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Entry 2023/12/02
Update

映画『悪は存在しない』あらすじ感想と評価解説。濱口竜介監督×石橋英子のコラボ作がプレミア上映!広島トークショーリポートも|広島国際映画祭2023リポート2

  • Writer :
  • 桂伸也

広島国際映画祭2023・特別招待作品『悪は存在しない』

2009年に開催された「ダマー映画祭inヒロシマ」を前身として誕生した「広島国際映画祭」は、世界的にも注目されている日本の都市・広島で「ポジティブな力を持つ作品を、世界から集めた映画祭。」というポリシーを掲げ毎年行われている映画祭です。

「ダマー映画祭inヒロシマ」の開催より、2023年は15周年という節目を迎えました。同映画祭。今回は監督・俳優など関係者陣のトークイベントの模様を、コラムにてリポートします。


(C)2023 NEOPA/Fictive

本コラムでは、映画祭に登壇した監督・俳優・作品関係者らのトークイベントの模様を、作品情報とともにリポートしていきます。

第2回は、濱口竜介監督作品『悪は存在しない』。イベントでは濱口監督とともに、本作で音楽を担当した音楽家・石橋英子、作品に出演した大美賀均・西川玲・小坂竜士・渋谷采郁ら俳優陣が登壇しました。

【連載コラム】「広島国際映画祭2023リポート」記事一覧はこちら

映画『悪は存在しない』の作品情報


(C)2023 NEOPA/Fictive

【日本公開】
2024年(日本映画)

【監督】
濱口竜介

【音楽】
石橋英子

【キャスト】
大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁 ほか

【作品概要】
自然豊かな長野県水挽町で暮らす人々が、ある日突然持ち上がったグランピングの設営計画で発生するとされる問題に向き合う姿を、表現力も豊かに描いたヒューマンドラマ。

監督は、前作『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞・国際長編映画賞とカンヌ国際映画祭・脚本賞を受賞した濱口竜介。本作でヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞(審査員大賞)とBFIロンドン映画祭コンペティション部門・作品賞の受賞を果たしました。

ドライブ・マイ・カー』でも仕事をともにした音楽家・シンガーソングライターの石橋英子が、ライブパフォーマンスのための映像を濱口監督に依頼したことをきっかけに本作の企画がスタート。音楽映像と合わせて映画の製作に至りました。

濱口竜介監督プロフィール

1978年生まれ、神奈川県出身。東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』(08年)が国内外の映画祭に出品され高い評価を得る。

近年では、『偶然と想像』で第71回ベルリン国際映画祭・銀熊賞、『ドライブ・マイ・カー』で第74回カンヌ国際映画祭・脚本賞など4冠、第94回アカデミー賞・国際長編映画賞を受賞。

悪は存在しない』では第80回ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞(審査員グランプリ)、国際批評家連盟賞などを受賞。その他の作品に『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』など。

石橋英子プロフィール

日本を拠点に活動する音楽家。ピアノ、シンセ、フルート、マリンバ、ドラムなどの楽器を演奏SIDrag City、Black Truffle、Editions Mego、felicityなどからアルバムをリリースしている。

2020年1月、シドニーの美術館Art Gallery of New South Walesにおいての展覧会「Japan Supernatural」の展示のための音楽を制作、シドニーフェスティバル期間中に美術館にて発表された。また2021年、映画『ドライブ・マイ・カー』の音楽を担当、World Soundtrack AwardsのDiscovery of the yearとAsian Film Awardsの音楽賞を受賞。

2022年には「For McCoy」をBlack Truffleからリリース、アメリカ、イギリス、ヨーロッパでツアーを行う。2022年より英ラジオ局NTSのレジデントに加わる。

映画『悪は存在しない』広島国際映画祭2023トークショー

本作は「広島国際映画祭2023」の最終日となった11月26日に上映。

上映後には特別ゲストとして、濱口竜介監督と音楽を担当した石橋英子、そして大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁ら俳優陣4人が登壇。舞台挨拶とともに撮影当時を振り返るトークショーを行いました。

濱口監督と石橋の出会いは、前作『ドライブ・マイ・カー』。本作の企画は、もともと海外のプロモーターより石橋に対して「映像と音楽演奏の企画」を持ちかけられ、濱口監督にそのライブパフォーマンス用の映像の制作を依頼したことから始まったとのことでした。

濱口監督は「音がない映像に生演奏を組み合わせる」というスタイルでの上映を考えていましたが、試行を進める段階で石橋は「濱口さんがいつも通りに作った方が面白いものができるのでは」と製作途中に感じ、それを提案する形で本作の企画がスタートしたと明かします。

なお結果的に本作とともに、石橋が生演奏を組み合わせる作品『GIFT』が別に制作され、後者の映像は2023年11月23日(木)に東京で行われた第24回東京フィルメックスで演奏とともに披露。濱口監督も当時のことを回想しながら、称賛の声を石橋にかけます。

俳優陣はオーディションで選ばれた西川を除き、濱口監督が過去作で関わったスタッフ・俳優陣からの抜擢。大美賀は本作のシナハンの段階で車を運転していた際に、濱口監督から「いいんじゃないか」と興味を示され、オファーを受けたとのこと。

自身も監督として映画製作に携わっていた中で、大美賀は「役者側の経験をすることはスタッフを続けていく上でもいい経験になると思いまして」と、このオファーを受けた際の想いを振り返ります。

また渋谷はかつて『ハッピーアワー』に出演したことがきっかけで、再び濱口監督作品に出演。「久々にこうして参加できたのはうれしかった」とその喜びを語ります。

小坂はもともと俳優業をしていましたが、『ドライブ・マイ・カー』では車両係を担当しており、その際に濱口監督と会話をしたことで濱口監督の目に留まり、今回の出演が決まったと言います。

オファー時には当初「サイレント映画を」と依頼を受けていたものの「(その後)6ページも台本が届いたんです」と企画内容の変更が話があったことを明かし、笑いを誘いました。

小坂と渋谷の役柄は、グランピング施設建設を企てる芸能事務所から派遣され、街に説明を行う担当者。その設定は、もともとロケが決まった長野の地で、実際に同様の開発案件が持ち上がったという出来事があったことを知り、取材の上に構築したとのこと。

まさに「この説明会を再現したようになった」と言われるに同場面ついて、小坂は「メンタルがボロボロにされた」と振り返るほどの、皆の気合いの入り様だったと現場を回想。渋谷もそんな現場に驚きつつ「『きっと今みんな同じものを『いいな』と思っているんだろう』と思える瞬間があった」と皆で力を合わせて臨み、充実した時となったことを振り返ります。

また石橋は、要所で流れる印象的な音楽に関して「濱口監督の怒りのようなものも見えてきた」と映像の印象を明かした上で、そこに「少し聖なるものを映す必要がある」と考え、バランスを考慮した上でストリングス系の音色により音楽を構築していったと語ります。

そして濱口監督は最後に、『悪は存在しない』を「思いもよらないところまで飛び出た感じ」と語りながら「自由にこのまま泳がせて、どうなるのか見てみたいです」と告げ、イベントを締めくくりました。

映画『悪は存在しない』のあらすじ


(C)2023 NEOPA / Fictive

自然が豊かな高原に位置する長野県水挽町。東京からも近く、近年も移住者は増加傾向でごく緩やかに発展しているその土地で、巧とその娘・花は自然のサイクルに合わせて慎ましく暮らしていました。

ある日、町ににグランピング場を作る計画が持ち上がり、その説明会が開催されます。この計画は、コロナ禍のあおりで経営難に陥った都心の芸能事務所が、政府からの補助金を得るべく企画されたものでした。

しかし素人の担当者による行き届かない説明からは、計画によって町の水源に汚水が排水されることが判明。互いの理解の接点が見つからないままに説明会は終了してしまいます。

もともとの計画に無理を感じていた担当者たちは、巧に解決の糸口が見つかるかもしれないと再びこの街を訪れますが……。

まとめ


(C)2023 NEOPA / Fictive

『悪は存在しない』というタイトルといい、地方開発と住民の衝突といった風景といい、表向きのイメージからして「テーマには社会的問題に言及した作品ではないか」と想起させるような要素が見えてきます。

しかし作品では冒頭にその雰囲気を醸しながらも、徐々に異質な要素をにおわせ、ある地点から抽象的な表現とともに良い意味での混乱をもたらしていきます

劇中に流れる音楽は、どちらかというと同じ音色、同じ調性で作られた楽曲が要所で流れ、「音楽が流れている」という雰囲気をほとんど感じさせないままにシーンの雰囲気作りに大きな影響を与えています。また大きな起伏のなさは俳優陣の表現にも見えており、感情の起伏の激しさよりもドキュメンタリーを思わせるような自然さを感じさせます。

シンプルなイメージを感じさせながらも、冒頭から広がる雑木林の風景、物語の展開からは見る側にさまざまなイマジネーションをかき立てさせてくれることでしょう。

トークショーで語られた、濱口監督と石橋とのコラボにより映画化へと発展した経緯はまさにこのようなイメージが作り上げられることを想定してのこととも思えるところでもあり、最後に濱口監督が語った「思いもよらないところまで飛び出た感じ」という印象も納得できるものでした。

【連載コラム】「広島国際映画祭2023リポート」記事一覧はこちら





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