連載コラム『いま届けたい難民映画祭2024』第2回
難民映画祭は、難民をテーマとした映画を通じて、日本社会で共感と支援の輪を広げていくことを目的とした映画祭で、世界各地で今まさに起きている難民問題、1人ひとりの物語を届けています。
第19回難民映画祭では、困難を生き抜く難民の力強さに光をあてた作品をオンラインと劇場で公開します。公開される6作品をCinemarcheのシネマダイバー・菅浪瑛子が紹介します。
今回紹介するのは、ハザラ系アフガニスタン難民がインドネシアのチサルア村でコミュニティを作り、学校を作る姿を通じて、どんな状況にあっても助け合う人々の姿を映し出したドキュメンタリー『学校をつくる、難民の挑戦』(2017)。
オーストラリア政府がボートで到着したすべての庇護希望者を強制収容することを発表し、インドネシアのチサルア村で生活することになったハザラ系アフガニスタンの人々。
先の見えない生活の中、子どもたちが通える学校を作ろうと立ち上がった人たちがいました。次第に学校は子どもへの教育の場だけでなく、コミュニティの中心となっていきました。
難民映画祭は2024年11月7日(木)〜30日(土)までオンラインにて開催されます。
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CONTENTS
『学校をつくる、難民の挑戦』の作品情報
【日本上映】
2024年(オーストラリア・インドネシア合作映画)
【原題】
The Staging Post
【監督】
ジョリオン・ホフ
【作品概要】
監督を務めたのは、オーストラリアの映画監督であるジョリオン・ホフ。
オーストラリア政府がボートで到着したすべての庇護希望者を強制収容することを発表したことを受け、難民の現状を知ろうとインドネシアのチサルア村に向かったジョリオン・ホフは、ムザーファとハディムに出会います。
現状を変えるために立ち上がった2人と、進んで教師を引き受けた多くの女性の存在、様々な人々が繋がり、助け合うことでコミュニティが形成されていく姿と同時に、ハザラ系アフガニスタン難民の現状を知ることができるドキュメンタリー。
映画『学校をつくる、難民の挑戦』のあらすじ
オーストラリア政府がボートで到着したすべての庇護希望者を強制収容することとなり、インドネシアのチサルア村で数年を過ごすことになったハザラ系アフガニスタン難民の人々。
写真家のムザーファと映像を作るハディムの2人の若者は、仕事をすることもできず、様々なものを作って生活する先の見えない日々の中で何かできることはないかと考えていました。
そんな2人は、子どもたちが教育を受けることができない現状を何とかしようと、学校を作ることに。
2人の意見に賛同し、教師をすると名乗り出たのは女性たちでした。さらに、場所を探し、学校へとリフォームするため、多くの人々が協力しました。
学校ができたことで、オーストラリアから絵本を寄付するため支援団体が訪れたり、大学生のボランティアが来たりと、支援の輪が広がっていくのでした。
映画『学校をつくる、難民の挑戦』の感想と評価
ハザラ系アフガニスタン難民の過酷な現状
オーストラリア政府が、ボートで到着したすべての庇護希望者を強制収容する事態となり、インドネシアのチサルア村で過ごすことになったハザラ系アフガニスタン難民の人々。
ハザラ人とは、アフガニスタンの中央高地に集住する少数民族です。主にイスラム教シーア派を信仰しています。しかし、アフガニスタンの多数をしめるパシュトゥン人は、イスラム教スンニ派を主に信仰しています。
そのような宗教上の理由もあり、ハザラ人は長年差別され、タリバン政権下で迫害の対象となります。2021年にタリバンがアフガニスタンを掌握し、事態はさらに深刻な状況になっているといえます。
『学校をつくる、難民の挑戦』は、オーストラリアに渡ることを諦め、インドネシアのチサルア村で生活することになったハザラ系アフガニスタン難民を映し出していましたが、オーストラリア政府は、2001年9月にナウルと、翌10月にパプアニューギニアと協定を結び、難民申請を求める庇護希望者を第三国に移送する「パシフィック・ソリューション」という措置をとっています。
その措置は、長年に渡り各国から非難され、2008年に一度は解体したものの、2012年に移送が再開されます。パプアニューギニアの施設は2016年4月にパプアニューギニアの最高裁判所から「違憲状態にある」との判決が出され、閉鎖されましたが、ナウルへの移送は依然として続いています。
学校というコミュニティの空間は世界へ
そのような背景もある中、チサルア村にいるハザラ系アフガニスタンの難民の人々も先の見えない日々を過ごしています。お金もなく、働くこともできず、日々切り詰めて必要なものは作って暮らしています。
ムザーファとハディムは、チサルア村での生活が長引く中、子どもに教育の機会を与えられないのは問題だと考え、学校を作ることに。しかし、難民が共同して何か活動をすることは、難民認定から遠ざかると考えられ、積極的に関わろうとしない人も当初はいました。
困るムザーファとハディムに対し、教師をすると名乗り出て賛同した人の多くは女性でした。様々な人の助けを経て学校が作られ、子供たちが生き生きして学ぶ姿は、人々の心に影響を与えていきます。いつしか、学校は子どもが学ぶ場であると同時に、ハザラ難民たちのコミュニティの拠り所になっていきました。
難民の現状を映し出すとともに、本作が教えてくれるのは、助け合うことの大切さです。
互いで補い合うことでコミュニティは強くなります。先の見えない不安に苛まれていても、自分だけではない、皆がいるという安心が希望にもなります。また、互いに情報を共有することもできます。
そのような活動は、世界にも注目されるようになります。オーストラリアから絵本などの寄付を届けに支援団体が来たり、学生のボランティアが来たりするようになります。
さらに、映画の中ではインターナショナルスクールの子どもたちと交流する姿も映し出されていました。子どもの素直な質問は、相互理解への可能性も映し出しているといえるのではないでしょうか。
一方で、ボランティアにやってきた学生が「難民は怖い」と発言し、世界が難民のことを全く知らず、偏見を抱いていることもムザーファやハディムらは体感しています。
この映画を観た人々の中にも「難民のことをよく知っているわけではない」と感じている人が多いでしょう。だからこそ知ること、知って行動することが大切なのだと改めて感じるドキュメンタリーです。
まとめ
世界各地で今まさに起きている難民問題、1人ひとりの物語を届け続けている難民映画祭。
ハザラ系アフガニスタン難民がインドネシアのチサルア村でコミュニティを作り、学校を作る姿を描いた『学校をつくる、難民の挑戦』(2017)。
ハディムが子どもの教育の大切さを訴える背景には、自身の母の体験がありました。ハディムの母は、若い10代で結婚させられ、十分な教育を受けていません。「母のような子どもをなくしたい」という思いがハディムを突き動かしていました。
インドネシアのチサルア村だけでなく、様々な施設で難民申請を待つ人々や、難民キャンプで暮らす人々……その中には子どもも多くいます。
十分な教育を受けられていない子どもたちも多いのが現状です。さらに、教育だけでなく紛争がもたらす心的トラウマも問題視されています。
教育は未来への架け橋です。教育の機会は奪われてはならないものなのです。
難民映画祭は2024年11月7日(木)〜30日(土)までオンラインにて開催されます。
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