連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第54回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第54回は、話題騒然の『必殺!恐竜神父』。
本作への「面白そうだけど面白くなさそう」との、何気ないtwitterでの火の玉ストレートのつぶやきが、「いいね」と1.3万以上のリツイートを獲得!何が起きたと日本中が震撼しました。
本当に話題沸騰の愛すべきポンコツ映画を真正面から紹介します。…日本よ、これも映画だ。
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CONTENTS
映画『必殺!恐竜神父』の作品情報
【製作】
2018年(アメリカ・中国合作映画)
【原題】
The VelociPastor
【製作・監督・脚本・編集】
ブレンダン・スティアー
【キャスト】
グレッグ・コーハン、アリッサ・ケンピンスキー、クレア・ハウス
【作品概要】
自動車事故で両親を失い、傷心のまま中国を旅する信心深い神父のダグ。しかし彼は旅先で忍者(!)に追われる謎の女性から、恐竜の牙の化石を受け取りました。それは、人間を恐竜に変身させる牙だったのです…。
チャイニーズ・ニンジャ軍団(!)に挑む”恐竜神父”を企画・映画化したのは若き映像作家ブレンダン・スティアー。2010年に突然思いついた”恐竜神父”を、翌年フェイク予告編風に短編映画化。それを長編映画化したのが本作です。
主演はロサンゼルスで俳優活動を続けているグレッグ・コーハン。彼にとって初主演長編映画となります。スティアー監督作『Animosity』(2013)に出演したアリッサ・ケンピンスキーがヒロインを演じます。
『ビューティフル・デイ』(2017)、そして『悪魔の毒々モンスター』(1984)公開30年後の設定で描いた、最低映画製作の老舗・トロマ映画の『Toxic Tutu』(2017)で、”トロマ芸者ガール”役で出演したクレア・ハウスも共演した作品です。
映画『必殺!恐竜神父』のあらすじとネタバレ
この映画はキリスト協会の裁定により、X指定をくらった…と紹介して物語は始まります。
信者に耐え忍ぶことの大切さを説く神父、ダグ・ジョーンズ(グレッグ・コーハン)。しかしその直後、彼の両親は特殊効果抜きの、効果音だけで表現された謎の爆発で命を落とします…
理不尽過ぎる爆発で、目の前で両親を失い悲しみから神への疑念を抱くダグに、スチュアート老神父は旅に出るよう勧めます。神に見放された地で自分を見つめなさい、その言葉に従い車で旅立ったダグは、なぜか中国にいました。
どこかの裏山にも見えますが、この地はやはり中国だ、と念入りに確認したダグ。彼の前に何者かに追われ、矢で射抜かれた中国風衣装の村娘(クレア・ハウス)が倒れます。
命が尽きようとしている村娘は、持っていた動物の牙を彼に渡します。この牙を破壊しなければ一生追われるとの彼女の言葉は、中国語の判らぬダグに理解できません。
しかし彼女が最期に遺した、”竜の戦士”の言葉は聞き取れました。託された牙を見つめるダグ。
すると彼の前に黒装束の男、忍者が現れます。驚いたダグは思わず牙で手のひらを切り、出血した彼は気を失います。
目覚めた時、彼はスチュアート神父の前にいました。帰国して以来、高熱に苦しみうなされるダグの身を案じる老神父に、ダグは猛烈な空腹感を訴えました。
外の空気を吸おうと外出したダグは、娼婦のキャロル(アリッサ・ケンピンスキー)とすれ違います。彼女は優しい性格の持ち主ですが、ポン引きのフランキーから手ひどく扱われます。
その夜、熱と飢餓感に苦しみつつ、林の中で叫び声をあげるダグ。彼の体は何かに変化しつつありました。
夜の公園で客を求め1人立っていたキャロルは、男に突然銃を突き付けられます。強盗目当ての男は何者かに襲われました。発砲しても倒れぬその生物は、人と同じサイズの肉食恐竜だと気付くキャロル。
夜の闇の中で男を襲う恐竜は、よく見えないこともあって結構怖そうです。そしていつの間にかベットで眠っていたダグは、悪夢から目覚めました。
彼がいたのはキャロルの部屋でした。全裸の自分に動揺する真面目なチェリーボーイのダグは、記憶に無い昨晩の出来事について、彼女とかみ合わない会話を交わします。
ダグはキャロルから。自分が恐竜になって人を食べたと聞かされました。それは現実ではない、悪夢のはずだと叫んで否定するダグに、証拠の死体があると告げるキャロル。
そこで彼女の服を借り、その結果として女装姿でキャロルと現場に向かうダグ。確かに落ち葉の下には隠された死体がありました。
驚いたダグに医学部生で法学部生だが、やむなく娼婦をしているキャロルは、警察沙汰は避けたいので死体を隠したと打ち明けます。
聖職者にあるまじき行為に、ダグは女装姿で動揺します。そんな彼にあなたは悪党を倒し私の命を守った恩人だ、人を救うのがあなたの仕事ではないか、と告げたキャロル。
極悪人も、最低な犯罪者も神父のあなたは懺悔すれば許すしかない。しかし世の中には死に値する奴もいる、と彼女は言葉を続けます。
望まぬ商売のお陰で、始末すべき悪党は沢山知っている。どうかその力で、皆を助けて欲しいとの彼女の訴えを聞き黙り込むダグ。
やはり許される行為ではない、懺悔の時間だと告げると、ダグはキャロルを残して教会へと駆け出します。
彼が務めを果たすべく懺悔室に入ると、やって来たのはポン引きのフランキーでした。2年ぶりに懺悔に来た、と話し出した彼は趣味と実益を兼ね、あらゆる犯罪に手を染めたと平然と語ります。
そして数ヶ月前には、教会の前で老夫婦を車ごと爆殺したとフランキーは打ち明けます。相手が両親を殺害した相手と知り、怒りに燃えたダグの体に異変が生じました。
恐竜と化した腕で懺悔室の壁を破り、相手をつかむとなぜ父母を殺したと迫ります。驚いて命令されてやった、と叫ぶフランキー。
ボスの名を尋ねるダグに、フランキーは相手が悪いと何も語りません。聖職者姿のダグは、鋭い爪で悪党の喉を切り裂き殺害します。
その後ダグは動揺したままキャロルの部屋を訪れました。悪党退治はどうやるべきかと訊ねた彼に、ルールを定め計画的にやるべき、とキャロルはアドバイスしました。
ルール、つまり戒律に従うなら、まだ神父を続けられると納得したダグ。これは2人だけの秘密、スチュアート神父にも内緒で行う善行だと力説します。
彼の決断に喜んだキャロルは、私は神様のことは知らないと話します。その言葉に、俺も恐竜のことは知らない、と真顔でキメ台詞を語るダグ。
自分は両親を殺され、その犯人を今日殺したと告白したダグは、正直な気持ちを聞かれ良い気分だと打ち明けます。
殺した相手がフランキーと知ると、キャロルは礼を告げ彼の体を抱きしめます。そしてダグ神父は、今後は悪党退治をすると彼女に告げました。
最悪の奴を始末しよう、と言うキャロルとハイタッチを交わすダグ。この日から彼の真面目な神父として務めを果たし、変身し悪党を退治する”恐竜神父”としての二重生活が始まります。
キャロルとは親しくなり、自分を鍛え始めたダグの日常は充実していました。しかし彼の前に巨大な敵が現れます。それは忍者でした。
見るからに中国人な姿の首領・チェンに従うデタラメな忍者たちは、街の裏社会を支配していたのです。
しかし彼らが集める金は滞っていました。腹心の部下、ホワイト忍者のサムから”竜の戦士”が現れ、邪魔されていると聞かされるマスター・チェン。
明日のコカイン取引は首尾よく運ぶ、”竜の戦士”など恐れるに足らぬと言い高笑いする首領に、サムも作り笑いで付き合います。
ある日スチュアート老神父は、キャロルと親し気に振る舞うダグの姿を目撃します。最近様子が変わったダグに、神父は何かあったのかと尋ねました。
貞節の誓いは守っていると答えたダグは、ついに真実を話しました。そんな話などありえない、君の中に何かがいるなら悪魔祓いをしようと説得するスチュアート神父。
ダグは聖書を引き合いに正義の執行を正当化し、力を与えられた自分がこの世を正すと力説します。しかし神父には彼が、危険な妄想を抱いているようにしか見えません。
殺人は認められぬと告げたスチュアートは、教区に報告しダグとキャロルを救うと言いました。老神父に理解されずダグは悩みます。果たして彼は、”恐竜神父”の務めを貫くことができるのでしょうか。
映画『必殺!恐竜神父』の感想と評価
素晴らしいトンデモ映画です。B~Z級映画ファンなら、この世には「くだらないけど、面白い映画」と「くだらないから、当然面白くない映画」が存在するのはご存じでしょう。
『必殺!恐竜神父』は間違いなく前者。ツッコミながら見るのが最適の悪ノリ映画ですから、それが判るようあらすじネタバレで紹介しました。しかし本作の珍妙さを楽しむには、映画をご覧頂くしかないと断言します。
トンデモ映画の中には、作り手の「ふざけた映画だから、ふざけた態度で製作・出演してもいいだろ!」といった姿勢が見える作品もあります。それもまた楽しいですが、時に作り手の内輪受けの態度やハプニングに頼る笑いに、興ざめすることも多々あります。
しかし本作は実に丁寧に作られた作品です。俳優陣が真面目に演じるからギャグが際立つ、製作陣が丁寧な映画として作っているから、チープな部分には素直に笑えました。
70~80年代初めの映画の影響が強い本作には、車の中のシーンには背景に映像を映し出すスクリーン・プロセスを使用し、ブライアン・デ・パルマ監督が好んで使う画面分割(スプリットスクリーン)も登場します。
当時の映画の雰囲気を再現する映像の完成度に、ブレンダン・スティアー監督の映画への愛情と共に、技術力の高さを感じました。
中国から戦時下のベトナムなど、多くのシーンを裏山で撮影したかに見えるチープさは、製作費3万5千ドルという環境が生んだものに間違いありません。
しかし50~60年代のロジャー・コーマンの映画など、多くのB級映画が毎度撮影スタジオの裏山の、同じ場所で撮影されていました。
80年代にはニンジャ映画などのB級作品が、アメリカ国内を外国に見立て撮影した事実を知る者なら、このお約束を再現したお遊びだと理解できるでしょう。
露骨な形で登場する映画の嘘を観客に楽しませ、計算された笑いを散りばめ、最後まで真面目に作られたコメディ映画として楽しんで下さい。
トンデモ映画の舞台裏はアットホーム!
本作のヒロインを演じたアリッサ・ケンピンスキーは、脚本を渡された時には驚いた、恐竜は無論、監督がこだわるグラインドハウス映画(70年代のB級娯楽映画)についても、何も知らなかったとインタビューに答えています。
ほぼ時系列通りに撮影される中で劇中の人物を完成させていく、実にワイルドな経験だったと振り返るアリッサ・ケンピンスキー。
最初に恐竜と遭遇するシーンは監督の家の裏庭で撮り、主人公ダグと交流を深める多くのクリップ映像は、大量に衣装を入れたカバンを持ち、公衆トイレで着替え次々撮影したと、その舞台裏を楽しく話しています。
重要な役であるスチュアート神父を演じたのは、監督の実の父親ダニエル・スティアー。なるほど父にはイイ役をやらせるのか、と思いきやデタラメ装備でベトナムに最前線に放り込み(お父さん、老けすぎです…)、トンデモない目に遭わすから大変です。
怪しげなエクソシスト師として登場したのは、ミュージシャンでストップモーション・アニメ作家のマルチクリエイター、アウレリオ・ヴォルテール。監督の才能に惚れたクリエイターも映画に参加しています。
『必殺!恐竜神父』の出演で、アーティストとは真面目に作品に向き合う態度と、真剣にならず楽しんで取り組む姿勢、この相反する姿勢が大切だと学んだ、とアリッサ・ケンピンスキーは振り返っていました。
B級映画と身近な娯楽作を愛する監督が作る痛快Z級映画
参考映像:『The VelociPastor Trailer (short film)』(2011)
本作はブレンダン・スティアー監督がまだ映画学校の学生の頃、『ジュラシックパーク』(1993)でも見たのでしょうか、友人にメールで”Velociraptor”(ヴェロキラプトル)と打って送ろうとした事に始まります。
ところが誤って”VelociPastor”(ヴェロキ+Pastor=牧師)と入力します。この語感が気に入った彼は、当時クエンティン・タランティーノ監督作『グラインドハウス』(2007)の影響を大いに受けていました。
そこで70年代グラインドハウス映画風の、フェイク予告の短編映画を製作しようと思い立ちます。その作品が『The VelociPastor Trailer』。ご覧頂くとタッチも音楽も効果音も70年代風で、しかも荒れたフィルム画面で描かれました。
荒れた画面を表現する方法は、フィルムをオーブンに入れて焼くことです。この動画をYouTubeにアップすると、たちまち大人気になります。
監督は本作に影響を与えた映画に、視覚効果スーパーバイザーのデニス・ミューレンのモンスター映画『Equinox』(1970)、『ガバリン』(1986)、70年代ブラックエクスプロイテーション映画のパロディ作『Black Dynamite』(2009)を挙げています。
自身をギレルモ・デル・トロ監督の大ファンと語る監督。主人公”恐竜神父”の本名は、デル・トロ監督作の常連モンスター俳優、ダグ・ジョーンズから頂戴したのでしょう。
一方で私は、常に目にしたものから刺激を受ける、製作直前に一気見したドラマ『リバーデイル』(2017~)にも大きな影響を受けただろう、とインタビューに笑って答えた監督。
とはいえ『必殺!恐竜神父』として映画化には苦労がありました。短編予告編映画を長編映画に肉付けするのは大変な作業だった、しかし予告編に無かった”忍者”を持ち込んだのは、良きアップグレードだと誰もが認めてくれるだろう、と話しています。
まとめ
誰もが馬鹿げた映画だと予想する、その予想を大いに上回る真面目に楽しい映画『必殺!恐竜神父』。自分はB級映画・低予算映画が好きだと少しでも思う人なら、即見るべき作品だと断言しましょう。
楽しげな本作ですが、監督は長編映画化までに、クラウドファンディグでの資金集めに2度失敗。母親の知り合いの投資家からの資金提供を得て、ようやく本作を完成させました。
映画の生みの親は将に監督の母、一方監督の父は出演してエラい目に…。ともかくアットホームな環境で、裏庭・裏山で撮影された映画です。
それでなお本作は、間違いなく爆発的な魅力を持っています。アメリカではForbes誌が本作を『ザ・ルーム』(2003)や『シャークネード』(2013)に匹敵する「おバカ映画」と評し、Amazonプライムで人気急上昇作品1位を獲得した実績を持っています。
日本国内でも、配信サイト(ビデックス)で1位を獲得。この恐るべき口コミで人を魅了する力が、本作をSNSで話題爆発させました。
今そこにある、最高の最低映画『必殺!恐竜神父』を絶対に見逃してはいけません!…なお、劇中では「アーメンダブツ」と唱えてませんので、どうかご了承下さい。
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