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Entry 2021/08/13
Update

Netflix映画『ベケット』ネタバレ結末感想とあらすじ解説。タイトルに主人公の名前を付けた“真意”を解く|Netflix映画おすすめ53

  • Writer :
  • タキザワレオ

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第53回

休暇で訪れたギリシャにて、悲劇的な事故に遭ったアメリカ人旅行者が、危険な政治的陰謀に巻き込まれ、命を狙われる逃走劇を描いたNetflixのスリラー映画『ベケット』

主演を務めたジョン・デヴィッド・ワシントンの出演作であり、2020年に日本でもヒットを記録した映画『テネット』を連想させるタイトルの本作は、ギリシャでの政治的陰謀に翻弄されるアメリカ人旅行者の逃走劇を描いています。

『君の名前で僕を呼んで』(2018)『サスペリア』(2019)をはじめとしたルカ・グァダニーノ作品にてセカンドユニット監督を務めてきたフェルディナンド・チト・フィロマリノが監督を務めたNetflix映画『ベケット』をご紹介します。

【連載コラム】「Netflix 映画おすすめ」記事一覧はこちら

映画『ベケット』の作品情報


Netflix映画『ベケット』

【公開】
2021年配信(イタリア映画)
 
【原題】
Beckett

【監督】
フェルディナンド・チト・フィロマリノ

【キャスト】
ジョン・デヴィッド・ワシントン、ボイド・ホルブルック、ヴィッキー・クリープス、アリシア・ヴィキャンデル
 
【作品概要】
フェルディナンド・チト・フィロマリノが監督するスリラー映画。本作は『君の名前で僕を呼んで』(2018)など、数多くのグァダニーノ作品にてセカンド監督を務めてきたフィロマリノの初監督作品になります。

同じくグァダニーノ作品にて撮影監督を務めていたサヨムプー・ムックディプロームが参加。音楽を坂本龍一が手がけています。

『Born to Be Murdered』というタイトルの映画の配給権を獲得された本作は後に『ベケット』と改題され、2021年8月4日に第74回ロカルノ国際映画祭で上映されました。2021年8月13日にNetflixにて配信開始。

映画『ベケット』のあらすじ


Netflix映画『ベケット』

休暇でギリシャを訪れていたアメリカ人旅行者のベケットとその恋人、エイプリル。集会の影響で、混雑が予想されるアテネのホテルから移動した2人はデルポイを観光した後、次の宿へと向かいます。

暗い夜道を運転していると、ベケットを眠気が襲います。気がつくと車は車道を外れ崖から転落。近くの民家に激突してしまいます。

横転した車の中から、人影を確認するベケット。こちらを見つめる赤毛の少年に助けを求めるも、少年は奥から現れた金髪の女性に連れられ、どこかへ消えてしまいました。

車の外に放り出されたエイプリルの様子を確認するベケット。エイプリルは呼びかけに反応しませんでした。

ベケットが目を覚ますと、そこは病室でした。エイプリルに会いたいと看護師に訴えると、彼女が亡くなった事を知らされます。

エイプリルの遺体を大きな街へ移送するためにサインを求められるベケット。彼女に会いたいという彼の訴えを一向に受け入れない地元警察を不審に思ったベケットは、エイプリルの父親へ連絡します。

亡くなった事実を伝えられないまま、電話を切ったベケットは警察の事情聴取を受けます。現場には誰もいなかったという警察に対し、ベケットは少年と女性がいた事を明かします。

男性の警官は不法移民が住み着いていたのだろうと推察し、捜索を約束しました。

事故から2日経ち、激突した住居を訪れたベケット。悔やんでも悔やみきれない後悔に発作を起こした彼は、向精神薬に手を伸ばしますが、謎の女性から銃撃を受けます。

そこへ、ベケットの事情聴取を担当した地元警官が応援に来ました。2人の警官は森へ逃亡したベケットを執拗に追いかけます。必死の思いで追跡から逃れたベケットは駐車してあったバンの中で夜を明かしました。

翌朝、住民に発見されたベケットは彼らの家で傷の手当てを受けました。そこへ警官が現れました。裏口から逃亡したベケットは山奥で養蜂家の夫婦に出くわします。

彼らの携帯電話を借り、アメリカ大使館へ連絡するベケット。保護を求めるも救出には1日かかると告げられました。

ベケットは、今居る場所から大使館のあるアテネまで5時間かかることを知り、電車で大使館へ向かうことにしました。

大使館へ向かう電車の中で、周囲に警戒しながら席についていると、隣へ警官が腰掛け、ベケットを押さえつけました。大使館へ何を連絡したのか、詰問する警官。ベケットは両腕を縛られていました。隙をついたベケットは急停車レバーを下ろします。

銃を構えた警官と揉み合いになった後、警官の足を撃ち、電車から逃亡するベケット。

周囲を捜索する警官に注意しながら大使館に再び電話をかけるとマジェシィと名乗る男が地元警察へ自首するよう助言して来ました。警官を撃ったことを認めなければ法的に救出することができないと。

身の危険を感じたベケットは電話を切り逃亡を図ります。街中で行方不明者のポスターを貼る活動家に気が付いたベケット。彼らが捜索していたのは、事故の日に彼が目撃した赤毛の少年でした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ベケット』ネタバレ・結末の記載がございます。『ベケット』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

ポスターを貼り終わり車でその場を離れようとしていた活動家2人に声をかけるベケット。少年の正体は、地元の有名政治家、カラスの甥っ子、ディモスであることを知ります。

カラスを潰すために誘拐されたディモスを山で見たと2人に打ち明けるベケット。ディモス救出の手がかりを持っているベケットは2人にアテネまで連れて行って欲しいと頼みます。

アテネへ向かう車内にて、活動家の2人、レナとエレニは、極右団体サンライズがディモス誘拐に関与していると話します。

国家主義を掲げるサンライズは、ギリシャ警察をも取り込み、EUによる緊縮政策を阻止しようとするカラスと対立していました。2人はシンタグマ広場で行われるカラスの集会に向かう途中でした。

集会による騒ぎを避けるため、ホテルを変えたベケット。その結果、事故を起こしてしまったことを後悔していました。

アテネに近づいてくると、警察の検問に出くわしました。2人に礼を言ったベケットは車から降り、逃走。再び電車で大使館へと向かいます。

大使館のある駅で謎の男に切り付けられるベケット。その場に居合わせた人々の助力もあって、ようやく大使館へ到着しました。

大使館にて、怪我の手当てを受けながら、電話で話したマジェシィと対面し、タイナンという男を紹介されます。タイナンは、先ほど大使館にエイプリルの遺体が搬送されたことをベケットに告げ、彼を安置室へ通しました。

エイプリルが亡くなった事実に改めて直面したベケットは悲しみに暮れていました。その後ベケットはタイナンにこれまでのことを話します。

一通り話を聞き終えたタイナンはディモス誘拐について、レナとエレニが都合良くでっち上げたデマだと一蹴します。

そして証言に付き合うと約束した上でベケットに地元警察で証言するよう提言しました。

タイナンの車で警察署に向かうベケット。途中カラスの集会に向かうグループに遭遇しながら、タイナンは「ディモス誘拐は共産主義を掲げる極左団体の犯行だ」とベケットに語ります。

警察署に向かうはずの車は人通りの少ない場所へ向かいました。突如タイナンがスタンガンに手を伸ばします。ベケットはすかさず反撃し、タイナンの車から逃走。

集会に向かう2人が仲間と合流する「祈りの手」へ向かいます。「祈りの手」が壁に描かれたビルで、レナとエレニに再会するベケット。2人のことを聞きつけた警官が直ぐに突入して来ました。

ベケットは、タイナンと逃走劇を繰り広げた後、地下へと追い詰められてしまいました。タイナンがベケットを手にかけようとしたその瞬間、一本の電話が入ります。

電話中のタイナンの隙を見たベケットは逆転。タイナンを追い詰めました。タイナンの元へ入ったのは、たった今集会中にカラスが暗殺されたという連絡でした。

タイナンは、ディモス誘拐の動機は政治的陰謀ではなく、カラスに纏わる借金絡みのトラブルだったことを明かします。

全てがマフィア同士の抗争に過ぎなかったことを知るベケット。極左勢力を潰す目的を達成したタイナンは、「ベケットは用済みだ。さっさと国へ帰れ」と言い残しました。

タイナンの銃を奪い、地上へ出たベケットは街中で起こっている暴動を目にします。警官隊と衝突するプロテスト団体の人混みをかき分け進むと、民家でディモスを連れていた女性を発見します。

後をつけると、彼女は駐車場に止めていた車へ乗り込むところでした。ベケットの後をレナが追いかけます。

ベケットは車にいた男を射撃し、女性と揉みあいになります。彼女の乗っていた車のトランクから子供の叫び声が聞こえました。

怪我を負った男は車を走らせ、駐車場を後にします。ベケットは車の上に飛び乗り、その場から逃走する男を止めました。

男を殴りつけるベケットを通行人が制止します。男の運転していたトランクから発見されたのはディモスでした。

レナと合流し、安堵の表情を浮かべるベケット。エイプリルを想い、涙を流しながら「俺が死ぬべきだった」と呟きました。

映画『ベケット』の感想と評価


Netflix映画『ベケット』

主人公の名を冠したタイトル

本作で主演を務めたジョン・デヴィッド・ワシントンは、元プロバスケットボール選手という経歴を持つ俳優です。また俳優のデンゼル・ワシントンを父に持つこともあり、スパイク・リー監督作品『ブラック・クランズマン』(2018)での活躍も印象に残ります。

そして近年での注目作品と言えばやはり『テネット』(2020)で、劇中にて個人名を与えられていない主人公を演じ注目を浴びました。

Netflix映画の『ベケット』では、ほぼ全編を通してジョン・デヴィッド・ワシントン演じるベケットの逃走劇を描いており、『テネット』(2020)に引き続き、彼独特のアクションが堪能できます。

ベケットは、特殊部隊や捜査官でもないただの観光客でありながら、追っ手の警官と格闘し、そのほとんどで相手を圧倒してしまうほどの実力を持っています。

それは元プロバスケットボール選手という、彼自身のバックグラウンドがもたらした説得力なのかも知れません。この映画ではベケットの実生活はコンピュータ関連の仕事をしているとしか明かされていなかったため、観客が推察する余白は十分にあります。

旅行先での行動があまりにも冷静なのも、気になるポイントで、地元警察の対応を不審に思ったら、まず逃げる。信用出来ない相手から求められたサインは断る。急襲に備えて常に当たりを警戒するなど、これまで幾つもの災難を乗り越えて来たのか、彼の只者で無さを感じさせる描写が多かったのも印象的です。

出自、生い立ちについては不透明な主人公ベケットですが、本作を通して彼の心情描写は特に重点的に描かれていた事が印象的でした。

次々と起こるトラブルに対して冷静に対応し、その場を切り抜ける能力に長けているベケットですが、一度安全な状況に落ち着くと、精神的負担が後を追うように込み上げてきたり、向精神薬を用いるなどして、何とか自分を律していたことが描かれていました。

ベケットの危機管理能力が高すぎるせいか、追っ手の追跡が不十分であったり、追い詰め方に疑問が残る描写もありましたが、終盤、シンタグマ広場でのプロテスターと警察隊の衝突は非常にリアリスティックでした。

近年の作品では、(前述した『ブラック・クランズマン』(2018)などに顕著ですが)Black Lives Matterをはじめとした実際の抗議活動の映像をフィクションである作品内に取り込む手法が度々見受けられます。

そのような手法は、現実問題を取り扱った映画において、フィクションと現実の垣根を超えて作品のメッセージ性を強める効果をもたらします。

また規模の小さい作品においては、エキストラを用いて抗議活動を描こうとすると、どうしても陳腐に写ってしまいかねないという問題もあるでしょう。

本作は実際の映像を織り交ぜずに迫力のある抗議活動、警察隊との衝突を描けています。

ベケットが授かった神託

本作がギリシャを舞台とした背景には、劇中でも少し触れられている通り、実際の緊縮政策など、現実の政治・経済問題を盛り込む事で、ある種のメッセージ性を持たせたかったからではないかと推察します。

しかし実際に完成した映画を観ると、政治性は全面に押し出されておらず、むしろ冒頭のエイプリルとの会話、歴史が深いロケーションなどから宗教性を感じさせる作品であることが分かります。

映画冒頭、エイプリルの枕元にあったメモ「どんな神託を授かったのか」とは、本作に通底するテーマであり、古代ギリシャの神託所デルポイから映画が始まることからも象徴的です。

人との関わりを極力避けたい「人見知り」なベケットに対し、人に関心を持ち、直ぐに打ち解けようとする気さくなエイプリル。

対照的な2人だからこそ、お互いを補ってきたようですが、エイプリル亡き後、ベケットは人と関わり、社会と関わることを余儀なくされます。

受動的に巻き込まれたベケットですが、その経験を経て、彼は自分が死ぬべきだったと悲観的な言葉を口にします。

古代ギリシャにおける神託とは、個人の経験によりもたらされる幸運、不運を意味していました。ベケットの不幸は神によりもたらされたものなのか。

恋人を失った不幸が転じて、誘拐された少年を救うことになったベケットは、社会に幸運をもたらした存在でもあります。

信仰を説く意味で宗教的ではない本作は、個人の行動とその結果の法則に従うことで、宗教性を纏っていました。

まとめ

Netflix映画『ベケット』は、逃走劇のアクションを描いたアクション・スリラー映画。

『テネット』(2020)においても印象的だったジョン・デヴィッド・ワシントンの独特の格闘が堪能でき、テーマと密接な関わりを持つギリシャの街並みや名所を眺めることができる観光映画という側面もあります。

ミステリーとして終盤まで隠されていた真相が思いの外呆気ない、鍵を握る重要人物が直接的に描かれない政治的に対立する団体の関係性が不透明など、サスペンスとしての描写が至らない箇所も見受けられますが、全編を通した逃走劇の疾走感、終盤の混乱した市街地の様子など光る要素は十分にあります。

特にクライマックスで見せる『ダークナイト』(2008)のバットマン顔負けの立体駐車場からのダイブは一見の価値があります。

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