Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/01/01
Update

映画『水の影』あらすじと感想レビュー。実話事件に触発された性犯罪の問題にある深層に切り込む|フィルメックス2019の映画たち4

  • Writer :
  • 桂伸也

第20回東京フィルメックス「コンペティション」出品『水の影』

2019年にて記念すべき20回目を迎える東京フィルメックス。令和初となる本映画祭が開催されました。

そのコンペティションに出品された作品の一つが、インド映画『水の影』です。

実際に起きたレイプ事件にインスパイアされたインドのサナル・クマール・シャシダラン監督がインドの女性問題を描いた問題作で、作品はヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でも上映されました。

また上映終了後、本作を手掛けたサナル監督が登壇し、観客からの質問に応じて作品に描いた真意などを語ってくれました。

【連載コラム】『フィルメックス2019の映画たち』記事一覧はこちら

映画『水の影』の作品情報

【上映】
2019年(インド映画)

【英題】
Shadow of Water

【監督】
サナル・クマール・シャシダラン

【作品概要】

マラヤラム語映画界の俊英シャシダランが、インドの女性問題を3人の登場人物に凝縮して描いた問題作。作品はヴェネチア映画祭オリゾンティ部門でも上映されました。

サナル・クマール・シャシダラン監督のプロフィール


(C)Cinemarche

1977年生まれ、インド・ケララ州出身。もともと弁護士として働きながら、2001年にクラウドファウンディングでインディペンデント映画を製作する組織「カゼチャ・フィルム・フォーラム」を設立、14年に最初の長編映画『Six Feet High』はケララ州映画賞の最優秀映画賞を受賞。第二作『Off-Day Game』も同最優秀映画賞を受賞します。

そして監督第三作『セクシー・ドゥルガ』はロッテルダム映画祭タイガー・アワードを受賞し、国際的評価を受けました。

映画『水の影』のあらすじ

インドの村落に住む女子学生ジャナキは、ある日、ボーイフレンドに誘われて車に乗り、街に出かけます。

その車にはボーイフレンドがボスと呼んでいる一人の男性が乗っていました。不安に思いながらも、ボーイフレンドとの街のひと時を楽しむジャナキ。しかし、日が暮れ始めたころ、自分の親から携帯電話でどこにいるのかを問われる連絡が入ります。

一方、村では二人の男がジャナキを連れ去ったと大騒ぎしているという噂が立ちます。帰るに帰れなくなったジャナキを連れ、ボスとボーイフレンドはある宿にたどり着きます。そしてジャナキは、悪夢の夜を迎えることに…。

映画『水の影』の感想と評価

女性へのレイプ問題を扱った作品として、非常に異色の作品といえるでしょう。その理由は、この映画でスポットを当てているテーマにあります。

このようなテーマで描かれる作品は、どちらかというとレイプされたという問題そのものに注視し、それを悪としてどんな問題があったか、たとえばレイプした側はなぜその行動に及んだのか、といった点を浮き彫りにしていくような作品が多いことでしょう。

しかし、この作品ではそのポイントを広く、そしてより深くしました。

作品では犠牲になる女性ジャナキが、レイプを受けるタイミングを境に前半、後半と大きく分けられます。レイプの被害に遭う直前、ジャナキは泣き叫びながらも最後はレイプに合うのだと、覚悟を決めます。そして事が終わった後。その行為によって困惑し絶望しているのはどちらかというとジャナキ本人よりボーイフレンドのほうであります。

もちろんジャナキ本人にも絶望の思いはあったかもしれません。しかしそれ以上に悲しみを表すボーイフレンドの表情には、この女性問題という点に関しての、男性からの視点が要約されているようでもあります。Q&Aでサナル監督も語りましたが、そこには外から見た“処女至上主義”が強く表されているようでもあります。

レイプをされたという事実はあれどジャナキはまだ生きており、人生は続きます。ところがこの彼の目線が示しているものとして、彼女の人生は終わったものと勝手に解釈されているのです。

そしてジャナキ自身の人生は、もうここにしか希望がないとばかりに、ボスについていく。日本ではあまり考えられないような構図ではありますが、よくよく解釈を広げると実は似たような構図が存在するケースもあることでしょう。

この物語のもととなったのは、一人の女性が複数の男性からレイプを受けたという事件でありますが、これも事件の本質に迫るとこういった問題をはらんでいることに気づかされます。

ラストでジャナキがとる行動は非常にショッキングな演出でありますが、この問題をまさに力強く表した結果ともいえます。

上映後のサナル・クマール・シャシダラン監督 Q&A

2日の上演時にはサナル・クマール・シャシダラン監督が登壇、舞台挨拶をおこなうとともに、会場に訪れた観衆からのQ&Aに応じました。


(C)Cinemarche

──この作品はある事件が基になっているとお聞きしました。それはどのような事件で、それをどういう形で映画にされたのでしょうか?

サナル・クマール・シャシダラン(以下、サナル):この映画は実際にそれを描いたわけではありませんが、長い間私が気になっていた実際の事件がもととなっています。1996年に16歳の少女が彼女のボーイフレンドと出かけた際に、40人の男性にレイプをされたという事件があり、これよりインスピレーションを得ました。

──最後のシーンで主人公の少女が川辺で石を積むという場面がありましたが、どのような意図であのシーンを作られたのでしょうか?

サナル:その理由がなんなのかは、敢えて私は提示したくないと思っています…皆さんがそれぞれに意味をくみ取ってもらえたらと思います。

ただ私は彼女が一度失ったバランスを取り戻す動作、というふうに考えました。石を積むというのが調和のシンボル。宗教的意図というのはありませんが、心を取り戻すという行動ではあると考えています。


(C)Cinemarche

──物語に登場する三人の関係性は、一人の女性を二人の男性が撮り合うという構図からは黒澤明監督の『羅生門』を想像しました。実際に起こった事件に対して、今回のシナリオ製作はどのようなプロセスでおこなわれたのでしょうか。

サナル:今ここで黒澤明監督という巨匠の名前を出していただいたことを非常に光栄に思います。いくつかの作品というのは、参考にしていますが「羅生門」はその一つではありません。ただ私の日本人の友人からやはり「羅生門」を思い起こすと言われていました。

この女性と二人の男性の関係というのは、人間関係をたとえば主従関係、何代にも続く伝統や歴史によってそれが築かれている、あるいはどこか関係性の中で、性的な関係としても見て取れるわけです。

性欲というもの、とはいっても愛、純愛というかそういったものを使うというのも一つのやり方であり、それぞれを釣るエサを持っておりそれをどう使うかという関係性だと思うんですね。

ですからそれは皆さんの本当にそれぞれの観た方の見方によって「何らかの瞬間にあうとこの映画を思い起こしてもらえる」、そのような作品になれば嬉しく思います。


(C)Cinemarche

──彼女は最後に逃げるということはせず、彼氏の声を振り払ってボスについていく。ボスはレイプをされているわけですが、それでも彼女はボスについていくという行動を選択したところに、日本人の私としてはあまり理解が難しいのですが、その辺をちょっとおうかがいしたいと思います。

サナル:まずこの映画の冒頭に出てきた話、語りを思い起こしてもらいたいんです。あれは祖母が孫娘に聞かせるというをとっています。ある男が女性の宝を奪いとるという話ですよね。

ある意味ここにこの話が要約されています。これは多くの文化の中で「女性は男性のために生きている、存在する」という見方があると同時に、処女性が非常にタブー化されている、つまりなくすと終わり、処女を奪った男性にとらわれてしまうというところがあると思うんです。


(C)Cinemarche

たとえばインドでは、レイプがあったとします。でもその男性がレイプをした女性と結婚すれば、ある意味罪に問われない。他の犯罪だとそういう人と伴侶になるということが考えられませんが、レイプの場合は問題ないとみなされ、そこで家族が築かれることになります。

それが成り立ってしまうがゆえに、さまざまなDVもその後に続くわけです。これはインドだけではないと思うのですが、この処女性、処女至上主義みたいなものは薄れつつあると思いますが、まだタブー視されているという一面があります。

それともう一つ加えてお話したいことがあります。ボーイフレンドがボスから「酒を買ってこい」と言われ街を歩いているときに、酒屋に行くときに女性が歩いているのですが、この女性は性被害に遭った女性を象徴しているんです。

たとえば道に寝ている人とかがいたり、そういうこの町での生活ですが、結局一度そのように性犯罪の被害者になると選択肢はない、もうゴミとして扱われ、つまり自分の育った村に帰り何事もなかったように生活するということはもうあり得ない。

つまり、たとえば結婚に関しても通常は親が勝手に決めて結婚させるということもあるので、本当に行く先というのは、解決策というのはそこしかないわけなんです。

まとめ


(C)Cinemarche

実際にはQ&Aでも質問されたのですが、この作品では動物の振る舞いや風などの自然現象が非常に効果的な画として使用されています。

たとえばいいタイミングで風が吹きやんだり、犬が人物のほうを振り返ったりという、偶発的ながら映像の完成度を高めているシーンが多く描かれています。

この作品でサマル監督は、視聴者の感性を大きく膨らませ見ることを望まれていますが、そういった面でこの映画のさまざまな要素は、観る側の想像性などを大きく触発するものとなっています。

そして今社会でこうだ、と認識されているものの奥深くに、もっと重要なことが隠されているということに注意深く目を向けられるきっかけにもなることでしょう。

【連載コラム】『フィルメックス2019の映画たち』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

『銀平町シネマブルース』あらすじ感想と内容評価。つぶれかけた映画館を舞台に“映画を愛する人”たちに捧ぐ感動の人間ドラマ|TIFF東京国際映画祭2023-3

映画『銀平町シネマブルース』は2023年2月10日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開! つぶれかけた小さな映画館を舞台に繰り広げられる人間模様を描いた、ハートフルな群像悲喜劇『銀平町シネマブルース …

連載コラム

映画『マザー』あらすじ感想と評価考察。ノオミ・ラパス熱演のマザーテレサは“聖母か母か”に揺れる新たな姿を描く|TIFF東京国際映画祭2025-12

映画『マザー』は第38回東京国際映画祭にて最優秀芸術貢献賞を受賞! 『マザー』が、第38回東京国際映画祭コンペティション部門で上映されました。 聖母として知られるマザー・テレサをノオミ・ラパスが演じ、 …

連載コラム

【ネタバレ】ジャック・リーチャー シーズン2|あらすじ感想と結末の評価解説。キャストのアラン・リッチソンが正義のアウトローを熱演|Amazonプライムおすすめ映画館25

連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第25回 2023年12月15日(金)よりAmazonプライムビデオで配信されたアメリカのサスペンス・アクションドラマ『ジャック・リーチャー~正義のアウ …

連載コラム

映画『蒲田前奏曲』穐山茉由監督作「呑川ラプソディ」感想と考察。アラサー女子の特徴・悩み・恋愛の本音が炸裂|映画という星空を知るひとよ13

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第13回 中川龍太郎、穐山茉由、安川有果、渡辺紘文という4人の監督による連作スタイルの長編映画『蒲田前奏曲』。今回は、穐山茉由監督作品の第2番「呑川ラプソディ」 …

連載コラム

映画『音響ハウス Melody-Go-Round』感想評価。坂本龍一や松任谷由実、矢野顕子などが愛したスタジオとは⁈|映画という星空を知るひとよ34

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第34回 映画『音響ハウス Melody-Go-Round』は、「シティ・ポップ」の総本山として近年再注目を集める東京・銀座のレコーディングスタジオ・音響ハウス …

Cinemago|想像力の海へ、シネマダイビング。
ACT1|次の物語は、人からはじまる。
Cinemagoオンラインショップ|DVD・鑑賞チケット・オリジナルグッズ
『血を吸うスマトラオオコンニャク』
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学