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Entry 2019/08/01
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映画『世界の涯ての鼓動』あらすじと感想評価。ヴィム・ヴェンダースが二つの旅路から再考する世界と愛|シニンは映画に生かされて14

  • Writer :
  • 河合のび

連載コラム『シニンは映画に生かされて』第14回

はじめましての方は、はじめまして。河合のびです。

今日も今日とて、映画に生かされているシニンです。

第14回にてご紹介する作品は、『パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』など、ドイツ映画ひいては世界の映画史に燦然と輝く名匠ヴィム・ヴェンダース監督の最新作『世界の涯ての鼓動』。

現代の“世界の涯て”といえる極限の環境下で浮かび上がる人間の愛を描いた作品です。

【連載コラム】『シニンは映画に生かされて』記事一覧はこちら

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映画『世界の涯ての鼓動』の作品情報


(C)2017 BACKUP STUDIO NEUE ROAD MOVIES MORENA FILMS SUBMERGENCE AIE

【公開】
2019年8月2日(ドイツ・フランス・スペイン・アメリカ合作)

【原題】
Submergence

【原作】
J・M・レッドガード

【監督】
ヴィム・ヴェンダース

【脚本】
エリン・ディグナム

【撮影】
ブノワ・デビエ

【音楽】
フェルナンド・ベラスケス

【キャスト】
ジェームズ・マカヴォイ、アリシア・ヴィキャンデル、アレクサンダー・シディグ、レダ・カデブ、アキームシェイディ・モハメド

【作品概要】
本作のプロデューサーを務めたキャメロン・ラムが、スコットランド人作家J・M・レッドガードの原作小説『Submergence』の映画化をヴィム・ヴェンダース監督に依頼。「こんな小説は読んだことがないし、映画にする方法も思いつかなかった」と語りながらも、ヴェンダース監督は映画化に挑み、本作を完成させました。

生物数学者の女性ダニーを演じたのは、『リリーのすべて』でのアカデミー賞助演女優賞の獲得をはじめ、ハリウッド随一の演技派女優と称されるアリシア・ヴィキャンデル。

そしてMI-6の諜報員ジェームズを演じたのは、『X-MEN』シリーズにて若き日のプロフェッサーX役を演じたことで人気を博し、『つぐない』でのゴールデングローブ賞ノミネートを経て実力派時俳優としての地位を確立してきたジェームズ・マカヴォイです。

映画『世界の涯ての鼓動』のあらすじ

フランス・ノルマンディーの海辺に佇むホテルで、一組の男女は出会い、恋に落ちました。

女の名はダニー。彼女は自らを「生物数学者」と称し、「潜水艇『ノチール号』によってグリーンランドの深海へと潜り、地球上における生命誕生の起源を探る」という調査を控えていました。

男の名はジェームズ。彼はイギリス諜報機関「MI-6」の諜報員であり、「『水道技師』として南ソマリアに潜入し、イスラーム過激派集団が計画する爆弾テロを阻止する」という任務を控えていました。

互いに生命と信念を懸けた使命を全うするためにも、別れは必然。しかしその別れの時、ふたりは互いが生涯において唯一無二の相手だと気づきます。

そう気づきながらも、信念と使命のために調査と任務に赴くふたり。やがて、ダニーは自らの乗船していた潜水艇が海底で操縦不能に陥る、ジェームズはジハード戦士に拘束されるという形で、ふたりの元に命の危機が訪れます…。

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共振によって崩壊する脆弱な世界


(C)2017 BACKUP STUDIO NEUE ROAD MOVIES MORENA FILMS SUBMERGENCE AIE

本作の物語の中核を担う登場人物であるダニーとジェームズ。ふたりは自らが属する世界という領域に対して、ダニーは“そこ”の真実を知るため、ジェームズは自身と同じく“そこ”に属する多くの人々を守るために対峙し続けてきました。

しかし物語が進むにつれて、ダニーは自らの属する世界の未知性に、ジェームズは自らの属する世界ではない、しかし確かに“そこ”に存在する世界の未知性によって、それまで対峙し続けてきたと錯覚していた“確固たる”世界に対し疑念を抱き、ついには自らの信念或いは存在にすら疑念を抱いてしまいます。


(C)2017 BACKUP STUDIO NEUE ROAD MOVIES MORENA FILMS SUBMERGENCE AIE

ジェームズは任務先の南ソマリアにてイスラム過激派集団のジハード戦士たちに拘束され、自らが属していた世界から隔絶されてしまいます。そして、ジハード戦士たちがひたすらに守り続ける、イスラーム教の戒律に基づく“彼らの”世界で過ごすことになります。

ソマリアで育ち、過激派原理主義の実情を直接体験しているアキームシェイディ・モハメドが演じるイスラーム過激派集団の指導者アミール。自爆テロから奇跡的に生還したことから聖人扱いされているものの、その内には非常に凶暴な気質を孕んでいるサイーフ。

「盲信」「狂信」と感じられるほどにその戒律を信じるジハード戦士たちを拒み続けながらも、ジェームズは彼らをテロリズムへと突き動かす信念の有り様に、「イギリスという国家とそこに暮らす人々を守る」という信念のためにはあらゆる嘘と詐称を躊躇わない自らの姿を見出してしまいます。

それは彼に、自身が属する世界と全く異なる性質を持ちながら、その実像はあまりにも瓜二つな世界が存在するという真実。そして、その世界同士が「自らの世界を守る」という同じ目的のために衝突した時、果たして“消滅すべき世界”を“そこ”に属する人間が選択することは可能なのかという動揺をもたらしました。

さらに、宗教と戒律によって均衡を保とうする“彼らの”世界に属し続けた、その信念に殉じ続けたが故に自らの心を引き裂かれてしまった医師シャディッドの姿、自らの世界に瓜二つな“彼らの”世界の致命的な矛盾が暴露される瞬間をジェームズは目撃。

共振現象のごとく、彼が暴力と衰弱の中でも保とうとし続けた信念、そしてそれを突き動かしていたはずの自らの世界にもまた致命的な亀裂が入り、崩壊へと至ってしまうのです。

虚無によって溶解する脆弱な世界


(C)2017 BACKUP STUDIO NEUE ROAD MOVIES MORENA FILMS SUBMERGENCE AIE

一方、自らが属する世界の起源を探求することに信念を置くダニーは、水深6000メートル以探のもっとも未知に満ちた海底「超深海層」にて操縦不能に陥ってしまった潜水艇の中で、ダニーもまた自らの属する世界の動揺を感じ取ります。

一切の光が届くことなく、地球上において最も「暗黒」「闇」という言葉がふさわしい場所。人間が積み重ねてきたあらゆる思考も思想も通用しない、際限なき深淵或いは虚無。

停止した潜水艇内で超深海層の凄まじい有り様を目撃したダニーは、水圧による圧死や酸欠による窒息死ではなく、その虚無へと飲み込まれ、溶けてゆくことに自らの死を見出します。

それは、これまで誤解し続けてきた「世界」の定義が、超深海層にて遭遇した“際限なき虚無”という世界の本来の姿に呆気なく飲み込まれ、溶けてしまったこと。言い換えれば、人間が積み重ねてきた思考と思想、精神と肉体、そして信念と記憶は、本来の世界へと溶けゆく物質の一つに過ぎなかったことを彼女は自覚したが故にです。

“そこ”から信念を見出し、自らの生命を懸けて探求を続けてきた世界の本来の姿に遭遇したことで、世界の無慈悲さを真に思い知らされたダニー。

自らの「世界」に対する定義と全く異なる世界の本来の姿を前に、彼女が信じ続けてきた信念も世界の定義も“際限なき虚無”へと溶解してしまったのです。

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人間を“そこ”に繫ぎ止めるヨスガ


(C)2017 BACKUP STUDIO NEUE ROAD MOVIES MORENA FILMS SUBMERGENCE AIE

世界は唯一ではなく、瓜二つの世界が無数に存在する。それどころか、“際限なき虚無”という性質を持つ世界の無慈悲さを前に、人間はそれを定義することも拠り所とすることもできない。その真実は、人間に死を選ばせるには十分過ぎるほどの絶望を孕んでいます。

ですが、「自らの世界が眼前から消えゆく」という極限状況の中でも、ダニーとジェームズのふたりは死を選ぶことはありませんでした。

それは、その極限状況に陥ったおかげで「世界」という言葉から解放された“そこ”へと人間を繫ぎ止めるヨスガ、すなわち“愛”を向ける対象をふたりが互いに見失わなかったためです。

多くの残酷に溢れた人生を生き抜く力を持つ一方で、時に人間を容易に殺すことができる信念。或いはそれを生み出し、「自らの拠り所である」と人間に錯覚させてしまう世界ではなく、“ここ”にも“あそこ”にもなりうる“そこ”にふたりは自身の存在を見出した。

そして、“そこ”に立ち続けるための引力としてのヨスガに、ジェームズはダニーを、ダニーはジェームズを選んだのです。

ヴィム・ヴェンダース監督のプロフィール

参考映像:ヴィム・ヴェンダース監督長編デビュー50周年記念動画

1945年生まれ、ドイツ出身。1967年より映画監督として活動を開始。8本の短編映画を制作したのち、1970年の『都市の夏』で長編監督デビューを果たします。

「ロードムービー三部作」として名高い『都会のアリス』『まわり道』『さすらい』(順に1974、1975、1976)にて評価を得た後、1982年の『ことの次第』でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を、1984年の『パリ、テキサス』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを、1987年の『ベルリン・天使の詩』でカンヌ国際映画祭監督賞を受賞しました。

またドキュメンタリー作品の制作でも高い評価を得ており、世界的に絶賛された音楽ドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999)、アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞にノミネートされた『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』(2011)などがあります。

まとめ


(C)2017 BACKUP STUDIO NEUE ROAD MOVIES MORENA FILMS SUBMERGENCE AIE

「ロードムービーの神様」とも称され、自身の作品を通じてあらゆる地へと観客を誘ってきたヴィム・ヴェンダース監督の最新作は、とうとう現代における“世界の涯て”へと観客を連れてゆこうと試みました。

否定しようがない現実でありながら、「自らの属する世界とはあまりにもかけ離れた世界」と捉えられがちな現実をたどる旅路。

ヴェンダース監督が放つ映画という魔術によって観客はその旅路を体験し、自らが定義していた脆弱な世界の崩壊と溶解、自らが属していると錯覚していた世界の本来の姿、そして世界の消失の先にたどり着く“そこ”とヨスガを知るのです。

映画『世界の涯ての鼓動』は2019年8月2日より、TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開です。

次回の『シニンは映画に生かされて』は…


(C)2019「台風家族」フィルムパートナーズ

次回の『シニンは映画に生かされて』は、2019年9月6日(金)より公開の映画『台風家族』をご紹介します。

もう少しだけ映画に生かされたいと感じている方は、ぜひお待ち下さい。

【連載コラム】『シニンは映画に生かされて』記事一覧はこちら



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