連載コラム「SFホラーの伝説『エイリアン』を探る」第4回
謎の宇宙生命体とリプリーの、最後の戦いを描いた映画『エイリアン4』。
『エイリアン4』は前作『エイリアン3』でゼノモーフ(宇宙生命体)とともに自ら命を絶った女性航海士リプリーが陰謀をたくらむ者たちの手で復活、同時に蘇生したゼノモーフたちと再び死闘を繰り広げる様を描きます。
今作では不動のシガニー・ウィーバーが演じるリプリーに加え、宇宙生物の血塗られた歴史を知る謎の女性コールが登場、リプリーとともにゼノモーフ殲滅に立ち向かいます。
作品はフランスの映画監督ジャン=ピエール・ジュネ監督へ引き継がれ、リプリーが繰り広げるバトルシリーズ最終章をバラエティー豊かな映像で飾りました。
コラム第4回となる今回は『エイリアン4』を検証します。人気SFホラーシリーズの締めとなるこの作品がどのような余韻を残したのか、その経緯を探ります。
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映画『エイリアン4』の作品情報
【日本公開】
1997年(アメリカ映画)
【原題】
Alien: Resurrection
【監督】
ジャン=ピエール・ジュネ
【脚本】
ジョス・ウェドン
【音楽】
ジョン・フリッゼル
【キャスト】
シガニー・ウィーバー、ウィノナ・ライダー、ロン・パールマン、ドミニク・ピノン、ダン・ヘダヤ、J・E・フリーマン、ブラッド・ドゥーリフ
【作品概要】
前作『エイリアン3』からさらに200年後を舞台に、リプリーとエイリアンの最後の戦いを描きます。エイリアンの軍事利用をたくらむ一派がリプリーの再生を敢行、その体内に宿っていたゼノモーフをもとに宇宙船オリガ号の中で養殖、それが逃げ出してしまいリプリーが仲間とともに再度の戦いに挑みます。
監督は『デリカテッセン』『ロスト・チルドレン』などを手掛けたフランス人監督ジャン=ピエール・ジュネ。再びの登場となるヒロイン・リプリー役を不動のシガニー・ウィーバーが担当、さらに謎の女性航海士コール役としてウィノナ・ライダーが出演、ダブル主演での共演は作品の大きな見どころとなっています。またジュネ監督作品の常連ともいえるロン・パールマン、ドミニク・ピノンらも個性的な役柄で出演を果たしています。
映画『エイリアン4』のあらすじとネタバレ
リプリーが惑星フューリーにおけるゼノモーフとの戦いで溶鉱炉に飛び込み、跡形もなく消えてしまってから200年が過ぎました。
米軍はフューリーの刑務所に保存されていたリプリーの血液を利用して彼女のクローンを生成することに成功、実験ステーション・オリガ号の中で生まれ変わったリプリーは8体目の生成において、ゼノモーフの遺伝子を持つ特別な人間として誕生します。
生まれたばかりのリプリーは生前の記憶がなく、まさに生まれたばかりの子供のようでしたが、研究員たちの辛抱強い教育により徐々に記憶を取り戻していきます。
一方、彼女は負った傷を驚くべき再生能力で治癒し、とびぬけた運動神経とパワーを持つ特異な能力を持っていました。
また彼女の再生が進行する裏でオリガ号の中では、研究グループを取りまとめる船長のベレス将軍は研究者と共にエイリアンの軍事兵器開発を企て、クイーン(ゼノモーフの女王)を飼育し多くの卵を産ませていました。
その計画を聞いたリプリーは、成功するはずはないとあくまでその計画を否定します。
そんな中、宇宙貨物船ベティが計画に使用する人間を運んでオリガ号に到着します。
不正に冷凍睡眠する誘拐した人間をオリガ号に商品として納めるベティのエルジン船長はベレス将軍と裏でつながりを持ち、オリガ号で不穏な実験計画が進んでいることを疑いながらも、莫大な報酬が得られることで関係にうまく折り合いをつけていました。
そしてオリガ号の研究員たちは、ベティが連れてきた犠牲者たちにゼノモーフを意図的に寄生させ、養殖するというおぞましい実験を繰り返していました。
一方、オリガ号への荷物の引き渡しを終えたベティのクルーたちは一服しようと船内をうろつく中、バスケットボールコートで戯れるリプリーを見かけ、何の気なしにリプリーにちょっかいを出します。
ところが逆にリプリーにからかわれて逆上、最後は彼女の返り討ちにあってしまいます。そんなリプリーにベティの新米女船員のコールは興味を向けます。
それがこの後で起きる凄惨な事件の始まりだとは、誰も知る由もありませんでした。
映画『エイリアン4』の感想と評価
大きな風刺で説いたシリーズのメッセージ
この作品を作り上げたジャン=ピエール・ジュネ監督は、この作品でハリウッド映画デビューとなりました。ジュネ監督はこの製作が決まったのちに、その年のヒット作の研究を始めたというエピソードがあるといわれており、その意味でジュネ監督の抜擢は、やはり「エイリアン」シリーズの新たな方向性を求めた上での決断だったと予測されます。
この作品以前の三作品には、作品を手掛けた監督それぞれの美学的な特徴が強く感じられるものでしたが、対して本作はそれらを集約、かつさまざまなカラーを包括したバラエティーに富んだ色彩感を覚えさせています。
「おぞましさ」という大元のベースは共通していますが、本作はその点を抑えつつ、時にクールな雰囲気に、また別の時にはホットにと場面によってさまざまなカラーを見せ、107分の物語をカラフルに彩っています。
またジュネ監督の代表作の一つ『デリカテッセン』を思わせるブラック・ユーモア感が漂うのも新鮮な空気です。研究に対して少し病的な面持ちの研究者たち、決して真面目になり切れないベティの乗組員たち。特にダン・ヘダヤが演じる、目の焦点が合ってない感じでもあるベレス将軍のたたずまいはその傾向が顕著に見られます。
ベレス将軍はエイリアンの襲撃を受け兵士たちが脱出を進める中、脱出ポッドにエイリアンが侵入してしまうのを目撃、手りゅう弾を投げ込んで爆破しその様に対して敬礼を向けた際に、ゼノモーフに背後をとられてしまいます。
その姿は視点をずらすと滑稽にも見え、「こんな間抜けな人が、ゼノモーフによる軍事兵器開発を進めていたのか」と呆れにも似たような感情を呼び起こします。この効果は物語に対して非常に風刺的な意味合いを浮き立たせている感じもあります。
シリーズではこれまで、人類はゼノモーフに対してほとんど戦いの場面のみを見せ続けていました。そして本作で初めて、ゼノモーフと人間の交配というおぞましい研究のシーンを見せるわけですが、これはシリーズ通しての究極ともいえる恐怖感、実は人間自身の行動が最も恐ろしいということを示しているとも見えるわけです。
しかし他方で、こういったおぞましい行為を、このような抜けた人間が取り仕切っていたという危機的状況を描き、人間の愚かな行為の醜さを風刺しているように見せており、これまでにシリーズで描かれていたストレートな恐怖感の裏にある真意を変化球的な手法で物語に埋め込んでいます。
また一方で復活を遂げるリプリーと、新キャラクターであるコールの登場はファンタジックな印象を物語に与えています。特に人間の世界で密かに生き、ゼノモーフの存在を排除しようとするその心持ちは、童話の「ピノキオ」を髣髴するものであり、すべての記憶を抱えたまま復活するリプリーの存在は、そのピノキオを導く、人知を超えた存在でもあります。
そんな人間に憧れるコールの「人類を救う」という尊い行動と、人間たちの愚行というコントラストは絶妙で、ある種『エイリアン』の最終章として、シリーズが示すべきメッセージを独自のスタイルでうまくまとめています。
女性の「弱い姿」から「強さ」を描く
またこれまでのシリーズ作品は、主人公リプリーの目線を中心に描かれていましたが、本作はシリーズ中で初めて群像劇的な構成をとっている点にも注目すべきでしょう。
物語ではリプリーのほかにコールというメインキャラクターが現れ、劇中では二人の人生が複雑に交差します。一方でその他の登場人物も深いディテールとユニークさを抱えたキャラクター作りがされています。
例えばゼノモーフに襲われ、自分の危機が迫っているにもかかわらず新種の誕生に心奪われる科学者や、犯罪に手を染める海賊船にいながらもどこか憎めないベティの乗組員、将軍という肩書ながらベティという海賊船とつながりのあるベレス将軍。
このように「どちらかというと悪人だけど、なぜか憎めない」「すごく真面目な人間だけど、信用できない」と、さまざまな人間の思惑が複雑に絡み合って物語を構成しており、ストレートな方向にもっていきがちになる本シリーズの焦点に深みを与えています。こういった巧妙な人間像の書き方も本作ならではといえます。
その一方、前作三作の特徴としてリプリーの「強い女性」というイメージに触れましたが、この作品では変化球的な手法でこのテーマを描いています。
本作でリプリーは最先端技術により復活を遂げ、生まれ持ってとんでもない能力を備えた、まさに「強い女性」となって登場しました。
しかしその強さは、あくまで「女性の強さ」ではありません。逆にこの作品でそれが感じられるのは、ラストのクライマックスのシーン。
ベティでオリガ号を脱出したコールたちでしたが、貨物室にハイブリッド・ゼノモーフが同乗していたことを察知、リプリーは隙を見て自分の強酸性の血液で船外との境にあった強化ガラスを溶かし、ハイブリッド・ゼノモーフを船外に吸い出して倒すことに成功します。その最後のシーンで悲痛な表情を見せるハイブリッド・ゼノモーフにリプリーは「許して」と一言、切なげな表情を見せます。
ゼノモーフはリプリーにとって憎き相手でしたが、文字通り長い年月の腐れ縁でもあります。またハイブリッド・ゼノモーフが誕生した要因は自分にもあったことから、当然リプリー自身も自分の子に対する愛情に似た感情を見せたというのは、あり得ることでしょう。
この強さと弱さの対比という点、そして弱さを乗り越えた後の表情は「母としての強さ」を象徴するものといえます。
また、リプリーとコールの関係は、視点を変えれば親子のような関係にも見えます。まっすぐな性格で相手に向き合う女性、それを見守るのはさまざまな壁を乗り越え、強き人となったまた一人の女性。そこにはある意味継承的な光景も感じられ、まさに人々への影響力を持った「強い女性」の印象を感じることができます。
本作の作品時間は107分とそれほど長くなく、あまり細かい設定をすべて表に出そうとするとストーリーがぼやけてしまう恐れもありますが、そのバランスのとり方もスマートで、巧妙に見せているその手腕は高く評価できるポイントであります。
まとめ
本作ではシリーズで初めて、ゼノモーフを悪用しようとする首謀者がウェイランド・ユタニ社という民間企業から軍に移るという変化を見せました。企業が何百年と生き残るのは難しい話であり、そういった状況もあり得ると片づけられそうな話ではあります。
しかし一方で、ゼノモーフという存在をそれほどにまで長く危険なものの象徴としてとらえ人間が追い続けたこと、しかも企業という有益性を追い求める団体から軍という絶対的な存在へ欲望の矛先が向いたという視点で見ると、この変化は人間の罪深き欲望の意志を深く表現しているように見ることもできます。
一方、本作は物理的な映像技術としてもさまざまな試みが見られるのも特徴であります。ジュネ監督は時代的に早くから3D映像への造詣を持っていたこともあり、本作ではシリーズで初めてCGによるエイリアンを登場させました。
また有名なシーンとして水中を泳ぐゼノモーフを登場させるという試みを行っており、その水中での特徴的な動きは、公開当時にも話題となり見どころの一つとなっています。
本作が興行的に振るわなかったのは、作品のカラーとしては第一作、第二作の寒色をベースとした色合いの作品に近づけている一方で、ゼノモーフの惨殺シーンの映し方などあまりにも大きな変化を見せたがことが、シリーズのファンに対して戸惑いを覚えさせた要因となったからなのかもしれません。
しかしシリーズ作品作りにおけるチャレンジとしてみると、非常に大胆かつ緻密なアプローチを行い、一方でさまざまな要素をバランスよく詰め込んだ点は評価されるべきものであるといえるでしょう。
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