連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第7回
佳作から怪作・問題作まで、世界のあらゆる映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第7回で紹介するのはカルト集団の凶行を描くバイオレンスホラー『サモン・ザ・ダークネス』。
過激なへヴィメタルバンドのライブに集まる若者たち。そこで知り合った男女も意気投合。その夜は一緒にパーティを楽しむことになります。実はこの場所、悪魔信奉者による連続大量殺人が発生し、人々を不安に陥れていたのです。
パーティはやがて、惨劇の舞台に姿を変えます。しかしこの事件にも、今まで起きた連続殺人にも、恐るべき裏があったのです…。
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CONTENTS
映画『サモン・ザ・ダークネス』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
We Summon the Darkness
【監督】
マーク・メイヤーズ
【キャスト】
アレクサンドラ・ダダリオ、マディー・ハッソン、エイミー・フォーサイス、ジョニー・ノックスビル、キーアン・ジョンソン、ローガン・ミラー、オースティン・スウィフト
【作品概要】
へヴィメタライブに集まった若者たちが、カルト集団による殺人に巻き込まれるが、その後事態は意外な展開を見せるバイオレンススリラー映画。イタリア映画『人間の値打ち』(2013)をハリウッドリメイクした作品、『Human Capital(原題)』(2019)を監督した、マーク・メイヤーズが手掛けた作品です。
『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』(2010)や『カリフォルニア・ダウン』(2015)のアレクサンドラ・ダダリオ、『アリータ バトル・エンジェル』(2019)キーアン・ジョンソン、『エスケープ・ルーム』(2019)のローガン・ミラー、「未体験ゾーンの映画たち2020延長戦」の『エージェント・スミス』(2019)のジョニー・ノックスビルらが出演しています。
映画『サモン・ザ・ダークネス』のあらすじとネタバレ
1988年、インディアナ州。へヴィメタル・バンドのライブ会場に向けて走る車の中には、見るからに追っかけ風の、3人の娘が乗っていました。
雑誌『Bop』(当時人気のティーン向けアイドル誌)の記事を話題に、ガーリートークに花を咲かれる3人組。運転しているアレクシス(アレクサンドラ・ダダリオ)がリーダー格でしょうか。
ビヴァリー(エイミー・フォーサイス)にはもっと楽しむよう勧め、トイレに行きたがるヴァル(マディー・ハッソン)のためにガソリンスタンドに車を入れるアレクシス。
3人はスタンドの売店に入ります。店員の老人はカウンターのテレビで、メタル音楽は若者を堕落させる悪だと主張する、テレビ伝道師ジョン・ヘンリー・バトラー牧師(ジョニー・ノックスビル)の説教を聞いていました。
ビヴァリーが売店で手に取った新聞は、この近辺で多発している、悪魔信奉者(サタニスト)が起こしたとされる殺人事件について報じています。
事件は凶悪なサタニストによる、連続殺人の1つとして話題になっていました。商品を手に支払いにきた3人に、老人は「あんた方のような若い娘には、この辺は危ないから気を付けろ」と忠告しました。
そんな老人の言葉を深く受け止めず、鼻で笑って店を後にする3人組。
それでも気になったのか、3人は車のでラジオのニュースが報じる事件の詳細を聞きました。3人の若者が室内で惨殺され、壁には悪魔のシンボルが描かれていたのです。
バトラー牧師はこの残虐な事件を、声高に非難していました。事件を気にしているビヴァリーに、落ち着いて楽しむよう声をかけるアレクシス。
3人の車を追い越していったバンから投げられた物がフロントガラスに当たります。やむなく車を停め、先行くバンに悪態をつく彼女たち。カップごと投げ捨てたシェイクが命中したのです。
気を取り直して先を進み、3人はライブ会場に到着します。駐車場にはライブを心待ちにする、多くのファンがいました。到着を祝って、まずは酒で乾杯する彼女たち。
するとその駐車場に、あのバンが停まっていると気付きます。先程のお返しとばかり、ヴァルが売店で買った爆竹に火を付け、開いていた窓から車内に投げ込みました。
車内から、バンドのメンバー風の3人の男が飛び出してきます。文句を言う男たちに、彼女たちは投げつけたシェイクで、事故を起こしかけたと告げました。
わざとでは無かったと謝り、お詫びにビールを差し出す男たち。彼らはコバック(ローガン・ミラー)とアイヴァン(オースティン・スウィフト)、マーク(キーアン・ジョンソン)と名乗ります。
彼らは出演するバンドのツアーを追って旅しており、今日で4回目のライブを見ると打ち明けます。自分たちはバンド仲間だが、マークは引き抜かれ今度LAに引っ越すと語るコバック。
話題はサタニストによる連続殺人事件に移ります。昨日の事件で犠牲者は18人になりました。
しかし男3人組は深く気にしません。彼女たちと初めてライブを見に行ったアーティストの名を語り合い、意気投合して一緒に会場に向かいます。
バンドは悪魔を讃える歌詞を持つ、へヴィメタらしい曲を演奏し、会場は大いに盛り上がります。ライブが終了すると満足して出て来る観客たち。
その中に共に楽しんだ男女6人組もいました。アレクシスが私たちは帰ると告げると、アイヴァンがこれから皆でパーティをしないかと誘います。
俺たちのバンで盛り上がろうと誘われ、アレクシスとヴァルも乗り気になって、迷っているビヴァリーはマークに気があるとからかい、彼女にも参加を認めさせます。
狭いバンではなく、この近くにある広くて便利な自分の父の持ち家でパーティを開き、皆で盛り上がろうと提案するアレクシス。
彼女は男たちに、自分たちの車が先導するので付いてくるように告げます。うまい話に期待をふくらませた男3人組は、大喜びで従います。
暗い道を2台の車が走ります。女たちの車では、ヴァルが一番セクシーな男はジャド・ネルソン(80年代青春映画スター、ブラット・パックと呼ばれる俳優の1人)と語り盛り上がります。
しかしビヴァリーは話には加わらず、硬い表情で座っていました。
やがて、アレクシスの車は人気のない場所にある、豪華な屋敷に到着。後を付いて来た男たちは驚き、アレクシスの親はブッシュ副大統領かと、ジョークを飛ばします。
6人は外に出てたき火を囲み、酒盛りを始めロックバンド談義で盛り上がります。ヴァルは積極的にコバックに迫りますが、1人邸宅に戻ったビヴァリーを追うアレクシス。
アレクシスは今日の集まりにビヴァリーが参加したことを感謝し、自分とヴァルが時々彼女をからかうような態度をとった事を詫びました。
それでも今夜、あなたがこの集まりに参加したことを嬉しく思っている、そして今日の出来事はあなたにとって、大切な第一歩になると告げ、紙コップに酒を注ぎます。
固い表情のビヴァリーは、アレクシスと共に紙コップを運びますが、思わずマークとぶつかって中身をこぼし、上着を濡らしました。
マークは詫びると、自分のジャケットを彼女に着せました。礼を言うビヴァリーですが、ポケットに飛び出しナイフが入っていると気付きます。それは兄弟のものだと釈明するマーク。
アレクシスは家族の特製レシピの酒だと説明し、男たちに酒を勧めます。ビヴァリーは彼女にマークがナイフを持っていたと報告しますが、もっとリラックスしろと告げるアレクシス。
一同が乾杯すると、アレクシスは「したことないゲーム」をしようと提案します。誰かが自分がしたことのない行為を話すと、それをしたことがある者は酒を飲む、というゲームです。
アレクシスが自分は全裸で外を走った事がない、と言うとアイヴァンとヴァルが酒を飲みます。こんな調子でゲームが始まりました。
ゲームを進めて行くうちに、他人の飲み物に薬を入れたことがある、という話が出ます。すると酒を飲むアレクシスとヴァル。やったことがあるのか、と驚く男たち。
マークは既に眠っていました。どうせ私たちとヤルつもりだったんでしょう、と冷笑する3人の女。アイヴァンも倒れ、コバックの体も崩れ落ちます。その体を引きずってゆく女たち。
3人の男は下着姿で椅子に縛られ、眠っていました。アレクシスはビヴァリーに、彼らを起すために、水を持って来るよう命じます。
緊張した面持ちのビヴァリーを見て、ヴァルはアレクシスに、彼女には無理ではないかと告げます。しかしあの子にも出来る、と言い切ったアレクシス。
キッチンで水を用意するビヴァリー。しかし彼女はナイフを掴む事をためらいます。現れたヴァルが手慣れた様子で包丁を持ち出て行くと、彼女は水を手に後を追います。
アレクシスが男たちに水をかけ目を覚まさせると、ヴァルが包丁を突きつけます。壁には悪魔のシンボルが描かれていました。
驚く男たちに、これはゲームではないと告げる女たち。身動きできない彼らは、彼女たちがサタニストによる連続殺人の実行犯の、カルト集団だと悟ります。
逃れてもバンのタイヤは切り裂いたので、逃げる手段は無いと告げるアレクシス。叫んでも周囲に人気は無く助けは望めません。彼らをあざ笑う女たち。
これから殺される男たちの為に、事件の種明かしをするアレクシス。実は連続殺人は、サタニストの仕業ではありません。
それは彼女たちが所属する、神の教えを信じる者たちによる犯行で、悪魔を信奉するカルト集団の凶行に見せかけ、人々の恐怖を煽り、神の教えに従う者を増やす目的で行われたのです。
同じ教団の他のグループも実行しており、今週は彼女たちが殺人を犯す番でした。この行為のお蔭で無知な人々は神の教えの正しさに気付く、お前たちは尊い犠牲になると言うアレクシス。
彼女の言い草は、テレビで説教する狂信的なバトラー牧師と同じだと指摘するマーク。
その言葉に怒り、彼が下げている悪魔のシンボルのペンダントを掴み、アレクシスはこれはどういう意味だと叫びます。マークは反抗の意志を表現する手段だと答えます。
その答えを無視して、自分たちがいかに神の教えを広める、正しい行為のために働いているかを力説するアレクシス。
その態度を狂気じみてると、大声で叫ぶアイヴァン。その態度に怒ったアレクシスは、いきなり彼の首の根元にナイフを突き刺し殺します
アレクシスとヴァルは、マークとコバックに刃物を突きつけます。すると彼女たちの行為から距離を置いていたビヴァリーが、少し話し合えないかとアレクシスに訴えました。
彼女たちが姿を消すと、マークはコバックに、近くに置かれたベルトのバックルでロープが切れないかと提案します。縛られたままベルトに近づくコバック。
ビバリーは自分に殺させて欲しいと訴えます。アレクシスは今回、彼女は参加させるだけのつもりでした。ヴァルは実行できるか疑いますが、アレクシスは彼女にナイフを渡します。
3人は物音に気付きます。慌てて元の部屋に向かうと、マークとコバックはロープを解き逃げ出していました。
しかし玄関の扉は施錠され、彼らは逃げることができません。アレクシスはビバリーからナイフを奪い、男たちに切りつけます。マークはトレイで女を殴り、コバックと一室に逃げ込みます。
部屋の扉を破ろうとして果たせないアレクシスとヴァル。コバックは深く斬られ出血しており、アレクシスはいずれ出血多量で死ぬと脅します。その2人を黙って見つめるビヴァリー。
アレクシスはこの失態はビヴァリーのせいだと責め、納屋にいって扉を壊せるものを見つけてこいと命じ、従わないと殺人の罪を背追ってもらうと脅します。
コバックの斬られた腕を縛り、止血を試みるマーク。このままではアレクシスの言う通り、彼の命が危ないのは確かでした。
しかもアレクシスとヴァルは、ドアの隙間から殺虫剤を噴出させ、部屋に充満させ彼らを苦しめました。マークは隙間を布で塞ぎ、何とか防ごうとします。
そこに家に車が近づきます。修羅場の最中に何者かが現れました。どう取り繕って対処すべきかを悩むアレクシスとヴァル…。
映画『サモン・ザ・ダークネス』の感想と評価
参考映像:『ヘル・フェスト』(2018)
アレクサンドラ・ダダリオの怪演が注目を集める本作、カッコ良く危険な香りを持つお姉さんが大好きな人にお薦めの作品です。
当初イーライ・ロス監督、キアヌ・リーブズ主演の『ノック・ノック』(2015)か、エレン・ペイジ主演の『ハード・キャンディ』(2006)のような、下心ありの男に制裁を加える映画か、ハメを外した女の子が襲われるスラッシャー映画に思えた作品が、思わぬ展開を見せます。
なお、実質的な主役であるビヴァリーを演じたエイミー・フォーサイスですが、日本の映画ファンにはまだ馴染みが薄いでしょう。
しかし都市伝説をモチーフにしたホラードラマ「Channel ZERO」シリーズ(2016~)や、青春音楽ドラマ『Rise』(2018)、そして遊園地を舞台にしたスラッシャーホラー『ヘル・フェスト』と、活躍が著しい女優です。
どうぞ彼女の今後の活躍にも、注目してご覧ください。
殺人パーティーを真面目に描く
悪魔信奉者が何かやらかす、という設定を大いに匂わせて開始する本作ですが、状況は二転三転し、予想のつかない展開を見せてくれます。
はっきり言ってギャグ一歩手前のドタバタ劇ですが、本作は「ジャッカス」シリーズのジョニー・ノックスビルが出演しているにも関わらず、笑いに逃げません。
実は本作の製作にも参加しているアレクサンドラ・ダダリオ、心底性悪女を演じたかったのか、ノリノリ(はっきり言ってヤリ過ぎ)でこの役を演じています。
映画の中で計算外の出来事が立て続けに起きても、彼女はめげずに頑張ります。しかしこの展開はリアルなの?という疑問符が付きますし、巨悪の教祖様が逃げ切る展開は、いくら何でも無理だろう、とツッコミたくなる人もいるでしょう。
ただし本作に笑い所がない訳ではありません。女3人組のガーリートーク、80年代末の芸能・風俗ネタは楽しめます。その割には画面に、当時っぽくないアイテムも多々登場していますが……。
「未体験ゾーンの映画たち2020」で上映された、『ミッドウェイ 運命の海』にゲスト的に出演のジャド・ネルソン。もうゴツいおっさんですが、彼が当時いかにティーンから人気があったのかを、本作を見て実感できたでしょう。
アメリカの宗教右派に対する風刺作?
本作はカルト宗教にまつわるスリラー映画、危険でカッコいいお姉さんが出てくる作品だと、額面通りに見て楽しめる作品です。ですが無理押し展開が持つ、作品の背景を分析しましょう。
映画の舞台は1988年。レーガン政権が終了し、ジョージ・H・W・ブッシュ政権が誕生する年です。この共和党政権を支える勢力として、キリスト教の保守勢力が力を持ち始めた時代でした。
キリスト教福音派、キリスト教原理主義など、宗教右派と呼ばれる白人保守層が多く住むバイブル・ベルト。アメリカ合衆国の東南部に広がり、その北端が本作の舞台インディアナ州です。言うなれば宗教的価値観が、ぶつかり合う場所とも呼べるでしょう。
70年代に米国でケーブルテレビが広まり、有料多チャンネル化が進むと宗教右派の団体は、テレビを使った布教活動を始め、着々と支持者を広げていきます。80年代には共和党政権の票田として機能するようになりました。
一方でテレビ伝道師による説教は、異なる価値観を持つ者に対して攻撃的であるほど支持されました(へヴィメタル音楽などは、格好の攻撃対象です)。その排他的な姿勢や、集まった募金の不明朗な流れなど、一部団体には様々な問題も生まれます。
その後クリントン民主党政権が誕生すると、国政への影響力は低下しましたが、宗教右派はさらに勢力を増していきます。やがてトランプ政権を産む原動力となり、同時に現代のアメリカの価値観を二分化する、一方の側の中心的存在にまでに成長しました。
本作はそんな宗教右派に属する、一見まっとうな主張をしながら、攻撃的で裏に何があるのか判らない危険な教団の姿を通して、現在のアメリカを風刺した作品ともいえます。
そう振り返ると本作にラストのセリフが、宗教右派を支持母体とする、アメリカ社会の分断を進めるトランプ政権の時代に、どんな意味を持っているかお判りになるでしょう。
まとめ
アレクサンドラ・ダダリオが、精魂こめてヤバい女を演じた『サモン・ザ・ダークネス』。彼女たちの姿を目当てに本作を見た人は、充分満足できるでしょう。
サスペンスやスリラーとしては、展開が今一つと思った方、本作には世間から立派だと思われる言動をする人物にこそ、裏に何があるやら判らないという、極めて現代的な風刺が込められていることにも注目して下さい。
愛や感動や正義を高らかに語る者より、リスクを負い自分をさらけ出してまで、作りたい映画を作る……。エロだろうが、グロだろうが、ホラーだろうが……。
そんな人物の方が筋が通っているものです。B級映画ファンなら皆知っている真実だ、と言い切ると勇み足でしょうか。
「ジャッカス」シリーズで、お馬鹿パフォーマンスの極みをやらかしたジョニー・ノックスビル。映画『ジャッカス/クソジジイのアメリカ横断チン道中』(2013)の渋谷での舞台挨拶では、日本語で下ネタを語ってくれたナイスガイです。
役者としての彼は、大作映画で「ジャッカス」のイメージで期待される、コメディリリーフを演じる事も多いですが、一方で本作や、「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】」の『エージェント・スミス』(2019)のような、白人保守層を風刺する役柄を真面目に演じています。
彼の人柄や仕事選びには、一本筋の通ったものを感じます。日本でも体を張って馬鹿をやってくれる芸人の方が、人として尊敬できる振る舞いを見せる、そんな事例もありました。
好感度だけが高い人物、まして他者を攻撃して自分が正義だと強調する人物にはご用心。これは一般の方より、へヴィメタル信者やB級映画愛好家の方が、よ~く理解しているはずです。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…
次回の第8回はフィリピンの熱血スタント・ガールが悪の組織に立ち向かう!格闘アクション映画『ネバー・ダイ』を紹介いたします。お楽しみに。
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