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Entry 2018/12/08
Update

『ゴジラ対ヘドラ』カルト映画として再評価される内容と解説。坂野義光が監督デビュー作品に秘めた真意とは|邦画特撮大全25

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第25章

先月11月はゴジラの誕生月という事で、ゴジラシリーズを特集しました。

しかしたった4回の連載で「ゴジラ」シリーズの魅力を語り尽くすことは出来ません。そのため今月12月も引き続き「ゴジラ」シリーズを特集していきます。

今回取り上げる作品は、1971年公開の『ゴジラ対へドラ』です。

「ゴジラ」シリーズの中でも異色作であり、カルト的な人気を誇る作品です。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

『ゴジラ対ヘドラ』の作品情報

1971年4月、東宝は映像事業部門を発展解消し東宝映像株式会社を設立。

同年11月には株式会社東宝映画を設立しました。そのようなかで製作されたのが『ゴジラ対ヘドラ』です。

従来であれば本編班と特撮班の2班体制で東宝特撮作品は制作されますが、本作は本編・特撮1班体制で制作されています。

監督は本作がデビューとなった坂野義光。脚本は坂野と馬淵薫の共同。特殊技術は中野昭慶。

本作以降中野は「ゴジラ」シリーズの特殊技術・特撮監督を務めることになります。

音楽はそれまでシリーズを手掛けてきた伊福部昭や佐藤勝に代り、眞鍋理一郎が担当。主題歌『かえせ!太陽を』も強く印象に残ります。

公害と戦うゴジラ

『ゴジラ対ヘドラ』のテーマは“公害”です。公開当時、“公害”は社会問題になっていました。

本作のみならず、他の特撮作品にもその影響が見られます。

『スペクトルマン』(開始当初は『宇宙猿人ゴリ』1971)の主人公の職業は公害Gメンで、第1話に登場する怪獣は公害怪獣へドロンです。

また『帰ってきたウルトラマン』(1971)の第1話にもヘドロがモチーフとなった怪獣ザザーンが登場します。

特に本作誕生のきっかけになったのが“光化学スモッグ”です。

本作公開の前年1970年7月18日、東京都杉並区の高校で事件は起きました。

校庭で体育の授業を受けていた生徒たちが光化学スモッグによって倒れたのです。

本作の劇中に怪獣ヘドラがまき散らす毒素によって学校のグランドで子どもたちが倒れるという、この事件を参考にした描写が登場します。

また劇中には光化学スモッグに加え、四日市コンビナートの排煙と田子の浦のヘドロ汚染も扱われています。

シリーズ第1作『ゴジラ』(1954)の持っていた“科学に対する批判性”、当時シリーズの柱となっていた“怪獣同士の対決”という2つの要素を上手く合致させたのが本作『ゴジラ対ヘドラ』なのです。

『ゴジラ』(1954)

成長する公害怪獣ヘドラ

ヘドラは駿河湾の田子の浦で誕生しました。

田子の浦は当時ヘドロによる汚染が問題となっていました。

ヘドラは当初おたまじゃくしのような姿をしていましたが、水中棲息期、上陸期、飛行期、完全期と成長していくのです。

怪獣が成長するというアイディア自体は、『ウルトラセブン』に登場するエレキングなどの前例もあります。

しかし細かい変態を描いたのはヘドラが初でしょう。

怪獣の成長と変態というアイディアは『ゴジラVSデストロイア』(1995)のデストロイア、『シン・ゴジラ』(2016)にも引用されています。

ヘドラはその名の通りヘドロがモチーフのため、黒やグレーといった暗色がベースとなった配色です。

縦に割れた紅い眼や、背中に黄色と赤のラインがある事で邪悪さを醸し出すデザインになっています。

特にヘドラが工場の煙突から排煙を吸う場面で、ヘドラの眼が暗い画面の中で光る描写が印象深いです。

またヘドラで印象深い描写が、建設中のビルの鉄骨の間をヘドラが飛行するというもの。

美術監督の井上泰幸によれば撮影スケジュールが過密すぎて、そのカットをどのように撮影したのかを全く覚えていないそうです。

『ゴジラVSデストロイア』(1995)

アバンギャルドな演出の数々

予算やスケジュールが厳しい中で制作された『ゴジラ対ヘドラ』。本作にはそうした事情をカバーするために試みられた様々な創意工夫があります。

本作には風刺的なアニメーションやマルチ画面が多用されています。

またサイケデリックなゴーゴー喫茶の場面、ヘドラが噴射する硫酸ミストによって人体が白骨化する描写など、前衛的で残酷な描写も多々見られます。

ヘドラの存在と共に、上記のような描写が鮮烈な印象を残します。

そして本作でもっとも賛否を呼んだのが“ゴジラの飛行”する描写です。

劇中、飛行するヘドラを追うため、ゴジラが熱線を吐いて飛行します。

子どもたちへのサービスやスピード感を出すためから、中野昭慶が提案したものです。

この描写はファンのみならず、制作中のスタッフ間でも賛否が分かれました。

“ゴジラの飛行”の案に第1作目からゴジラシリーズのプロデューサーを務めていた田中友幸が猛反対。

しかし田中が体調不良で入院している間に、このカットが撮影されました。

退院した田中は試写でゴジラの飛行を見た際、「ゴジラの性格を変えてもらっては困る」と立腹したそうです。

後年、坂野は田中が「あいつには二度と特撮映画を監督させない」と激怒していたと人づてに聞いたと語っています。

実際、坂野義光監督がゴジラを演出することは本作以降ありませんでした。

しかし坂野は時を経てゴジラにかかわる事になります。

監督ではありませんが、2014年に公開されたハリウッド映画『GODZILLA ゴジラ』でエグゼクティブ・プロデューサーを務めたのです。

『GODZILLA ゴジラ』(2014)

まとめ

本作『ゴジラ対ヘドラ』は1978年に刊行された『世界最悪の50本』の1本に選ばれました。

しかし前衛的な演出や本作が持つ強い社会風刺のメッセージから、本作は時代を経て再評価されました。

坂野義光監督は本作の後、テレビドキュメンタリーなどを中心に活動していました。

本作『ゴジラ対ヘドラ』の続編の構想を練っていたそうですが、残念ながら昨年2017年に亡くなられました。

しかし坂野は本作『ゴジラ対ヘドラ』に、現代にも通じる強いメッセージを遺していったのです。

次回の邦画特撮大全は…

次回の邦画特撮大全は『ゴジラ対メカゴジラ』(1974)を特集します。

お楽しみに。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

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