Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』感想評価とあらすじ解説。劇場アニメとして飯豊まりえと鈴鹿央士が声優で“青春の彩を体現”する|映画という星空を知るひとよ110

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第110回

第13回小学館ライトノベル大賞のガガガ賞と審査員特別賞のW受賞を果たした八目迷の同名小説を原作にした、アニメーション映画『夏へのトンネル、さよならの出口』。

心に秘めた想いを抱え、欲しいものが手に入るという不思議なトンネルに足を踏み入れた少年少女のひと夏の物語を描いています。

映像表現に定評のあるアニメーション監督の田口智久が手がけ、制作は『映画大好きポンポさん』(2021)などを手がけるCLAP、主人公たちの声は、鈴鹿央士、飯豊まりえが担当します。

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』は、2022年9月9日(金)全国公開です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』の作品情報


(C)2022 八目迷・小学館/映画『夏へのトンネル、さよならの出口』製作委員会

【公開】
2022年公開(日本映画)

【原作】
八目迷『夏へのトンネル、さよならの出口』(小学館「ガガガ文庫」刊)

【キャラクター原案・原作イラスト】
くっか

【監督・脚本】
田口智久

【編集】
三嶋章紀

【声の出演】
鈴鹿央士、飯豊まりえ、畠中祐、小宮有紗、照井春佳、小山力也、小林星蘭

【作品概要】
本作の原作は、第13回小学館ライトノベル大賞のガガガ賞と審査員特別賞のW受賞を果たした八目迷の『夏へのトンネル、さよならの出口』(小学館「ガガガ文庫」刊)。

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』の監督を務めるのは、『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』(2020)などでも、映像表現に定評のあるアニメーション監督の田口智久

ドラマティックなイラストレーションで知られる‟くっか”がキャラクターの原案を手がけ、『映画大好きポンポさん』(2021)などを手がける新進気鋭の制作会社CLAPが製作しました。

鈴鹿央士と飯豊まりえというフレッシュコンビが、主人公たちの声を担当します。

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』のあらすじ


(C)2022 八目迷・小学館/映画『夏へのトンネル、さよならの出口』製作委員会

「そのトンネルに入ったら、欲しいものがなんでも手に入るんだって」「ただし、それと引き換えに……!!」

謎めいた伝説を持つトンネルは、「ウラシマトンネル」と呼ばれていました。

高校生の姫野カオルはある日海の見える電車の駅で雨宿りをしている、見知らぬ少女を見かけます。

カオルは持っていた傘を彼女に貸しました。彼女は、傘を返したいからと言い、2人は連絡先を交換します。

「姫野カオル」「花城あんず」。お互いを呼び合い、しっかりと相手を覚えました。

次の日、カオルのクラスに転校生として、あんずがやってきました。さっそくに、あんずはクラスの女子とトラブルを起こしました。

あんずのクラスに溶け込もうとしない強い態度に、カオルは驚きます。

学校からの帰り道、カオルは沼地の崖にぽっかりとあいた不思議なトンネルを見つけました。

そこへ足を踏み入れたカオルは不思議な体験をし、そのトンネルこそが「ウラシマトンネル」だということに気がつきます。

そして、なぜかカオルの後をつけたきたあんずに、トンネルの存在を知られてしまいました。

姫野カオルには過去の事故が心の傷として残っています。

花城あんずは、ピシっと芯の通った態度の裏で自身の持つ将来への理想像との違いに悩んでいます。

2人は不思議なトンネルを調査し、欲しいものを手に入れるために協力関係を結ぶことにしました。

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』の感想と評価


(C)2022 八目迷・小学館/映画『夏へのトンネル、さよならの出口』製作委員会

トンネルの入口と出口

そこに入ったら何でも願いごとが叶うという、不思議な「ウラシマトンネル」。

願いごとがあるのなら絶対に訪ねてみたくなるトンネルですが、その名前から想像して、何かを失うのではと不安に思うのではないでしょうか。

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』では、そんな不安感通りのストーリーが展開します。

トンネルに必ず存在する入口と出口。本作では出口はでてきませんが、トンネルの持つ異空間を繋ぐ神秘性をうまく利用し、妖しくも幻想的なトンネル内の世界を描き出しています

過去の出来事で心に傷を持つカオルと将来の夢への不安を抱えるあんずは、ある意味似た者同士。

それぞれに欲しいものがある2人は、ウラシマトンネルを調査して欲しいものをゲットしようとします。

手に入れようとしてもなかなかできないものを手にしようとすれば、見返りとして何かを失うかもしれません。

不思議なウラシマトンネルは、人間の心を試しているかのようです。

謎を秘めたファンタジックな映像美


(C)2022 八目迷・小学館/映画『夏へのトンネル、さよならの出口』製作委員会

光の量にこだわって製作されたという本作は、その映像美にも注目です。

物語全体に漂う不思議感は、暗いはずのトンネル内の妖艶な美しさにも描かれています。

萌えるような赤を基調とした木々が立ち並ぶトンネルの中で、何が起こっているのかと思えてくることでしょう。

片や、トンネルの外の世界は真夏です。

抜けるような青空と光り輝く海、緑が映える森には、生命力が満ち溢れています。

本作では、正反対と言える物語の背景を見事な色彩で美しく表しました

ミステリアスな映像美は、摩訶不思議な物語へのナビゲーターの役目も果たしています

まとめ


(C)2022 八目迷・小学館/映画『夏へのトンネル、さよならの出口』製作委員会

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』をご紹介しました。

欲しいものを手に入れるために共同戦線を結んだカオルとあんず。不思議なトンネルに足を踏み入れた2人のひと夏の物語。

去り行く夏を惜しむような、主人公たちが体験するエモい青春ストーリーでした。

あちらとこちらを結ぶトンネル内の映像をはじめ、光の量にこだわって製作されたという映像の美しさを、是非お楽しみください。

映画『夏へのトンネル、さよならの出口』は、2022年9月9日(金)全国公開です。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

星野しげみプロフィール

滋賀県出身の元陸上自衛官。現役時代にはイベントPRなど広報の仕事に携わる。退職後、専業主婦を経て以前から好きだった「書くこと」を追求。2020年よりCinemarcheでの記事執筆・編集業を開始し現在に至る。

時間を見つけて勤しむ読書は年間100冊前後。好きな小説が映画化されるとすぐに観に行き、映像となった活字の世界を楽しむ。

関連記事

連載コラム

『帝都物語』ほか日本SF大賞受賞作品が与えた社会的影響と関係性とは|SF恐怖映画という名の観覧車10

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile010 小説『太陽の塔』でデビューし、2017年には『夜は短し歩けよ乙女』が劇場アニメとして製作公開されるなど、独特の語り口や世界観が根強いファ …

連載コラム

『Her/世界でひとつの彼女』あらすじと考察 。なぜ彼らは孤独なのか|偏愛洋画劇場11

連載コラム「偏愛洋画劇場」第11幕 テクノロジーが発達した現代、社会には欠かすことのできない存在、人工知能。私たちをサポートしてくれる実態のない“彼ら”と、肉体のある人間同士のような関係を作ることはで …

連載コラム

映画『3つの鍵』あらすじ感想と解説評価。モレッティが歪んでいく‟三家族の素顔”を巧みに描き出す|映画という星空を知るひとよ109

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第109回 イタリアが世界に誇る名匠ナンニ・モレッティ監督待望の最新作『3つの鍵』。 第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式上映され、「モレッティの大 …

連載コラム

映画『355』感想解説と評価レビュー。強い女性のスパイアクションをジェシカ・チャステインらドリームチームで描き出す|映画という星空を知るひとよ88

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第88回 2022年2月4日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショーされる映画『355』。 『X-MEN:ダーク・フェニックス』のサイモン・キンバー …

連載コラム

実写『時をかける少女』ネタバレあり感想解説と内容評価。大林宣彦のノスタルジックなSF映画の魅力と特撮技術を読み解く|邦画特撮大全51

連載コラム「邦画特撮大全」第51章 目黒シネマにて2019年6月22日から6月28日までの7日間、“大林宣彦デラックス~キネマの玉手箱~”が行われます。 この特集上映は『フィルムメーカーズ 大林宣彦』 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学