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マーチンスコセッシが愛したサイコスリラー『血を吸うカメラ』考察。再評価に動いたほどの魅力を紐解く|奇想天外映画祭アンダーグラウンドコレクション2020【第4回】

  • Writer :
  • 増田健

奇想天外映画祭アンダーグラウンドコレクション2020【第4回】

映画史に残るカルト映画を集めて実施された「奇想天外映画祭 アンダーグラウンドコレクション 2020」で上映された『血を吸うカメラ』

この作品によりイギリスを代表する名匠、マイケル・パウエルの監督生命は事実上絶たれました

なぜこの作品は、現代では史上最高のホラー映画の1つとされ、イギリス映画史においても重要な映画と認められているのでしょうか

それにはあの巨匠の熱心な働きがありました。それではこの作品が、世界から認められるまでの経緯を紹介しましょう。

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カットされた映画をアメリカで見た人物


イギリスで散々攻撃され、カットされて公開された『血を吸うカメラ』は海を渡り、アメリカで公開されました。

当時のアメリカ映画界には、1934年代に生まれたヘイズ・コードと呼ばれる映画の自主規制が存在していました。しかし1950年代に入ると拘束力は弱くなります。

そんな風潮を見てとった大手スタジオ以外の、独立系映画会社は低予算で刺激の強い、かつてB級映画と呼ばれていた分野の映画製作を開始します。

アクションやバイオレンス にセックスやホラー、SFやモンスターを扱った現在我々がB級映画という言葉で思い浮かべる作品が、続々アメリカで作られました。

この分野で監督・プロデューサーとして活躍したのがB級映画の帝王、ロジャー・コーマンです。

これらのB級映画は深夜興行の映画館や、ドライブインシアターを中心に上映され、新たな映画の観客層を獲得していました。

この流れを見たアルフレッド・ヒッチコック監督は、1960年にメジャースタジオで映画『サイコ』を製作・公開し、批判を浴びながらも映画は大ヒットを記録します。

60年代に入ると、こういった映画を2~3本立てで上映する、”グラインドハウス”と呼ばれる映画館が登場します。

そんな映画と、それが上映された雰囲気を再現しようと試みた、クエンティン・タランティーノ監督作『グラインドハウス』(2007)の元となった映画館でした。

やがてミッドナイトシアター(深夜興行の映画館)、ドライブインシアター、グラインドハウスの需用を満たそうと、様々な国の映画が輸入され始めます。

その作品の1本として1962年、『血を吸うカメラ』もアメリカで上映されたのです。

この映画をニューヨークの怪しげな映画館で見たのが、学生時代のマーティン・スコセッシ監督でした。

『血を吸うカメラ』の再評価に動くスコセッシ監督


彼が最初に見た『血を吸うカメラ』はモノクロ版。しかも現在見れるものとは異なるカット版でした。

それでも学生時代の監督はこの作品に衝撃を覚えます。他の観客も物語のテーマと映像表現の先進性に気付き、この作品を熱狂的に受け入れます。

同世代の仲間と共にスコセッシ監督はこの映画を支持し、事あるごとに本作の魅力を訴えました。

その後スコセッシ監督は、本作のカラー完全版をプリントを所持していた友人を通じ、1970年に見たとされています。

異常犯罪者の孤独な心情に寄り添い、激しい批判に晒された『血を吸うカメラ』。

後に社会の底辺で生きる、もっと一人よがりな狂気を秘めた男に寄り添う、今も見る者の共感を呼ぶ映画『タクシードライバー』(1976)を発表するスコセッシ監督。

『タクシードライバー』のクライマックスの銃撃戦の舞台は、『血を吸うカメラ』の鮮烈な赤に彩られた映像を意識が見てとれます。

1978年、本作の完全版を公開しようとしていた会社に、自らの資金を提供したスコセッシ監督。

その結果1979年ニューヨーク映画祭やアート系に映画館で、『血を吸うカメラ』の完全版(今回上映されたバージョン)が上映されます。

これを見たアメリカ・フランス・イタリアの評論家が、『血を吸うカメラ』を高く評価しました。

こうして本作の再評価が始まり、現在の評価が定着します。同時にマイケル・パウエル監督の名誉回復も始まりましたが、映画界から追放から長い年月が経っていました。

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スコセッシ監督も批判の嵐に晒された


様々な色彩を駆使した映像を通じ、異常な世界を表現したマイケル・パウエル監督。本作の物語やテーマに関しては、脚本のレオ・マークスに一任していました。

後に『最後の誘惑』(1988)で人間、イエス・キリストを描いたマーティン・スコセッシ監督。

この映画でキリストを誘惑する悪魔の声の役に『血を吸うカメラ』の脚本を書いたレオ・マークスを起用します。

キリストの人間的側面を描いた『最後の誘惑』は、『血を吸うカメラ』以上の批判と攻撃を受けます。

微妙なテーマだけに、原作が出版された時点で問題視されており、映画化が決まった時点で既に大きな論争を巻き起こしていました。

一部宗教関係者からの好意的意見の表明もありましたが、公開が始まると様々な宗教団体の上映禁止運動や、映画館での発砲・放火事件など世界で様々な騒動が起きます。

この問題作にレオ・マークス(この方は俳優ではありません)を起用する。これはスコセッシ監督の映画に浴びせられた批判への、皮肉を込めた決意表明と受け取れます。

スコセッシ監督もマイケル・パウエル監督も、批判されても人間を描くことに、大きな関心を持っている事は間違いありません。

まとめ


時代を先取りしたサイコキラー映画『血を吸うカメラ』。現在見ると内向的でオタク気質な人間の恋を描く、ロマンティックな面が強く感じられます。

カメラを通してしか女性を愛せず、撮影し記録することに執着する哀れな主人公。

16㎜カメラを所持する特殊な人間ですが、何でもスマホで撮影しスマホを通して人とつながる現代では、どこにでもいる人物像に思えます。

そんな彼を愛してくれる女性に出会いますが、主人公の執着がその恋を悲劇に終わせます。その姿に若きスコセッシ監督も共感を覚えたのでしょう。

主人公を破滅させたのは父親ですが、実はフィルムに登場する父親は、マイケル・パウエル監督本人。後の映画と彼の運命を思うと、皮肉な話にも思えます。

物語やテーマに関して、脚本のレオ・マークスに委ねたパウエル監督。実はこの映画、実際の殺人事件をモデルにしたと言われています。

それはアメリカでカメラマンと称し犠牲者をモデルとして呼び出し、ボンテージ写真を撮り暴行、撮影し殺害する行為を繰り返した、ハーヴェイ・グラットマンの犯罪でした。

1958年に逮捕、翌年に処刑されたグラットマン。彼はアメリカのボンテージ写真の有名なモデル、ベティ・ペイジの写真に影響を受け、凶行におよんだと言われています。

この事件をモデルにし、「イギリスのベティ・ペイジ」ことパメラ・グリーンを出演させた『血を吸うカメラ』。

実在の犯罪を映画化するなど何事だ、と良識を訴える者の反発が生じるのも当然です。しかし犯罪を犯す側にも、様々な人間像やドラマがあるのも事実。

『最後の誘惑』の後、スコセッシ監督は実在のギャングをモデルにした『グッドフェローズ』(1990)を手掛け、その後も”実録物”映画を発表します。

『血を吸うカメラ』と、マイケル・パウエル監督を敬愛したスコセッシ監督。それは彼の作る映画から確認できます。

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