連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第42回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第42回は、映画『フィアー・サーカス』です。
アンドリュー・ジョーンズ監督は、2010年に制作会社ノースバンクエンターテインメントを設立し、DVD用レーベルとしてイギリスでは、最も多くのホラー作品を生みだしています。
作品は全て自らが監督し脚本も手がけています。中でも呪われた人形『ロバート』は大ヒット作で、後にシリーズ化される程の人気となっています。
そんな、映画『フィアー・サーカス』は、家族で営むサーカス一団が舞台です。町外れでひっそりと興行し、知らない間にまた別の町へ移動する……そんな、サーカス団のショーは限られた大人達を魅了し、噂となってひきつけます。
ところがそのショーを見に行った者からは、必ず失踪者も出るという曰くもありました。その真相は闇の中で、一家の呪われた秘密に隠されています。
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映画『フィアー・サーカス』の作品情報
(C)2014 North Bank Entertainment
【公開】
2014年(イギリス映画)
【原題】
theatre of fear
【監督・脚本】
アンドリュー・ジョーンズ
【キャスト】
ジャレッド・モーガン、リー・ベイン、ネイサン・ヘッド、サム・ハーディング、シャイリーン・アシュトン
【作品概要】
映画『フィアー・サーカス』は、B級映画の鉄則である低予算・無名監督とキャストに加え、3原則ともいえる、(1)過去作の類似、(2)怪物・怪獣・亡霊のいずれかが登場、(3)結末がバッドエンド、これらがそろい踏みとなっている、正真正銘のB級作品です。
アンドリュー・ジョーンズが監督・脚本を務め、彼の作品の常連キャストのジャレッド・モーガンがドクター・モロー役を、リー・ベインがジェイナスを演じました。
映画『フィアー・サーカス』のあらすじとネタバレ
(C)2014 North Bank Entertainment
深夜の町外れを一組のカップルが歩いています。彼女はこんな場所と時間に、“ショー”が行われることに、疑問を持っています。
彼氏は“限られた人のみが知る、秘密のショー”で、深夜にやるショーだから、「真夜中のホラーショー」だと言います。
会場の入り口で「hello I am myfanwy」と書かれた貼り紙をつけたマネキンが2人を迎えます。
劇場に入った2人が着席すると、奇術師のアポロが“人体消失マジック”をはじめています。アポロは箱に入ってくれる協力者を募り、彼女に目を止め声をかけました。
彼女はマジックに協力することにします。なんの変哲もない人体消失マジックと思われましたが、彼女は別の場所で拘束されてしまいます。
側には、手術着を着た座長のドクターモローが、手にメスを持ち立っています。彼は彼女に聖書の詩編と、「神に従うものは神を恐れる。復讐するのは私だ」と言い、メスで刺します。
ショーが終わっても、戻ってこない恋人を待つ彼氏は、再び劇場の中に入り、彼女の名前を呼び捜します。
ところがたどり着いた薄暗い場所で、彼は彼女の死体を見つけ、自らも誰かに襲われてしまいました。
モローはアポロに、死体の処理を手伝わせようとしますが、深夜だから明日にしたいと言います。モローは口答えするアポロにイライラし怒鳴りつけると、娘のビーナスが紅茶を運んできます。
アポロはビーナスの弟ですが、モローはアポロには辛くあたり、ビーナスには甘々な父親です。
他にも兄弟がいます。腹話術師のジェイナスは、相棒の人形に自分のおかげでショーが上手き、独りじゃ何もできないと馬鹿にされます。
ピエロのトリンキュロは、顔の一部と左半身に酷い火傷のあとがあり、鏡に映る姿を悲しい顔でみつめます。
モローはバラバラにした死体を“バッグ”に詰め、それを入れたカバンをアポロに持たせ、川まで捨てに行きます。
モローはバッグを捨てるように言いますが、アポロはカバンごと川に投げ込み、袋のバッグだと、またモローに叱られます。
カバンは亡き妻からの贈り物だと、アポロに拾ってくるよう命令し、川に入る姿を見てビーナスは笑い、モローもほくそ笑みます。
ジェイナスは眠れずに外でタバコを吸っていると、背後から男か近づき肩を叩きます。
彼は芸能プロダクションのミルトン・カッツェンバーグと名乗り、ジェイナスの芸は秀逸だったと褒めます。
そして、自分に任せてくれれば大スターにするとスカウトし、連絡するよう名刺を渡しました。
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映画『フィアー・サーカス』の感想と評価
(C)2014 North Bank Entertainment
“限られた人のみ知る”「真夜中のホラーショー」という触れ込みは、始まりはドクターモローの案内人で、終わりは跡を継いだアポロの締めで、終演するという演出でした。
てっきり、ショーの間に観客達が徐々に消えて、猟奇的なスプラッターが巻き起こるのかと想像しましたが、実際は家族1人1人の心に闇があり、そこから殺人につながっていくストーリーでした。
所々で見られる家族シーンは、巡業でショーをしながら暮す、仲睦まじい家族のという雰囲気も溢れ、父親のモローはドクターとつくだけあり博識でした。
イギリス愛にあふれた設定?
ドクター・モローの名は、イギリスのSF小説家ハーバート・ジョージ・ウェルズの『ドクターモローの島』から取られたのだと思われますし、モロー博士は島で怪しい実験をしていました。
ショー劇場の前に立っていた、マネキンの貼り紙の「hello I am myfanwy」にある、“myfanwy”はイギリスウェールズ地方で歌われる、“最愛の人”と題された歌です。
その下に書かれていた、“Cockles+LIVER BREAD”は、ザルガイを使ったウェールズ地方の郷土料理のようです。
マネキンは亡くなったモローの妻のことで、得意料理がザルガイ料理だったのかもしれません。
子供たちの名前はギリシャ神話に出てくる神の名前ですが、トリンキュロだけはシェイクスピアの『テンペスト」』に登場する、ピエロの名前と同じでした。シェイクスピアもイギリスの劇作家です。
“類似品”は多くあれど…
参考作品|悪魔のいけにえ(1974)
(C)2013 TWISTED CHAINSAW PROPERTIES,INC. AND NU IMAGE,INC.
映画『フィアー・サーカス』には、過去のホラー映画の要素がいくつかあります。トリンキュロが醜い姿を隠すのに、人の皮を集めて縫い合わせて着るというのは、まさに『悪魔のいけにえ』(1974)に出てくる、“レザーフェイス”そのものです。
参考作品|クラウン(2015)
(C)2014 Vertebra Clown Film Inc.
また、ピエロにまつわるホラーと言えば、『IT イット』(1990)がありますが、不幸な事件で負った火傷のキズを隠すため、メイクを落とさないトリンキュロのイメージは、偶然同じ時期に公開された映画『クラウン』(2014)の、ピエロ衣装がそのまま自分の肌になり、子供を喰らう悪魔になるというストーリーが、彼のイメージに近いと感じました。
参考作品|マジック(1979)
(C)1979 oseph E. Levine Presents Inc.
最後に腹話術師ですが、先日アカデミー賞主演男優賞を受賞した、アンソニー・ホプキンスが主演の映画『マジック』(1979)のアイデアが近いでしょう。
カードを使った気弱なマジシャンが、心機一転で腹話術師なったことがきっかけで、人気者になります。ところが2つの性格を持つようになり、邪悪な人形の人格が殺人を繰り返すストーリーです。
まとめ
いかがでしたか? 映画『フィアー・サーカス』には、B級映画の由縁たる要素があり、なおかつジャンルはホラーとなっていますが、ファミリー向けの作品ともとれる、家族愛のような要素も見られました。
最後に明かされていない謎として、母親の死因はなんだったのでしょう? 頑固な面があり、最終的に決定するのは彼女自身だった…。というのが気になりました。
ジェイナスは父親から性的虐待を受けていて、二重人格となったのでしょう。拷問に耐えられたビーナスも、モローから同じ目にあっていたと想像できます。
すると、母親はそれを悲観して自死したか、それを知られてモローが殺害したか…。本作はサラッと見過ごしそうな場面でいろいろな、想像を掻き立てる面白さがありました。
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