Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2021/01/26
Update

映画『アーカイヴ』ネタバレ感想と結末あらすじの考察。攻殻機動隊にインスパイアされた日本が舞台の異色SFミステリー|未体験ゾーンの映画たち2021見破録2

  • Writer :
  • 増田健

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第2回

世界のあらゆる国の、様々なジャンルの埋もれかけた映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第2回で紹介するのはSFスリラー映画『アーカイヴ』。

すさまじい勢いで進歩する人工知能=AI。2045年にはAIの性能が人類の知能を上回る、技術的特異点がやってくるとの説があります。

人間の知能や魂が記憶の集合に過ぎないなら、膨大な情報を入力したAIは魂を持つのでは。繰り返し問われるSF的テーマです。

人間の記憶を収めた人工知能が、人間同様の機能を持つ体を得る。その技術的進歩の過程は、どんな状況を生み出すのか。

その物語を日本を舞台に、ミステリーとして描く本作には、意外な結末が待っています…。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら

スポンサーリンク

映画『アーカイヴ』の作品情報


(C)Archive Films Limited 2020

【日本公開】
2021年(イギリス映画)

【原題】
Archive

【監督・脚本・美術】
ギャビン・ロザリー

【キャスト】
テオ・ジェームズ、ステイシー・マーティン、ローナ・ミトラ、トビー・ジョーンズ

【作品概要】
事故で妻を亡くしたロボット工学者は、日本の山奥の施設でアンドロイド開発に従事します。彼の目的は妻を蘇らせること。お馴染みの設定を斬新な切り口で描くSFミステリー映画。

ダンカン・ジョーンズ監督の『月に囚われた男』(2009)で、美術を担当したギャビン・ロザリーが監督。数々のビデオゲームの美術にも関わった彼の初長編映画監督作です。

主演は『ダイバージェント』(2014)シリーズや、『バグダッド・スキャンダル』(2018)のテオ・ジェームズ。

『ニンフォマニアック Vol.1/2』(2014)や『アマンダと僕』(2018)のステイシー・マーティン、『ドゥームズデイ』(2009)や『スカイライン 逆襲』(2020)のローナ・ミトラ。

『ミスト』(2008)に「キャプテン・アメリカ」シリーズ、『裏切りのサーカス』(2011)の個性派俳優、トビー・ジョーンズが共演しています。

映画『アーカイヴ』のあらすじとネタバレ


(C)Archive Films Limited 2020>

薄く雪の積もる、山の中を1人走るロボット工学者のジョージ・アルモア(テオ・ジェームズ)。日本の山梨にある、山奥に作られた研究施設に彼は戻ります。

人型のアンドロイド、J2(声=ステイシー・マーティン)と会話を交わし作業するジョージ。彼はARM社の研究施設に住む、ただ1人の人間でした。

J2は彼が最初に開発した、腕が無く2足歩行のロボットJ1をバージョンアップしたものです。

ジョージに対してJ2はハンバーガーを食べてみたい。夢を見た、夢の中でドライブしたと話します。何か覚えているかと聞かれると、目覚めた時に悲しかったと言うJ2。

J2をJ1を格納すると、彼はリビングで黒い大きな装置の前に座ります。呼び出し音の後、モニターに映ったのは彼の妻ジュール(ステイシー・マーティン)の顔です。

ためらいがちに話すジュール。回線が不安定なのか通話は途切れます。もどかしい思いを抱くジョージ。

ジョージはかつて妻とドライブした日を思い浮かべます。車のフロントガラスの前に、小さなJ2の模型がありました。

彼に会社から連絡が入ります。モニターに映ったシモーヌ(ローナ・ミトラ)は厳しい態度をとります。

同じARM社のロボット開発で成果を上げたシモーヌは、今は彼の上司です。会社と3年の契約で自由な研究を約束されたジョージに、成果を上げねば契約を見直すと告げました。

彼女は社の機密が狙われていると告げ、ゼキュリティ強化を命じます。ここは秘密の場所で必要ない、開発が遅れると言うジョージに、システムのバックアップをとれと命じたシモーヌ。

ジョージに彼女は嫌いと告げるJ2。ジョージは社に隠れて、独自に開発したAIを使用するアンドロドを製作していました。

彼はJ2をバージョンアップした、より人間に近いJ3(声=ステイシー・マーティン)を開発中です。

上半身しか完成していないJ3に、ジョージはデータをダウンロードします。それは彼女の亡き妻ジュールに関するもののようでした。

J3の開発作業を行うジョージの姿を、密かに見つめているJ2。

ジョージがJ2と施設外のセキュリティ装置の点検を行っていた時、J2はあなたが何をしてるか知ってる、と言い出しました。

自分より優れた妹=J3が作られれば、自分はジョージから捨てられると訴えます。

そんな事はしないとなだめ、雪に濡れたJ2を先に施設に帰らせたジョージ。

ジョージが未完成のJ3を起動すると、アンドロイドは悲鳴を上げます。進歩したAIを持つJ3に、彼は今は睡眠状態と同じだと言い聞かせます。

その頃J2は、リビングに置かれた黒い大きな装置を見つめていました。

施設を出ようとしたジョージは、セキュリティゲートが開いていると気付きます。

J2とゲートの点検するジョージは、J3開発のためにJ2の脚を見せて欲しいと頼みます。言葉を聞き不安げなJ2。

セキュリティ装置には手が加えられていました。怒るジョージに、J2は何もしていないと否定します。

珍しく来客を載せた車両が現れます。アーカイヴ社のシンクレア(トビー・ジョーンズ)と名乗った男は、奥さんに会いたいと告げました。

研究所を外界から遮断する橋を接続し、ジョージは車両を招き入れます。彼らに見られないようJ1とJ2を隠すジョージ。

彼は黒い装置が置かれた居間に来客を案内します。奥さんは「眠り」に移行中と聞いている、とシンクレアは確認します。

彼の部下メルビンが装置のメンテナンスを行います。妻ジュールは2年8か月と4日サービスを利用し、通話に問題無いか尋ねるメルビン。

回線が途切れがちとジョージが答えると、傾眠状態(意識障害の程度の1つ。刺激があれば覚醒するが、すぐ意識が混濁する状態)なら起こりうるとメルビンは説明します。

我が社のアーカイヴ体験は、通常故人と最後の音声会話で終了する、とジョージに伝えるシンクレア。

点検作業中のメルビンは、装置のセキュリティに手が加えられたと気付きました。

まだ開発途上の「アーカイヴ」は、故人の意識や記憶を保管し、会話することを可能にする装置です。ジョージはこれを利用し、亡き妻ジュールと語っていました。

やがて故人のデータは失われます。家庭で使用する「アーカイヴ」は、最期を迎えると法的に遺体同様に扱われ装置は埋葬されます。

「アーカイヴ」の中の妻に、最期の時が近づきつつありました。装置に外部から手を加える行為は許されていません。

それはアーカイヴ社の権利の侵害にもなります。何か行われたと気付いたメルビンと言い争うジョージ。

装置を見て何か気付いたのかシンクレアは誤解があったと詫び、メルビンを引き下がらせます。

それ以上は何も言わず、シンクレアは部下と共に去って行きました。

彼らが引き上げると未完成のJ3を起動し気分を訊ねるジョージ。J3は混乱していると答えます。

J2よりはっきりした自我を持ち、巧みに言葉を操るJ3は動揺していました。しかしジョージに話しかけられ、徐々に自分を受け入れます。

作業を終え眠るジョージ。J2は自ら外に出て、流れ落ちる滝を見つめています。自らの小さな模型を手にしたJ2。そしてJ1は「アーカイヴ」の前に立っていました。

J3の味覚と共感力をテストするジョージ。彼は開発中のJ3に、限りなく人間に近い機能と感覚を持たせようとしていました。

現れたJ2を見て正体を訊ねたJ3に、ジョージは2番目の試作機だと答えます。作られた「私たち」は3人かと聞くJ3。

J2が去った後ジョージとJ3の前に、今度はJ1が現れます。J1の腕を作る時間は無かった、と説明するジョージ。

ジョージは3台のアンドロイドに人間の頭脳に相当する、機械学習する階層型AIを搭載していました。

人間ならJ1は5~6歳程度、バージョンアップしたJ2は15~16歳程度の知能を習得し、成長を止めたと説明します。

J3に君は完全な人間の頭脳と同じ知能を獲得すると告げるジョージ。会話を離れた場所で、J2がモニターで見ていました。

ジョージは妻と暮らしていた頃の夢を見て目覚めます。彼はJ3に無線機を渡し野外作業に向かいます。

J2も行動を共にしたがりますが、妹(J3)の面倒を見るよう言い出てゆくジョージ。

作業中のジョージにJ3から無線が入ります。施設内に停電が発生、J3はシステムのバックアップを作動させますが、思わしくない様子です。

ジョージが双眼鏡で見ると、ドローンらしき物体が上空を飛行していました。

施設に戻り作業するジョージを手伝おうと、J2が話しかけます。しかし1人で作業を続けるジョージ。

今日もモニターで古いアニメを見ていたJ1に、ジョージは休めと促します。J2は飾られた芸者の絵を見つめていました。

ARM社開発部門の責任者シモーヌは、セキュリティの確認のためリスク査定人のタッグとの面会を命じました。施設内を見られたくないジョージは、外で会うことにします。

研究施設を出て、繁華街に向かったジョージはとある店でタッグと面会します。

ARM社に対する対企業テロで研究員が2人死亡し、1人が行方不明だと告げるタッグ。

話を切り上げ帰ろうとするジョージに、タッグは君は何者かに監視されていると伝えます。タッグが見せた写真に、就寝中のジョージが映っていました。

誰が撮影したか聞いてもタッグは答えません。彼はジョージに緊急時に使用するトランクを渡します。

留守中の研究施設でJ3の顔のパーツを製作していたJ2は、完成したパーツを壊します。

あの日、ジョージはジュールとドライブしていました。ジョージは妻に研究が認められ、ARM社から3年の契約で自由にアンドロイドを開発できると報告します。

そのために日本の山梨にある、今は未使用の研究施設に赴任すると伝えるジョージ。

ジュールは喜び同時に戸惑っていました。そしてジョージの視界に、横転した車が飛び込んできます…。

施設の警報音でジョージは夢から目覚めました。

確認するとガラス窓が破られていました。侵入者は見当たらず、J1とJ2は格納されたままですが、しかし上半身だけで移動できないJ3の姿がありません。

彼は緊急事態用のトランクを開けます。中には銃があり、蓋に内蔵されたモニターにタッグが映し出されます。

何事かと説明を求めるタッグに問題は無く、中身を確認したくて開けたと告げるジョージ。

施設内を見られたくないジョージは、怒るタッグを誤魔化します。彼は車に乗り敷地内を調べます。

雪の中J3を探すジョージは、妻と歩いていた日を思い出していました。

彼はジュールに「アーカイヴ」の使用を提案します。そこに自身の記憶などのデータを保存すれば、遺族は最大200時間故人と会話できるのです。

死後も意識を保存できれば、突然の死でやり残した事が片付けられ、何より遺された者と対話できると語るジョージに、難色を示すジュール。

そんな妻に対し2人で契約しようとジョージは提案していました。

ジョージが留守にしている時、J2は破られた窓を見ていました。そこに「アーカイブ」からの呼び出し音が鳴ります。

あの日、夫婦は言い争っていました。ジュールは夫が「アーカイヴ」に執着することが理解できず、自分は箱の中に閉じこめられるのは嫌だ、と言いました。

雪の中、捜索用のドローンを飛ばすジョージ。しかしJ3は発見できません。

ジョージは森の中でJ2が持っていた、小さなJ2の模型を拾いました…。

以下、『アーカイヴ』のネタバレ・結末の記載がございます。『アーカイヴ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

スポンサーリンク


(C)Archive Films Limited 2020

ジョージが施設に戻ると建物の外にJ1が出ています。彼は慌ててJ1を中に入れます。

現れたJ2は自分は「彼女」のように、期待に応える充分な能力を持ってないと詫びます。我々は家族だ、そんなことは言うなと告げるジョージ。

彼はJ2に無線を渡し侵入者を発見したら報告しろと告げ、J1の世話を任せます。

部品保管庫を探していたジョージはJ3を見つけました。ジョージを見て叫び、あなたが「彼女」に何をしたか知っている、と言うJ3。

「彼女」は箱の中だとJ3と叫び、信頼しているなら全てを話して欲しいと訴えます。ジョージはJ3に詫び、真実を明かしました。

アンドロイドのAIは、ジュールの意識が保管された「アーカイヴ」とつながっていました。J3のAIは単なるコンピュータではなく、バイオ技術も駆使した複雑なものでした。

彼は「アーカイヴ」のアナログ信号のデータの取り出しに成功します。それは偶然に近い出来事でしたが、データをパターン認識させると、1年後に「彼女」が現れます。

それは「アーカイヴ」に保存された亡き妻ジュールのデータから生まれたものです。それを利用してAIの人格テンプレートを作成したジョージ。

それはJ1、J2とバージョンアップに従い成長します。そしてより高度な機能を持つJ3のAIとなりました。

J3からジュールはどんな人か聞かれ、自分には完璧な存在だと答えるジョージ。

J3はJ2に運ばれ、「アーカイヴ」装置の前に連れていかれたと打ち明けます。そして事実を知り、ショックを受け意識を失ったと話すJ3。

ジョージはJ2になぜそんな事をしたか尋ねます。彼女に真実を伝えたかった、その後起きたことは事故だったと答えるJ2。

自分より優れたJ3への嫉妬から行ったのかと追及され、J2は性能を向上して欲しいと訴えます。J2を停止させて去るジョージ。

ジョージはJ2の脚部を外し、それを元にJ3の下半身を組み立て始めます。

上司のシモーヌがARM社に、アーカイヴ社から問い合わせがあったと連絡してきました。

「アーカイヴ」技術を不正に利用してアンドロイドを開発しているなら、特許侵害だと警告されたと告げるシモーヌ。

彼女はジョージが機密保持契約に違反したのでは、と彼との契約解除を示唆します。

その前にJ3を完成させねばなりません。J3の金属製の表皮は破棄され、下半身と接続された骨格に、弾力にある皮膚が与えられます。

AIに亡き妻ジュールの人格が反映された、より人間に近いJ3(ステイシー・マーティン)が誕生しました。

新たな体を得たJ3は機能を確認します。一方でジョージは、J2に仮の脚を取り付け起動させます。

慣れぬ脚によろめき、自分の脚をJ3に与えた、と訴えるJ2。

ジョージはすぐに新たな脚を作ると言いますが、J2はその意志は無いと悟ります。

1人外に出て、バッテリーの限界まで滝を眺めていたJ2。研究所に帰りましたが、電力切れで廊下で倒れました。

一方ジョージは完成したJ3と会話を楽しんでいました。味覚・嗅覚まで持つJ3に、疑似的に食事をさせるジョージ。

そこにJ1が現れ、J2が倒れたと伝えます。ジョージはJ2を格納庫に戻しました。

自分の機能にダメージは無いが、自分に問題が無い訳ではない、とJ2は話します。

J3は自らレコードをかけてダンスを踊りジョージを誘います。踊る2人の姿を見つめるJ2。

J2は大切にしていた自らの模型と共感力テストのソフトを研究施設に残し、J1に別れを告げ、そして湖の中に姿を消しました。

連絡を絶ち、姿を消したJ2にショックを受けるジョージ。発見することはできません。

ジョージはJ1とJ3と共に、J2の遺した思い出の品をトランクに詰め、埋葬しました。

かつてジュールがしたように、眠っているジョージに寄り添うJ3。

しかし妻ではないアンドロイドの姿に気付き、驚いたジョージは思わず出て行けと叫びます。ショックを受けたJ3は倒れました。

夫婦を襲った交通事故など、ジュールの様々な記憶がJ3に蘇ります。

ジョージの手で目覚めたJ3は、事故の時ジュールは妊娠していたと告げました。

「アーカイヴ」で亡きジュールと話そうとしたジョージは、呼び出せないと気付きます。

アーカイヴ社に連絡すると、オペレーターから最終段階に入ったと説明され、故人との最後の会話を望むかと聞かれます。

そんな事はメンテナンスに来た社員は言ってないと話すと、施設を訪れたシンクレアという社員はいないと伝えられるジョージ。

何が目的でシンクレアは現れたのか。警戒するジョージに、上司のシモーヌから連絡が入ります。

シモーヌは怒っていました。アーカイヴ社は彼の作ったアンドロイドの試作品を、湖から回収したと告げました。

彼らは特許侵害で訴えると脅している、失態を犯したジョージとは契約を解除し、研究施設は閉鎖すると宣言するシモーヌ。

J3がシモーヌとの回線を切りました。ジョージはやって来るARM社の保安部隊に備え、遠隔操作されぬよう橋の電源を遮断します。

その時J3は「アーカイヴ」から響く呼び出し音に気付きます。受話器をとり「アーカイヴ」内のジュールと話すJ3.

心配しないで。「アーカイヴ」の有効期間が切れ、あなたが消えたら私がジョージを世話する、とJ3はジュールに伝えます。

そこにジョージが現れます。夫と話したジュールは、今話した相手は誰かと尋ねます。後で説明すると答えるジョージ。

話終えたジョージにJ3は、自分の中に彼女の全てのデータを入れ上書きして、それしか方法は無いと訴えます。

ジュールは死んでいる、と答え拒否したジョージに、侵入者を警告するメッセージが聞こえてきます。

監視モニターに着陸する輸送機が映っています。ゲートの閉鎖を命じても遠隔操作されたのか、アクセスは拒否されました。

ジョージは最後の障壁となる防護扉を閉じますが、モニターには施設内に入る保安要員の姿が映っています。

緊急事態用のトランクの中の銃を取りジョージに向け、ジュールで自分に上書きしてと要求するJ3.

騒ぎに動揺するJ1をなだめたジョージは、自分の過ちで妻を死なせた、とJ3に話します。

あなたは悪くないと言うJ3に、過ちを正したかったと語るジョージ。銃を降ろしたJ3はアップデートするよう台に付きました。

扉が破られようとする中、ジョージはJ3の中に、ジュールの全てをインストールすると決意します。

J3のAIの上書きが終わっても「彼女」は目覚めません。最後の扉が開き始め、銃を構えたジョージ。

扉の向こうに誰もいません。モニターに映し出された侵入者は存在しなかったのです。

ようやく目覚めたJ3がジョージに呼びかけます。アンドロイドの中にジュールがいるのでしょうか。「彼女」と見つめ合うジョージ。

ところが「アーカイヴ」から呼び出し音が響きます。応じるなと懇願するJ3。ジョージは受話器を取りました。

受話器から流れる声はジュールのものです。彼女はこれが最期の会話だと告げます。

「アーカイヴ」の有効期限が切れる、とジュールは語ります。あなたを愛していて寂しい。だが別れの時が訪れたと話すジュール。

そして彼女は、事故の後に産まれた子供が、父に別れを告げる声を聞かせました。

あの交通事故で死んだのは、ジュールではなくジョージでした。ジョージの魂と呼べるものこそが、「アーカイヴ」の中に存在していたのです。

「アーカイヴ」の前に立つジュールと子供。最期の別れにアーカイヴ社のシンクレアが立ち会っていました。

我が子を抱いたジュールは、ジョージが納められた「アーカイヴ」から去って行きました…。

スポンサーリンク

映画『アーカイヴ』の感想と評価


(C)Archive Films Limited 2020

SF的設定を持つ作品ゆえに、文字化すると長くなりました。映画は流れるように鑑賞できるのでご安心下さい。

機械の中に保存された亡き妻の記憶。そのデータをAIの中に魂として再構築し、アンドロイドとして蘇らせる。

SFファンならゾクゾクする設定を見事に映像化し、それが思わぬ結末を迎えますから、このテーマが好きな人なら迷わず見るべき映画です。

SF映画はストーリー以上に、世界観を構築する設定やセリフ、小道具やセットといったアイテムが重要。

美術出身の監督の映画、と聞いてピンとこない人も、閉鎖空間で不条理状態に陥った男を描くSF映画、『月に囚われた男』の美術の方と聞けば納得するでしょう。

コンピューターのクラッシュ体験が本作を生んだ


(C)Archive Films Limited 2020

監督のギャビン・ロザリーは、2011年に自宅で使用する2台のパソコンが同時にクラッシュした体験が、この映画を生んだと話しています。

その結果『月に囚われた男』など、自分の積み上げた仕事の数々を失った監督。パソコンを頼りに生活する人なら、人生の一部を失うような体験だと実感するでしょう。

その結果、まるで喪に服したような気分を味わったと振り返る監督。この体験が愛と喪失を扱う本作のアイデアになったと話しています。

自分のSFへの興味は、父からの影響だと語るロザリー監督。

彼の父は多くのSF小説を持っていました。自分は常にアートを最優先だったと回想する監督は、幼い時SF小説の表紙を見て、本に記された物語を想像していました。

そういった体験が自分の美学を育て、映画美術の分野で活躍する道へ進んだと話しています。

本作の一番の魅力的なSFアイテムはJ1、J2、J3のアンドロイドたち。いずれもスーツを着た俳優が演じたと説明する監督。

女性の属性を持つ各アンドロイドは、女性に演じてもらうつもりでした。しかし余りに重く柔軟性に欠けるJ1は、それを製作し熟知した男性スタッフが演じることになりました。

ロボットのスーツに予備は無く、撮影に細心の注意が必要でした。『スターウォーズ』(1977)のR2-D2とC-3POを撮影した苦労を想像すると、信じられないと監督は語ります。

限られた予算で作られた本作は、『スターウォーズ』と同じ70~80年代のテクニックを駆使して作られました。

こうして描かれたアンドロイドのJ3は、最終的に演者のステイシー・マーティン自身になるまでに進化します。

しかし不器用だが哀愁漂うJ2、そして物言わぬ武骨なJ1の方が、より多くの感情を表現しているように感じられます。

ダグラス・トランブル監督の『サイレント・ランニング』(1972)の物言わぬロボット「ドローン」、それを進化させたピクサーとディズニー映画『ウォーリー』(2008)の「WALL・E」。

そんなロボットたちに愛情を感じる方にも、この映画は必見です。

「攻殻機動隊」シリーズの世界観をより発展させる

参考映像:『イノセンス』(2004)

人間の膨大な記憶が魂を生むのか。ならば人間と同様に膨大な記憶、データを蓄積したAIは魂を獲得するのか。

人間と機械の間をさまよう意識、魂を「ゴースト」と呼び、様々な物語を描いたのがコミック・アニメ・映画として発展、ハリウッドで実写映画化された「攻殻機動隊」シリーズです。

J3のデザイン、そしてJ3の創造シーンは明らかに、押井守監督作『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』(1995)を再現したものです。

本作の「ゴースト」をテーマにした物語は、その続編『イノセンス』の世界観を発展させたもの。そして愛する女性を求め探す男を描く『イノセンス』とは、また異なる形のメロドラマです。

その意味で本作は、ハリウッド版映画『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)より、「攻殻機動隊」シリーズに忠実な作品と言えるでしょう。

本作出演のトビー・ジョーンズは、「キャプテン・アメリカ」シリーズでナチの天才科学者、死後は自分の意識を古く巨大なコンピューターに移したヴィランを演じています。

それを意識しての本作への起用なら、心憎いキャスティングだと言えるでしょう。

まとめ


(C)Archive Films Limited 2020

「攻殻機動隊」シリーズの、特に押井守の映画2作品のファンなら必見の映画『アーカイヴ』。

ブレードランナー』(1982)を思い出させるサイバーパンクな日本、そして絶景過ぎる山梨県(ロケ地・ハンガリー)の描写に、唖然とする方もいるでしょう。

しかしラストまで見れば、そんな脳内イメージのようなトンデモ日本描写も、成程と納得できます。

全ての謎が解けると、ジョージにとって研究施設や様々な物、現れた人物、3体のアンドロイドは何であったか考えたくなるはず。

ギャビン・ロザリー監督は映画に仕掛けた謎を解くヒントとして、研究施設内に「芸者の絵」を用意したと説明しています。

J2が見つめるなど、様々な場所で登場する「芸者」を探して欲しいと語る監督。本作をより深く読み解きたい方は、注目してご覧下さい。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…


(C)2020 Iervolino Entertainment S.p.A.

次回の第3回はジョニー・デップ主演!ノーベル賞受賞作家の小説を映画化した『ウェイティング・バーバリアンズ 帝国の黄昏』を紹介します。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら






関連記事

連載コラム

映画『マ・レイニーのブラックボトム』ネタバレ感想と結末まで評価考察。実在歌手で“ブルースの母”と称された女性を取り巻く人々を描く|Netflix映画おすすめ9

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第9回 1927年のシカゴを舞台に、「ブルースの母」と称される実在の歌手マ・レイニーとそのバックバンドがレコーディングする光景を描きながら、 …

連載コラム

元気が出る2020年映画ランキングベスト5|人生を考える・変えるきっかけに切なくも深い“愛”の姿を《シネマダイバー:菅浪瑛子選》

2020年の映画おすすめランキングベスト5 選者:シネマダイバー菅浪瑛子 新型コロナウイルスの影響で公開が延期になった映画も多かった2020年。話題となった大作もありましたが、2020年はミニシアター …

連載コラム

映画『Z Bull ゼット・ブル』あらすじネタバレと感想。ブラックユーモアで描くサラリーマン抗争劇|未体験ゾーンの映画たち2019見破録54

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第54回 ヒューマントラストシネマ渋谷で開催された“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。今回は、血まみれにして捧腹絶倒のブラック・コメ …

連載コラム

映画『ゴーストマスク 傷』ネタバレあらすじと感想。口裂け女をモチーフに“姉妹の感情”が入り混じる愛憎劇|サスペンスの神様の鼓動21

連載コラム『サスペンスの神様の鼓動』第21回 こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。 このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。 今回ご紹介 …

連載コラム

鬼滅アニメ2期|テレビ放送日と局は? 放送中止/1期再放送の可能性から予想をより深める【鬼滅の刃全集中の考察6】

連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第6回 2020年、新型コロナウイルスの蔓延によって世界は未だかつてない脅威に晒され、いつ終わるとも知れない不安と隣り合わせの日常を強いられることとなりました。 だか …

U-NEXT
CINEMA DISCOVERIES【シネマディスカバリーズ】
架空映画館 by ReallyLikeFilms Online
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
【連載コラム】光の国からシンは来る?
映画『哀愁しんでれら』2021年2月5日(金)より全国公開
映画『写真の女』
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【KREVAインタビュー】映画『461個のおべんとう』井ノ原快彦の“自然体”の意味と歌詞を紡ぎ続ける“漁師”の話
【玉城ティナ インタビュー】ドラマ『そして、ユリコは一人になった』女優として“自己の表現”への正解を探し続ける
【ビー・ガン監督インタビュー】映画『ロングデイズ・ジャーニー』芸術が追い求める“永遠なるもの”を表現するために
オリヴィエ・アサイヤス監督インタビュー|映画『冬時間のパリ』『HHH候孝賢』“立ち位置”を問われる現代だからこそ“映画”を撮り続ける
【べーナズ・ジャファリ インタビュー】映画『ある女優の不在』イランにおける女性の現実の中でも“希望”を絶やさない
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
アーロン・クォックインタビュー|映画最新作『プロジェクト・グーテンベルク』『ファストフード店の住人たち』では“見たことのないアーロン”を演じる
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
【平田満インタビュー】映画『五億円のじんせい』名バイプレイヤーが語る「嘘と役者」についての事柄
【白石和彌監督インタビュー】香取慎吾だからこそ『凪待ち』という被災者へのレクイエムを託せた
【Cinemarche独占・多部未華子インタビュー】映画『多十郎殉愛記』のヒロイン役や舞台俳優としても活躍する女優の素顔に迫る
日本映画大学