連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第109回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第109回でご紹介するのは、映画映画『ビハインド・ザ・ドア 誘拐』です。
何者かに拉致監禁された二人の少年の運命を描いたジュブナイル・ホラーである本作は、『シャイニング』(1980)をこよなく愛するデビッド・シャルボニエ監督とジャスティン・パウエル監督の初長編作品です。
ある日、12歳のボビーと親友ケヴィンは突然何者かに襲われて拉致され、車のトランクに押し込まれ人里離れた屋敷へと連れて行かれてしまいます。
ケヴィンがどこかへと運ばれる中、トランクに残されたボビーはどうにか脱出に成功して逃げようと走り出しますが、屋敷からはケヴィンの悲鳴が。ボビーは親友ケヴィンを助けるため、たった一人で屋敷に忍び込みますが……。
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映画『ビハインド・ザ・ドア 誘拐』の作品情報
(C)2021 TBBTD LLC
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
The Boy Behind the Door
【監督・脚本】
デビッド・シャルボニエ、ジャスティン・パウエル
【キャスト】
ロニー・チェイビス、エズラ・デューイ、クリステン・バウアー・バン・ストラテン、マイカー・ハウプトマン、スコット・マイケル・フォスター
【作品概要】
主人公ボビーを演じるのは、第91回アカデミー賞で短編実写賞を受賞した短編映画『SKIN』(2018)に出演したロニー・チェイビス。
共同脚本・監督を務めたのは、デビッド・シャルボニエとジャスティン・パウエル。二人の長編映画デビュー作となった本作は、2020年のファンタスティック・フェスト(テキサス州オースティン)で初上映され、“世界最古で最大のファンタスティック映画の祭典”シッチェス映画祭2022にも出品されました。
映画『ビハインド・ザ・ドア 誘拐』のあらすじとネタバレ
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1台の車が人里離れた採掘場の丘を上っていくと、大きな屋敷の敷地に入っていきます。
車が停車し後方のトランクが開けられると、そこにはガムテープで口を塞がれ、結束バンドで手を縛られた、二人の少年の姿がありました。運転していた人物は一人の少年だけを抱きかかえると、もう一人の少年が積まれたままのトランクの扉は閉じられました……。
6時間前、ボビーとケヴィンの二人は野球の試合に行く途中、ブラブラと森の中を散策し、キャッチボールをして肩慣らしをしていました。
二人は無二の親友です。「大人になったら、いつも天気の良い場所に行きたい」と語るボビーに、「一緒に連れて行ってほしい」と答えるケヴィン。二人は「死ぬまで友だちだ」と約束します。
しかし、キャッチボールの球を取り損ねたケヴィンが、森の中へとりに行ったまま戻ってきません。ボビーが探しに行くとボールは見つかりますが、彼の姿はありませんでした。
そしてボビーが周囲を見渡していると、背後から何者かに襲われました。二人はそのまま車のトランクに押し込まれ、誘拐されてしまったのです。
トランクにとり残されたボビーは窒息しかけますが、必死に扉を蹴っていると少しだけスキマができます。なんとか粘着テープと結束バンドの拘束も自力で解き、脱出に成功しました。
フラフラになりながら古いガレージを抜け出すボビー。大きな屋敷が一つある高台で、周囲には何かを採掘する機械が動いていました。その場から必死に逃げようとすると、屋敷の方からケヴィンの「誰か助けて!やめて!」という悲鳴が聞こえてきます。
ボビーの脳裏には「死ぬまで友だちだ」と誓い合った言葉が浮かびます。誰かに助けを求めようにも、丘の上の一軒家……周囲に民家はなく、ケヴィンの悲痛な声だけが響きます。
ボビーは意を決して屋敷へ向かいますが、侵入できそうな箇所は施錠されています。彼は納屋の裏口の窓ガラスを割って鍵を開けると、屋敷内へと侵入します。
以下、『ビハインド・ザ・ドア 誘拐』ネタバレ・結末の記載がございます。『ビハインド・ザ・ドア 誘拐』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
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お湯を沸かしているキッチンでは、奥の部屋からテレビの音が聞こえてきます。そっと音のする方へ行くと、ソファでくつろぐ誘拐犯と思しき人物がいました。
しばらくすると、家に誰かが訪ねてきます。家主が訪ねて来た男と現金の受け渡しをし、男は2時間のタイマーがセットされた腕時計を受け取ると、そのまま屋敷の中に入ってきました。また男と入れ替わる形で、家主は男が乗ってきた車でどこかへと出かけます。
ボビーはケヴィンの声がした2階へ向かい、たくさんの部屋を探し回ります。そのうちの一つの部屋に入ると、本棚で半分塞がれた通気口から、ケヴィンのすすり泣く声と「泣くな、ここは安全だ」となだめる男の声がします。
ボビーが本棚をずらしその声をよく聞こうとすると、ケヴィンの泣き声が聞こえてきて、男が「もう泣くな!」と苛立ちながら壁を強く叩くような音を立てます。
その音に驚き、物音を立ててしまうボビー。「誰だ!?」男が階段を駆け下りてきます。男が出てきたドアは、屋根裏へと続く階段室でした。
男は物音の正体を探し始める一方で、ボビーは男が出てきたドアを開けようとしますが、オートロックで施錠されているため入ることができません。すると戻って来た男が、ボビーを見つけてしまいます。
ボビーは慌ててキッチンに逃げ込むも、追いつめられてしまいます。男はボビーに落ち着くよう言いますが、ボビーは聞くわけもなく抵抗しようとします。
ボビーは男の顔に水をかけ、テーブルにあったナイフを手に持ちます。男はナイフを奪いとろうと駆け寄りますが、床の水で足を滑らせひっくり返るとテーブルの角に頭をぶつけ失神しました。
ボビーはそのスキに逃げようとしますが、男が急に起き上がったせいでボビーの持っていたナイフが男の腹部に深く刺さってしまったことで、男は息絶えました。
事故とはいえ死なせてしまった男に謝りながらも、ボビーは通気口の部屋に行くとケヴィンに「助けに来た」と声をかけます。ケヴィンは足枷を付けられ動けませんでした。
ボビーは鍵を捜しに屋敷中を物色します。ある部屋では血まみれの少年の服が入った箱を見つけ、何か怖ろしいことがあったと思い焦ります。
その箱の中には、古いダイヤル式の電話もありました。ケヴィンに伝えると「自分の祖母の家に同じ物があった」「電話線のケーブルをつなぐ、LANケーブルのような差し込みジャックが壁にあるはずだ」と教えてくれます。
すると、どこからかアラームの音がしてきます。死んだ男の腕時計からでした。ボビーは電話のケーブルを見つけた差し込みジャックにつなげて通話を可能にし、警察へ通報をします。
自身の名前を名乗り居場所の特徴を伝えますが、そこに出かけていた家主の車が帰ってきます。ボビーは電話を切ってキッチンへと隠れました。
ボビーは放置していた男の遺体を移動させ、床の血を拭き始めます。家主はリビングのテレビを点け、しばらくするとキッチンの方へ向かってきます。
なんとか遺体のことはバレずに済み、隠れていたボビーは裏口の鍵も見つけます。そして、男の遺体を裏口の外階段から落としました。
ボビーはケヴィンを助けるために再び2階へ行き、ドアの開いているベッドルームを物色します。しかし、犯人も2階に上がってきて部屋に入ってきます。
ベッドの下に隠れ、難を逃れるボビー。家主はチェストを動かすと、壁に隠されていたキーパッドの暗証番号のボタンを押し金庫の扉を開けます。中には沢山の札束が入っていました。
家主は男から受け取った札束をしまい、靴を脱いでシャワールームに行きました。ボビーが金庫を開けてみると、中には現金の他に見知らぬ少年の裸体写真がありました。
金庫にはどこかの鍵もあり、ボビーはそれを持ち出してケヴィンのところに行きますが、その鍵はドアの物ではありませんでした。ボビーはナイフでこじ開けようと試みますが、失敗し手を負傷してしまいます。またシャワーから出た家主も異変に気づき、ケヴィンのいる部屋へ行きます。
ケヴィンは怯えた声で「何をするの!?」と叫びます。その声を聞き廊下へ出たボビーと家主は鉢合わせてしまい、ボビーはバスルームに逃げ込みます。
犯人は斧を持って戻り扉を叩き壊しはじめますが、ボビーも抵抗し犯人の手をナイフで切りつけます。そこに、通報があった地域を特定できた警察が訪ねてきます。
警官の呼びかけに対応した家主……誘拐犯は、なんと美しい女性でした。警官は「この付近から『誘拐された』という少年の通報があった」と説明し、IDの提示を求めます。
女はとってくると答え屋敷内へ入りますが、なかなか戻ってきません。警官も屋敷内に入ってみるとそこでボビーを発見しますが、斧を持って隠れていた女にあえなく殺害されます。
警官から拳銃を奪いとった女は、逃げたボビーを追いかけます。ボビーはバスルームに隠れたふりをして、警官の警棒と手錠を持って納屋に身を潜めました。
女は少年を誘拐しては少年性愛者と取引し、いかがわしいことをしていました。またボビーは黒人だという理由で、トランクに閉じ込めて窒息死させようとしていました。
女は裏口で取引した男の遺体を見つけ、ボビーのいる納屋に迫りますが、彼は女を警棒で殴り、手錠をして配管につなぐことに成功。ボビーは女から鍵を奪い階段室へ急ぎますが、女に発砲された彼は足を負傷してしまいます。
ボビーが痛みをこらえながらも屋根裏部屋に行くと、ケヴィンの首には何かの機械が装着されていました。ボビーは金庫にあった鍵で足枷を外してあげ、屋根裏部屋を出ます。しかし、階段に仕掛けられたセンサーが作動し、ケヴィンに付けられた首輪から電流が流れ動けなくなります。
機械を取り外すための工具をとりに納屋へ戻ったボビーは、女に負傷した足をえぐられます。ボビーは女の指を工具で斬り落としガレージまで逃げますが、そこで力尽きそうにうなだれます。
その姿を見たケヴィンは勇気を振り絞り、電流の痛みに耐えながら階下へ降り外へ脱出します。一方で女も配管を壊して脱出し、二人を探し始めます。
自分に駆け寄ってきたケヴィンに、ボビーは一人で逃げるよういいます。ケヴィンは工具で首輪を外し「見捨てるなんてできない」「一緒に逃げよう」と励まします。
二人は警官が乗ってきたパトカーの影に隠れ、追いかけて来た女をやり過ごします。パトカーに乗って身を潜める中、ケヴィンは車内で救急箱とスタンガンを見つけました。
ボビーは無線を使って誘拐されたこと、警官が殺されたことを伝えます。しかし、ケヴィンがボビーの傷の手当てをしていると、戻ってきた女に見つかってしまいます。
ボビーだけが車外から引きずり出され、女に斧で殺されそうになりますが、ケヴィンがスタンガンで助けるとボビーとともに森の中に逃げます。女と少年たちの攻防が続いたものの、ついに二人は追いつめられて危機一髪となりました。
そこに2度目の通報で駆けつけてきた警官が到着。女の背中に発砲し、その場で射殺しました。ボビーとケヴィンは無事に救出され、病院に搬送されます。
その後、ボビーとケヴィンはいつか行ってみたいと話した「いつも天気の良い場所」カリフォルニアのビーチで、生きて友情を満喫することができました。
映画『ビハインド・ザ・ドア 誘拐』の感想と評価
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映画『ビハインド・ザ・ドア 誘拐』は、二人の少年が突然誘拐され、一人だけが屋敷に監禁されてしまう中、残された少年がその親友を救出し二人で逃げようと奮闘する物語です。
監督を務めたビッド・シャルボニエとジャスティン・パウエルは、『グーニーズ』(1985)などのジュブナイル作品、また『シャイニング』(1980)などのスリラー・ホラーをこよなく愛しており、本作でも「ボビーとケヴィンの友情」「誘拐犯との息つまるスリラー・ホラー」を同時に描いています。
バスルームに逃げ込んだボビーを誘拐犯が“斧”で襲う場面も、『シャイニング』の有名な場面のオマージュだとわかります。
「二人の少年が誘拐されてしまう」という衝撃的なプロローグから、事件前に二人の少年が「早く大人になって、街を出たい」と夢を語るなど、ジュブナイルに欠かせない、青春と友情の要素が冒頭に描かれます。
また本作を観ていると、“脱出ゲーム”の世界に入り込んだような感覚を抱くはずです。親友を救出し脱出する舞台は、人里離れた古い屋敷。その閉鎖されたの空間の恐怖はスリル満点で、観る側も“プレイヤー”の気分になるからです。
施錠されたドアの鍵探しや古い電話の使い方、隠し金庫、足枷の鍵、スタンガンなどのアイテムも、脱出ゲームの“ヒント”のようでゲームをしている感覚になりました。
「凶悪な誘拐犯は美しい女性だった」という展開も、本作を観る人々が参加する“脱出ゲーム”にサスペンスやミステリーとしての魅力を与えてくれ、プレイヤーの視点が“子ども”であるために、二人の行動を見ていると「もっとこうすれば」」というハラハラ・ドキドキ感が増していきます。
まとめ
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映画『ビハインド・ザ・ドア 誘拐』の作中設定として描かれている「誘拐」ですが、「アメリカでは年間で30万人の未成年者が誘拐され、性的搾取や人身売買されている」という現実の闇に基づいています。
ボビーとケヴィンが行きたい場所に選んだカリフォルニアでも、7歳の少年が誘拐され、7年後に自力で脱出した事件がありました。自力で脱出した少年はその時、誘拐されてきたもう一人の少年を助けており、一躍ヒーローとなったことで全米で大きく報道されました。
映画以上に数奇な事件、残忍極まりない事件が起こり得る現実。本作は「フィクション」ではあるものの、そこで描かれるストーリー「あり得る現実」であることは決して忘れてはいけません。
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