連載コラム「邦画特撮大全」第86章
今回の邦画特撮大全では、日本で製作された“キングコング”映画を紹介します。
日本では2021年5月14日からの公開が予定されている『ゴジラvsコング』。『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)に続く、レジェンダリー・ピクチャーズの手がける“モンスターバース”シリーズの第4弾です。
2021年4月14日時点でも、本国アメリカでの興行収入は約1390万ドルという大ヒットを記録している『ゴジラvsコング』。同作の日本公開に向けて、かつて日本で作られた歴代“キングコング”映画をネタバレありで解説していきます。
CONTENTS
初代『キング・コング』が日本の怪獣に与えた影響
映画『キング・コング』(1933)
怪獣映画史のみならず世界映画史に大きな影響を与えた、オリジナル版『キング・コング』は1933年に公開されました。南洋の髑髏島で捕えた怪獣キングコングを都会へ移送して見世物にするという物語です。
キングコングや髑髏島に生息する巨大爬虫類はコマ撮りによって表現されています。特撮の神様・円谷英二が本作のフィルムを手に入れ、特撮技術を研究していたのは有名なエピソードです。キング・コングがなければ、ゴジラは存在しなかったとも言えます。
『キング・コング』は日本でも1933年9月15日に公開され、のちには『和製キング・コング』(1933)、『江戸に現れたキングコング』(1938)といった便乗映画が即座に製作・公開されていることからも、『キング・コング』の反響の大きさがうかがえます。
両作ともフィルムが現存しないため、どの程度オリジナルの『キング・コング』を意識した映像になっていたかはわかりません。伝わっている内容として、前者は人間が着ぐるみを身に付けキングコングに扮するという喜劇作品、後者は等身大の類人猿が登場する作品のようです。
映画『江戸に現れたキングコング』(1938)
時代は飛んで戦後。国産初の特撮ヒーロー『月光仮面』(1958)には“マンモスコング”という名の怪獣が登場します。日本のTVに初めて登場したこの怪獣は、大きな牙を持つ巨大なゴリラの怪獣でした。
またニッサンプロ製作の『怪獣マリンコング』(1960)というTVシリーズも存在します。ただしこの怪獣マリンコングはゴリラではなく、恐竜に似た姿をしたロボット怪獣です。
その他にも『帰ってきたウルトラマン』(1971)のタコ怪獣タッコング、『ジャンボーグA』(1973)のパンダ怪獣デスコングキングなど、「コング」の名を冠した怪獣は多いです。
『キング・コング』の“コング”は作品内の怪獣の愛称でゴリラの英名ではないため、別にゴリラの怪獣でなくてもいいのですが、全く姿の違う怪獣にも「コング」の名を付けていることからからも、怪獣=キングコングという根強いイメージがあったことが推察されます。
二大怪獣の世界タイトルマッチ:『キングコング対ゴジラ』
『キングコング対ゴジラ』は東宝創立30周年記念作品として公開され、ゴジラシリーズ最高の観客動員数を誇っています。
アメリカの怪獣キングコングと日本の怪獣ゴジラによる2大怪獣の対戦は、プロレスの世界選手権争奪戦を模したもので、東宝の怪獣映画が怪獣同士の「対決路線」へ舵を取る契機となった作品でもあります。
日本の企業が南洋のファロ島へキングコングを探しに行く前半部分は、オリジナルの『キング・コング』のプロットと共通していますが、本作の主眼は怪獣同士の対決のため後半部分は大きく異なります。
一方、浜美枝演じるヒロイン桜井ふみ子を掴んでキングコングが国会議事堂に登る場面は、オリジナルでのエンパイアステートビルに上るキングコングへのオマージュでした。
オリジナルの『キング・コング』では髑髏島からニューヨークまでキングコングを輸送する場面はありませんでしたが、本作ではキングコングをイカダに乗せてファロ島から日本へ輸送するシーンが描写されました。
以降のキングコング映画では映像技術の進化からキングコングの輸送場面が描かれるようになり、『ゴジラvsモスラ』(1992)ではモスラの卵を輸送するという本作へのオマージュといえる場面も登場しました。
また本作のキングコングと大タコの戦闘は、後に『キングコング 髑髏島の巨神』(2017)において引用されることになります。
映画『キングコング対ゴジラ』の作品情報
【公開】
1962年(日本・アメリカ合作映画)
【監督】
本多猪四郎
【特技監督】
円谷英二
【脚本】
関沢新一
【音楽】
伊福部昭
【キャスト】
高島忠夫、佐原健二、藤木悠、浜美枝、若林映子、田崎潤、松村達雄、平田昭彦、有島一郎
コングへ向けられる母性:『キングコングの逆襲』
本国アメリカから「映画でのキャラクター使用権」を5年間取得していた東宝が製作したキングコング映画の第2作目が本作『キングコングの逆襲』です。
当初は『ロビンソン・クルーソー作戦 キングコング対エビラ』という作品が企画されていましたが、諸般の事情で仕切り直されました。その結果、前述の企画はキングコングをゴジラに変更し『ゴジラ・エビラ・モスラ 南海の大決闘』(1966)として製作され、キングコングの企画は本作『キングコングの逆襲』に移行されました。
前作『キングコング対ゴジラ』は2大怪獣の対戦に主眼が置かれていましたが、本作ではよりオリジナルを意識したストーリーとなっています。前半のモンド島でのキングコングとゴロザウルスの戦闘、海蛇の登場はオリジナル版を参考にしたものです。
本作でキングコングを見つける主人公3人、国連科学調査委員のネルソン司令(ローズ・リーズン)、野村次郎三佐(宝田明)と恋人の看護婦スーザン(リンダ・ミラー)の3人の関係性もオリジナル版の主人公たちを踏襲したものでした。
一方で大きく違うのはヒロインの設定です。オリジナル版のヒロインであるアン・ダロウは最後までキングコングを恐怖の対象として見ていますし、『キングコング対ゴジラ』のふみ子(浜美枝)はスクリーミング・ヒロインの粋から出てはいませんでした。
しかし本作のヒロインであるスーザンは、キングコングへ母性に似た感情を強く見せます。怪獣のキングコングに対しヒロインが感情移入するという設定は、後のジョン・ギラーミン版『キングコング』(1976)を先取りした設定といえます。
このような怪獣へ母性を向けるヒロイン像は、『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(1965)、『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』(1966)で水野久美が演じたヒロインの流れにあるものだと考えられます。
また本作にはスパイ映画風の味つけがされており、東京タワーにキングコングが登るというオリジナル版にオマージュを捧げた場面があるものも、前作同様やはり後半はオリジナル版と趣を異にした展開となっていきます。
これは1962年に始まった「007」シリーズの影響でしょう。同時期に東宝はスパイ映画ブームの流れを汲み、小松左京原作の『エスパイ』(実際に映像化されたのは1974年)の映画化も企画していました。
敵の科学者ドクターフー(天本英世)はアメリカのビデオクラフト社が製作したTVアニメ『キングコング』から流用されましたが、フーの南極基地の描写や原子力に代る新エネルギーなどの設定は初期の007シリーズを彷彿させます。またフーに協力するマダム・ピラニアを演じるのが、前作『キングコング対ゴジラ』への出演をきっかけに、実際にボンド・ガールとなった浜美枝というのも興味深い点です。
そしてフーがキングコングを模して造ったロボット怪獣メカニコングは、後の「ゴジラ」シリーズにおける人気怪獣メカゴジラのベースとなりました。
映画『キングコングの逆襲』の作品情報
【公開】
1967年(日本・アメリカ合作映画)
【監督】
本多猪四郎
【特技監督】
円谷英二
【脚本】
馬淵薫
【音楽】
伊福部昭
【キャスト】
宝田明、浜美枝、ローズ・リーズン、リンダ・ミラー、天本英世、田島義文、堺佐千夫、黒部進、伊吹徹、北竜二、沢村いき雄、田口計、山東昭子
まとめ
やや駆け足とはなりましたが、オリジナル版『キング・コング』がもたらした影響、日本国内で製作されたキングコング映画について紹介していきました。
およそ半世紀ぶりとなるゴジラ・キングコングの2大怪獣対決が描かれる『ゴジラvsコング』。どちらに勝利の女神は微笑むのか、日本公開前から期待が膨らみます。
次回の邦画特撮大全は…
次回の邦画特撮大全は、今年2021年に公開を控えている『シン・ウルトラマン』(2021)の特報に登場した怪獣ネロンガとガボラを紹介します。お楽しみに。