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Entry 2019/12/27
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映画『テッドバンディ』ネタバレ感想と評価考察。ザックエフロン演じる実際の殺人鬼が観客を騙し魅了する|サスペンスの神様の鼓動26

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

連載コラム「サスペンスの神様の鼓動」第26回

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

前回『KILLERS キラーズ 10人の殺し屋たち』を、ご紹介すると予告させていただきましたが、今回は予告内容を変更させていただきまして、『KILLERS キラーズ 10人の殺し屋たち』は、また別のタイミングで、ご紹介させていただきます。

今回ご紹介する作品は、シリアルキラーの語源となった殺人鬼、テッド・バンディを、長年の恋人の目線で描いたサスペンス映画『テッド・バンディ』です。

1970年代にアメリカで、30人以上を殺害したと言われる、高い知性とカリスマ性を持つテッド・バンディ。

テッドの長年の恋人で、テッドとの6年間を綴った、エリザベス・クレプファーの「The Phantom Prince: My Life With Ted Bundy(原題)」を原作に、Netflixのドキュメンタリー『殺人鬼との対談:テッド・バンディの場合』も手掛けた、ジョー・バリンジャー監督が映像化しました。

実話を元にした本作を、今回はサスペンス映画としての手法に特化して、作品の持つ魅力をご紹介します。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

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映画『テッド・バンディ』のあらすじ


(C)2018 Wicked Nevada, LLC
1969年のワシントン州、シアトル。

シングルマザーのリズは、バーで偶然出会った男性、テッド・バンディと仲良くなり、一緒にリズの自宅へ帰ります。

次の日の朝、テッドはリズより先に起床し、リズの幼い娘、モリーの面倒を見ながら、朝食を作っていました。

朝食を作るテッドの姿を見たリズは、恋に落ちます。

リズは、テッドとモリーと3人で幸せな生活を送っていました。

リズは、テッドと一緒に、自宅で飼う犬を探しに出かけますが、そこで、テッドの元恋人であるキャロルと出会います。

キャロルは、リズの前でテッドへの未練を口にしており、リズはキャロルに嫌な印象を抱きます。

自宅で飼う犬を、テッドと一緒に選んでいたリズですが、犬がテッドを前にすると、怯えてしまう所を目の当たりにします。

ある晩、車を運転していたテッドは、信号無視をした事で、警察の職務質問を受けます。

その際に、車の後部座席に乗せていた道具が怪しまれ、警察に逮捕されてしまいます。

テッドがかけられた容疑は、マレーで起きた誘拐未遂事件でしたが、被害者の証言が曖昧である事から、テッドは「警察が証言を誘導した」と、徹底的に戦う姿勢を見せます。

ですが、その前年にも誘拐事件が起きており、犯人が私用した車の車種が、テッドの愛車であるフォルクスワーゲンであった事と、新聞に掲載された犯人の写真が、テッドに似ていた事から、テッドは連続誘拐事件の容疑者とされます。

しかし、テッドのフォルクスワーゲンは、犯行に使われた車と色が違った事から、テッドは身の潔白を主張します。

突然、テッドが連続誘拐事件の容疑者になった事に、戸惑うリズ。

そこへ、コロラド州の刑事から連絡が入ります。

刑事は、コロラド州で未解決になっている事件に、テッドが関わっている可能性がある事を伝えますが、リズは「何も知らない」と答えて電話を切ります。

ユタ州立刑務所に収監されていたテッドの所にも、コロラド州の刑事が訪ねてきます。

刑事は「コロラド州に行った事があるか?」と、テッドに訪ねますが、テッドは「無い」と答えます。

ですが、テッドの証言が嘘だった事が判明し、テッドの担当弁護士は、心象が悪くなった事を理由に、担当を降りてしまいます。

弁護士は、テッドに担当を辞任した事を伝えた後「近隣の州で発生した未解決事件が、全て君のせいになる可能性がある」と忠告します。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『テッド・バンディ』ネタバレ・結末の記載がございます。『テッド・バンディ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

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(C)2018 Wicked Nevada, LLC
コロラド州の裁判所に移送されたテッドは、自身が共同弁護士として裁判を進める事が認められ、裁判所内の法律図書室への入室を許可されます。

テッドは、法律図書室から、リズへ何度も電話をし、自身が無実である事を主張しますが、リズは動揺し、テッドの電話を切ってしまいます。

そんなリズの様子を心配した、同僚のジェリーは、リズを冗談で和ませるようになり、2人は親密な関係になっていきます。

コロラド州での裁判の休廷中、テッドは法律図書室の窓から脱走し逃亡、その事件が大々的に報じられます。

6日後に、裁判所近くの山岳地帯で逮捕されたテッドには、脱走した罪も加算されてしまい、リズは絶望します。

裁判が再開すれば、テッドの有罪は間違いない状況でしたが、コロラド州の刑務所に収監されたテッドは、独房の天井に穴を開けて、再び脱走します。

脱走したテッドは、変装して街に溶け込みます。

リズは、再びテッドが脱走した事を知り、体調を崩すようになります。

テッドが脱走して数日後、フロリダ州立大の女子寮で、殺人事件が発生した事で、リズは更に塞ぎ込むようになります。

そこへ、コロラド州の刑事が訪ねてきて「彼の犯行の残虐性を知ってほしい」と、テッドの犠牲になったと思われる、女性の写真が入った封筒をリズに渡します。

リズは写真を受け取りますが、封筒の中の写真を見る事が出来ませんでした。

フロリダ州立大で発生した、女子寮での事件から数日後、盗難車で街を走っていたテッドは、警察に職務質問を受け逮捕されます。

フロリダ州の刑務所に収監されたテッドは、担当となった刑事から「お前はフロリダが仕留める」と言われた事から「警察の人気取りの為に、自分が利用された」とマスコミに主張します。

テッドには5人の国選弁護人が付き、全米が注目する裁判となった事から、裁判の様子が生中継されるという、前代未聞の事態に発展します。

テッドはキャロルを利用し、裁判の不当性を主張させ、世論の同情を煽ろうとします。

容姿端麗で高い知性とカリスマ性を持つテッドは、女性の支持を得た事から、裁判の傍聴席は、テッドを無実と信じる女性たちで埋まります。

裁判の争点になったのは、現場に残された死体の歯形と、テッドの歯形が一致したという点です。

テッドは、歯形の検証方法に異議を唱えますが、採用されない事に苛立ちを覚えます。

国選弁護人は、テッドに罪を認める事を勧めますが、あくまで自分の無実を主張するテッドは、国選弁護人を全員解雇し、自身が弁護士として法廷で戦うようになります。

裁判の様子を見ていたリズは、ジェリーにある告白をします。

それは、テッドが信号無視で逮捕された晩に、警察に電話をしたのは自分である事でした。

新聞に掲載された、誘拐犯の写真を見たリズは、警察に「少し似ている」と連絡していたのです。

テッドの無実を信じるようになったリズは、自身の通報が、テッドの人生を狂わせた事を後悔します。

一方、テッドは、キャロルが自分の子供を身籠った事を知りますが、リズへの愛情が消えていない事を、キャロルに気付かれます。

そして判決の日。

テッドは、死刑判決を言い渡されます。

裁判をテッドに狂わされ、それまで苛ついた様子を見せていた判事は「君が法廷で活躍する姿を見たかった、人間性の浪費は、この裁判所にとって悲劇とも言える」と言葉をかけ、テッドは涙を浮かべます。

テッドの死刑判決から10年後、リズは刑務所に収監されているテッドを訪ねます。

リズが面会に来た事を喜ぶテッドでしたが、リズは10年前にコロラド州の刑事から渡された写真を見せて「全ての犯行は、あなたの仕業だ。確信した」と伝えます。

写真には、頭を切断された女性の遺体が写っており、リズは「首をどうしたのか?」と尋ねます。

当初は「何も知らない」と語っていたテッドですが、リズの追求に観念したように、面会者を遮断していた窓ガラスに、指である文字を書きます。

その文字を見たリズは、ショックを受けた様子で面会室から退室し、刑事が面会室に入ってきます。

窓ガラスには「弓のこぎり」と書かれていましたが、テッドはすぐに、その文字を消し去ります。

サスペンスを構築する要素①「真実が観客に見えない、異色の演出」


(C)2018 Wicked Nevada, LLC
『テッド・バンディ』は、実在した殺人鬼、テッド・バンディの事件を元にした作品です。

テッドは映画本編で描かれた事件の他、30人以上の女性を惨殺したと言われています。

本作の特徴は、テッドの長年の恋人である、リズの視点で進行していく事です。

最初は、信号無視で逮捕されたテッドが、さまざまな証拠から、連続誘拐犯の容疑者とされますが、テッドはリズに「全てが捏造だ」と主張します。

観客には、テッドの情報は、テッド自身が語る話の内容からでしか得る事が出来ません。

また、テッドを追いかける捜査官の目線もない為、警察側の事情が全く見えません。

観客は、裁判を傍観するしかないリズの視点でしか、この物語を見る事が出来ないのです。

その為、次第に無実を主張するテッドの方が「正しいのでは?」と、観客も真実が分からなくなる構成となっています。

これは、テッドの裁判が行われた当時も、ハッキリとした目撃証言が無かった事で、テッド側の主張を信じる人がいたという事実を、作品に反映させています。

テッドが実際に犯行に及ぶ、残虐なシーンが作中に無い事も、テッドが冤罪である可能性を、観客が抱いてしまう効果に繋がっています。

殺人鬼を扱った映画としては、かなり異色の演出といえるでしょう。

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サスペンスを構築する要素②「劇場化する白熱の裁判」


(C)2018 Wicked Nevada, LLC
テッド・バンディは、残虐な殺人鬼というだけでなく、美しい容姿と高い知性を兼ね備え、魅力的なカリスマ性を持っていました。

そのテッドの才能が発揮されるのは、中盤のフロリダでの裁判になります。

元恋人のキャロルすらも利用し、巧みに世論を誘導、自分で弁護を行い、判事を翻弄し苛つかせるテッドの姿は華麗ですらあります。

ですが、テッドがその才能を活かせば活かすほど、作品序盤で観客が抱いた「もしかして冤罪かも」という印象は、徐々に薄れていきます。

それだけ、中盤のテッドは、ある意味異常さを感じるようになるからです。

作品序盤では、テッドはユーモアのセンスを持った、優しい男性という描かれ方をしている事から、徐々に現れる二面性に、ある種の恐怖を感じるようになります。

テッドが、裁判所で行った弁護の様子は、全て実際に残されている映像を完全に再現しているもので、映画の最後に、テッドの実際の映像が流れます。

主演のザック・エフロンが、完璧にテッドを再現している事が分かり「殺人鬼を美化する事に葛藤を抱いていた」というザック・エフロンの、演技に込めた覚悟を感じます。

サスペンスを構築する要素③「テッドが最後に残した文字」


(C)2018 Wicked Nevada, LLC
観客は、テッド・バンディという人間の本性に、終盤に触れる事になります。

それは、テッドがガラス窓に描いた「弓のこぎり」という文字がキッカケになります。

「弓のこぎり」が何を示すのかは、本作のラストにヒントとなる映像が流れますので、そこから想像するしかありません。

ですが、この時点になると、誰もが「テッド・バンディは殺人鬼」と認識するでしょう。

本作は、リズの視点で進行する事は前述しましたが、殺人鬼と長い時間を過ごし、最愛の娘も近づけていたリズの恐怖は、想像を絶するものとなります。

テッド・バンディは、序盤の「優しい男性」から、中盤の展開で「信用ならない奴」に印象が変化し、最後は「殺人鬼」として、観客にとって、テッドは恐怖すら抱く存在となります。

容姿や、表面的な人間性で判断する、思い込みの危険さ。

これこそが、監督のジョー・バリンジャーが、本作に込めた狙いとなっています。

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まとめ


(C)2018 Wicked Nevada, LLC
実在した殺人鬼を描いた本作には、テッド・バンディという人間を「美化している」という批判もあるようです。

しかし、作品を実際に鑑賞してみると分かるのは、身近にいる、最も信頼していた人間に、裏切られる恐怖です。

実際の殺戮シーンが無いからこそ、テッドが最終的に見せる本性に寒気すら感じ、テッドは美化された存在ではなく、恐怖の対象である事が分かります。

鑑賞している観客すらも煙に巻き、真実をぼかしてくるテッドの恐怖を、一度体験してみて下さい。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに。



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