連載コラム『のび編集長のモヒカン・シニン考察録』第5回
映画サイト「Cinemarche」編集長、映画配給レーベル「Cinemago」宣伝、そしてモヒカン詩人(シニン)な河合のびが、映画・ドラマ・アニメ・漫画あらゆるエンタメ作品を飛躍・妄想まみれで考察・解説する連載コラム『のび編集長のモヒカン・シニン考察録』。
第5回で取り挙げるのは、細田守監督が『サマーウォーズ』を経て再び《インターネット上の仮想現実》を舞台に描いたアニメーション映画『竜とそばかすの姫』です。
本記事では映画『竜とそばかすの姫』のネタバレ言及を交えながら、本作が「ひどい」と酷評される理由を考察・解説。
主人公・鈴の「恵と知の兄弟を《一人で》助けに行く」という無謀な決断に秘められた、「自分の『すべきだ』と感じたことに誠実であろうとする」という表現の根幹を探っていきます。
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CONTENTS
映画『竜とそばかすの姫』の作品情報

(C)2021 スタジオ地図
【日本公開】
2021年(日本映画)
【監督・脚本・原作】
細田守
【音楽監督・音楽】
岩崎太整
【音楽】
Ludvig Forssell、坂東祐大
【メインテーマ】
millennium parade × Belle(中村佳穂)「U」
【声のキャスト】
中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、中尾幸世、森川智之、宮野真守、島本須美、役所広司、石黒賢、ermhoi、HANA、佐藤健
【作品概要】
『時をかける少女』(2006)『サマーウォーズ』(2009)などのヒット作を手がけ、現在の日本のアニメーション映画界を牽引する監督・細田守による長編アニメーション映画。
50億人以上が集う広大なインターネット仮想世界「U(ユー)」を舞台に、「ベル」という名のアバターを通じてその歌声が世界中で注目されていく主人公・鈴と、「U」の世界内で竜の姿をした忌み嫌われる謎の存在・竜との出会いと心の交流を描く。
鈴の声をシンガーソングライターの中村佳穂が演じ、公開直前まで竜役のキャスト・佐藤健が秘密にされていたことも話題となりました。
映画『竜とそばかすの姫』のあらすじ

(C)2021 スタジオ地図
自然豊かな高知の田舎に住む17歳の女子高校生・内藤鈴は、幼い頃に母を事故で亡くし、父と二人暮らし。母と一緒に歌うことが何よりも大好きだった鈴は、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。
曲を作ることだけが生きる糧となっていたある日、親友に誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界「U」に参加することに。
「U」では「As(アズ)」と呼ばれる自分のアバターを作り、まったく別の人生を生きることができる。歌えないはずの鈴だったが「ベル」と名付けたAsとしては自然と歌うことができた。
ベルの歌は瞬く間に話題となり、歌姫として世界中の人気者に。
数億のxAsが集うベルの大規模コンサートの日。突如、轟音とともにベルの前に現れたのは、乱暴者として忌み嫌われる謎のAs「竜」だった。
そんな竜が抱える大きな傷の秘密を知りたいと、竜を探し、接しようとするベル。竜もまた、ベルの優しい歌声に少しずつ心を開いていく。
しかし、ジャスティンを長とするAsたちによって結成された自警団は、「U」の秩序を乱す者として竜の正体を白日のもとに晒そうとする……。
映画『竜とそばかすの姫』酷評の理由を考察・解説!

(C)2021 スタジオ地図
なぜ鈴は「《一人で》助けに行く」と決断?
2021年の劇場公開当時から賛否両論が分かれ、映像・音楽面では高い評価を得ながらも、脚本面では否定的な評価が多く見受けられた映画『竜とそばかすの姫』。
そして、「主人公・鈴の人物像や心情に共感できない」という視点での否定的評価において最も散見されたのが「映画終盤、なぜ鈴は恵と知の兄弟を《一人で》助けに行ったのかが分からない」という感想でした。
インターネット上の高度な仮想現実空間「U」で鈴が出会った、人々に忌み嫌われる謎のアバター・竜の正体であり、父の肉体・精神的虐待から弟・知を庇い、決して自分たちを助けてはくれない世界に絶望し切っていた恵。
ビデオ通話映像での情報を基に、兄弟の居住地が東京某所であることまでは特定できた鈴たちでしたが、児童相談所など行政対応では兄弟をすぐには救えないと分かると、高知県の田舎町在住の鈴は兄弟の居住地特定に協力してくれた高校の同級生たちや、同じく事情をよく知る《身近な頼れる大人》である地元合唱隊のメンバーたちを置いて、一人で兄弟の元に向かいました。
「『子どもに暴力を振るえる人間』と判明している兄弟の父がいるにも関わらず、女学生の鈴一人で行かせる意味が分からない」……それは至極真っ当な意見ではありますが、映画作中でも合唱隊メンバーが鈴の判断に困惑する様子が描かれていることからも「合唱隊メンバーは、無謀な決断をした鈴を止めているに決まっているだろう」というのが正直な意見でもあります。
そして合唱隊メンバーはもちろん、幼馴染みの忍や親友・弘香などの鈴と距離の近い同級生たちも、同様に「一人では危険」という助言を鈴に訴えたはずです。それでも映画作中にて、鈴は一人で東京に向かったのは「自分のことを心配してくれる周囲の反対を押し切ってでも、鈴は『兄弟《一人で》助けに行く』という決断を選ばざるを得ない理由があったから」に他ならないでしょう。
亡き母の《すべき》の意志を受け継ぐ

(C)2021 スタジオ地図
鈴の母は氾濫する川に取り残された見知らぬ子どもを、当時の幼い鈴の反対を押し切って助けようとした結果亡くなりました。そして、母の行動がネット上で非難・炎上されたのを機に、鈴は大好きだった歌を歌えなくなるほどに心を閉ざしてしまいました。
「なぜお母さんは、『無謀』『迷惑』と周囲に謗られる行動なのに、娘である私を置いてまで、見知らぬ子どもを《一人で》助けたのか?」「人々に責められ続けた母の行動は、正しくなかったのか?」……。
そんな鈴が長年抱え続けていた問いの背景には、企業スポンサーや大衆の威を借りて竜を弾圧する自警団の長・ジャスティンの姿にも反映されていた、権力の総意によって都合良く変貌し続ける《正義》が見え隠れしています。
しかし、《いま目の前にいる、助けが必要な存在》である恵と知という兄弟と出会ったことで、鈴はかつて母が《いま目の前にいる、助けが必要な存在》である見知らぬ子どもを助けた理由に気づきました。
「お母さんのことを何も知らない社会の人々は、お母さんの行動を非難した」「確かにお母さんの行動は無謀だったのかもしれないけれど、私の知っている優しいお母さんは『それでも、助けに行かなきゃいけない』と思ったからこそ……自分の『すべきだ』と感じたことに誠実であろうとしたからこそ、子どもを助けたんじゃないか」……。
いま目の前にいる、助けが必要な存在を助けられるのは、その存在たちのいま目の前にいる、私だけ……そう感じたからこそ、鈴は行動をした。
そして鈴が「《一人で》助ける」ということにこだわったのも、かつての母の行動……周囲から非難されることを理解していたとしても、たとえ自分一人しか行動しようとしなかったとしても、それでも自分の『すべきだ』と感じたことに誠実であろうとした母の意志を受け継ぎたいと、心の底から思ったからではないでしょうか。
そんな鈴の意志を尊重したからこそ、鈴の無謀な行動を止めようとした同級生たちや合唱隊メンバー、そして娘が抱え続ける悲しみを察しているであろう鈴の父は、鈴の意志を肯定も否定もせずに《受け入れた》のです。
まとめ/《すべき》という自己表現の根幹

(C)2021 スタジオ地図
「自分の『すべきだ』と感じたことに誠実であろうとする」……それは、創作活動を含む人間の《表現》という行為の根幹にある意志であり、良くも悪くも《表現》がどれだけ社会から非難されようとも止めることのできない代物である証でもあります。
そして、「母の意志をより深く知り、その意志を受け継ぎたかったから」「鈴のことを心配しながらも、周囲の人々は彼女の意志を尊重し、受け入れた」と言われても、鈴という登場人物を《一人の人間》として受け止めているからこそ「それでも鈴を一人で行かせる理由にはならないだろ!」と納得のいかない方も多くいるはずです。
それでも、良いのだと思います。
鈴の意志を見守るべきという意見も、鈴の意志を拒んででも彼女の命を守るべきという意見も、鈴の物語を見届ける一観客としての「自分の『すべきだ』と感じたことに誠実であろうとする」行為……表現に他ありません。
その表現が生まれること自体に、価値がある。そして、表現を通じて新たな表現を生み出す作品というものに、価値がある。
そんな作品という存在の根源的な価値にも、一人の少女が《表現》を取り戻すまでの物語を描いた映画『竜とそばかすの姫』は気づかせてくれるのです。
新たなる“モヒカン・シニン”の考察をお楽しみに……
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編集長:河合のびプロフィール
1995年生まれ、静岡県出身。2019年に日本映画大学を卒業。映画評を寄稿する一方、映画配給レーベル「Cinemago」宣伝担当として、『ザ・エクソシズム』『Kfc』のキャッチコピー作成なども行う他、『獄舎Z』『トレジャー・アイランド』の字幕監修を手がける。2025年公開のタン・チュイムイ監督・主演作『野蛮人入侵(原題)』では、日本公開版タイトル『私は何度も私になる』を命名した(@youzo_kawai)。

(C)Cinemarche
































