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Entry 2021/11/08
Update

【映画ネタバレ】ボクたちはみんな大人になれなかった|内容感想とあらすじ結末の考察。なぜ別れたかの理由を通じて“大人”の意味を問う Netflix映画おすすめ68

  • Writer :
  • からさわゆみこ

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第68回

今回ご紹介するNetflix映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』の原作は、日本の作家燃え殻が2016年WEB小説として配信し、連載中から大きな話題となった同名小説です。

原作者である燃え殻の半自伝的恋愛小説は、彼の小説家としてのデビュー作で、2017年に書籍化されると大ベストセラーとなりました。

主人公の“ボク”は1995年に出会った女性がきっかけで、生まれて初めて“頑張りたい”と思えます。ボクは彼女の言葉に支えられ、がむしゃらに働きます。しかし、1999年に突然彼女はさよならも言わずに去ってしまいます。

2020年、46歳になったボクは社会と折り合いをつけるように生き、ほろ苦い再会をいくつかしたことで、2度と戻らない“あの頃”ことを思い出すのですが……。

【連載コラム】「Netflix映画おすすめ」記事一覧はこちら

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』の作品情報


(C)2021 Netflix

【公開】
2021年(日本映画)

【監督】
森義仁

【原作】
燃え殻

【脚本】
高田亮

【キャスト】
森山未來、伊藤沙莉、東出昌大、SUMIRE、篠原篤、平岳大、片山萌美、高嶋政伸、ラサール石井、大島優子、萩原聖人、篠原悠伸、岡山天音、奥野瑛太、佐藤貢三、カトウシンスケ、吉岡睦雄、渡辺大知、徳永えり、原日出子

【作品概要】
ミュージックビデオやCMの映像作家、森義仁が手掛けた初の長編映画の監督作品。

主役の“ボク”佐藤の21歳から46歳までを演じたのは、映画『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004)で日本アカデミー賞新人を受賞し、その後は映画にとどまらずダンスパフォーマーとして世界に渡り、2020年『アンダードッグ』で主演を務めた、実力派俳優の森山未來です。

“ボク”の初恋の女性、かおり役はテレビドラマ「女王の教室」のいじめっ子の役で注目され、『幕が上がる』(2015)に出演、数々のテレビドラマ・舞台・CMなどで大活躍中の伊藤沙莉が演じます。

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』のあらすじとネタバレ


(C)2021 Netflix

ボクが「世の中の人間の80%はゴミで、20%はクズ」と酔いつぶれて、ゴミ集積所に倒れ込んだ男に言うと、男は「ひどい」というが、それはかつて彼が言った言葉でした。

ボクは「1%くらいはイイ奴もいると思ってる」と言うが、彼はそんなの“世間知らず”なだけと吐き捨てます。

“46歳 つまらない大人になってしまった”

ボクは男と別れた後、フラフラと繁華街を歩き、ふと気がつくと裏路地の見覚えのあるラブホテルの前に……しかしそこは中途半端に取り壊され、廃ホテルになっていました。

ボクの脳裏には、かつてそのホテルで過ごした彼女の言葉が頭を駆け巡ります。そして、裏路地を抜けた坂のあるY字路で……。

1999年、最後の日、別れ際に彼女は「今度、CD持ってくるからね」と言ったまま、2人の関係は終わります。

“2015年、東京はまるで沈み逝くタイタニック号のようだった”

30年の長寿バラエティー番組が終了し、打ち上げパーティーでスポンサーだった、佐内慶一郎と再会すると、彼は地味に人材派遣会社を立ち上げていた。

ボクも番組に携わった美術制作会社の1人として、社長の三好や同僚の谷口と参加しましたが、創業から一緒に働いた関口は会場を後にしたあとでした。

ボクが関口にSMSで「来てたの?」と送ると、彼は「もうやめたら?」と返してきて、ボクは苦笑いします。

タバコを吸いに会場から出たボクは、余興に出演していた、“いわい彩花”と鉢合わせます。彼女は何度も失敗してしまったとこぼし、ボクは“誰も覚えちゃいないから大丈夫”と言います。

ボクは番組のフリップ(説明用の表など)を作成していますが、それも記憶に残らない仕事だと話すと、彩花は強く共感し4本もDVDを出しているのに……と言います。

意気投合した2人はパーティーを抜け出し、東京タワーの見える高級ホテルに行きます。彩花はライトアップされた東京タワーを見て、ブログ用に写メしようとしますが、同時に消灯してしまいました。

彼女は茫然自失したように「子供の頃、今の自分になりたいと思ってた?」とボクに訊ねますが、うやむやにしか答えられず、彼女は「私はなりたくなかった」と言います。

ボクはその晩、彩花が4本のアダルトビデオに出演していること、関口がオンライン塾を起業したことを知ります。そして、何気なく開いたFacebookの「知り合いかも?」の欄に、見覚えのある顔と名前が目に飛び込んできます。

“小沢(加藤)かおり”のページは、幼い子を愛おし気にみつめた彼女、リア充を満喫している写真で飾られたいわゆる、“フツー”に暮している様子を見せていました。

朝、ボクが家に帰ると恋人だった、“石田恵”が残りの荷物を取りに来ていました。彼女はボクに「結婚する気あったの?」と聞きますが、はっきりと答えることができず、「ずっと閉じこもってれば?」と吐き捨てて出て行きました。

ボクが彼女にかけた最後の言葉は「雨ひどいから、傘持って行けば」でした。

以下、『ボクたちはみんな大人になれなかった』ネタバレ・結末の記載がございます。『ボクたちはみんな大人になれなかった』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2021 Netflix

“2011年、大震災のせいか、ボクは忙殺されていた”

大震災とは関係なくボクの勤めている、美術制作会社は新社屋の引越しをしていました。さらにタイミング悪く、その日は結婚前提で付き合っていた、恵の母と対面する日でした。

恵と彼女の母はレストランで待たされていましたが、遅れてきたボクに母は忙しいことは悪い事ではないと、理解を示してくれます。

ボクは自分の仕事がどういうものか上手く説明できず、大震災の番組の横で、くだらない番組のフリップを作ってると、“おかしくなってしまう。それが世の中なら受け入れないと”とよくわからない話をしてしまいます。

ボクは緊急の仕事が入りレストランを出ると、恵から結婚してもこんな感じなのか聞かれ、震災があって結婚する人が増えてる、それってフツー過ぎると言ってしまいます。

恵は何かにつけ結婚を先延ばしにされていることが不満かつ不安でしたが、その度にボクの調子いい言い訳、“明日はちゃんとする”という言葉を信じていたのでした。

“2008年、東京では観測史上最も多い雷を記録した”

同僚の関口がテレビ局の恩田に請求書を届けると、「3割引いとけ」と投げ返されたことに腹を立て、暴行をしてしまいます。

オフィスでは後輩の谷口が打ち合わせと違うフリップを作成。ボクは高尚なセンスは無用、フツーに戻せというが、関口からは少しでも面白いことをみつけろと言われていました。

その関口は三好から呼び出され、恩田との一件で叱責され、関口は社長の方針についていけないと判断し、退職することを決めます。

関口は子供ができたから結婚するため、会社を辞めると告げました。そして、「おまえ“小説”書いてたよな?」「自分のやりたいことをやって、ここから抜け出せ」と言って去ります。

ボクは回想します。渋谷の円山町の坂の途中、神泉のそばにあるラブホテルの1室に宇宙の壁紙の部屋があり、そこは“あの頃”のボクらにとって唯一の安全地帯でした。

それは自分よりも大切な存在になっていた彼女です。彼女はボクに、“君は大丈夫だよ。おもしろいもん”と肯定してくれたが、逆に何もないことを強く自覚させます。


(C)2021 Netflix

“2000年、ボクにはIT革命は起きなかった”

バラエティー番組『楽しくやりまSHOW!』の放送15周年記念パーティーが、ナカマコーポレーションの佐内が経営する店で行われ、ボクはそこで働く“スー”という女性と知り合います。

会場はDJの回す音楽で盛り上がり、店の片隅では合法ドラッグも横行してます。来店したボクにスーは視線をおくってきました。

ドラッグとアルコールで吐き気に襲われたボクが、トイレから出ると佐内がスーにキスをしています。スーはチラッとボクを見ますが、佐内にされるままでいました。

外に出てジュースを飲むボクのところに、タバコを吸いにスーが来て、「私、絶望している人みつけるの得意なの」と話しかけます。

ボクは恋人との関係が唐突に終わり、その喪失感から抜け出せないでいました。ボクは七瀬というゲイの男性が経営する“Barレイニー”で、そのことを話します。

ボクは常連たちに煽られ、彼女を店に呼び客も巻き込み、親しくなっていきます。ある日、ボクは七瀬に後押しされ彼女を自宅に送る途中、スーは路上でボクにキスをします。

スーは自宅にボクを招き入れますが、仕事の電話が入ります。そしてボクに、その部屋は佐内が借りているもので、「客」を相手にする場所であることを話しました。

スーは仕事が済んだら連絡すると言いますが、ボクが待っているとは期待していませんでした。ベランダに出たスーはため息をつきながら、階下をみるとボクの姿をみつけ、駆けつけて抱きつきます。

スーは「私、何もないんだよね」そう呟きながらも、そんな毎日も嫌いじゃないと話し、ボクの胸に寄り添うと、ボクは彼女の肩をそっと抱きました。

しかし、佐内が脱税と売春斡旋容疑で逮捕されたと報道されると、スーとの連絡も途絶えあっけなく2人の関係も終わりました。

“1999年大晦日、大予言ははずれ地球は滅亡しなかったが・・・・・・”

新年をいつものラブホテルの部屋で迎えた、ボクはカウントダウン番組を観ながら、「ホントこういうのくだらないよね」と冷めた口調で言うと、彼女は「別にいいじゃん」とさらに冷めた口調で返します。

ボクは彼女に同棲しないかと提案すると、彼女は視線をそらしボクに背中を向け、「なんか・・・ホント、フツーだなって思って」とつぶやきます。

そして、ホテルを出ると坂のY路地で彼女は、駅とは反対の方向に寄るところがあると向います。ボクが不安げに彼女を見送ってると、振り返り「今度、CD持ってくるからね」と言いました。

“1998年、サッカーW杯に初出場した日本代表は3戦全敗に終わった”

ボクが自宅へ帰り郵便受けを確認すると、彼女からの絵葉書が届いていて、“こっちにおいで”とだけ書かれた葉書からは、異国の香りがします。

納期が迫る仕事に追われたボクはできあがったテロップを届けにテレビ局へ急ぎますが、プロデューサーの恩田からは罵声を浴びせられ、「3割引いとけ」と言われます。

三好社長は打ちひしがれてるボクに、休んでいいから彼女とどこかにでかけるよう促しますが、彼女はインドへ雑貨の買い付けに行っています。

三好は食えるようにしてやるから、もう結婚したらどうか聞きますが、ボクは彼女がそういう“フツー”を求めていないと言います。

(C)2021 Netflix

“1997年、東京発の銀河鉄道に乗った”

徹夜明けの事務所はFAXの“感熱紙”で埋もれ、仕事の要求書がとめどなく流れ、ボクの“ポケットベル”には彼女から、“TELシテ_カオリ”とメッセージが入りいます。

事務所下の公衆電話からカオリに電話をすると、彼女は一緒に仕事をさぼって、レンタカーでどこか行こうと誘います。仕事が山積みで無理だと言いますが、カオリは「ホント、フツーだね」と、いたずらっぽく笑って困らせました。

会話を聞いていた関口は、自分でなんとかできるから行って来いと、ボクを事務所から追い払います。

ボクはカオリと行き先も目的も決めないドライブに出かけます。カーステレオからは、“小沢健二”のアルバム「犬は吠えるが、キャラバンは進む」の曲が流れます。

ボクはドライブで開放感を感じ、このまま遠くへ逃げ出したいとこぼした。カオリは宮沢賢治が生涯東北の田舎町で暮していながら、“銀河へ旅した”と話してくれます。

そして、“かなりキテル”と表現し「“どこに行くか”じゃなくて“誰と行くか”なんだよ」と、言います。

ボクとカオリのデートは“渋谷”の街から、円山のラブホテルの部屋でした。タワレコで“エルマロ”のCDを買い、“シネマライズ”で映画を観たりするルーティーンです。

見栄を張って、ポールスミスのシャツを着たボクにカオリは、どこかの国から入って来た服やアクセサリーを身に着け、その価値観で“フツーじゃない”ことを示します。

“1996年、神様を信じる力を僕に”

納期ギリギリのテロップを納品するため、原付バイクを飛ばすボクは急カーブを曲がりきれず、転倒しテロップの素材をまき散らしてしまいます。

左手を負傷しながら必死に拾い集めていると、1台の高級車が止まり運転手が降り近寄ってきます。運転手は暴力団のヤクザでしたが、ボクを見かねて素材を一緒に拾ってくれます。

車内からは「宮嶋!何してる!早くしろ!」と怒鳴られますが、ボクの手のケガを見てハンカチで縛り、「これで少しはもつだろう」と言い残し車に戻っていきました。

ボクはケガで気持ちがへこみ、一生この仕事なのかと不安に陥ります。カオリはそんなボクに、中島らもの小説『永遠も半ばを過ぎて』に出てくる主人公の話をします。

長年、他人の書いた小説を写植する仕事をしている主人公が、ある日、睡眠薬が効き寝て起きると、全く別の小説が書き上がっていた。という話です。

カオリは主人公の体の中に残った、成仏できていない言葉たちが書かせたと考察し、ボクに小説を書いてみたらどうかと提案します。

ボクは「俺には何もない」と言いますが、カオリは「君は大丈夫だよ。おもしろいもん」と励まします。

(C)2021 Netflix

“1995年、暗闇から手を伸ばせ”

ボクは七瀬と焼き菓子の製造工場で働いていました。七瀬は役者をしており“レイニー”という、ゲイが男性が主役の演劇を上演していました。

七瀬は工場を辞めたいと思い、求人情報誌を見ていますが、“文通コーナー”で出会いも探しています。文通を募集する内容を読み上げていくと、ボクはある一文に興味を持ちました。

「この文通コーナーから最初に読む方、連絡ください。中野区の“犬キャラ”20歳」

“犬キャラ”とは小沢健二のファーストアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』の略で、ボクの好きなミュージシャンです。

ボクがそのページをジッと読んでいると、七瀬はそのページを切り取り渡します。帰宅したボクは“犬キャラ”に手紙を書こうと、便箋に向かいますが、書くことを考えあぐねます。

ボクは“小沢健二が好きなんですか?”とだけ書いて送ると、しばらくしたある日、自宅の郵便受けに返事が届いていました。

ポップな包装紙を使い封筒を自作し、匂いを嗅ぐと独特な香りがします。返事には小沢健二の切り抜きが貼ってあり、「小沢健二は私の王子様」と書かれていました。

以後、小沢健二を熱く語る内容を何通もやりとりし、ボクは“MAYAMAX展”に犬キャラを誘い、はじめて対面することになりました。

返事には「私、ブスなんです」と書かれていて、ボクは余計に彼女に興味を抱きます。

2人は“原宿ラフォーレ”の前で、“WAVE”の袋を目印に待ち合わせをしました。犬キャラは“MAYAMAX展”に衝撃をうけ、ボクはよくわからなかったと言います。

そんなボクに犬キャラは、「分かりきっていることは無意味、分からないままの方がずっと残る」と、自論を伝えます。

犬キャラは別れ際、「私“かおり”っていいます」と自己紹介して、2人は付き合い始めるとボクは彼女に感化され、三好が立ち上げた制作会社の求人に応募します。

就職は即決しボクはかおりに報告します。すると、かおりはお祝いにラブホテルへ行こうと誘い、2人が巡り着いたのが円山のラブホテルでした。

テレビでは“ノストラダムスの大予言”が特集され、ボクの職場が関わっている番組でした。その晩2人は結ばれ、それはかおりにとって初体験でもありました。

彼女はうっすらと涙を流し、「嬉しい時、悲しい気持ちになる」とつぶやきます。

“2020年”、新型コロナウィルスの感染者が200人を越えた日、制作の打ち合わせはリモートで、進捗状況も共有できるようになっています。

仕事を終えたボクは人気のない渋谷の街に出て、行きつけの居酒屋でビール2杯飲み、20時で強制的に退店させられます。

帰路につくボクは飲食店でトラブルをおこして、追い出された男と遭遇し、それが七瀬だとわかります。

七瀬は接客に疲れ“Barレイニー”を閉め、人生に絶望していました。首尾よく安定した生活をしていたボクに、七瀬は八つ当たりをしながら、ゴミ集積所にダイブします。

ボクは七瀬にうちに来るかと訊ねますが、中途半端に優しくするところは、昔と変わらないと言います。

七瀬はボクを冷たいくせに上っ面は優しいから独り、自分はあったかいから独りと言いながら、ボクを無理矢理タクシーに押し込み帰宅させます。

七瀬と再会したボクは車窓の窓に、過去のできごとを走馬灯のように見ます。途中で下車したボクは、“渋谷”の街中に思い出を巡って歩きました。

かおりと初めて対面した場所にたどり着くと、涙がとめどなく流れ、ボクは「ホント、フツーだわ」と、つぶやきました。

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』の感想と評価


(C)2021 Netflix

映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、先に結果がありその原因を回顧しながら、原点に立ち戻る物語でした。そこにはボクの出会った女性たちが、重要な役割を担っています。

そして、原作者は自伝的な小説としながら、題名に一人称ではなく「ボクたちはみんな」と断定しています。登場人物の1人1人にあてはめ、あの頃の“みんな”としているのでしょう。

しかし、映画ではエンドロールが流れ、スクランブル交差点の人混みを背景に、題名がタイプされると、「ボクたちはみんな大人に……」というところまでバックスペースで消され、観る者に問いかける形で終了します。

ボクが出会った女性たちの“名言”と“本心”

ボクが出会ってきた女性はタイプが全く異なっていましたが、それぞれに彼に影響を与える言葉を残してきました。

“いわい彩花”の場合

かおりと別れて15年が経った2015年、AV女優の彩花はボクに「子供の頃、今の自分になりたいと思った?」と、問います。彼女がなりたかったのは、誰もが知る女優だったのでしょう。

答えられなかったボクは高校生の頃に毎日、犯罪を犯さなかったらカレンダーにバツをつけるという習慣があり、夢も抱けないような家庭環境だったのかと思わせます。

“石田恵”の場合

かおりと別れて12年経った2011年には、結婚を考えた恵とつきあっていますが、4年後に破局を迎え「ずっと閉じこもってれば?」と、吐き捨てられます。

恵は普通の家庭に育ち、普通の幸せな結婚を望んでいましたが、ボクは“フツーではダメだ”という呪縛に囚われて、結婚を避けていました。

恵はその無意味なこだわりの中に、閉じこもっていればいいと言ったのです。

“スー”の場合

2000年暮れ、かおるに未練の残っている時にボクはスーと出会います。彼女は絶望の中で生きていて、ボクとは同朋に近い存在でした。

彼女が言った「私、何もないんだよね」は、かつてボクがかおりに言った言葉です。ボクはスーと同じように、そんな状況も嫌いではなかったのでしょう。

スーは同じ気持ちを共有できるボクとなら、絶望から抜け出せると期待し、ボクもまたスーとの出会いで、かおりの「ホント、フツーだよね」という呪縛から、解放されるはずだったと思います。

“加藤かおり”の場合

かおりはサブカルチャーに傾倒し、影響をうけやすい女の子だったといえます。小沢健二の歌詞や文学の世界に憧れ、“フツー”ではない自分に酔っています。

かおりはボクに自分の理想を投影し、彼が自分でアイデンティティを開花させるのを待っているようでした。

かおりは口癖のように「ホント、フツーだよね」と言っていましたが、普通であることを単に否定していたのではなく、ボクの中にある彼のこだわりや理想を知るため、引き出そうとしていたと感じます。

しかし、“フツーでない自分”にこだわっていた、かおり自身も疲れ始めた時期ではないでしょうか。ボクが自分の理想をみつけられず、安直な提案をしてきたことで別れる決断をしたのです。

ラストで問われる「ボクたちはみんな大人に」に続く答え


(C)2021 Netflix

そもそも“フツー”や“大人”になる、ならないの定義はなんでしょう。子供の頃からの理想にどれだけ近づけたかで、判断するのであれば、映画に出てくる“ボクたちはみんな”「大人になれなかった」といえます。

しかし、一般に“大人になれていない”といわれる人は、「責任がとれない」「感情が制御できない」「人の言いなり」「想像力の欠如」「自己中心的」というのが特徴で、これには育ってきた環境も影響しています。

概ねの人は理想と違ったとしても、家庭や人間関係、社会の中で培った心は、社会で共存できるよう成長し、子供のままではないからです。

つまり、観た人達の価値観で答えは決まります。自分は“どんな大人になれただろうか?”と問う作品として観ると、その答えは自分の中にあるでしょう。

まとめ

Netflix映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、いわゆる大人の階段を上り始める20代前半、まだ言葉に影響力が残る、90年代半ばころの都心が舞台でした。

わずか25年の間でポケベル、PHSや携帯電話、FAXからインターネットとIT技術が、目まぐるしく発展したことで、人は言葉を忘れ、心も失われつつあることに気づかされます。

本作は原作者燃え殻の自伝的な恋愛を軸に、90年代後半に20代だった人には懐かしさを、共感できる感情も織り込み、通って来なかった人にも“大人とは?”を問いかける作品でした。

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