様々な理由から日本公開が見送られてしまう、傑作・怪作映画をスクリーンで体験できる劇場発の映画祭、「未体験ゾーンの映画たち」も2019年で第8回目となりました。
ヒューマントラストシネマ渋谷で1月4日よりスタートした「未体験ゾーンの映画たち」2019では、貴重な映画が一挙に58本も上映されます。
まず第1弾として紹介させて頂くのはホラー映画『ゲヘナ』。
ハリウッドで活躍中のキャラクターデザイナー・特殊メイクアップアーティストの片桐裕司が監督・脚本を手掛け、様々な困難を乗り越えて完成させた映画です。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2019見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『ゲヘナ』の作品情報
【公開】
2016年(アメリカ・日本合作映画)
【原題】
Gehenna: Where Death Lives
【監督】
片桐裕司
【キャスト】
ダグ・ジョーンズ、ランス・ヘンリクセン、エバ・スワン、ジャスティン・ゴードン、サイモン・フィリップス
【作品概要】
サイパン島のリゾートホテル建設予定現場に訪れた男女が、日本軍の地下壕の中で体験する想像を絶する恐怖を描いたホラー映画です。
片桐裕司を中心に、ハリウッドのSFXに関わるスタッフが集結して製作された作品で、登場するモンスターの造形とその恐怖描写は期待通りに仕上がっています。
暗く閉ざされ、モンスターの潜む空間に閉じ込められるという、一見ありがちな設定と思われる物語には、想像を超える設定と驚くべきラストが待っていたのです。
映画『ゲヘナ』のあらすじとネタバレ
“ゲヘナ”とは、呪われた場所。罪人の永遠の滅びの場所であり、キリスト教では“地獄”を指す場所とされています。
1670年、サイパン島。当時島を支配していたスペイン人の男が、先住民のチャモロ族の男達に捕えられ、儀式と共に顔の皮を剥がれ、そして洞窟に閉じ込められようとしています。
現代。海の中で姿の見えなくなった我が子ジャックを探す、ポリーナ(エバ・スワン)の姿が映し出されます。
一方でリゾートホテルの建設予定地視察の為に、サイパン島に到着した土地開発会社社員のポリーナは上司モーガン(ランス・ヘンリクセン)と電話で話していました。
ホテルのボーイから現地の伝統的な願掛け人形、“ボージョボー人形”を渡されたポリーナは同僚のタイラー(ジャスティン・ゴードン)、カメラマンのデイブと合流します。
土地の売り主のアラン(サイモン・フィリップス)とそのアシスタントの現地人ペペを含めた5人は、建設予定地の視察に向かいます。
しかしその土地は、元々先住民チャモロ族の聖地。
第二次大戦時に日本軍に取り上げられた後、手つかずとなったこの場所を開発する動きに、現地の人々は反対運動を起こしていました。
土地の調査を始めた5人は、そこに誰かが入り込んでいる事に気付きます。そこには祈りを捧げる老人がいました。
ペペが追い払おうとしますが、老人は「先祖の警告には耳を傾けるのだ」と警告します。
老人が祈りを捧げている先は洞窟で、それを日本軍が地下壕に作り替えていました。
把握していなかった地下壕を発見したポリーナは、上司モーガンへの報告のため、5人でその中に入り調査することにします。
暗い地下壕の中には、ミイラ化した遺体が1体ありました。
この場所は米軍が捜索しなかったので、日本兵のものだろうとアランは説明します。
更に先に同じくミイラ化した遺体が2つあり、傍らには日本軍の拳銃が落ちていました。
しかし遺体の1つは女性、日本兵に見えない事を一同は疑問に感じます。
壕内の一室から物音がします。向かうとそこには痩せ衰えた不気味な老人(ダグ・ジョーンズ)の姿がありました。
老人はいきなりアランに掴み掛かり、「アラン。お前が、最初に死ね」と告げます。
パニックになったアランは老人を壁に叩きつけます。老人はポリーナに「お前のせいだ」と語って息を引き取ります。
何故老人はアランの名を知っていたのか。恐怖と謎に包まれた地下壕内に凄まじい轟音が響き渡り、皆意識を失います。
5人が意識を取り戻すと、老人もミイラ化した遺体も消え、しかも何故か壕内は電灯で明るくなっていました。
一行は地下壕から出ようとしますが、入口の扉を開ける事が出来ません。
アランとペペの2人とポリーナら3人は、手分けして他の出口を求め壕内を探索します。
しかし、その風景は以前と大きく異なり、つい先程まで日本軍が使用していたかの様な光景でした。
そしてポリーナらは、自決して間もない日本兵の遺体を見つけ、そして拳銃を手にして迫る異様な姿の日本兵と遭遇します。
日本語が判るタイラーが彼に問いかけますが、その日本兵は「数えきれない罪が、夢に現れる」と言い残し、彼らの目前で自ら命を絶ちます。
一方アランらは日本軍の無線機を見つけますが、それをタイラーが使用してみたところ、1944年の戦時中のラジオ放送が聞こえてきました。
地下壕の奥にある、自然の洞窟が残る空間で先住民の遺跡を見つけたペペは、そこで亡くなった母の姿を見ます。
チャモロ族に伝わる伝説を思い出した彼は何かを悟り、自らの体に刃を突き立てました。
カメラマンのデイブは、死んだ姉の姿を目撃しますが他の者には見えません。
デイブはその姉に襲われますが、その光景は他人の目には彼が自ら首を絞めている姿として映ります。
アランの前にはあの不気味な老人が現れ、「お前、絶対に死ね」「あの女のせいだ」と執拗に語り掛けてきます。
そしてモリーナは6年前に海の事故で亡くした息子ジャックの姿を目撃。
タイラーは幻聴に襲われ、アランを殺そうとします。
タイラーは目の前で自決した日本兵も幻聴に襲われていた事を思い出し、モリーナと共に彼の残した日記を読み、真相を探ることを決めます。
映画『ゲヘナ』の感想と評価
質の高いソリッド・ホラーとして脚本
本作のメインビジュアルは、不気味な老人の姿、そしてキャッチコピーは、「このジジイ、トラウマ級」。
監督を務めたのは、数多くのハリウッド大作映画のSFX関連のアーティストとして著名な片桐裕司。
しかも今やアンディ・サーキスと並ぶモンスター俳優の第一人者、ダグ・ジョーンズが出演しています。
鑑賞前はこの映画は、特殊効果の出来栄えを見せる映画だろうと予測していました。
しかし実際に鑑賞すると、サイパン島を舞台に300年以上前のスペイン統治時代と、第二次大戦の悲劇を繋ぐ練られた脚本で語る映画となっていました。
そのうえ、ソリッド・スリラー映画として今も高く評価されている、『CUBE(キューブ)』『SAWソウ』の様に先の見えない展開と、あっと驚くラストが用意されているのです。
この脚本も片桐裕司監督の手によるもので、実に完成度の高いホラー映画と仕上がっていました。
劇場公開に至るまでの紆余曲折の物語
今回の「未体験ゾーンの映画たち2019」での上映以前に、『ゲヘナ』を既にご覧になった方もいるかもしれません。
実は本作は東京コミコン2016で、ランス・ヘンリクセンをゲストに招いての日本初上映試写会を実施しています。
また昨年2018年7月30日~8月5日には渋谷のユーロライブにて、片桐監督とゲストのトークショーを交えた上映会も行われました。
しかし、片桐裕司初監督作品となる本作は、簡単に完成には至りませんでした。
映画監督を目指し、まず2005年に短編ホラー映画『PULSE』を製作。
これを見た関係者からの劇映画監督のオファーもあったそうですが、残念ながら実現には至りませんでした。
そこで自身で映画が制作が出来るように、デモ素材を用意してクラウドファンディングでの資金集めを実施します。
しかしこの試みも目標の金額を集めること出来ず、失敗に終わってしまいます。
この一連の活動によって出資者が現れ、映画の製作がスタートしようやく完成、今日に至りました。
この物語は監督のブログ「片桐裕司 ハリウッド映画のお仕事」で詳しく紹介されています。
映画監督を目指す方、映画製作の舞台裏に興味のある方には必読の内容となっていますので、興味を持たれた方はぜひご一読下さい。
まとめ
内容も製作背景も実に興味深いホラー映画『ゲヘナ』を紹介させて頂きました。
ストーリーは無論、片桐監督の専門であるクリーチャーの描写、また暗闇を利用した恐怖演出も一級品で、娯楽としても完成度の高いホラー映画として楽しめる作品です。
またサイパン島を舞台に現地でロケーション撮影を行った作品としてもご注目下さい。
劇中では恐ろしいアイテムとして使われた“ボージョボー人形”ですが、実際はサイパンの土産物として有名で、特に恋愛運を上げたい方に人気のアイテムになっています。
ところで本作のランス・ヘンリクセン、明らかに別撮りでの出演、ですよね。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」はユマ・サーマン、アナソフィア・ロブ出演の美少女学園ホラー、『ダーク・スクール』を紹介いたします。
お楽しみに。