連載コラム『シニンは映画に生かされて』第19回
はじめましての方は、はじめまして。河合のびです。
今日も今日とて、映画に生かされているシニンです。
第19回にてご紹介させていただくのは、ニール・マーシャル監督による人気アメコミ「ヘルボーイ」シリーズの映画化作品であり、2019年9月27日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にてロードショー公開の映画『ヘルボーイ』。
かつてギレルモ・デル・トロ監督によって二度映画化を果たした地獄のヒーローが、さらにパワーアップして帰ってきました。
CONTENTS
映画『ヘルボーイ』の作品情報
【日本公開】
2019年9月27日(アメリカ映画)
【原題】
Hellboy
【原作】
マーク・ミニョーラ
【監督】
ニール・マーシャル
【脚本】
アンドリュー・コスビー
【プロデューサー】
ローレンス・ゴードン、ロイド・レヴィン
【キャスト】
デヴィッド・ハーバー、ミラ・ジョヴォヴィッチ、イアン・マクシェーン、サッシャ・レイン、ダニエル・デイ・キム
【作品概要】
マイク・ミニョーラ原作の同名人気コミックシリーズを、『ドッグ・ソルジャー』『ディセント』などで知られるニール・マーシャル監督が映画化。地獄から召喚された悪魔の子にして「地獄生まれ・地球育ち」のヒーロー・ヘルボーイの活躍と葛藤、そしてその出生に秘められていた更なる秘密を描きます。
デル・トロ版のロン・パールマンに代わってヘルボーイを演じるのは、SFホラードラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』でブレイクしたデビッド・ハーバー。
監督・主演のみならず、本作では『ヘルボーイ』をよりダークに描くためにもスタッフ・キャストを一新。原作者であるミニョーラを監修に招き製作された、パワーアップした新たな映画『ヘルボーイ』が誕生しました。
映画『ヘルボーイ』のあらすじ
人類への復讐心から地上を魔物の世界へ変えようと企む“ブラッドクイーン”こと最強の魔女・ニムエ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)。
極秘機関「超常現象調査防衛局(B.P.R.D.)」の最強エージェントにして、人間に育てられた悪魔の子・ヘルボーイ(デヴィッド・ハーバー)は地球を守るべく決死の戦いを挑むが、彼女の魔力により世界を滅亡させてしまうほどのパワーを手にいれてしまいます。
世界は終焉を迎えるのか。そして、ヘルボーイの運命は。
やがてバトルは天変地異へとエスカレートし…。
更なる地獄へ、更なる深奥へ
1994年、アメコミ作家であったマイク・ミニョーラが米・ダークホースコミックスにて第一作を発表。以後現在に至るまで、多くのファンに愛されてきた“嫌われ者”のヒーロー・ヘルボーイと『ヘルボーイ』シリーズ。
ギレルモ・デル・トロ監督による2004年の映画『ヘルボーイ』、2008年の映画『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』は『ヘルボーイ』/アメコミファンだけでなく様々な人々に観られ、ヘルボーイの認知度と人気度を拡大した作品として知られています。
2006年の『パンズ・ラビリンス』にて世界的な評価を獲得し、2017年の『シェイプ・オブ・ウォーター』では第90回アカデミー賞にて作品賞など4部門を、第75回ゴールデングローブ賞にて2部門を受賞したデル・トロ監督。
ただでさえ多くのファンに愛され続けている原作コミックに対し、彼の代表作でもあるデル・トロ版『ヘルボーイ』二部作がさらに積み重ねた「映画化のハードル」は、映画化において10年以上の空白の期間を生み出すには十分な理由だったと言えます。
けれども2019年に公開されるマーシャル版映画『ヘルボーイ』は、そんなハードルを「ぶっ壊す」ことができる作品であることを劇場に訪れた人々は目の当たりにするでしょう。
魔女・ニムエをはじめ、魑魅魍魎の魔性・魔物の数々が街と人々をことごとく蹂躙し、辺りは火と血と肉に塗れる。神話・伝説で語り継がれてきた地獄が現実世界に出現する、文字通りの“地獄絵図”を、本作ではデル・トロ版よりもさらに過激に、さらに残酷に描きます。
また本作では、ヘルボーイの“生まれ”にまつわる原作コミックにおいても重要なエピソードが取り上げられています。
デル・トロ版映画『ヘルボーイ』では「第二次世界大戦期、敗戦濃厚だったナチスが形勢逆転を狙って怪僧ラスプーチンの手を借りて“ラグナロク計画”を実行。米軍の突入によって計画は阻止されたものの、魔界の門を開けていたために赤ん坊だったヘルボーイが地球に迷い込んでしまった」という、ヘルボーイが地球にやって来た経緯を描きました。
そして地獄から蘇ったラスプーチンによる新たなる計画をヘルボーイたちが阻止するのが主なストーリーでしたが、デルトロ版映画『ヘルボーイ』では「そもそもヘルボーイはどうやって生まれたのか?」「ヘルボーイの“生みの親”は誰なのか?」については深く触れられていませんでした。
一方マーシャル版映画『ヘルボーイ』では、ヘルボーイ出生の秘密の更なる深奥へとストーリーを突き進めてゆきます。
より過激に、より残酷に進化した描写によって原作コミックの世界観をより忠実に、よりダークに再現する。そして「嫌われ者のヒーローが何故生まれたのか?」を描く。
それこそが、2008年以来10年以上もの間“飢え”を強いられてきた『ヘルボーイ』ファンが待ち望んでいた、更なる進化と深化を遂げた映画『ヘルボーイ』の全容なのです。
ニール・マーシャル監督の“本領発揮”
この度公開される映画『ヘルボーイ』を手がけたニール・マーシャル監督。「何故彼が起用されたのか?」という問いへの答えは、彼のこれまでのフィルモグラフィを見れば一目瞭然です。
まずはじめに、2002年に公開された彼の長編監督デビュー作『ドッグ・ソルジャー』。「とある陸軍小隊がスコットランドの森で訓練をしていた最中に伝説の怪物“人狼”に遭遇する」というそのストーリーは、多少違いはあれどマーシャル版映画『ヘルボーイ』におけるダイミョウ少佐の過去を彷彿とさせます。また「スコットランド」という舞台設定も少なからず一致しています。
2005年に公開され一躍マーシャル監督の名を世に広めたヒット作『ディセント』には、ヨーロッパ世界で長きに渡って伝承されてきた悪しき精霊“ゴブリン”に酷似した、洞窟に潜み暮らす醜悪な化物たちが出現。その姿はマーシャル版映画『ヘルボーイ』で描かれている魑魅魍魎たちと重なります。
この二作だけでも、マーシャル監督がヨーロッパ世界の伝説・伝承に基づく怪物たちを描くための“経験”が豊富であることは十分理解できます。
さらに注目すべきは、原作コミック通り、マーシャル版映画『ヘルボーイ』は5世紀末のブリテン(イギリス)を舞台とする《アーサー王伝説》と『ヘルボーイ』が交わることで生まれ、それが映画全体の世界観となっているという点です。
マーシャル監督は2010年に公開した『センチュリオン』(日本未公開)にて、古代ローマ時代のブリテンを舞台に映画を制作しました。時代設定は西暦117年と《アーサー王伝説》より以前ではありますが、“古きイギリス”をマーシャル監督は『ヘルボーイ』以前から描いていたのは明白です。
そして何よりも見逃せないのが、日本でもネット配信・衛生放送にて驚異的なヒットを記録したファンタジー戦記ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』にて培った実績でしょう。
彼が演出を手がけた第2シーズン・第9話「ブラックウォーターの戦い」と第4シーズン・9話「黒の城の死闘」は、“GOT”ファンであれば誰もが記憶している人気エピソードであり、特に『黒の城の死闘』はマーシャル監督を2014年のプライムタイム・エミー賞監督賞・ドラマ部門にノミネートさせるほどの高視聴率を記録しました。
ヨーロッパ世界の伝説・伝承に登場する怪物や異種族、魔法などが当たり前に存在する。そして人間を含めたあらゆる種族が王国を築き、甲冑を纏い、剣、弓矢などの古き武器を手に取って他国との戦争を繰り広げる。それはまさに、アーサー王率いる人間の軍団と魔女・ニムエが率いる魔族の軍団が引き起こしたかつての戦争と重なります。
怪物の描写のみならず、“騎士と魔族の戦い”を描くことすらも経験し評価されてきたマーシャル監督。彼が新たなる映画『ヘルボーイ』の監督に抜擢されたのは、積み重ねてきた経験と実績にとってはもはや必然の事象といっても過言ではないでしょう。
果たして、マーシャル監督は自身の経験と実績によって、どのような映画『ヘルボーイ』を描くのか。『ヘルボーイ』/アメコミファンのみならず、“GOT”ファン、ひいてはファンタジー作品が好きなあらゆる方にその成果を見届けていただきたいです。
ニール・マーシャル監督プロフィール
1970年生まれ、イングランド出身。
11歳の時に『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)を観たのを機に映画監督を目指し始め、スーパー8mmフィルムを使って映画制作を開始。
1989年、ニューカースルポリテクニック(現在のノーザンブリア大学)の映画学部に進学。その後8年間はフリーランスの編集技師として映画制作の現場に携わりました。
2002年に『ドッグ・ソルジャー』で監督デビュー。2006年にはホラー映画『ディセント』がヒットし、一躍その知名度は上がりました。
ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』では人気エピソードとなった「ブラックウォーターの戦い」(第2シーズン・第9話、2012)と「黒の城の死闘」(第4シーズン・9話、2014)の監督を務め、“シリーズ中最も映画的なエピソード”と評されたほか、プライムタイム・エミー賞監督賞・ドラマ部門にもノミネートされました。
まとめ
デル・トロ監督が先駆けた映画『ヘルボーイ』からの更なる進化と深化のために始動した、新たなる映画『ヘルボーイ』を再召喚する計画。
その計画の成功のために参加した“魔術師”は、「ヨーロッパ世界の怪物伝説」と「騎士と魔族と魔法の世界」を映像によって描くノウハウを確固たる評価を引き連れながらも培ってきたニール・マーシャルだけではありません。
原作者であり『ヘルボーイ』の生みの親であるミニョーラは、コミック作家としての顔を持つ脚本家のアンドリュー・コスビーによる脚本執筆に深く携わり、脚本におけるヘルボーイが原作の世界観に忠実に描かれているかのチェックを続けました。
それだけでなく、コミックからの映画化の中で少なからず生じてしまう設定や世界観のズレを別エピソードにおける描写の挿入によって修復、マーシャル版映画『ヘルボーイ』の世界観を違和感を抱かせる余地さえ与えない盤石たるものにしました。
デル・トロ版映画『ヘルボーイ』の制作においても、『ヘルボーイ』を誰よりも深く知る生き字引として多大なる協力を果たしてきたミニョーラ。
そんな彼の協力を得たことでヘルボーイの再召喚を成し遂げたマーシャル監督は、更なる進化と深化を果たした、最も暴力的で魅力的な映画『ヘルボーイ』を生み出したのです。
一体、新生映画『ヘルボーイ』は劇場に訪れた観客たちにどれほどの恐怖と感動を与えてくれるのでしょうか。その答えは、もうすぐ明らかにされます。
次回の『シニンは映画に生かされて』は…
次回の『シニンは映画に生かされて』では、2020年11月20日(金)より公開の映画『泣く子はいねぇが』をご紹介させていただきます。
もう少しだけ映画に生かされたいと感じている方は、ぜひお待ち下さい。
編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身の詩人。2019年に日本映画大学・理論コースを卒業後、2020年6月に映画情報Webサイト「Cinemarche」編集長へ就任。主にレビュー記事を執筆する一方で、草彅剛など多数の映画人へのインタビューも手がける。
2021年にはポッドキャスト番組「こんじゅりのシネマストリーマー」にサブMCとして出演(@youzo_kawai)。