Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

台湾映画『黒の教育』あらすじ感想と評価解説。“来るべき才能賞”受賞の俳優クー・チェンドン初監督作は“青春クライムホラー”|大阪アジアン映画祭2023見聞録7

  • Writer :
  • 西川ちょり

第18回大阪アジアン映画祭「来るべき才能賞」受賞作『黒の教育』!

2023年3月10日(金)より10日間に渡って開催された「第18回大阪アジアン映画祭」。16の国・地域の合計51作品が上映されました。

各賞の発表も行われ、同映画祭は盛況の中で幕を閉じましたが、本連載はまだまだ続きます。

今回ご紹介するのは、同映画祭にて「来るべき才能賞」に輝いた台湾映画『黒の教育(Bad Education/黑的教育)』。

『あの頃、君を追いかけた』(2011)でブレイクした俳優クー・チェンドンの監督デビュー作であり、卒業式の夜に集った高校生男子3人組が経験する“悪夢のような一夜”を描いた青春クライム・ホラーです。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2023見聞録』記事一覧はこちら

映画『黒の教育』の作品情報


(C)CHARVEST 9 ROAD ENT.

【日本公開】
2023年(台湾映画)

【原題】
黑的教育(英題:Bad Education)

【監督】
クー・チェンドン(柯震東)

【キャスト】
ベラント・チュウ(朱軒洋)、ケント・ツァイ(蔡凡熙)、エディソン・ソン(宋柏緯)、レオン・ダイ(戴立忍)、ダニエル・ホン(春風)

【作品概要】
映画『あの頃、君を追いかけた』(2011)で主人公を演じた俳優クー・チェンドンの監督デビュー作。第18回大阪アジアン映画祭にて「来るべき才能賞」を受賞しました。

高校を卒業したばかりの男子3人組のとった行動が、思いがけない恐怖の一夜の幕開けとなる青春クライム・ホラー映画です。

映画『黒の教育』のあらすじ

卒業式の夜。ホン・クアン、ボー・ウェイ、ハン・ジーの三人は、雑居ビルの屋上でビールを飲んで祝杯をあげていました。

3人のうち大学に進学するのはホンだけで、卒業後は皆バラバラになってしまいます。

ボーは卒業後もお互いを忘れないために、自分の秘密を告白し合おうと提案します。そうして話し出した彼の告白は、にわかに信じられないような邪悪な内容でした。

続いてハンが話し始めますが、こちらも強烈な告白。なんとボーもハンも犯罪に手を染めていたというのです。

ホン・クァンは二人が告白したような秘密を持っておらず、ただオドオドするだけ。そんな彼を嘲るように、ボー・ウェイは今から目の前にいるヤクザにいたずらをしてくるよう、ホンに持ちかけます。

それが、悪夢のような一夜の始まりでした……。

映画『黒の教育』の感想と評価

悪趣味なイタズラ心が生んだ誤算が、高校を卒業したばかりの男子3人組を悪夢の一夜へと導く……。

映画『あの頃、君を追いかけた』で主人公を演じ、一躍スターの仲間入りを果たした俳優クー・チェンドンが監督デビューを果たした本作は、“青春クライム・ホラー”ともいうべきなんとも骨太な作品に仕上がっています。

この世の中に善人は何%いて、悪人は何%いるのか」と問いかけるナレーションから映画は始まります。さらに「半分、半分ということはない。善人も悪人もせいぜい10%。のこりの80%は時と場合によって善か悪かが決まる」と続きます。

実はこの言葉は、映画の中盤にて意外な人物の口からもう一度語られるわけですが、そのセリフを起点に映画はガラリと趣を変え、前半の「ドタバタ劇」から「息の詰まるような緊張感漂う密室劇」へと転換するのです。

高校を卒業したばかりの3人には、もうかばってくれる教師もいません。それでも「どこかから救いが訪れるのではないか」と、まだどこか高校生気分が抜けていない3人

そんな3人組の心情と、緊張感に包まれながらも、映画に何か“救い”となる仕掛けがあることを願いつつスクリーンを見つめる私たち観客の心情は、限りなく接近していきます。

そして、終盤のクライマックスにて緊張感は頂点に達し、観客は劇場から逃げ出したくなってしまうほどの絶望的な展開に襲われるのですが、人間のおぞましい姿と容赦ない社会の洗礼を体感したばかりだというのに、映画を観終えた後に心に残るのは不思議なことに“爽快感”なのです。

その点が、本作を並の残酷物語とは一線を画すものに押し上げているといえるでしょう。

クー・チェンドン監督は、このとびっきり濃厚でハードな題材を、テンポよく78分という時間にギュッと濃縮して描き、初監督作とは思えない野心作に仕上げました。

またベラント・チュウ、ケント・ツァイ、エディソン・ソンという人気若手俳優たちが、主役の3人を生き生きと表現。ベテラン俳優のレオン・ダイも、渋い役どころを貫禄たっぷりに演じる姿に惚れ惚れしてしまいます。

まとめ

映画上映後に登壇した、ホン・クアン役:ケント・ツァイさん


(C)Cinemarche

2023年3月18日のABCホールでの上映後には特別ゲストとして、本作にてホン・クアン役を務めたケント・ツァイさんが登壇しました。

俳優になって7年目となるツァイさんにとって「これまで経験した中で一番楽しい撮影現場だった」という『黒の教育』。撮影はほぼ順撮りで、演じる上で最も難しかったのは映画中盤のパトカーの場面だったそうです。

またクー・チェンドン監督については「彼自身俳優であり、俳優の気持ちをよく理解してくれていて、お互いに何をやりたいのか、とてもうまく意思疎通ができた」と答えました。

「ホンを演じるにあたって、後半の転換部をより魅力的なものにするためにも、様々に葛藤するホンの心情を前半部でどう表現するかに神経を使った」というツァイさん。

「結果には満足しています」と語った彼の言葉通り、そうしたツァイさんの繊細な演技が作中でもありありと反映されていました。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2023見聞録』記事一覧はこちら



関連記事

連載コラム

吉沢亮映画『AWAKE』感想評価と考察レビュー。将棋ソフト開発者を描く意味は本当の“自由”の姿に|シニンは映画に生かされて23

連載コラム『シニンは映画に生かされて』第23回 2020年12月25日(金)より全国ロードショー公開の映画『AWAKE』。「プロ棋士vs将棋AIソフト」をコンセプトに開催された将棋エンタメイベント「電 …

連載コラム

犬も食わねどチャーリーは笑う|あらすじ感想と評価解説。香取慎吾が夫婦のバトルをブラックコメディとして演じる|映画という星空を知るひとよ113

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第113回 結婚4年目にして訪れたある夫婦のバトルを、香取慎吾主演でコミカルに描いたブラックコメディ『犬も食わねどチャーリーは笑う』。 チャーリーは夫婦が飼って …

連載コラム

『凪待ち』ロケ地リポ⑤。香取慎吾と白石和彌監督が女川町・竹浦港で出会った海と生きる人々|凪待つ地をたずね5

連載コラム『凪待つ地をたずね』第5回 映画『凪待ち』の背景、そして白石和彌監督と香取慎吾が映画を通して描こうとしたものを探るため、本作のロケ地である宮城県の各地を巡り、その地に生きる人々を取材。 ロケ …

連載コラム

『シンプル・フェイバー』感想評価レビュー。映画の結末まで対極的な女性が繰り広げる失踪事件の真相とは|サスペンスの神様の鼓動12

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。 今回取り上げる作品は、2019年3月8日から公開となる、 …

連載コラム

【Netflixネタバレ】マチルダ|あらすじラスト感想と結末評価。ミュージカル映画おすすめ作に込められた原作者ロアルドダールの言葉|Netflix映画おすすめ128

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第128回 今回ご紹介するNetflix映画『マチルダ・ザ・ミュージカル』は、児童小説『チャーリーとチョコレート工場の秘密』で知られるロアル …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学