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Entry 2019/08/25
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映画『オール・ディス・パニック』レビュー評価と解説。ジェニー・ゲージ監督が捉える少女たちの素顔|ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館2

  • Writer :
  • 西川ちょり

思春期と成人の間(はざま)を生きる7人の少女たちを追ったドキュメンタリー映画。

2019年8月23日(金)に、装いも新たに復活する映画館、京都みなみ会館。そのリニューアルを記念して、9月6日(金)からグッチーズ・フリースクール×京都みなみ会館による共同企画『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』が開催されます。

リチャード・リンクレイター、ポール・トーマス・アンダーソン、ウェス・アンダーソン、アレクサンダー・ペインといった元新進気鋭のルーキー映画監督たちの作品。

また、トレイ・エドワード・シュルツ、フィリックス・トンプソン、ローズマリー・マイヤーズなど、新世代のルーキーたちの作品がまとめて上映されるというグッチーズ・フリースクールならではの選択の贅沢な映画祭です。

今回は、その中から、ジェニー・ゲージ監督がブルックリンで暮らす7人のティーンエイジャーたちを3年間に渡って追ったドキュメンタリー映画『オール・ディス・パニック』をご紹介します。

【連載コラム】『ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館』記事一覧はこちら

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映画『オール・ディス・パニック』の作品情報

【日本公開】
2019年(アメリカ映画)

【原題】
All this panic

【監督・脚本】
ジェニー・ゲージ

【キャスト】
デリア・カニンガム、レナ・M、セージ・アダムス、オリヴィア・クチノッタ、アイヴィー・ブラックシャイア、ジンジャー・リー・ライアン、ダスティ・ローズ・ライアン、ケビン・ライアン

【作品概要】
ファッションフォトグラファーで、現在は映画監督として活躍するジェニー・ゲージが、3年間に渡ってニューヨーク市のブルックリンに暮らす少女7人を追った、2016年製作のドキュメンタリー映画。

大人と子どものはざまにある思春期真っ只中の少女たちが、悩みながら成長していく姿を美しい映像でとらえている。

映画『オール・ディス・パニック』のあらすじ


映画『オール・ディス・パニック』

ジンジャー、その妹ダスティ、ジンジャーの親友レナ、セージ、オリヴィア、アイヴィー、デリアの少女7人はブルックリンに住んでいます。

お洒落してパーティーの準備にいそしんだり、パパの大麻をちょっと拝借したり、高校生活特有のグループで固まった友だち付き合いに悩んだり、新しい学期や進路に想いをはせたり、そんな日常を過ごしている彼女たち。

レナの家は複雑な問題を抱えており、それは彼女が年齢を増すに連れ、深刻になっていきます。

ジンジャーは女優になりたいという夢を持っていますが、父親から夢をかなえるために何の努力もしていないと叱咤され、言い返すことが出来ずイラつくばかり。

セージは私立学校で数少ない黒人学生の一人です。早くに父をなくしており、母はしつけに厳しく門限が早いことにうんざりしています。自分も知識欲の旺盛だった父のように生きたいと思っています。

サーファーガールのオリヴィアは自身のセクシュアリティに気づき始めています。カミングアウトすることにはまだ少し抵抗があるようです。

アイヴィーは洗練されたクールな少女です。高校卒業後は、ボーイフレンドと一緒に暮らすため、働いてお金を稼いでいます。

ダスティはおちついた少女で、時に姉よりもしっかりした考えを持っているように見えますが、自分はまだ大人ではないということもよく知っています。

そんなダスティと仲のよいデリアは、兄が卒業し兄と比べられなくなった学園生活を謳歌している明るく元気な少女です。

映画は、友情、恋愛、進学、家庭環境、自立することなど様々な問題に直面する彼女たちを3年に渡って追い、もがきながらも成長していく姿を映し出しています。

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映画『オール・ディス・パニック』の感想と評価


映画『オール・ディス・パニック』

ソフトフォーカスの映像がとらえる少女たちの日常

映画の序盤、2人の少女が自転車に乗り、街を行く姿が映し出されます。自転車に乗った少女2人といえば、デヴィッド・ロバート・ミッチェルの『アメリカン・スリープ・オーバー』(2010)が思い出されます。

暮れゆく街、青く染まった風景の中を自転車で進む少女たちの姿は忘れがたい叙情に包まれていましたが、『オール・ディス・パニック』の自転車少女たちも、柔らかい自然光の中、絵のような淡い美しさを醸し出しています。

『オール・ディス・パニック』は、全ての画面で50mmカメラが使われているそうです。少しフォーカスのかかった映像は、柔らかな雰囲気を作り、少女たちを暖かく包み込んでいます。

監督のジェニー・ゲージは、もともとファッションフォトグラファーとして活躍し、高い評価を得てきました。撮影を担当したのは、公私にわたるパートナーであるトム・ベタートンです。

2人の美意識が本作には明確に現れています。それらには多感な少女たちへの敬意と憧憬にも似た眼差しが含まれています。

カメラの前でありのままに振る舞う少女たち

ジェニー・ゲージとトム・ベタートンが本作を撮ることになったのは、近所にジンジャーとダスティ一家が引っ越してきたことに始まります。

彼女たちの振る舞いに魅せられたゲージたちは、彼女たちが何を考え、何を経験し、自分たちの若い頃とは何が違い、何が同じなのかを知りたいと考えました。

彼女たちの両親に撮影の許可を撮るとあっさり了承されたといいます。しかし、初めて撮影に向かった日、ジンジャーたちは両親から何も聞かされていなかったという愉快なエピソードがあります。

ジンジャーやダスティ、彼女たちの友人たちが、カメラの前で何のてらいもなく、ありのままの姿をみせているのにはすっかり驚かされます。

カメラは常に彼女たちに接近し、彼女たちもあたかもカメラなどないかのように、あるいはまるでカメラが気のおけない友人であるかのように振る舞っています。

ナイーブな事柄も、隠さず全てをさらけだしている姿に、彼女たちが自身をさらけ出すことに抵抗のないSNS時代の申し子であることを実感しますが、勿論それは、撮るものと撮られるものの驚くべき信頼関係があってのことでしょう。

ジェニー・ゲージは、何の脚色も加えず、ひたすら彼女たちの声に耳を傾け、寄り添い続けます。3年間もその付き合いが続いたことに深い感銘をうけずにはいられません。

少女たちのための映画

少女のひとり、セージは若きフェミニストで「10代の特に女子の体は性的対象にされ過ぎている」と語っています。

また、ダスティとデリアは“初体験”を話題にし、大人たちは「あなたにはまだ早い」といったかと思うと、今度は「まだなの?」と聞いてくる、どっちもくそくらえよ!と叫びます。

世間は10代の女の子に特定のレッテルを貼りたがり、おつむの弱い未熟な人間だと考えたがりますが、彼女たちは大人が想像する以上に聡明で、物事を考えています。

ジェニー・ゲージは、先入観、偏見を取り払いありのままの少女たちの姿をとらえます。まだ子どもでいられた時代から、自立した大人への道を手探りで歩む彼女たち。その姿が多くの少女たちの共感を生んだだろうことは想像にかたくありません。

まさに少女たちのための作品といえるでしょう。

少女たちの映画といえば、NYの若きガールズスケーターを描いた『スケート・キッチン』(2018)が思い出されます。

スケートボードは男子の文化とされている中、スケートボードをこよなく愛する少女が仲間をみつけ、自身の世界を広げていく物語でした。

こちらは劇映画ですが、ドキュメンタリー出身のクリスタル・モーゼル監督は、実在の女性スケーターたちに自身に近い役柄を演じさせ、物語を構築しました。

NYの街で出会った少女たちに触発されて映像化しようと考えた点なども『オール・ディス・パニック』と共通する点です。

今、こうしたメディアに脚色された少女像ではなく、等身大のリアルな少女を描いた映画が必要とされているのです。

と、同時にそんな少女たちの姿は世代を超えて共感できるものとなっています。懐かしくもほろ苦く、楽しくも儚いあの頃の自分を思い出す人も多いのではないでしょうか。

まとめ

ジェニー・ゲージは、2019年にイギリスの人気グループ「ワン・ダイレクション」のハリー・スタイルズをモデルにしたファン・フィクションを映画化した『After』を発表。興行的にも成功をおさめました(日本ではNetflixで視聴できます)。

まさに今後の活躍が楽しみな“新世代ルーキー”のひとりです。

『オール・ディス・パニック』を観れば、7人の少女たちが愛しくなり、彼女たちの未来に思いを馳せてしまうことでしょう。青春映画がお好きな方にも楽しめる素晴らしいドキュメンタリー映画です。

この貴重な上映機会を是非お見逃しなく!

『ルーキー映画祭 ~新旧監督デビュー特集~』は2019年9月6日(金)から京都みなみ会館にて開催されます。

【連載コラム】『ルーキー映画祭2019@京都みなみ会館』記事一覧はこちら

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