Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2022/06/19
Update

【ネタバレ】スパイダーヘッド|あらすじ結末ラストと解説評価。サイコパスをクリス・ヘムズワースが演じるSF近未来の刑務所スリラー|Netflix映画おすすめ102

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第102回

未承認の医薬品や医療機器を、被験者の同意の上で人体を使った臨床試験を行う「治験」。

通常医療での回復が困難なケースで行われる試験や健康的な成人が行う試験など、種類はさまざまであれど被験者の「同意の上」であることが大前提となっています。

今回はそんな「治験」をテーマにしたNetflix独占配信スリラー映画『スパイダーヘッド』(2022)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

映画『スパイダーヘッド』の作品情報


(C)2022Netflix

【公開】
2022年(アメリカ映画)

【原題】
Spiderhead

【監督】
ジョセフ・コシンスキー

【キャスト】
マイルズ・テラー、クリス・ヘムズワース、ジャーニー・スモレット=ベル、チャールズ・パーネル、ネイサン・ジョーンズ

【作品概要】
ジョージ・ソーンダースによる短編小説を『トップガン マーヴェリック』(2022)のジョセフ・コシンスキーが映像化した作品。

トップガン マーヴェリック』で物語のメインとなるルースターを演じたマイルズ・テラーが主演を務め、「アベンジャーズ」シリーズで雷神ソーを演じたクリス・ヘムズワースが共演として参加しました。

映画『スパイダーヘッド』のあらすじとネタバレ

受刑者を使い薬の治験を行う「スパイダーヘッド刑務所」。

受刑者たちは治験に参加する見返りとして刑務所内での自由行動を許可されていました。

受刑者のジェフは治験を取り仕切るスティーヴとその助手のマークによって美的感覚を鋭敏にする「N-40」を投薬する治験を繰り返し行なっています。

「N-40」は投薬されることで景色だけでなく、目前の相手に性的感情を伴った好意が呼び覚まされ、ジェフは治験の最中に受刑者のヘザーやサラと性的関係を持つことになります。

ある日、ジェフはヘザーとサラのどちらかに発狂に追い込まれる危険な薬物「ダークフロックス」を投薬する治験を行うと宣言され、スティーヴはその対象をジェフに選ばせようとします。

実はこの選択は「N-40」が切れた後も愛情が続くかと言う治験の延長であり、ジェフが選択を拒み続けると「ダークフロックス」の投入は行われませんでした。

しかし数日後、ヘザーに対する「ダークフロックス」の治験が行われ、その様子を感情の言語化機能を引き上げる薬を投薬されたジェフが観測する実験が始まります。

ジェフは「ダークフロックス」は治験の終わった劇薬であり、あまりにも非人道的な実験であるとスティーヴに文句を言いますが、治験を行うことで手に入れている自由について諭されてしまいました。

「ダークフロックス」による幻覚で暴れ出したヘザーは腰につけられた薬物の注入装置を破壊してしまい、規定量以上の「ダークフロックス」が投薬されたことでインテリアを破壊した破片を使い自らの首を切り死亡してしまいました。

緊急事態にスティーヴとマークが場を離れた隙にジェフはスティーヴの手帳を覗き見ると、手帳には「BINGOカード」が挟まっており、数字の羅列が薬品の名前と同じであること、そして治験の終わった薬に星マークのシールを付けていることに気づきます。

翌日、ジェフと親密な仲である受刑者のリジーは恐怖心を引き出される薬を投薬され苦しんだ後、ジェフに対し何故毎回投薬の承認を行ってしまうのかを問いかけます。

ジェフはスパイダーヘッドが拷問に近い投薬を繰り返す、通常の刑務所よりもずっと酷い環境であることを理解しながらも、過去に妻と親友を自身の危険運転で死亡させてしまった贖罪として投薬を受け入れているのだと話しました。

スティーヴはジェフの行動を監視し続け、ジェフがリジーに対して特別な感情を抱いていることを知ると、「ダークフロックス」の実験をリジーに対して行うとジェフに宣告。

スティーヴは治験は翌日から始めると言うと、ジェフは非人道的な治験の数々を快く思っていないマークを呼び出し、スティーヴが薬の名前をBINGOカードで決めるような遊び半分で行っている人物であることを指摘しました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『スパイダーヘッド』のネタバレ・結末の記載がございます。『スパイダーヘッド』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

翌日、マークが治験の場に現れず、スティーヴはジェフを観測室に呼び出し、リジーへの「ダークフロックス」の治験が始まります。

スティーヴはリジーに投薬するためのデバイスをジェフに渡しますが、実はそのデバイスはマークによって改造されており、スティーヴが自分自身につけている投薬装置に繋がっていました。

ジェフはBINGOカードの記載から治験の完了していない「B-6」が「相手の命令に従う薬」であることに気づいており、スパイダーヘッド刑務所が「B-6」の治験のための施設であることをスティーヴに自白させます。

薬の承認を求められると必ず承認してしまうことや、同刑務所内の凶悪犯たちがスティーヴたちの理不尽にも命令に従っていることに合点の行くジェフ。

さらにスティーヴは実はジェフとリジーは既に刑期が過ぎていることを話すと、激怒したジェフはスティーヴに「B-6」を投与しマークが呼んだ警察が近づいていることをスティーヴに話すと自首を命じます。

しかし、「B-6」の治験が終わらなかった理由は愛情を持った相手への加虐行為を承認しない特例があることが理由であり、スティーヴは自分自身への愛情によってジェフの命令には従わず、ジェフデバイスを奪い取ると4倍量の「ダークフロックス」をリジーに投与。

ジェフとスティーヴは揉み合ううちにスティーヴの注入装置が壊れ、ジェフはその隙にリジーに駆け寄ると薬を全て取り除きリジーを救います。

駆けつける警察から逃れるためにスティーヴは自身の飛行機に乗り込みますが、壊れた投薬装置から多量の「N-40」が投与され、山に見惚れたスティーヴは運転を誤り死亡。

ジェフとリジーは船を奪い逃走し、自由な青空の下で笑い合いました。

映画『スパイダーヘッド』の感想と評価


(C)2022Netflix

その刑務所は受刑者にとっての楽園なのか

本作に登場する「スパイダーヘッド刑務所」では受刑者が施設内を自由に移動し、性別を問わずに好きな相手と交流を深めています。

外部に出ることこそ禁止されているものの、主人公のジェフは監視の中で外出し外部への電話が許可されるなど、受刑者は刑務所としては異例と言える「自由」を謳歌。

それは認可されていない薬物の「治験」を承認した見返りであり、スパイダーヘッドでは受刑者は定期的な治験に呼ばれます。

治験を指揮するスティーヴは投薬前に必ず本人への同意を求めており、一見スパイダーヘッドは受刑者にとって楽園のような刑務所に映っていました。

しかし、治験に使われる薬は決して安全なものではなく、スティーヴの気まぐれでいつ命を落としてもおかしくない状況であることにジェフは気づきます。

人間的権利を犠牲にした少しの自由が果たして受刑者たちの犯した罪の重さに匹敵するのか、トロッコ問題を彷彿とさせる倫理の問題を考えさせられる作品です。

作品の主軸となるクリス・ヘムズワースの演技

スパイダーヘッド刑務所を統括するスティーヴは陽気で人当たりが良く、巧みな弁舌で人に取り入ることに長けた人物として描かれています。

しかし、物語が進むにつれて自分の思い通りに物事が進まないと人を罵倒する短気さ、と被験者の苦痛を伴う実験を笑いながら行うサイコパスとしての一面を徐々に見せ始めます。

どんな嘘でも平気でつき、人の善意を操り人体実験まがいの治験を正当化するスティーヴの恐ろしさは彼を演じたクリス・ヘムズワースの演技力によって引き出されており、本作は彼の演技なしでは有り得ないとまで言えるほどでした。

次にどんな行動をとるか想像させない、クリス・ヘムズワース史上最も危険なキャラクターをその目で確かめてみてください。

まとめ

海と山に囲まれた刑務所の外を映した自然豊かなシーンとは裏腹に、刑務所内のシーンは自由でありながらも狭く画面自体が明るいシーンでも暗さを感じさせます。

徐々に高まっていく違和感と、主人公のジェフが犯した罪と贖罪、そしてラストに明かされる刑務所の秘密。

Netflix独占配信映画『スパイダーヘッド』は、スリラー映画としての魅力的な要素がしっかりと詰まった作品でした。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら



関連記事

連載コラム

映画『ゆきおんなの夏』あらすじ感想と評価解説。亀山睦実監督が異種恋愛ラブストーリーを描く|インディーズ映画発見伝17

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第17回 日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝 …

連載コラム

韓国映画『10人の泥棒たち』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。キムスヒョンの銀幕デビューに豪華キャスト集結!|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー22

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第22回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

連載コラム

『正欲』あらすじ/キャスト/公開日。朝井リョウ原作を稲垣吾郎×新垣結衣で映画化。キャストコメント&新場面写真が到着!|TIFF東京国際映画祭2023-1

第36回東京国際映画祭・コンペティション部門への正式出品が決定! 朝井リョウによる小説『正欲』を監督・岸善幸×脚本・港岳彦のもと、稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香を迎えて映画化した『正 …

連載コラム

デンマークの息子|ネタバレ感想と結末の考察解説。近未来SFのポリティカル・サスペンスが描く移民と排他主義の現実|未体験ゾーンの映画たち2021見破録14

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第14回 世界各国の隠れた秀作映画を発掘する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第14回で紹介するのは、近未来を舞台に描く社会派サスペンス『デン …

連載コラム

映画『ガーディアン』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。ガンアクションと“家族愛”をドイツ人俳優ティル・シュワイガーが魅せる|B級映画ザ・虎の穴ロードショー20

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第20回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学