FILMINK-vol.3「The 2019 Oscars…Admirably Worthy But Undeniably Dull」
オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外の映画情報をお届けいたします。
Cinemarcheが提携をしている「FILMINK」ピックアップの第3回は、2019年の米国アカデミー賞を映画評論家エリン・フリーが書いたレポートをご紹介します。
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司会不在の2019年のアカデミー賞
本年度のアカデミー賞にいなかったものといえば司会者ですが、さらに残念だったのは、ちょっとした面白さや本物のユーモアがなかったこと。
公式の司会者の欠如、新たな映画上映の媒体としてNetflixの出現、ハリウッドでの女性の権利の向上、メキシコとトランプ大統領の間に存在する壁、コマーシャル中に幾つかの受賞を行うという提案…。
コメディのジャンルで主に活躍する女優ティナ・フェイ、マーヤ・ルドルフ、エイミー・ポーラーは、アカデミー賞につきまとってきた論争をちょっぴりナンセンスに、ユーモアたっぷりのジョークで取り上げました。
彼女らは「女性たちは助け合っている」と強調。
これは、“ファッションの専門家”たちがハリウッド女優たちのドレスを手ひどく批判する時に明確になると思われました。
しかしながらイントロにはそれほど悪意は含まれておらず、一生傷を残すようなジョークも飛ばない、安全を守った差し障りのない式でした。
アカデミー賞は、伝説的なアイコンQueenとアダム・ランバートによる熱狂的なパフォーマンスで幕を開けました。
拳を振り上げて興奮するアリソン・ジャネイ、頭を振って楽しむジェニファー・ロペス、そして危険なくらい思いっきり興奮するハビエル・バルデム。
Queenとアダム・ランバートのパフォーマンスは近年のアカデミー賞のオープニングの中でも、爆発的に素晴らしかったです。
フレディ・マーキュリーの伝記的映画『ボヘミアン・ラプソディ』は複数の賞にノミネートされましたが作品賞の受賞はならず。
賞に値しないと非難している批評家やコメンテーターの姿もありますが、『ボヘミアン・ラプソディ』は明らかに“ハリウッド・コミュニティ”でヒットしています。
新しい時代に入ろうとしているハリウッド
今回のオスカーではアフリカ系アメリカ人の女優レジーナ・キング、ルース・E・カーター、ハナー・ビーチラーがそれぞれ最優秀助演女優賞、衣装デザイン賞、美術賞を受賞し、情熱を込めたスピーチを行いました。
『ブラックパンサー』のキャストたちをはじめとして、賞のプレゼンターも多様性を反映。
想像力を刺激するセリーナ・ウィリアムズ、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのメンバーであるトム・モレロ、キーガン=マイケル・キー、トレバー・ノア(彼は『ブラックパンサー』紹介時にメル・ギブソンのジョークを飛ばしました)、ミシェール・ヨー、ファレル・ウィリアムス(ショートパンツとソックス姿!)、そして公民権(civil rights)のリーダーであるジョン・ルイスが作品賞、最優秀アニメーション賞等のアナウンスをしました。
ジェイソン・モモアとヘレン・ミレンは共にピンクのスーツとドレスを纏ってプレゼンテーションを行いました。
正直なところ、ユーモアとお腹を抱えるような笑いは今年のオスカーでは薄かったんですが、そんな中でオークワフィナの「さて次のアワードは?最優秀短編アニメーション賞?あら、彼らは私たちにすごいものを渡してくれたわ」というユーモアは大変際立ちました。
そして『ウェインズ・ワールド』のマイク・マイヤーズとダナ・カーヴィの再会(「俺たちには価値がない!」)も印象深いシーンです。
『クリード』のマイケル・B・ジョーダンとテッサ・トンプソンも最優秀作曲賞のプレゼンターを務め、“黒人は泳げない”というステレオタイプについて話し、会場の笑いを誘いました。
エモーショナルで真情にあふれ、全ての人々の意見が認められ、そして活かされることに焦点を当てる。
そして勿論社会を意識してのスピーチが2019年度の風潮でした。
『グリーン・ブック』で最優秀助演男優賞を受賞したマハーシャラ・アリは自身の祖母に感謝を示し、最優秀外国語映画賞を受賞した『ROMA/ローマ』の監督であるアルフォンソ・キュアロンは「私は外国語の映画を見て育ちました。『ジョーズ』や『市民ケーン』、『ゴッドファーザー』や『勝手にしやがれ』などを」と語りました。
キュアロン監督は国際映画の“新しい波”について語る前に、クロード・シャブロルの言葉を引用しています。
「波ではなく、ただ海があるだけ。私たちは皆その海の一部なのです」。
スパイク・リーは『ブラック・クランズマン』が脚色賞を受賞した時、大興奮で壇上へ上がって奴隷の歴史や自身の祖母のことを語り、「正しいことをしよう」と呼びかけました。
包括的とは言い切れませんが、スパイク・リーはアフリカ系アメリカ人の映画を作り終えたいま、何だって出来るでしょう。
スターとして近ごろ翳りを見せていたレディー・ガガ。
ですが努力と挑戦を続ける姿勢が絶賛され、特にブラッドリー・クーパーと共に披露した、歌曲賞受賞の『シャロウ』のパフォーマンスはセンセーショナルという他なく、感動的で贅沢すぎるほどでした。
バーブラ・ストライサンドがステージに上がり『ブラック・クランズマン』を紹介。
そのとき彼女は、スパイク・リーについてツイッターで投稿したことと、スパイクとしょっちゅう連絡を取っていることを明かしました。
「私たちは二人ともブルックリン出身です。それに二人とも帽子が大好き。」
そのうち、スパイクはまた新たなプロジェクトを始めるかもしれませんね。
オスカーに大きな意外性なし
今年のオスカーに大きな意外性はありませんでした。
ラミ・マレック、マハーシャラ・アリ、アルフォンソ・キュアロン、音響編集賞には『ボヘミアン・ラプソディ』、美術賞には『ブラックパンサー』と、人々が大好きな作品たちが賞を獲得。
しかし『天才作家の妻 40年目の真実』のグレン・クローズが『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンに敗れ、主演女優賞を逃したのは大きな衝撃でした。
「こんなことはもう二度と起こらないでしょう」と陽気に自虐混じりのジョークを飛ばすコールマン。
家にいる子ども達に向かってオスカーを掲げてから、グレン・クローズの長年のファンであることを述べ、「まさかオスカーを獲得するなんて、考えてもみませんでした。」と語りました。
そしてもちろん『グリーン・ブック』が最優秀作品賞を受賞したことはしばらく議論になるでしょう。
人々の意見を真っ二つに分けたこの選出は、長らく記憶に残りそうです。
しかしさらに驚いたのは、フィリムクリップの放映も、コミカルなセットも(ベン・スティラーがアバターの仮装で登場した時を覚えていますか?)、エンターテイメント性も、記憶に残るような特別なものも、映画史として残りそうなものも、過去の出来事による肩書きだけの賞(アーヴィング・タルバーグ賞のような)への格下げも見られなかったこと。
プロデューサーたちは政治的に不適切な事柄が入り込むことや、誰かが映画のクリップに関して不適切な発言をすることを恐れたのかもしれません。
多様性を反映したセレモニー
批評家たちはオスカーが長すぎることにずっと不満を洩らしていましたが、短いセレモニーを作るための省略は、興奮とそれぞれの特色を奪いました。
確かに短いセレモニーも楽しく、精神的に傷付けるような言動もありませんでしたが、制作そのものに愛情と細やかさがあったとはいえません。
それはプレゼンターたちと受賞者たち、真心と魂をセレモニーに捧げる人々に任されていただけ。
一方で、以前までの批判、特にハッシュタグ“Oscars So White(オスカーは真っ白だ)”に対するプロデューサーたちの対処は賞賛に値します。
今年のセレモニーが多様性を反映したものだったこと、包括的だったことには誰も疑問を投げかけないでしょう。
FILMINK【The 2019 Oscars…Admirably Worthy But Undeniably Dull】
written by Erin Free
英文記事/Erin Free
翻訳/Moeka Kotaki
監修/natsuko yakumaru(Cinemarche)
英文記事所有/Dov Kornits(FilmInk)www.filmink.com.au
*本記事はオーストラリアにある出版社「FILMINK」のサイト掲載された英文記事を、Cinemarcheが翻訳掲載の権利を契約し、再構成したものです。本記事の無断使用や転写は一切禁止です。
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