2019年9月6日(金)からは『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』が、京都みなみ会館にて開催!
映画『クリシャ』は、『イット・カムズ・アット・ナイト』で注目を集めた新鋭トレイ・エドワード・シュルツの長編映画初監督作品です。
7千ドルで自主制作した短編映画を基に監督と脚本兼務し、出演もこなしました。
主人公のクリシャを演じるのは、シュルツの実伯母であるクリシャ・フェアチャイルド。
30パーセントは即興で構成された物語は、親族同士の建前が少しずつ崩れてゆく人間模様を描き出します。
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映画『クリシャ』の作品情報
【アメリカ公開】
2015年(アメリカ映画)
【原題】
Krisha
【監督】
トレイ・エドワード・シュルツ
【キャスト】
クリシャ・フェアチャイルド、トレイ・エドワード・シュルツ、ロビン・フェアチャイルド、アレックス・ドブレンコ、クリス・トゥベック、ビクトリア・フェアチャイルド、ブライアン・キャサリー、チェイス・ジョリエット、ビル・ワイズ
【作品概要】
本作が長編映画デビューとなったトレイ・エドワード・シュルツ。
『時計じかけのオレンジ』(1972)や『ブギーナイツ』(1998)に影響を受け唯一無二の作品作りを目指したシュルツは、次作でホラー映画『イット・カムズ・アット・ナイト』の監督・脚本を兼務した若きフィルムメーカーです。
本作は世界各国で大きな支持を受け、カンヌ映画祭、ロンドン映画祭、エルサレム映画祭、ミュンヘン映画祭、オアハカ映画祭 (メキシコ)等でノミネートを果たしました。
レイキャビク映画祭 (アイスランド) では国際批評家連盟賞受賞、そしてタオルミーナ国際映画祭 (イタリア)では、最優秀作品賞に輝き、サウス・バイ・サウスウェスト映画祭でも観客賞を受賞。
映画『クリシャ』のあらすじ
11月、感謝祭。クリシャ・フェアチャイルドは家族が一堂に会す妹・ロビーの家を訪れます。
久し振りに会うクリシャを親族の誰もが温かく迎えます。ロビーは姉をくつろぐよう一室へ案内。クリシャは、洗面所にポーチやアルミの箱を置き、首に掛けていた鍵でその箱を開けます。
中に入っていた薬を飲みこみ、人差し指の包帯をほどいて切断された断面に薬を塗り包帯を巻き直します。
階下へ降りて来たクリシャに、ロビーは、母親を迎えに行って着替えさせてから連れて来る為、7時間ほど家を空けると説明。
七面鳥の料理を請け負ったクリシャは、分からないことは周りに訊くから大丈夫だと答えます。
大きな七面鳥は重く、手伝って貰いながらクリシャは準備を開始。フィリングを作り鳥の中へ詰めてからオーヴンで焼き始めます。
親族達は腕相撲などをして楽しみ、和気あいあいと皆くつろいでいます。
クリシャはトレイを部屋に誘い、近況を聞かせて欲しいと話します。ソファの隣に座ったトレイは、大学でビジネスマネージメントを専攻しており、卒業を目指していると答えます。
クリシャは、幼い頃から動画を撮ることが大好きだったトレイは、フィルムスクールで通い、夢を追うべきだと助言。
大人になれば実用的なことを考えて小さくまとまってしまうので、若いうちに自分のやりたいことをやるべきだとアドバイスします。
クリシャは、連絡しても音沙汰の無いトレイに、もっとこんな話がしたかったと続けます。
トレイは黙って頷くだけで、何も答えません。
「なぜ目も合せようとしないの?」とクリシャは尋ねますが、トレイは沈黙のまま。
更にクリシャは、以前の自分とは違ってしっかりと生活しており、トレイとの関係を修復して2人が失った時間を取り戻したいと語りかけます。
しかし、トレイは、「ビジネスマネージメントを好きで勉強していると思っているわけ?」と突っかかります。
おろおろしながら、クリシャがそんなつもりは無いとトレイに触れようとすると、トレイは肩を揺らして接触を拒否。
トレイをとても大事に思っているとクリシャが言った途端、トレイは立ち上がり部屋を出て行ってしまいます。
階下へ降りてきたクリシャは、奥の部屋に居る親族を横目に、こっそりガラス食器棚の引きだしを開けて探し物。洗面所へ戻り、鍵で箱を開けてまた薬を飲み込みました。
庭のポーチで煙草を吸いながら、クリシャはロビーの夫・ドイルと談笑。犬好きのロビーが数を増やした為、ドイルは冗談交じりに今夜のディナーに犬も料理してくれと言います。
犬が苦手なら、ドイルは結婚相手を間違えたかもしれないとクリシャは笑って返します。
ドイルは、今までクリシャが何処に居たのか等踏み込んだ質問を始めます。クリシャは、人間として成長しようと努力する生活を送っているが、それ以上はドイルに話すつもりはないと言います。
そこで離れた所に居る犬が吠え出し、ドリルが激しい調子で黙れと怒鳴ります。クリシャはすかさず「シー」と声を掛けて犬を大人しくさせ、動物は直感が鋭く人間の波動を感じるとドイルを諭します。
人間も感じやすいと言い返したドイルは、クリシャのことで知りたくないことも知ったと顔を歪め、好き勝手に現れて他人を翻弄するなと強い口調。
「あんたは強奪者だ。それが分からないなら、どっかイカレてる」「バックパックを背負って旅する学生の年でもないんだから、ちゃんと準備を整えるべきだ」
ドイルの辛辣な物言いを、クリシャは黙って我慢しながら聞いています。
更にドイルは、ロビーとの結婚生活は惨めだが別れずに一緒に居ると続けます。
「あんたも我慢してるように、ロビーもあんたに我慢しているの。夫婦ってそういうものよ」そうクリシャは落ち着いて返答。
タイマーが見つからない為、クリシャは何度もオーヴンを開けて七面鳥の焼き具合を確かめます。
そろそろロビーが母親を連れてやって来る頃。クリシャは、料理のことを気にしながらもシャワーを浴び、メイクをして赤いドレスに着替えますが…。
映画『クリシャ』の感想と評価
普遍的な物語
どの家族にも疎遠になっている親族はいるものです。冠婚葬祭で久し振りに顔を見せれば、その場の居心地を探る気持ちは想像できます。
冒頭で描かれるクリシャは同じように緊張し、上手くやろうと朗らかに振舞います。
アルコール依存症を抱える彼女の過去は説明されませんが、それは物語に重要ではなく、義弟やおそらく息子であろうトレイがクリシャをまだ許せてないことが飲酒の引き金になっています。
依存症の人しか分からない苦しみがあり、本年公開された『ベン・イズ・バック』や『ビューティフル・ボーイ』でも当人の孤独な闘いを描いています。
親戚という距離の近さゆえ、他人なら言わないこともドイルは歯に衣を着せず厳しい言葉を浴びせてしまいます。
クリシャにして見れば、色眼鏡で観察される不快さに加え、辛い過去をほじくり返されたくは無く、努力している部分に理解が欲しいでしょう。
みんなで分け合う七面鳥が台無しになったことで、結局またクリシャは疎遠になってしまうであろう未来も予想できる展開。近くて遠い家族の人間模様がリアルに表現されています。
熟年期を迎えた女性陣の演技力
クリシャを演じるのは、クリシャ・フェアチャイルド。これまでハワイやメキシコに在住し、友人のプロジェクトで演じてきた65才の俳優です。
本作で注目が集まったフェアチャイルドは、ホラー映画の出演の打診を受けたそうですが、「連続殺人犯をやるなら、ちゃんと背景を持ったキャラクターじゃないと嫌なの」とチャンスに飛びつかない余裕のコメント。
実は、劇中に登場する役者は、フェアチャイルドとドイルを演じたビル・ワイズだけです。他のキャストの殆どは、監督とトレイ役をこなしたトレイ・エドワード・シュルツの親族と友人。
ロビーを演じたのは、シュルツの実母・ロビーであり、クリシャはシュルツの伯母です。クリシャ以外の、特に女性達は素人とは思えない自然な演技を披露しています。
更に、庭で描かれるクリシャとドイルの口論シーンは、100パーセント即興。物語を通し、静かな怒りと心の動揺がひしひしと伝わるクリシャ・フェアチャイルドは見所。
彼女の演技は、ナッシュビル映画祭で最優秀主演女優賞を獲得しています。
映画監督トレイ・エドワード・シュルツ
シュルツは、2012年の夏に7000ドルを費やして自主制作した短編を基に、再度脚本を書き換えて本作を製作したと経緯をインタビューで語っています。
伯母を主役に据え、母と自分自身も登場する実体験を交えた物語を、実家で撮影する所までは既に決めていたそうです。
また、シュルツが過去だけではなく、物語の中でもう1つ敢えて説明しないことがあります。
クリシャが第二関節から先のない指に薬を塗る場面があります。常に包帯をしている指は目立ちますが、事情が明かされない為に観客の想像力が掻き立てられます。
撮影2ヶ月前に犬が喧嘩をして、仲裁しようとした際にクリシャが指を咬まれて感染症に掛かり、人差し指を切断したそうです。
これを利用したシュルツの意図した通り、クリシャは謎の人物として映り、飲酒後に一変する展開に上手くマッチするミステリアスな雰囲気を創り出しています。
まとめ
『クリシャ』は、トレイ・エドワード・シュルツの長編映画初監督映画。家族や友人総動員で制作したシュルツの実体験を盛り込んだドラマ作品です。
自身も出演してトレイ役を演じ、親族間のわだかまりを鮮やかに描写。
アルコール依存症を抱える主人公・クリシャを通し、お互いに分かり合えない微妙な距離感を映像化しており、永遠のテーマの1つである「家族とは?」を観客に問いかけています。本作は、各国で高い評価を得たインディペンデンス映画です。
『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』は2019年9月6日(金)から京都みなみ会館にて開催されます。
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