連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile165
独占配信やオリジナルコンテンツに注力し、世界の動画配信サービスの中でも圧倒的な人気を誇る「Netflix」。
「Netflix」が制作したドラマ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」は世界93ヵ国でテレビシリーズの1位となりました。
そんな世界的大人気シリーズに迫る勢いを見せた「Netflix」オリジナルドラマが『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』。
17人以上を殺害した殺人鬼ジェフリー・ダーマ―を描いた本作がなぜ人気を掴み、そして本作に秘められたメッセージとは何なのかをネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
ドラマ『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』の作品情報
【原題】
Dahmer – Monster: The Jeffrey Dahmer Story
【配信】
2022年(Netflix独占配信)
【キャスト】
エヴァン・ピーターズ、ニーシー・ナッシュ、モリー・リングウォルド、マイケル・ラーンド、リチャード・ジェンキンス
【作品概要】
実在した連続殺人鬼ジェフリー・ダーマ―の生涯を描いた全10話の「Netflix」オリジナルドラマシリーズ。
主人公ジェフリー・ダーマ―を「X-MEN」シリーズでクイックシルバーを演じたエヴァン・ピーターズが怪演し話題となりました。
ドラマ『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』のあらすじとネタバレ
【1991年】
ウィスコンシン州ミルウォーキーのアパート「オックスフォード・アパートメント」。
「何か」の肉を解体するジェフは隣人のグレンダから悪臭の訴えを日常的に受けていました。
黒人の行方不明者が相次ぐ街で、ジェフはゲイの集まる「クラブ219」で写真家を名乗りモデルを募集します。
黒人青年のトレイシーを50ドルで家に招き入れたジェフはトレイシーの写真を撮ると、寝室で『エクソシスト3』を観せます。
トレーシーに手錠をかけたジェフの異常さに気づいたトレイシーはジェフを殴打すると部屋を抜け出し逃走。
手錠をはめられたまま警察官に保護されたトレイシーは警察官2人を引き連れジェフのアパートを再訪します。
警察官はトレイシーにかけられた手錠を探すと言う名目でジェフの部屋へと入ると部屋に立ち込める異臭やベッドに着いた血を発見。
さらに手錠の鍵のある棚から死体の写真を見つけた警察官はジェフを殺人容疑で逮捕しました。
現場検証で冷蔵庫から人間の頭部、冷凍庫から心臓、3人分の胴体を溶かしたと思われる酸が見つかります。
その日からジェフの逮捕は大々的に報道され、特定できないほどの被害者の数に世間は騒然となりました。
【1966年】
ジェフは仕事に明け暮れ家族との時間をほとんど持たない父親ライオネルと精神的に不安定で薬の過剰摂取を繰り返す母親ジョイスとの間で育っていました。
ある日、家の下でオポッサムの死体を見つけたジェフはライオネルの死体の解説に感化され動物の解体を趣味にし始めます。
【1991年】
一人暮らしの部屋で殺人を行い始めたジェフはラオス人の14歳の少年コネラクを部屋に連れ込み眠らせると、頭蓋骨をドリルで空け酸を流し込むロボトミー手術を行います。
コネラクはジェフがビールを買いに出ている間に家を脱出し警察官に助けを求めますが、ロボトミー手術によって意識は朦朧としており、警察官は帰ってきたジェフの発言を信用しコネラクを保護することなく帰り、コネラクはジェフによって殺害されました。
その日の夜、隣人グレンダは警察に電話をかけコネラクがどうなったのかを聞きますが、警察官はコネラクの名前すらも分からない状態でした。
【1977年】
ジェフは普通であるために女性に性的興味を持とうと必死になりますが、いくら頑張ってもその気になれませんでした。
その頃、ライオネルとジョイスの関係は悪化し、両者は離婚。
弟のデビッドはジョイスが親権を取りますが、ジェフはジョイスに見捨てられます。
ある日、ジェフはヒッチハイクでペガサスのライブに向かおうとするスティーブンを一人になった家に招き入れます。
しかし、仲を深めたいジェフに対してスティーブンはあくまでもライブ目的であり、ジェフは家を出て行こうとしたスティーブンを衝動的にダンベルで殴り、首を絞めて殺害。
正気を取り戻したジェフは自分の行為に動揺し、スティーブンの死体を動物の剥製小屋で分解し処理しました。
【1991年:逮捕後】
ライオネルの自宅の裏庭を捜索する警察は人の大腿骨を見つけ、ジェフの話す最初の殺人が事実であると確信を持ちます。
スティーブンの殺人についてジェフに訊ねるケネディとマーフィーは、彼が最初の殺人を後悔しその後9年間は殺人を犯さなかったことを知ります。
【1978年】
ライオネルは新しい恋人のシャリを家に連れ帰ります。
3ヶ月ぶりに帰宅したライオネルは高校を卒業後、酒に溺れ自身の進退すら決まっていないジェフにオハイオ州立大学への進学を提案。
ジェフはライオネルに殺人や自身の抱える衝動について話そうと考えていましたが、切り出すことが出来ませんでした。
数ヶ月後、ライオネルは学校に呼び出されジェフの出席日数の少なさや成績の低さから退学処分を受けたことを聞くと激怒し、ジェフを軍に入れさせることを決めます。
1年後、ジェフは基礎訓練を終え衛生兵として配属されることが決まりライオネルは喜びますが、実はジェフは衛生兵としての知識を深めて睡眠薬ハルシオンを同僚に飲ませ性的暴行を行っていました。
【1981年】
アルコール中毒で軍を除隊となったジェフは祖母の家へと移り住みます。
ジェフは近隣の精肉店での就職が決まり、祖母はジェフが盗んだ男性のマネキンをジェフに無断で廃棄すると、それを知ったジェフは激怒。
夜、祖母と和解したジェフは禁酒の掟を破り、酒を飲んだことで祭りで自慰行為を行い逮捕され、精肉店をクビになりました。
その後、衛生兵の過去を活かし血液バンクで血液を抜く仕事を始めたジェフは血を盗み、自宅で飲み干しました。
【1987年】
「クラブ219」でナンパした相手を同性愛者専用のサウナハウスに連れ込み、酒に睡眠薬を入れて性的暴力を行うことを習慣にし始めたジェフでしたが、その行為がサウナハウスに露見し出入り禁止となります。
ある日、クラブでナンパしたスティーブンをホテルに連れ込んだジェフは睡眠薬入りの酒をいつものように飲ませようとしますが失敗し、自身も深く泥酔してしまいます。
翌朝、ジェフが目を覚ますとスティーブンは死亡しており、ジェフは必死の蘇生を試みますが生き返ることはなく、スーツケースにスティーブンの死体を入れると祖母のいない隙を狙い自宅の地下室でスティーブンの死体を分解。
ホテルの殺人以降、祖母の自宅で3人を殺害し地下室で解体したジェフは遺体の処理方法についての実験を始めます。
ある日、ジェフは車のバッテリーが上がったロンを連れ込みいつもの手順で殺害しようとしますが、ジェフに異変を感じた祖母がロンを守り帰宅させました。
翌日、薬物の過剰摂取によって病院に運ばれたロンはサウナハウスで話題の危険人物ジェフのことを警察に相談。
刑事はジェフの祖母の家を訪ねジェフから事情を聞きますが、黒人であるロンよりもジェフの言葉を信用してしまいます。
ある日の夜、ジェフは少年を連れ込み睡眠薬を飲ませますが少年は自力で家を脱出し警察に通報。
ジェフは警察に逮捕され起訴されますが、刑務所外での労働を認める軽い判決が下されます。
ライオネルは帰りの車の中でジェフが人と違った性質を持っていることに気づきながらも向き合えていなかったことを後悔し、刑務所にセラピーや更生プログラムにジェフを参加させて欲しいと言う要望書を提出。
しかし1年後、釈放されたジェフを迎えに来たライオネルは要望が聞き入れられず、ジェフに対して何も行われていなかったことを知り絶望しました。
【1991年】
幼少期に聴覚障害者となったトニーはモデルを目指し、マディソンに移り住むことを決めます。
聴覚障害に理解のあるアパレル店やモデルの依頼もこなし勢いに乗るトニーは週末に実家に戻ると、良く顔を出していた「クラブ219」へと足を運びます。
クラブ内で出会ったジェフは聴覚障害を持つトニーに引くことなく接し、一方でジェフもトニーに惹かれ酒に睡眠薬を入れることはありませんでした。
ある日、トニーを自宅に連れ込んだジェフはお酒に睡眠薬を入れることなくトニーと接します。
トニーと一夜を共にしたジェフは仕事に行こうとして自分から離れて行こうとする彼を発作的に殺害してしまいそうになりますが、トニーのまた来るという言葉に思い留まりました。
翌日、トニーの母親シャーリーは警察にトニーが行方不明になったことを相談しますが、警察はトニーが聴覚障害者であることから真剣に捜査することはありませんでした。
シャーリーは独自に捜査に乗り出し、その様子を見たジェフは苦しみに満ちます。
あの日、忘れ物を取りに来たトニーをジェフは衝動的に殺害してしまっていたのです。
その日、ジェフは死体から剥ぎ取った肉を焼き食しました。
ドラマ『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』の感想と評価
ホラーのヒットメイカーが作る恐怖演出と役者陣の怪演
本作『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』は「Netflix」における人気ランキングにおいてトップ10入りを果たし続け、「ストレンジャー・シングス 未知の世界」に続き成功を収めたNetflixドラマコンテンツに位置付けられました。
本作を手掛けたのはドラマ「glee/グリー」でエミー賞を受賞したライアン・マーフィーと「glee/グリー」や「CSI:ニューヨーク」などのドラマで複数のエピソードの監督を務めたイアン・ブレナン。
2人はコメディ作品である「glee/グリー」で高い評価を受けながらも、ライアン・マーフィーは人気ドラマシリーズ「アメリカン・ホラー・ストーリー」を複数のシーズンに渡り手掛け続け、イアン・ブレナンも多くのホラー作品に関わるホラー作品のプロフェッショナルです。
本作は1話の冒頭にジェフリー・ダーマ―の行った殺人を「ホラー」として緊張感たっぷりに描くことで鑑賞者の好奇心を煽っており、「今後どのように展開していくのか」から目を離せないような作品作りになっています。
さらに主演のエヴァン・ピーターズは繊細なジェフリー・ダーマ―の繊細な心を見事に演じている一方でその狂気も怪演し、繊細さゆえに行った残虐な行為の狂気が薄まるようなことはありませんでした。
ホラーとしての演出による「掴み」と、ジェフリー・ダーマ―像の徹底的に研究したリアルな演技が合わさったことで、高い人気を誇る作品になった作品でした。
殺人鬼を描いた危険な作品に込められたメッセージ
本作の人気は「ジェフリー・ダーマー」と言う猟奇的な殺人鬼の殺人の道程を描いたことが理由になっていることも間違いありません。
ノンフィクションであればこそ、殺人者や悪人を魅力的に描くことで、模倣犯を生みかねないだけでなく被害を受けた人や遺族への配慮が欠けていると批判を受けることもあります。
本作もその例に漏れず、本国では実在の殺人鬼を娯楽としてのドラマに落とし込むことへの危険性や、作品の制作に際して遺族への事前の連絡が無かったことが強い批判を生んでいます。
そう言った配慮が欠けていた一方で本作は、一貫してジェフリー・ダーマーがなぜ連続殺人に手を染めたのかと言う理由を作中で明確にしませんでした。
これは、物語の終盤にジェフリー・ダーマーの脳の廃棄を命じた裁判長の言葉と同様に「知ろうとすることの危険性」を懸念しているからだと考えられ、親の不仲と言った特定の要素を抽出することで「○○だから殺人鬼になった」と言う差別や偏見が生まれることを良しとしないメッセージだと受け取ることも出来ました。
まとめ
有色人種や移民に対する差別や偏見、人の善性を信じた司法など多くの要素が絡み合い17人以上もの被害を生んでしまった「ミルウォーキーの食人鬼」ことジェフリー・ダーマーによる連続殺人。
その生涯と殺人の道程をドラマ化した『ダーマー モンスター:ジェフリー・ダーマーの物語』は、ジェフリー・ダーマーと彼の父親ライオネルの目線で孤独と苦悩を「人間」として描く一方で、被害者やその遺族の目線から彼を「怪物」として描いていました。
本作で描かれる2つの人物像から鑑賞者が何を感じ、何を学ぶかは各人に委ねられていますが、多くの被害を生んだ悲しみが繰り返されることのない世の中の土台となることを望みたくなるような心をえぐる作品です。