連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」第17回
映画ファン待望の毎年恒例の祭典、今回で11回目となる「未体験ゾーンの映画たち2022」が今年も開催されました。
傑作・珍作に怪作、コメディホラーなど、さまざまな映画を上映する「未体験ゾーンの映画たち2022」、今年も全27作品を見破して紹介、古今東西から集結した映画を応援させていただきます。
第17回で紹介するのは、コミカルに描かれた謎解き&バイオレンスホラー映画『人狼ゲーム 夜になったら、最後』。
日本でもお馴染みのパーティーゲーム「人狼ゲーム」。それをバーチャルリアリティの世界で楽しめるビデオゲームが「Werewolves Within」です。
これを映画化したのが本作。但しプレイヤー参加型のトークゲームの世界を映画するのは非常に困難。
それを大胆にアレンジして、「人狼ゲーム」の世界で巻き起こる騒動を描いたのが映画が本作です。果たして推理と駆け引きで人狼を見つけ、多くの人命を救えるのか。
それとも醜い足の引っ張り合いで、人々は人狼の餌食になるのでしょうか。面白ければ、どっちの展開でも大歓迎です。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2022見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『人狼ゲーム 夜になったら、最後』の作品情報
【日本公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
Werewolves Within
【監督】
ジョシュ・ルーベン
【キャスト】
サム・リチャードソン、ミラーナ・ヴァイントゥルーブ、ジョージ・ベイジル、サラ・バーンズ、マイケル・チャーナス、グレン・フレシュラー
【作品概要】
雪に覆われた片田舎で残虐な殺人が発生。孤立した住民たちはホテルに集まり、彼らの中に”人狼”が潜んでいると気付きます。”人狼”の正体を暴こうと騒ぎを繰り広げる人々を描く、スプラッター・ホラーコメディ映画です。
本作の監督はMTVでも放送されたコメディ番組、『CollegeHumor Originals』(2006~)の出演と演出で活躍、Netflixオリジナルコメディ『さらば!2021年』(2021)を監督したジョシュ・ルーベン。
主演は『グッド・ボーイズ』(2019)や『トゥモロー・ウォー』(2021)のサム・リチャードソン、共演は『CollegeHumor Originals』に出演しコメディエンヌ・声優として活躍するミラーナ・ヴァイントゥルーブ。
『デスペラードス 崖っぷち女子旅』(2020)のジョージ・ベイジルとサラ・バーンズ、『アメリカで最も嫌われた女性』(2017)のマイケル・チャーナス、『ジョーカー』(2019)のグレン・フレシュラーらが出演しています。
映画『人狼ゲーム 夜になったら、最後』のあらすじとネタバレ
冒頭に表示されるMr.ロジャースの言葉とは、フレッド・ロジャースがホストを務めた歴史ある子供向け教育番組、『Mister Rogers’ Neighborhood』(1968~2001)の言葉でしょうか…。
(『Mister Rogers’ Neighborhood』は訳すと「ロジャースさんとご近所さん」。子供たちに語りかけ、ゲストとの交流も会話を重視するスタイルで、様々な職業などを紹介して人気の教育番組です)
その夜、雪が積もる木造の小さなホテルの前で、老人が携帯電話でなにやらメールを送っています。しかし辺りの林の中に、何かが潜んでいると気付きました。
老人は襲われ、物凄い力で引きずられます。必死にホテルに戻ろうとしますが、彼の悲鳴が周囲に響き渡ります。
その「29日と半日後…(29.5 days later)」、「28 days later」なら『28日後…』(2002)です。森林警備員のフィン(サム・リチャードソン)は1人車を運転していました。
制限速度を真面目に守るフィンの車を、後続車が次々追い抜きます。クラクションを鳴らされても構わず、自己啓発の音声テープのガイドに従い、何やら大声で叫ぶフィン。
交際相手のシャーロットの留守電に新しい勤務地で働く、ともかく返事が欲しいとフィンはメッセージを入れます。彼は新しい赴任地、ビーバーフィールドに到着しました。
村唯一のホテル兼レストランに現れたフィン。彼は宿の主人ジャニーン・シャーマン夫人に声をかけます。
ジャニーンはパイプライン敷設に村人の同意を得ようとしている、エネルギー会社の従業員で宿泊客のサムと会話中でした。
夫人は彼が新たに赴任した森林警備員だと聞いていました。彼を2階の部屋に案内する夫人に、郵便配達員のセシリー(ミラーナ・ヴァイントゥルーブ)がカフェに客が来た、と声をかけます。
夫人に代わりフィンを案内するセシリー。彼女は手紙を渡します。それは同じホテルの207号室の、ジェーン・エリス博士からでした。
野生動物を捕らえる罠をしかける、エマーソン・フリントという猟師への抗議です。これから配達に向かうセシリーを手伝い、ついでに村の様子や隣人を知ろうとするフィン。
2人が外に出ると雪が降っていました。仕事を求めホテルに泊まったが、ホテルを手伝う内に4週間が経ち、今も働きながら暮らしていると語るセシリー。
ジェニーンの夫デイブは女と逃げたらしい。そして私が必要とされたと彼女は内幕を語ります。
ホテルを手伝いつつ、今ではデイブに代わる郵便配達員でもあるセシリー。ガス会社がパイプライン建設を訴える、趣味の悪いオブジェのおっ立った、ビーバーフィールドの住人は変わり者ばかりだと教えました。
デボンとヨガのインストラクター、ヨアキムは裕福なゲイのカップルで、自然豊かな暮らしを求めて村に移り住みました。その2人にフィンを紹介するセシリー。
自動車の修理工場で働くグウェン(サラ・バーンズ)は、注文した部品がまだ届かないとセシリーに告げました。
彼女の夫マーカス(ジョージ・ベイジル)も現れます。2人の馬鹿なやり取りは見ものだとセシリーは教え、それを見たフィンも同意します。
修理工場の2人は、保障金が得られるとパイプライン建設に賛成しています。そしてフィンを見た1人の女性が声をかけてきました。
工芸品作りが趣味のこの女性トリッシュは、スティーブン・キングのホラー小説の登場人物のようだと説明するセシリー。
賑やかにしゃべるトリッシュの前に、飼い犬のチャチを連れた彼女の夫ピート(マイケル・チャーナス)も現れました。
ピートはセシリーに気があるようですが、触ろうとする彼の手から慣れた様子で身をかわすセシリー。
何ともうるさい人ですが、フィンはトリッシュから民芸品を、ピートからシロップを貰います。確かに村は変人だらけとフィンは実感します。
この2人もパイプライン建設に賛成していました。村は開発の賛成派、反対派に分かれてもめていると悟りました。
身の上話で自分は7人兄弟姉妹の末っ子だと語るセシリー。村の変人たちを紹介した彼女も、なぜか次の1軒には配達に行こうとしません。
代わりに荷物を届けに、山の中の家に向かうフィン。シャーロットから電話が入り、セシリーの注意も「侵入者はぶっ殺す」の看板にも気付かず進みます。
その家はエリス博士が抗議した、猟師のエマーソン・フリント(グレン・フレシュラー)の山小屋でした。現れたフリントはフィンに銃を突き付けます。
驚きつつ冷静に博士の苦情を伝えるフィン。しかしエマーソンは自分の土地で、合法的かつ自由にやっているだけと主張し、取り付く島もありません。
立ち去らないと撃つぞ、と告げカウントダウンを始めたエマーソン。配達の荷物を置いてフィンは逃げ出します。
今日のお礼に、とセシリーは自分が住むホテルの地下室に案内します。そこにはピンボールマシン、ビデオゲーム、ジュークボックスが並んでいます。天国のような90年代の世界と感心するフィン。
彼がジュークボックスの、スウェーデンの音楽グループ”エイス・オブ・ベイス”の「The Sign」を流すと、ノリノリで踊り出すセシリー。
彼女に赴任した理由を聞かれ、フィンは前の職場でトラブルがあり、仕事を続けるには転勤しか無く、恋人との関係を見直す良い機会だと答えます。
彼女とはまだ付き合ってる、と主張するフィンですが、セシリーには終わってるとしか思えません。
やっとシャーロットに振られた、と自覚するフィン。ストレス発散にセシリーが提案した、的に向け手斧を投げるゲームに興じます。
「ウォールデン 森の生活」(作者の自然の中での自給自足の生活を描いた、ノンフィクション文学の古典)の読者で、kombucha(昆布茶ではなく、英語では紅茶キノコの意味)を愛飲し、アウトドア好きなセシリーと意気投合するフィン。
2人はキスを交わそうとしますが、フィンのスマホにシャーロットから電話が入ります。このタイミングで電話に出て、くだらない話を聞かされるフィンを見て、セシリーは呆れて部屋を出て行きました。
その夜は雪嵐です。トリッシュは飼い犬のチャチを外に放します。ところが犬は帰ってきません。
犬に付けたリードはちぎれていました。家の外にいる何かを目撃し悲鳴を上げたトリッシュ。
翌朝、フィンはホテルで泣き叫ぶトリッシュの声で目覚めます。彼女と夫のピートを連れて来たデボンとヨアキムは、午前4時に悲鳴を聞かされたと説明します。
ホテルのジャニーンに慰められたトリッシュは、犬が怪物に食べられたと訴えます。おそらくコヨーテか何かの仕業だ、と告げる宿泊客のサム。
ネットがつながらないと怒るデボン。騒ぎを聞きエリス博士も現れました。そして停電が起きてると皆に告げたセシリー。
パイプライン建設に反対で、自然環境保護の研究でホテルに宿泊中のエリス博士は、トリッシュのちぎれたリードに関心を示します。
発電機を動かす、そして町に事態を報告するとフィンが告げていると、家のトイレが故障したから助けろと、グウェンとマーカスもホテルにやって来ました。
クソ嵐でエライ事になったと騒ぐ2人の話を聞き、フィンは双眼鏡で外を確認します。町に出る道は塞がれ、村につながる電線も切れていました。村は外部から孤立したと悟るフィン。
ホテルの外に出た彼は、非常用発電機が鋭い爪のようなもので引っかかれ、全て破壊されたと気付きます。そして地面に埋まる人間の手を発見しました。
ホテルに集まった村人たちに状況を伝え、電力回復まで1週間はかかる、とフィンは説明します。
そして目撃した死体を確認してもらいます。それは1ヶ月前に女と逃げたと思われた、ジャニーンの夫デイブでした。
シートの下から現れた、無惨な死体を見て悲鳴を上げるジャニーン。これは犬かオオカミに喰われている、と口にしたサム。
どうして判るとグウェンは言いますが、確かにオオカミか何かの仕業だと告げるエリス博士。自然保護を願う博士に、私はシベリアでクマ狩りをしたと告げるパイプライン建設会社のサム。
エリス博士は死体に付着していた動物の毛を採取します。一同はホテルの中に戻りました。
山を降り町に行くには除雪車がいる、しかし動かすには前に話した、注文したのに未だに届かぬ部品が必要と告げるグウェン。
デイブを殺した動物は、次に誰かを襲うかもしれないと口にするジャニーン。ならば狩人のエマーソンに駆除を頼もうとフィンは提案しました。
誰も危険人物のエマーソンの所に行こうとしません。そこでセシリーと共にエマーソンの家に向かうフィン。
彼女の協力にフィンは感謝しますが、セシりーは捨てられた彼女に未練タラタラの彼に、ご機嫌斜めのようです。
以前パンクバンドにいたセシリーは、気兼ねせず話が出来る、好感の持てる相手と認めるフィン。しかしまだ前の彼女への想いが残っていると、正直に胸の内を説明しました。
ホテルでは集まった人々が、パイプライン建設か自然保護かを巡り議論を戦わせていました。携帯バッテリーを持つエリス博士は、ジャニーンの夫を殺した生物を突き止めようと研究を続けます。
猟師の家の玄関でまごまごする2人の前に、エマーソンが姿を現しました。自分の家の発電機が壊された、何か知ってるなら早く教えろと凄むエマーソン。
人を殺したオオカミを始末して欲しい、と頼んでもエマーソンは断ります。セシリーは引き下がりますが、フィンは説得を続けます。
あなたは子供番組の”Mr.ロジャース”の様に、良き隣人になるべきだと告げられても、誰の事だかさっぱり知らぬエマーソン。
トリッシュは宿の主人・ジャニーンは、周囲に夫は女と逃げたと説明したと言います。死んだデイブはパイプライン建設に賛成し、ジャニーンは反対でした。
デイブを殺したのは妻のジャニーンかもしれない。いや、彼女にできるはずが無いと議論する人々。
動物は発電機を壊さない。だがエリス博士は殺人は動物の仕業と言った。だったら「狼男」の仕業だと叫ぶマーカス。
フィンが説得を続けてもエマーソンは承知しません。その時セシリーが、この家に行方不明の犬チャチの首輪があると気付きます。
思いっきり焦ってエマーソンの家から出た2人。そしてホテルに戻ると、チャチを殺したのはエマーソンだと告げるセシリー。
まだ判らないとフィンは補足しますが、デイブ殺しも彼の仕業かと皆は動揺します。
嘆き悲しむジャニーンに、エリス博士はデイブを殺した者と、チャチを襲った者のDNAサンプルが一致したと告げました。
しかしサンプルは人間の物では無い、犬の一種だが一致する物が無い、引き続き調査すると語る博士。
その夜フィンは一同に停電に嵐、そして疑わしいエマーソンがいて危険だ、皆このホテルで夜を明かそうと提案します。
銃の所持を確認すると、アメリカらしく多くの者が身に着けていました。部屋にこもったエリス博士に今夜の過ごし方を説明しようとしますが、博士は出て来ません。
こうして皆は1人、あるいは信頼できるパートナーと共に部屋に入り、鍵をかけ眠りました。
しかしトリッシュの夫ピートが襲われます。何者かに廊下に引きずられた、ピートを救おうと発砲するグウェン。
フィンが駆け付けるとピートは手の指を喰いちぎられていました。問題はグウェンの撃った銃弾が、彼の胸に命中していた事です。
エリス博士はピートに付いた動物の毛を回収します。フィンは何を見たかグウェンに聞きますが、相手は素早く判らないとの答えでした。
苦しむピートの前で夫を襲った奴は、どうやってホテルに入り、どこに姿を消したと疑問を口にするトリッシュ。
動物の毛の検査結果は判定不能です。今までの出来事を思い浮かべるエリス博士。人間のものでは無い、犬か何かの毛のはずです。
狼男の絵が飾られたホテルで起きた出来事を振り返り、博士はカバンから銃を取り出します。空には満月が浮かんでいました…。
映画『人狼ゲーム 夜になったら、最後』の感想と評価
プレイヤーに村人や、占い師や霊能者や狩人といった役職が与えられ、人狼の正体を暴き処刑できるのか。それとも人狼によって、村人たちは全滅するのか。
この”人狼ゲーム”の駆け引きを映画化した、『人狼ゲーム デスゲームの運営人』(2020)のような映画を期待した方には、意外な作品だったかもしれません。
冒頭でアメリカの子供番組で人気のMr.ロジャースの言葉が紹介され、『28日後…』(2002)ならぬ「29.5日後」の文字が登場。ちなみにこれ、月の満ち欠けの周期でもあります。
こうして始まった映画には”人狼ゲーム”でお馴染み、参加者たちの激論シーンが登場します。しかし話し合いは物別れ、村人たちは自滅する愉快な悪ノリ展開に突入します。
本作は監督・出演者以下、多くのコメディ番組関係者が参加しています。ブラックな悪ノリが大いに楽しめますが、同時に「これ、”人狼ゲーム”の映画化作品なの?」と疑問を覚えた方もいるでしょう。
これはピーター・カッシングが出演、観客に謎解きタイム(!)を与えた事で知られる狼男映画、『スリラー・ゲーム 人狼伝説』(1974)に近い作品かも、と考えた人は少数派でしょうか。
ともかく正式な原作はビデオゲーム「Werewolves Within」の本作、原作ゲームから大胆に改変された物語とお気づきでしょう。
このストーリーの改変の狙いは何だったのでしょうか。それでは解説を進めていきましょう。
あなたの良き隣人だってブチ切れたい
本作監督のジョシュ・ルーベンは紹介した通り、ネット・MTVのコメディ番組で活躍した人物。彼は即興スタイルのコメディで人気を得た人物です。
彼は本作に影響を与えた作品として、推理ボードゲームが原作で、3つの異なるエンディング(!)を持つ映画『殺人ゲームへの招待』(1985)と、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』(2004)を挙げました。
そして「この映画は、アンブリン(スティーヴン・スピルバーグが中心になり創立した製作会社)版『ファーゴ』(1996)だ」と語ったルーベン監督。
彼はインタビュアーに、バリー・ソネンフェルド監督の『アダムス・ファミリー』(1991)は過小評価されていると思う、とも話しています。
映画のタイトルを並べましたが、本作のスタイルである、「体を張ったスラップスティックに過度に頼らぬ、登場人物の会話で見せるドタバタ喜劇」が、どんな作品の影響かお判りいただけたでしょうか。
この映画の主人公フィンは、演じたサム・リチャードソン同様に善良な人物であり、私自身もそんな人物だと思う、とルーベン監督は説明しています。
「でも、自分の良心に従って正しく生きるため、周囲の人を気遣い手助けして疲れ果てているのに、お前らの方で私を苦しめたり、逆なでするような行動をされたら、内なる人狼を開放するぞ!とキレたくなります」
「人は良き人に育てられた善良な人でも、ひどい目に遭えばテンパってしまう」、と言葉を続けた監督。本作は群像劇ですが、主人公を軸にした物語として振り返ると、このメッセージは明確だとお気づきですか?
映画の定番キャラ設定を壊したコメディ
本作の脚本を書いたのはミシュナ・ウルフ、舞台に立つコメディエンヌとして活躍し、作家になった経歴を持つ人物で、ドラマも含め本作が初の脚本作品です。
自分は失読症で映画やテレビを見て育ち、それが私が世界を知る情報源だった、と振り帰るミシュナ・ウルフ。やがて自分はジョーク好きになり、ジョークの作り手そして語り手となった、と自身を紹介しました。
シングルマザーの母の元で育ち、母の不在時はビデオを見ていた。子供時代の私はレンタルビデオの店員と非常に仲が良かった、と当時を語っています。
膨大な数の映画を見たが、本作は特定の作品から影響を受けた訳ではない、むしろ100万本の映画に登場する男性キャラクターの原型を破壊する、今日的な映画を作ろうとしたと語りました。
それは現在、様々な形で人々が分断されたアメリカで、他人と交流し仲良くなりたいと望む善良な男性の姿でした。それが本作の主人公、フィンの出発点だと説明する脚本家。
彼は善良ですが、同時に昔ながらのマッチョな男性に、つまり”男になりたい”と望んでいます。ラストで彼が手斧を武器に闘うより暴力的なバージョン、アクション映画でお約束の展開もあったと証言しました。
しかしフィンは、様々な問題を社会や男性自身にもたらす、”有害な男らしさ”には染まりません。彼は人狼や破綻した登場人物に囲まれイライラしながらも、常に争いを止めさせようと努力する人物です。
このテーマを映画で描くのに、ジョシュ・ルーベン監督は最良のパートナーだと彼女は語りました。
まとめ
純粋な「人狼ゲーム」の映画化作品ではない、ブラックな要素満載のドタバタ劇が楽しいホラー・コメディ映画、『人狼ゲーム 夜になったら、最後』。
「人狼ゲーム」の”疑わしい人間と対話する”というテーマは、対立や価値観を越えて人と交流する物語として本作に組み込まれます。子供番組『Mister Rogers’ Neighborhood』がモチーフとなる訳です。
こう紹介すると堅苦しい作品だと誤解されそうですが、本作に登場する住民たちのイカれっぷりはコミカルそのもの、流石はコメディ関係者の手による作品です。安心して楽しんで下さい。
脚本のミシュナ・ウルフが試みた、100万本の映画に登場するパターンを破壊し、現代的な物語を描く試みは女性登場人物にも行われています。
私は映画に登場する、男性登場人物をサポートする以外、何の役にも立たない”Cool Girls”にうんざりしていると語るミシュナ・ウルフ。確かにジャンル映画にはそんな女性が登場します。
この言葉を聞くと、本作のヒロイン像に合点がいくでしょう。本作の他の女性キャラもトンデモない奴ばかりです。これもコメディホラーでこそ可能な描き方でしょう。
結局「気さくなアウトドア好きで、元パンクバンドでイケてる、90年代音楽やゲームが大好きな女の子」みたいな、男子にとり理想的に都合の良すぎる女性など、いる訳がありません。これこそが本作の教訓でしょうか?
それでもあなたは”Cool Girls”、あるいは”Cool boys”が見たいですか?ではメインターゲットの観客の望みを叶えてくれる、サービス精神旺盛な日本のアニメ作品などがよろしいかと思われます。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」は…
次回の第18回は、交通事故で両親を娘が、やむを得ぬ事情で両親を死なせた加害者の元を訪れます。そして始まった人間模様を描くヒューマンドラマ『優しき罪人』を紹介いたします。お楽しみに。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2022見破録』記事一覧はこちら
増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)