さを楽しめるコメディ作品となっています。おうちでまったりと楽しみたいときにぜひ観てみてはいかがでしょうか。