連載コラム「インディーズ映画発見伝」第22回
日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」。
コラム第22回目では、西荻ミナミ監督の映画『歌ってみた 恋してみた』をご紹介いたします。
実家でニート中のサブカル女子ゆうこが高円寺を舞台に愉快な仲間たちと繰り広げる奇妙でポップな少女の妄想ファンタジー!
映画『歌ってみた 恋してみた』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督・脚本】
西荻ミナミ
【キャスト】
上埜すみれ、大島薫、本村壮平、マメ山田、小林梓、深琴、しじみ、衣緒菜、佐藤ザンス、川端さくら、カメレオール、エリマキング、エホンオオカミ、やぶさきえみ、繫田健治
【作品概要】
監督を務めた西荻ミナミはMVの制作経験を経て、2015年に映画制作を始めました。初短編映画『CHUCHUあいす☆苺味』(2015)は、フェチフェス映画祭にて絶賛。その後初長編作となる『歌ってみた 恋してみた』(2019)を制作。
その他、短編映画『天使の歯型』(2019)の脚本監修を務めています。
ゆうこ役には『ゴーストスクワッド』(2018)、『キネマ純情』(2016)などインディーズ映画で頭角を表している上埜すみれ。ひかり役には男の娘として注目された大島薫。
更に日本で一番小さい手品師、役者として多方面で活躍し、『東京の恋人』(2020)、『少女椿』(2016)などに出演するマメ山田が本人役として出演するほか、職業怪人カメレオールなど個性的な役者が出演しています。
映画『歌ってみた 恋してみた』のあらすじ
実家でニート生活を送るサブカル女子ゆうこ(上埜すみれ)はある日上京することを決意します。
上京したゆうこは、“歌ってみた”の謎の歌い手「タクロー」の同じ信者であり、“男の娘”であるひかる(大島薫)の家で生活を始めます。
高円寺の町でカラオケのバイトをしながら生活していたゆうこは、ひかるの知り合いであるバンドマンそうすけ(本村壮平)にタクローのことを批判され、猛反撃してしまいます。
タクローの信者であるゆうこは、タクローに渡すために作ったアクセサリーを毎日首にかけていますが、タクローの正体も知りません。そんな矢先、ひょんなことからタクローの正体を知るチャンスがゆうこに訪れます。
タクローがオンラインライブをやると発表したのです。なかなか勇気を出せないゆうこの背中を妄想のフレンド達が押します。
勇気を振り絞り走り出すゆうこは、タクローに会えるのか……。
映画『歌ってみた 恋してみた』の感想と評価
奇妙でポップな世界観で繰り広げられるサブカル女子ゆうこの妄想ファンタジー。
“歌ってみた”とは映画の冒頭にもあるように、SNSや動画共有サイト上にて自ら歌ってカバーした動画をアップしたもののことを言い、“歌ってみた”を上げている人を歌い手と言います。
実家で何もすることなく、ただニート生活をしていたサブカル女子が突然上京を決意し、降り立ったのはこれまたサブカル文化と縁がある高円寺。
奇妙でポップな世界観を支えているのは、サブカル文化とアングラが根付く高円寺という町ならではでしょう。
また、タクローへの真っ直ぐな思い、奇妙な妄想フレンドとの会話を通して弱気になったり、怒ったり……と、ありのままで真っ直ぐなゆうこを演じる上埜すみれの魅力がたっぷりつまった映画になっています。
本作は実家から出てきたゆうこの高円寺での暮らし、出会った人々との交流、そしてゆうこが一歩を踏み出す成長が描かれていますが、ゆうこと出会ったひかりも、その真っ直ぐさに勇気づけられていたのです。
「誰よりも偽物には詳しい」と言うひかるの言葉には様々な思いが込められており、ひかるは真っ直ぐなゆうこに触発されていくのです。
タクローのことを批判し、ゆうこと口論になったバンドマンのそうすけも、バンド活動で自分のやりたいように曲を作れず、客うけの良い曲を作ることにジレンマを感じていました。
そんなタクローにとってゆうこの真っ直ぐさは眩しかったのかもしれません。
“本物”、“偽物”にこだわらず、純粋にタクローへの好きの思いを持ち続けるゆうこの真っ直ぐさ、サブカルへの愛、そして高円寺の魅力が詰まった、奇妙でポップだけれどどこか愛おしい映画です。
まとめ
サブカル女子ゆうこが高円寺を舞台に、愉快な仲間たちと繰り広げる奇妙でポップな妄想ファンタジー映画『歌ってみた 恋してみた』。
タイトルの“歌ってみた”にちなんで、ゆうこ演じる上埜すみれやひかる演じる大島薫が劇中で歌う場面が映し出され、ファンタジックな演出にも注目です。
次回のインディーズ映画発見伝は…
次回の「インディーズ映画発見伝」第22回は、高橋伸彰監督の『夏の夜の花』を紹介します。
次回もお楽しみに!