連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第6回
佳作から怪作・激コワ映画まで、世界のあらゆる映画を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第6回で紹介するのは、明らかにヤバい場所での、恐怖の一夜を描いたホラー映画『モルグ 死霊病棟』。
夜の病院、それもモルグ(死体安置所)といえば、怪談の舞台としては鉄板の設定です。更にそこで一夜を過ごす人間が、後ろめたい訳ありの人物だったら、タダでは済みません。
世界の誰もが恐怖を感じる設定を持つ映画が、南米パラグアイで誕生しました。馴染みのある王道の恐怖譚が、あなたの背筋を冷やします。
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CONTENTS
映画『モルグ 死霊病棟』の作品情報
【日本公開】
2020年(パラグアイ映画)
【原題】
Morgue
【監督・脚本・製作】
ウーゴ・カルドゾ
【キャスト】
パブロ・マルティネス、ウィリ・ヴィジャルバ、マリア・デル・マル・フェルナンデス
【作品概要】
誤って人を轢き殺した男が、夜の病院の警備に就くことになります。やがて男の周囲で異様なことが起き始め…という設定を最大限に生かした、南米発のホラー映画です。
パラグアイのウーゴ・カルドゾ監督のデビュー作である、製作費6万5千ドルの低予算ホラー映画は、本国で異例の大ヒットを遂げるや全世界で話題になりました。その後本作のリメイク権が売買されるなど、新たな動きを巻き起こしています。
映画『モルグ 死霊病棟』のあらすじとネタバレ
病院にある死体安置所。そこには死者にまつわる、様々な噂話が渦巻いています…。
とあるスーパーで買い物をしているディエゴ(パブロ・マルティネス)。恋人から電話に喜んで出たものの、家にいる友人を車で送ってくれないかと頼まれて渋ります。
金に余裕のないディエゴは、ガソリン代を気にしてその願いを断ります。そんな金欠ぎみの彼を、彼女とその友人は電話口で馬鹿にしている様子です。すっかり気を悪くしたディエゴ。
彼は人目が無いと見るや、店の商品を万引きするなど、どうやら手くせも良くない人物です。
駐車場に出ると、優等生だったかつての同級生に会い、思わず他人の車を自分の物と言い張り、見栄を張るディエゴ。実際に所有するのは、エンジンすらまともにかからないボロ車でした。
すっかり落ち込んで車を走らせたディエゴですが、友人を帰した恋人から、家に来ないかとのメールで誘われると、すぐ行くと返事して大喜びで車の向きを変えます。
彼女とのメールをやり取りしながら運転する彼は、返信に夢中のなるあまりスマホを落してしまいます。それを拾おうと身をかがめ、前方が不注意になるディエゴ。
車は何かに衝突し、衝撃を受けて停止します。ディエゴが慌てて外に出ると、車の前にはパーカーのフードを深く被った男が、うつ伏せで倒れていました。
辺りには誰も居ません。恐る恐る男に近づくディエゴ。しかし多量の血が流れ出して驚き、男の介抱も警察や救急への通報もせずに、彼は車に飛び乗って逃げ出します。
道路上に残された顔の見えない男は、なぜか裸足で倒れていました。
自分の行為に怯えたディエゴは、恋人に連絡も入れず自分の家に逃げ帰ります。彼が目覚めた時家の照明が何故か点滅し、スマホには非通知の番号から電話がかかってきます。
電話に出ると相手は何も語りません。切ると再び非通知の番号から電話がかかりますが、それは自分が務める警備会社の本部からのもので、ようやく安心したディエゴ。
本部は彼に、病院で警備に就くゴンザレスに替わり、夜勤に入れと指示します。彼は警備員の制服に着替えると、指示のあった病院へと向かいました。
到着した彼を年配の男ゴンザレスが迎えます。3人の子持ちと語る彼は、早速病院を案内します。
病院の冷蔵室である、扉に南京錠の付いた死体安置所(モルグ)を案内するゴンザレス。部屋には解剖台が並び、その1つにはシーツをかけた遺体があり、ディエゴは気味悪がります。
この部屋のジャロジー窓(羽目板上のガラスを組み合わせた窓)の1つが、勝手に開いて猫が入り込むので、時々部屋の中を確認してくれと伝えるゴンザレス。
しかし部屋の不気味な雰囲気に呑まれたのか、どうにもディエゴは落ち着きません。置いてある遺体について訊ねると、ひき逃げにあった遺体だと教えられます。
それを聞き動揺する彼に、ニュースを見ないのかと言うゴンザレス。犯人は今だに見つからず、事件は街でちょっとした騒ぎになっていました。
警備室に戻るとゴンザレスは、護身用の拳銃を引き渡すと、あとは時々モニターを見てくれれば良いと彼に告げて、帰って行きました。
1人になると古い病院の廊下を歩き、トイレで用を足したディエゴ。警備室に戻ると、スマホに恋人からの電話が入ります。
彼は昨日の事故以降、彼女に連絡していなかったと思い出しました。互いに顔が映るようビデオ通話に設定して会話し、昨日は車がパンクして行けなかったと嘘をつくディエゴ。
連絡が無かったと怒る彼女を、ディエゴは今は1人きりで勤務中だと説明してなだめます。電話に夢中の彼は、背後を生気の無い様子の、裸の女が横切ったことに気付きませんでした。
その姿を見た恋人は、女を連れ込んでいると怒り、別れを告げ電話を切ります。ディエゴにはどうして彼女が怒ったのか、全く理解できません。
気を取り直して、古い病院の館内を巡回するディエゴ。容器に入った気味の悪い標本や、様々な人骨が並べられた、気味の悪い部屋を見て回ります。
ようやく警備室に戻った時、モニターを見てモルグの扉が開いていると気付くディエゴ。
彼はモルグに向かうと中に入りました。照明を付けると、ゴンザレスに言われた窓が開いていました。ディエゴはハンドルを操作して窓を閉めました。
するとモルグに1体だけ置かれた遺体の腕が、解剖台からずり落ちました。彼は元に戻しますが、またしても腕は落ちます。
気味が悪くなったディエゴはシーツを被った遺体を突きますが、無論反応はありません。
モルグの扉に鍵をかけ、警備室に戻った彼は気を取り直し、湯を沸かすとお茶を入れました。お茶を入れたコップをテーブルに置き、座ってスマホを操作するディエゴ。
彼が目を逸らした隙に、独りでに動くコップ。気のせいかと彼は思いますが、目を離すとまたしても動きだし、今度はテーブルからコップは落ちます。
ありえない出来事に驚くディエゴ。彼はお茶をコップごと流し台に棄てました。
気を取り直して新聞を開いた時、何かの音が聞こえます。彼が周囲を確認すると、何者かが病院の敷地内にいると気付きます。
懐中電灯と拳銃を掴んで警備室を出ると、侵入者のいる場所へと向かうディエゴ。
そこにはフードを被った、パーカーを着た男がいました。ディエゴが何をしている、と叫ぶと男はゆっくりと振り返ります。
怪しげな男に出て行けと叫ぶディエゴ。しかし男の態度は反抗的で、ディエゴは銃を向けました。すると彼にそんな態度ではいずれ痛い目に合うぞ、と告げて立ち去る男。
男を追い払ったディエゴは、警備室に戻りました。落ち着きを取り戻した彼は渡された拳銃を持ち、ポーズをつけてスマホで自撮り写真を撮ります。
ところが撮影した写真のディエゴの背後に、何かの影が映っていました。するとモニターには、モルグの扉の前に立つ男の姿があります。先程の男でしょうか。
懐中電灯を掴み、モルグへと向かうディエゴ。途中で拳銃を持たずに出たと気付きますが、やむなくそのまま向かいます。
走り去る男を追い、病院の建物から出たディエゴは敷地内を探し回ります。鍵のかかったフェンスの扉の向こうに男の姿がありました。
どうやって彼はフェンスの向こうに出たのでしょうか。男はディエゴをにらみつけると、街の中に姿を消しました。
男がモルグで何かしたかもしれません。ディエゴはモルグの扉を開けると中の様子を伺います。
すると1つだけ置いてあった遺体は無く、その解剖台にはシーツだけが残されていました。確認のためモルグに入ったディエゴの背後で、独りでに閉まる扉。
慌てて扉に向かいますが、押しても引いても開きません。もう1つある出入り口も開かず、閉じ込められたディエゴ。スマホをかざしても電波は入らず、彼は助けを呼べません。
ジャロジー窓から外に出るのは不可能です。するといきなり、モルグの照明が消えます。
ディエゴは暗闇に包まれたモルグの中に、ただ1人で閉じ込められてしまったのです…。
映画『モルグ 死霊病棟』の感想と評価
参考映像:映画の中の”ジャンプスケア”シーンTop10
あまりなじみの無い、パラグアイ発のホラー映画ですが、内容は至ってシンプルかつ王道です。因果応報のストーリーに、お化け屋敷感覚で見せる幽霊によるドッキリが売りの映画です。
モルグに現れる、死霊たちが見せる恐怖はビックリ箱感覚そのもの。音や突然現れる幽霊で観客を驚かせる、いわゆる”ジャンプスケア”と言われる手法を駆使しています。
オーソドックスな怪談として物語は進みますが、セールスポイントは”来るぞ、来るぞ、そら来たっ~!”、と登場する幽霊たち。これが楽しい人には堪らない作品です。
お蔭でストーリーとして紹介する部分は少な目、ドッキリ演出を詳細に紹介しても興ざめですから、あらすじネタバレ紹介はシンプルな物になりましたので、ご了承下さい。
そんな心臓に悪い演出は嫌だという方や、あるいはそんな小手先のテクニックで描く恐怖は嫌だという、筋金入りのホラー映画ファンには、嫌われる作品かもしれません。
ただ私のようにB級映画ばかり見ていると、”ジャンプスケア”シーンすら外してしまう、残念なホラー映画も数多く目撃しております。その意味では本作は及第点のビックリ箱映画、椅子から飛び上がるのが大好きな方にお薦めです。
お化け屋敷感覚で楽しもう
“ジャンプスケア”シーンと言っても、本作はいきなり観客にぶつけてくる、ドッキリ番組のような手法は使っていません。
登場人物をモルグという”お化け屋敷”に誘導するまでは、小出しで恐怖感を演出する怪談調の演出。そうやって明らかに何か起きる場所だぞ、という空間に誘導すると照明を消して、さあこれから始まるよと、観客に恐怖演出を受け入れる心の準備をさせます。
恐怖演出では音も大きな役割を果たしますが、本作は幽霊が出て来る前に、音などで「これから怖いモノを出しますよ」と予告してくれる、実に親切なスタイルの作品です。
何だ、ホラー映画の基本パターンじゃないか、と言われそうですが全くその通りです。それゆえにホラー映画慣れした人には、充分心に余裕を持って楽しめるショックシーンでした。
ところがホラー映画に慣れていない人、ホラー映画の雰囲気に呑まれやすい人の場合、本作のショックシーンで大いに”ジャンプスケア”するでしょう。
本作の理想の鑑賞方法は、ホラー映画慣れした人が、ストレートに怖がる人をなだめつつ、恐怖シーンが終われば共に笑う、そんな姿勢で見ることです。
ちなみに本作は生理的嫌悪に訴えるシーン、暴力シーンは控え目(自主規制PG12相当)。怖い目に合う奴も、悪行の報いを受けている訳ですから、精神的にもラクに楽しめます。
友達とワイワイ見るホラー映画として、またデートムービーとして見る作品として、実に最適の作品です。アメリカを中心に高く評価され、リメイクの話が生まれたのは、本作のお化け屋敷感覚で楽しめる部分が高く評価されたのでしょう。
それゆえに、1人で作品に向き合う、筋金入りのホラー映画ファンには、小手先の恐怖演出を使った生温い描写の映画に過ぎないと思われるかもしれません。
私ですか?無論1人で見ましたよ。私もそんなホラー映画ファンの1人です。寂しいなんて、少しも思ってませんよ。本当に寂しくなんて、無いですから!
南米ホラー映画とJホラーの融合
参考映像:ドラマ『呪怨:呪いの家』(2020~)
近年の低予算ホラー映画といえば、POV視点やモキュメンタリー技法を意識した、荒い映像やカメラワークの、疑似ドキュメント的な作品が思い浮かびます。
しかし本作は劇映画の手法で撮られ、昔ながらの因果応報の怪談話として作られています。
スパニッシュホラーの影響を受け、現在続々とホラー映画を生み出している南米諸国。多くがその形式に乗っ取り、美しい映像や情緒的な物語をもつ恐怖映画として誕生しました。
しかし本作は生活感のある、暗く硬質な映像で描かれた作品です。そして主人公に理不尽な形で迫る幽霊の登場は、かつて世界を席巻したJホラーの演出スタイルを思い起こさせます。
また主人公が幽霊と遭遇し、自分の悪業の報いを受ける物語は、日本人などのアジア人には馴染み深いものです。本作は世界に配信されていますが、台湾では日本に先駆け劇場公開されているのも、実に理解できる作品です。
やや辻褄の合わない展開もありますが、だからこそ不条理な恐怖がにじみ出る本作は、同じスタイルを持つJホラー映画の存在を踏まえて見ると、理解しやすくなります。
世界を席巻したものの、今やあらゆる国のホラー映画のスタンダード手法になった感のあるJホラー。その結果今や埋もれてしまった感があります。
その原点と言うべき作品の1つ「呪怨」シリーズが、ドラマ『呪怨:呪いの家』としてNetflixで配信されます。また「呪怨」シリーズを生んだ清水崇監督の、最新作である『犬鳴村』(2020)はスマッシュヒットを記録し注目を集めています。
こういった作品たちは、新たなJホラーブームの起爆剤になれるでしょうか。
まとめ
お化け屋敷映画として楽しめる『モルグ 死霊病棟』。軽いノリで恐怖を味わうポップコーンムービーとしてご覧下さい。この映画は充分怖すぎる、という方がいたら謝ります。ホラー映画を見過ぎた、私の感覚がおかしいんでしょう、ごめんなさい。
本作はアメリカなどで高く評価された、楽しめる”ジャンプスケア”シーンの映画である部分を中心に紹介しました。しかしお化け屋敷空間である、モルグに誘導するまでの演出が丁寧で、Jホラー的な作品であることにもご注目下さい。
ところでリメイクの話があり、パラグアイ映画界のビックなサクセスストーリーとして話題になりましたが、こういった作品をリメイクする時、残念なパターンが1つあります。
それはストーリーは忠実に再現しても、ホラー映画のミソである恐怖シーンが、全く別の演出になってしまうこと。
もっと幽霊を派手に暴れさせてやる!などの勘違いしたサービス精神が、一番の魅力だった恐怖演出をブチ壊しにする。これだけは勘弁して欲しいものです。
ちなみに「恐怖の実話」とされる本作。具体的にはウーゴ・カルドゾ監督が、病院関係者から恐怖体験談や心霊体験談を集めて、この映画を作ったというのが事実です。
つまり「友達の友達から聞いた、実際にあった恐怖の心霊体験談を、コピペした記事をネットで読む」程度に、実話であると思って下さい。…信じるか信じないかは、あなた次第です。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…
次回の第7回は悪魔崇拝者と称する美少女たちの、地獄のパーティーを描くナイトメア・ホラー映画『サモン・ザ・ダークネス』を紹介いたします。お楽しみに。
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