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『いつかの君にもわかること』あらすじ感想と評価解説。実話が着想の物語で余命わずかの父が息子に遺す“新たな家族”とは|映画という星空を知るひとよ136

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第136回

余命わずかなシングルファーザーが、これからを生きる息子に遺す《新たな家族》探しの物語『いつかの君にもわかること』

おみおくりの作法』で知られるウベルト・パゾリーニ監督が実際の記事から着想を得た本作。『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』のジェームズ・ノートンが複雑な思いを抱える父親を演じます。

自分の命があとわずかと知ったシングルファーザーは、たった一人で残される幼い息子の将来を考え、養子に出すことにします。

切ない思いを胸に抱きながら、愛をもって息子を育ててくれる人を探す日々。息子が少しずつ幼児から少年へ成長する様を感じながら、父親は無情を呪わずにいられません。そんな父親が、最後に息子を託す相手はどんな人間なのか。

2023年2月17日(金)からのYEBISU GARDEN CINEMA他での全国順次公開に先駆け、『いつかの君にもわかること』の見どころをご紹介します。

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映画『いつかの君にもわかること』の作品情報


(C)2020 picomedia srl digital cube srl nowhere special limited rai cinema spa red wave films uk limited avanpost srl.

【日本公開】
2023年(イタリア・ルーマニア・イギリス合作映画)

【原題】
Nowhere Special

【脚本・監督】
ウベルト・パゾリーニ

【キャスト】
ジェームズ・ノートン、ダニエル・ラモント、アイリーン・オヒギンス

【作品概要】
おみおくりの作法』(2013)のウベルト・パゾリーニが監督・脚本を手がけた『いつかの君にもわかること』。余命わずかなシングルファーザーが、幼い息子の新しい家族探しに奔走する姿を描いたヒューマンドラマです。

主演を務めるのは『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019)のジェームズ・ノートン。愛する息子のために彼の預け先を探す父親役を演じています。また息子のマイケル役でダニエル・ラモントがデビューを飾りました。

映画『いつかの君にもわかること』のあらすじ


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窓拭き清掃員として働く33歳のジョンは、4歳の息子マイケルと二人で暮らすシングルファーザー。妻はマイケルが生後間もない頃に家を出て行ってしまい、頼れる身内もいない彼は男手ひとつで息子を育てています。

子育てに家事、仕事に追われ忙しい日々を送っているジョンですが、彼には息子に打ち明けていない秘密がありました。それは、自分の余命が残りわずかであるということでした。

母親には見捨てられ、父親も亡くなればマイケルは家族を失い、天涯孤独の身の上となってしまいます。死を理解するには幼すぎる、優しく純粋無垢な一人息子を守るため、ジョンは養子縁組の手続きを行い、自分の亡き後にマイケルを育ててくれる“新しい親”を探し始めます。

ジョンの仕事中の預け先の家庭でも馴染めず、一人父親の帰りを待つマイケル。

窓掃除をしながら窓の向こう側に見えるのは、幸せそうな家庭。なぜ自分だけがこんな目に……ジョンは情けなくなります。

自身も恵まれた幼少期を過ごしてこなかったジョンは、息子には普通の家庭で育ってほしいという思いを抱きながら、何組もの“家族候補”と面会を続けます。

いよいよ自分に残された時間もあとわずかであると悟った彼は、自分が近いうちにいなくなるということを、マイケルが理解できるように伝えようと決心。

果たして、ジョンが最後に選択する息子の‟新しい親”とは?

映画『いつかの君にもわかること』の感想と評価


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幼い息子がいるシングルファーザーの父・ジョン。その命は病気のため残りわずかでした。息子の母親は家を出て行って音信不通であり、他に親戚もいません。「自分がこの世からいなくなれば、残された息子はどうなる」と愛する息子の将来を憂い、ジョンは息子を養子に出す決心をしました。

何組もの家族候補と面会をし、どんな家庭かをマイケルと一緒に観察します。

手厚い教育を受けさせることに熱心で、ジョンとは生活環境が全く異なる裕福な夫婦。いろいろなバックグラウンドを持つ養子を受け入れて、我が子のように愛を注ぎながら暮らす家族。夫と離婚し、子育ての夢を諦めきれずにいる独り身の女性などなど。

さまざまな事情と自分たちの掲げる「理想」を持つ家族と出会ったのですが、それによってジョンの内にはかえって迷いが生じてしまいます。「誰と一緒にいれば、息子は幸せな人生を送れるのだろう?」とジョンは不安を抱き出したのです。

窓拭きの仕事をしていると嫌でも目に入る、窓の「内側」にいる、将来に何の心配もない幸せそうな家族の姿。1枚のガラスを隔てたあちらとこちらにいる自分と、何と違っているのでしょう。ジョンは自分の運命を呪います。

そんなジョンを演じているのは、ジェームズ・ノートン。少しずつ相手を思いやり、感情を表に出すようになった息子の姿に成長を感じながら自らの不甲斐なさに憤り、容赦なく進んでいく時間に焦りを感じはじめるジョンを、静かな演技力で表現しました。

また作品全体を満たす静かさ・穏やかさは、ウベルト・パゾリーニ監督が採用する、繊細かつ“控えめ”な撮影手法によるものです。

監督は、余計な情景描写や登場人物の会話などを極力排することによって、父子の心情の移ろいを丁寧に描き出そうとしています。その演出には、監督が敬愛する日本の小津安二郎やベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟の影響が見受けられます。

実話を基にした重いテーマを描く中で、無邪気な息子を演じるダニエル・ラモントの可愛らしさが光る本作。余命わずかの父の息子への愛が隅々まで反映されたヒューマンドラマでした。

まとめ


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息子マイケルの将来を思って揺れ動く父ジョンの心情を繊細に描き出した『いつかの君にもわかること』。父が息子の将来を託す家族として選んだのは、果たして誰でしょう。

自分ならどんな人を選ぶのかと考えながら、ジョンの選択を見守ってください。

『いつかの君にもわかること』は、2023年2月17日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMA他全国順次公開

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星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。


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