連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第32回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第32回は、1979年製作のアメリカ映画『ウォリアーズ』です。
『48時間』(1982)、『ストリート・オブ・ファイヤー』(1984)のウォルター・ヒル監督によるバイオレンス・アクションである本作を、あらすじネタバレ有りで紹介します。
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映画『ウォリアーズ』の作品情報
【公開】
1979年(アメリカ映画)
【原題】
The Warriors
【原作】
ソル・ユーリック
【監督・脚本】
ウォルター・ヒル
【共同脚本】
デヴィッド・シェイバー
【撮影】
アンドリュー・ラズロ
【製作】
ローレンス・ゴードン
【製作総指揮】
フランク・マーシャル
【キャスト】
マイケル・ベック、ジェームズ・レマー、トーマス・G・ウェイツト、ドーシー・ライト、
ブライアン・タイラー、デボラ・ヴァン・フォルケンバーグ、デヴィッド・ハリス
【作品概要】
ソル・ユーリックの原作『夜の戦士たち』を、『48時間』、『ストリート・オブ・ファイヤー』のウォルター・ヒル監督が1979年に映画化。ギャング間の抗争が激化するニューヨークを舞台に、濡れ衣を着せられたチーム「ウォリアーズ」の一夜の逃走劇を描きます。
監督のヒルとデイヴィッド・シェーバーが脚色し、『ストリート・オブ・ファイヤー』にも参加したアンドリュー・ラズロが撮影監督を担当。主要キャストの大半は無名の新人ですが、主役格に当たる青年スワンを『メガフォース』(1982)のマイケル・ベックが演じます。
映画『ウォリアーズ』のあらすじとネタバレ
夏の夜のニューヨーク。街のストリートギャングたちが、ブロンクスの公園に集結していました。彼らはニューヨーク最大のギャングチーム「リフス」のリーダーであるサイラスにより集められました。
コニーアイランドをテリトリーとする「ウォリアーズ」のメンバーも、リーダーのクレオンを筆頭に勢ぞろいしていました。
壇上に上がったサイラスは、ギャングの垣根を超えて手を組み、警察を襲ってニューヨークを奪いとろうと叫びます。
ところが、集会では一切の武器の持ち込みが禁止されていたにもかかわらず、一発の銃声が鳴り響いてサイラスが射殺されてしまいます。
会場内が大パニックとなる中、「ローグス」リーダーのルーサーが、サイラスを殺したのはクレオンだと叫びます。実は撃ったのはルーサーでしたが、濡れ衣を着せたのです。
成す術なく捕らわれたクレオンが集団リンチに遭うのを目の当たりにしたウォリアーズのメンバーは、なんとかその場を逃れます。
ウォリアーズの暫定的リーダーとなったスワンは皆を連れてコニーアイランドに戻ることにするも、サイラスを殺されたリフスのメンバーは、ウォリアーズに復讐を宣言。
さらにはニューヨーク中に事件を伝えるラジオ番組を通じて、ほかのギャンググループたちもウォリアーズを倒して名を高めようと動き出します。
実際のギャング事件が起こったほどの影響力
『ウォリアーズ』を題材にしたゲーム『The Warriors』
本作『ウォリアーズ』は、1979年製作のウォルター・ヒル監督によるバイオレンス映画です。
原作は1965年発表の小説『夜の戦士たち』(日本では1979年に講談社から出版)で、作者のソル・ユーリックはこれがデビュー作となりました。ニューヨークの福祉施設に勤めていた経験を元に、『ウエストサイド物語』(1961)での美化されたストリートギャングの描写へのアンチテーゼとして執筆したといわれています。
舞台となるニューヨークのブロンクスは、当時のアメリカの中でも治安が悪い地区とされており、撮影も本物のギャングをボディガードに雇って行われ、冒頭の大集会の場面では1000人もの本物のストリートギャングたちがエキストラとして参加。
登場人物の大半を無名キャストで占められているという点でもリアリティをもたらしていますが、これが予期せぬ波紋を引き起こすことに……。
アメリカでは1979年2月に公開されましたが、公開翌日にはカリフォルニアで本作を観て触発されたギャングが発砲して死人が出たり、ニューヨークでは地下鉄内でギャング同士が乱闘になったりと、全米各地であらすじをコピーしたような事件が多発。
ついには警察から上映禁止令が出るという事態となり、その余波を受けて日本公開も同年夏予定から9月に延期されてしまったほど、大きな影響をもたらしました。
荒ぶる若者の青春群像と個性的なギャングたち
ストリートギャングのトップ殺害の濡れ衣を着せられたウォリアーズ(原作ではコニーアイランドの支配者《ドミネーターズ》)たちが、ブロンクスの公園から地元コニーアイランドに逃げ帰るまでの一夜を、スリリングに描いた本作。
実際に殺人事件を起きてしまったという悲劇こそ生んだものの、描かれるのはあくまでも若者の青春です。
長らく不況にあえいでいたアメリカにおいて、居場所を失ったギャングたちが荒んだ境遇をバネに、暴力という形で自己を表現するギャングたち。映画終盤での、地下鉄でスワンとマーシーの向かいに裕福なカップルたちが座る場面は、格差の対比を如実に暗示しています。
裕福に着飾ったカップルに引け目を感じるマーシーに、暴力まみれの世界で生きてきたスワンが彼女の手を取り、彼らを睨みつける……原作での「カップルたちが蔑んだ目でスワン(原作ではヒントン)たちを見る」という描写を改変したその演出には、ヒル監督とデヴィッド・シェイバーの意図が感じられます。
ウォリアーズvsベースボール・フューリーズの闘い
ほかに見どころとしては、個性豊かなギャングの登場でしょう。
パンクロックバンド「KISS」のようなメイクで野球ユニフォームを着た「ベースボール・フューリーズ」、バスに乗って移動するスキンヘッド集団「ターンブル・エーシーズ」、弱いのに虚勢だけは一人前の「オーファンズ」、全員オーバーオールとボーダーシャツで揃えた「パンクス」など、中二病感覚満載のギャングたちが次々登場するので、観ていて楽しくなります。
アクションに関していえば、今の洗練されたコレオグラフィに観慣れた方は野暮さを感じるかもしれませんが、ウォリアーズと襲いかかるギャングが広場やトイレ、地下鉄で繰り広げる乱闘も、洗練されていない荒々しさがかえって引き立ちます。
撮影ではエキサイトしすぎて、マーシーを演じたデボラ・ヴァン・フォルケンバーグはバットが顔に当たってアザができたり、地下鉄内で走る場面で転んで手首を骨折するなどのケガを負っています(中盤でマーシーがジャケットを着て登場するのは、負傷箇所を隠すため)。
まとめ
35年ぶりに集結した「ウォリアーズ」メンバー(2015)
ほかにも、「イーグルス」のギタリストだったジョー・ウォルシュがエンドクレジットで流れる主題曲『イン・ザ・シティ』を手がけ、後にボン・ジョヴィやリッキー・マーティンのプロデュースを担ったデズモンド・チャイルドも曲作りに関わるなど、音楽面でも特筆したい点が多い『ウォリアーズ』。
『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995)の押井守監督も、初の実写作品『紅い眼鏡』(1987)を撮る際の参考にしたと語るなど(出来は凡庸ですが…)、フィルムメーカーにも影響を与えています。
2005年にはテレビゲーム化されたり(原作にあるウォリアーズ結成前のエピソードや、映画では描かれなかったサイラス暗殺の真相なども加えられている)、2015年には出演者たちが集結した記念イベントが実施されるなど、時を越えても熱いフォロワーが存在。
血気盛んな若者たちの暴走は、いつの世も普遍的なもの。「HiGH&LOW」シリーズ(2015~)や『クローズ』といった日本の不良ドラマ・マンガの原典として、外せない一本なのです。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
2010年代からは映画ライターとしても活動。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)