連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第129回
今回ご紹介する作品は、成島出監督が手がけ、役所広司と吉沢亮が映画初共演を果たした映画『ファミリア』です。
国籍や育った環境、また話す言葉などの違い、さらには血の繋がりを超えて、強い絆で“家族”を作ろうとする人々を描き、国際色豊かなオリジナル作品となっています。
キーマンは在日ブラジル人とも言える本作では、オーディションで出演が決まった演技経験のない在日ブラジル人の若い俳優たちが、フレッシュな演技を披露しています。
映画『ファミリア』は、2023年1月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開。
映画公開に先駆けて、『ファミリア』をご紹介します。
映画『ファミリア』の作品情報
【日本公開】
2023年(日本映画)
【脚本】
いながききよたか
【監督】
成島出
【出演】
役所広司、吉沢亮、サガエルカス、ワケドファジレ、中原丈雄、室井滋、アリまらい果、シマダアラン、スミダグスタボ、松重豊、MIYAVI、佐藤浩市
【概要】
『ファミリア』は、『八日目の蝉』(2011)『ソロモンの偽証』2部作(2015)、『いのちの停車場』(2021)『グッドバイ』(2020)など、人間ドラマの名手として知られる成島監督が手がけました。
主演は約10年ぶりに成島作品に参加した、『すばらしき世界』(2021)、『峠 最後のサムライ』(2022)の役所広司。役所の息子・学役は、『東京リベンジャーズ』(2020)や『キングダム2』(2022)の吉沢亮。役所広司と吉沢亮は初共演です。
在日ブラジル人青年・マルコスと彼の恋人・エリカには、サガエルカスとワケドファジレ。松重豊や室井滋、佐藤浩市といったベテラン勢も脇を固めます。
映画『ファミリア』のあらすじ
山里に一人暮らす陶器職人の神谷誠治。
妻に先立たれ仕事一筋の誠治のもとに、アルジェリアに仕事で赴任している一人息子の学が婚約者ナディアを連れて一時帰国します。
結婚を機に会社を辞め、焼き物を継ぐと宣言した学に、誠治は生活するのが大変と反対します。
一方、誠治が住む隣町の団地には、在日ブラジル人たちが大勢住んでいました。
ある日、在日ブラジル人青年のマルコスは、半グレに追われ、偶然近くにあった誠治の家へ逃げ込みました。
頑なな態度のマルコスを、誠治と帰省中の学とナディアは傷の手当をし、助けました。
マルコスは、そんな誠治に亡き父の面影を重ね、焼き物の仕事に興味を持つようになります。
そんな中、アルジェリアに戻った学とナディアをある悲劇が襲いました。
映画『ファミリア』の感想と評価
‟家族”のあるべき姿
『ファミリア』の主人公は、山里でひっそりと暮らしている陶器職人・誠治です。
誠治は施設で育ち親の愛を知りません。若い頃は暴れ者だった誠治を救ったのは、優しい妻と‟焼き物”でした。
早くに妻を亡くした誠治ですが、一人息子の学は大学を出て就職し海外で活躍しています。そんな彼が妻として選んだのは、赴任先のアルジェリアで戦争孤児となったナディアでした。
家族との縁が薄く、国籍もまったく違う2人ですが、お互いを思いやる気持ちだけで‟家族”を作ろうとし、ほのぼのとしたその愛に感動すら覚えます。
また、血を分けた親子でも本心をなかなか言えないものですが、作中では焼き物を手伝う学にそれとなくアドバイスする誠治の姿に、父と息子ならではの愛情が現れています。
同じ血筋で一つの屋根で生活し、寝食を共にする人たちだけが‟家族”ではありません。
そのことを家族の愛を知らないで育った誠治は、痛いほどわかり、喜んで彼らを受け入れようとするのですが……。
血を分けた家族を引き裂く出来事に心を痛める誠治の葛藤。役所広司が絶大な存在感で魅せています。
本作が掲げる在日ブラジル人問題
愛知県淑戸市の窯棄の家に生まれた、脚本家いながききよたかのオリジナルストーリーを映画化した映画『ファミリア』。
いながききよたかは、隣の豊岡市に在日ブラジル人が多く住む保見団地があるという環境で育ち、自身にとって身近な題材や実際に起きた事件を取り入れて、本作を構想しました。
作中誠治たちが知り合う在日ブラジル人のマルコスとエリカの日本に来てからの体験が、実際に存在する在日ブラジル人の現状とも言えます。
ブラジル人たちが暮らす巨大団地のシーンは、モデルとなった豊田市の保見団地で撮影されたそうです。
そのせいか、在日ブラジル人の持つ陽気さや健気さ、そして日本人から受ける偏見の数々もにじみ出るリアリティあふれる作品となりました。
「日本人にもなれない、ブラジル人でもない」と誠治に詰め寄り、胸の内を吐露するマルコス。
辛い現実の日本での生活に苦しむ在日ブラジル人の心境を表す言葉が、胸に鋭く突き刺さります。
ルーキーの俳優たちの演技は、純粋に在日という立場を表現するものであり、その素直な演技から在日ブラジル人問題の深刻さが伝わってきます。
まとめ
血の繋がりも異なる育った環境も気にせずに、強い絆で新しい家族を作ろうとした神谷誠治と学の親子の物語『ファミリア』は、国際色豊かなオリジナル作品。
神谷親子の家族の在り方に、誠治が知り合った在日ブラジル人たちが抱える問題も絡ませて、生き辛い社会の問題点をついています。
また、主役の誠治は陶芸家です。たびたび登場する彼の薪窯は、ニュージー ランド出身で沖縄在住の陶芸家ポール・ロリマーが本作のために造った穴窯だといいます。
陶芸ファンならずとも、この本格的な穴窯にも興味をそそられます。
映画『ファミリア』は、2023年1月6日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開。。
星野しげみプロフィール
滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。
時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。