Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/07/10
Update

映画『ポラロイド』感想と評価。ラース・クレヴバーグ監督が紡ぐ上映中止となった正統派ホラー|SF恐怖映画という名の観覧車57

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile057

伝説的なスラッシャー映画の最新作『ハロウィン』(2019)や、全世界で人気を持つホラー小説「IT」の再映画化第2弾など、往年の名作映画のリメイクやリブートが流行る映画業界。

現代のCGや撮影技術で蘇るそれらの作品は決して質の低いものではなく、旧作ファンも新規顧客も良い意味で驚かされる作品ばかりですが、完全新規の作品もまだまだエネルギーに満ちています。

今回のコラムでは、リブート版『チャイルド・プレイ』(2019)を製作したラース・クレヴバーグ監督作品『ポラロイド』(2019)が放つ、古き良き「ホラー」映画の魅力をご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『ポラロイド』の作品情報


(C)2019 DPC SUB 1A1, LLC

【日本公開】
2019年(アメリカ映画)

【原題】
Polaroid

【監督】
ラース・クレヴバーグ

【キャスト】
キャスリン・プレスコット、グレイス・ザブリスキー、タイラー・ヤング、サマンサ・ローガン、ハビエル・ボテット、ケイティ・スティーブンス、マデリン・ペッチ、プリシラ・キンタナ、キーナン・トレイシー、ミッチ・ピレッジ

映画『ポラロイド』のあらすじ


(C)2019 DPC SUB 1A1, LLC

過去の傷を隠すためいつもスカーフを巻く女子高生のバード(キャスリン・プレスコット)は、ある日バイト先の骨董品屋で古びたポラロイドカメラを手にします。

年代物かつ多くの巨匠が愛したカメラであることに興奮するバードは、日常的にそのカメラを持ち歩くようになり、ハロウィンパーティにも持参し友人たちの記念写真を撮影。

しかし、被写体となった友人が1人また1人と怪死し、そのポラロイドカメラに異常なものを感じ始め…。

「ノスタルジー」を体感できる2つの要素


(C)2019 DPC SUB 1A1, LLC

本作は完全新規で製作されたホラー映画であり、時代設定も現代でありながらも、全体を通しどこか懐かしさを感じるような作りになっています。

自分が体験したことも無い文化や物語にも関わらず、どの部分から「ノスタルジー」を感じることが出来るのか。

そんな本作が放つ魅力の1つを解説していきます。

物語の主軸となる「ポラロイドカメラ」


(C)2019 DPC SUB 1A1, LLC

シャッターを切った直後に現像が始まり、およそ数分後には撮った写真を手にできるインスタントカメラ。

後にポラロイド社を創設するエドウィン・ハーバート・ランドが発明した現代の形のインスタントカメラの普及から名前を取り、徐々にインスタントカメラは「ポラロイドカメラ」と呼ばれるようになります。

技術の発展により撮影直後の写真をデータとして残せるデジタルカメラに需要を奪われたものの、ポラロイドカメラは未だ根強い人気を持つカメラの1種と言えます。

本作に登場する「SX-70」と言う機種は、ポラロイド社が発売した折り畳み式のインスタントカメラであり、様々な改良を受けたバージョンが販売されるほどに愛された機種。

骨董品と言えるものでありながらも未だに実用も出来る「SX-70」は、そのデザインと機能美から主人公のバードのように「インスタントカメラ全盛期」の人間でない若者も惹きつける「ノスタルジー」を感じさせる魅力があるのです。

「呪いのアイテム」を主軸とした「ミステリー」


(C)2019 DPC SUB 1A1, LLC

主人公バードは呪われた「ポラロイドカメラ」を入手してしまったことから、カメラに宿る「呪い」に襲われることになります。

完全新作の映画でありながら、どこか懐かしさを感じさせるこの物語展開。

日本では「呪われたアイテム」を主軸に、その「呪い」の根幹を探っていく「ホラーミステリー」は定番中の定番とも言え、『リング』(1998)や『残穢 -住んではいけない部屋-』(2016)など、このジャンルから多くの名作が生まれています。

本作ではそんな「ホラー」と「ミステリー」を融合したジャンルの古き良き展開を進んでいく事で、「ポラロイドカメラ」と言う「ノスタルジー」を感じるアイテムをより際立たさせていました。

追い詰められていく「恐怖」を真正面から描く正統派ホラー


(C)2019 DPC SUB 1A1, LLC

本作の最大の魅力は「ホラー」と言うジャンルに正面から向き合った正統派な恐怖演出にあります。

「ポラロイドカメラ」で撮った人間が次から次へと怪死し、写真の中で「次はお前だ」と指名される。誰も自身の発見を信じてくれない状況で、出口の見えない「生き残りの道」を模索していくバード。

1つの街の全体を舞台にした物語でありながら、「呪い」に追い詰められていく展開によって、まるで箱の中に閉じ込められたような閉塞感が漂う本作。

あっと言わせる驚きの展開や、自らの非を認め「呪い」に立ち向かうために再起する魅力的な主人公たちの活躍にハラハラドキドキすること間違いなしの良質なホラー映画です。

まとめ


(C)2019 DPC SUB 1A1, LLC

1990年代から2000年代にかけて、日本でも「心霊写真」はテレビ番組で定期的に取り上げられるなど、1つのブームとなっていました。

しかし、2000年代後半に入るとデジタルカメラが普及し、技術面上で発生していた「心霊写真」の数はめっきりと減り、カメラや写真が「恐怖」の対象として忘れられ始めるようになりました。

ですが、「ポラロイドカメラ」による死の連鎖を描いた本作『ポラロイド』の鑑賞後には、きっとあの日の恐怖を思い浮かべることになるはずです。

ラース・クレヴバーグ監督による『ポラロイド』は7月19日(金)より全国でロードショー。

ぜひ劇場でこの「恐怖」を感じてみてください。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile058では、本国で社会現象になったとさえされる大人気ドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」シーズン3をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。

7月17日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら


関連記事

連載コラム

映画『血筋』感想とレビュー評価。消息不明の父親と再会した息子の愛憎の先にあるもの|だからドキュメンタリー映画は面白い36

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第36回 音信不通だった父親と18年ぶりに再会した青年が知る、切っても切れない親子の血筋。 今回取り上げるのは、2020年3月14日(土)より新潟シネ・ …

連載コラム

シンエヴァンゲリオン考察解説|ロング綾波レイ×アドバンスド綾波シリーズ×オップファータイプの真実と魂の“行方”【終わりとシンの狭間で11】

連載コラム『終わりとシンの狭間で』第11回 1995~96年に放送され社会現象を巻き起こしたテレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』をリビルド(再構築)し、全4部作に渡って新たな物語と結末を描こうとした …

連載コラム

映画『アントラーズ』ネタバレあらすじ感想と結末の解説評価。ホラーの題材となった“ウェンディゴ”を考察しながら“町を包み込む恐怖”を紐解く|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー65

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第65回 気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第65回は、Disney …

連載コラム

2020年映画ランキングベスト5|大人の恋愛・夫婦映画たちに三賞を贈る!《シネマダイバー:森田悠介選》

2020年の映画おすすめランキングベスト5 選者:シネマダイバー森田悠介 年半ばに劇場が再開してからしばらく経ちましたが、感染症対策で外出する機会は減り、世評を知るための興行収入も『鬼滅の刃』の独走状 …

連載コラム

【ネタバレ】スパイダーヘッド|あらすじ結末ラストと解説評価。サイコパスをクリス・ヘムズワースが演じるSF近未来の刑務所スリラー|Netflix映画おすすめ102

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第102回 未承認の医薬品や医療機器を、被験者の同意の上で人体を使った臨床試験を行う「治験」。 通常医療での回復が困難なケースで行われる試験 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学