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Entry 2022/08/01
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映画『ダブル・ライフ』あらすじ感想と解説評価。余園園監督と菊地敦子で描くレンタル夫使用の二重生活の実態|2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集6

  • Writer :
  • 西川ちょり

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022国内コンペティション長編部門・優秀作品賞受賞の余園園監督作品『ダブル・ライフ』

2004年に埼玉県川口市で誕生した「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」は、映画産業の変革の中で新たに生み出されたビジネスチャンスを掴んでいく若い才能の発掘と育成を目指した映画祭です。

第19回目を迎えた2022年度は3年ぶりにスクリーン上映が復活。同時にオンライン配信も行われ、7月27日(水)に、無事その幕を閉じました。

今回ご紹介するのは、国内コンペティション長編部門で優秀作品賞に輝いた余園園監督作品『ダブル・ライフ』です。

【連載コラム】『2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集』記事一覧はこちら

映画『ダブル・ライフ』の作品情報

【日本公開】
2022年公開(日本、中国合作映画)

【監督】
余園園

【キャスト】
菊地敦子、松岡眞吾、古川博巳、若狭ひろみ、浅田麻衣、川口紗弥加

【作品概要】
中国から日本に留学し映画を学んだ余園園が、立教大学大学院の修了制作として撮った長編作品。

心の穴が開いていると感じる妻が夫をレンタルして二重生活を始めます。

身体コミュニケーションを通じて変化するヒロインの心の動きが丁寧に描かれています。

余園園監督のプロフィール

2015年北京電影学院を卒業。

仕事をしながら独学で日本語を勉強し、2018年来日。早稲田大学で一年間の日本語プログラムを修了後、2019年東京ビジュアルアーツ映画学科(現映像学科)に通い、2020年立教大学大学院に入学。万田邦敏教授の元で演出を学ぶ。現在映画宣伝の仕事を務めながら、自主映画を作り続けている。

映画『ダブル・ライフ』のあらすじ

詩織は週末に開催される身体コミュニケーションのワークショップに夫と共に参加するのを楽しみにしていました。

ところが、夫が突然行けなくなったと電話で連絡してきました。理由を聞いても今、仕事中だからと繰り返すばかり。

帰宅した夫に問いただしても仕事が入ったのだから仕方がないと、つれない態度です。

ワークショップに行けなくなって落ち込んでいた詩織は、同僚から代行業をしている男性・淳之介を紹介されます。

2回目のワークショップが開催されることになり、詩織は淳之介に夫役を依頼しました。

ワークショップの先生の指導の元、互いの体に触れ合った際、淳之介は、詩織が最近頻繁に夢で見る光景と同じような風景を感じたと言い、詩織を驚かせます。

詩織は夫に内緒でアパートを借り、淳之介と新たに契約を結ぶことにしました。ふたりの疑似夫婦生活が始まり、詩織のダブル・ライフが始まりました。

映画『ダブル・ライフ』の感想と評価

菊地敦子扮するヒロイン・詩織は、夫がいるにもかかわらず、内密にアパートを借りて、代行業の男性に夫になってもらうことを依頼し「ダブル・ライフ」を始めるのですが、本作には「身体コミュニケーション」と「レンタル夫」というユニークなモチーフが「ダブル」で登場します。

他人の体に触れ、そこから相手の気持ちを感じ取り、自分の新たな感情に気づく「身体コミュニケーション」と、依頼者の都合に合わせ、様々な役柄をこなす代行業者による「レンタル夫」。

そのいずれか一つだけでも、十分、興味深い題材なのに、ダブルで登場するのですから、物語の構造に二本柱が立っているかのような強度を感じさせます。

しかも、このふたつの題材がきちんとリンクしているので、ヒロインの心理が説得力を持って伝わってきます。

心に空洞を抱えたまま、これまで目を逸してきたもの、取り繕ってきたものに気が付き、自身の弱さを直視する主人公。

人と交わす対話はもとより、ダンススタジオの鏡や、ドラム式洗濯機のドアのガラス部分に映った詩織の姿を始め、風船、秋桜の花、結婚指輪といったディテールを積み重ねることで、ヒロインの心の変遷が、きめ細やかに、繊細に表現されていきます。

と、同時に、怪我をしてダンスを諦めたヒロインが、体を動かし続けることから自分の重心をみつけていく姿も描かれ、鮮烈な印象をのこします。

夫婦の危機、愛情の齟齬という問題を扱いながら、日本映画で度々見かける泣きわめくという描写はほとんどなく、終始、静粛な雰囲気で進行していきます。

不安の中で揺れながらも、静かに、冷静に、自身の人生に向き合うひとりの女性の物語には風格さえ漂っています。

国内コンペティション長編部門の優秀作品賞に選出されたのにふわさしい非常に優れた作品といえます。

まとめ

レンタル夫との疑似恋愛は本物の恋愛に変わっていく危うさを秘めながら、契約時間がすぎると途端にビジネスライクになる描写が面白く感じられました。

プレゼントされたかに見えた簪はあとからしっかり代金を請求されます。となると、はじめの頃にプレゼントされた秋桜の花も花瓶も同じように必要経費として請求されたのでしょうか。おそらくそのような契約なのでしょう。

そんな中、淳之介は詩織に一欠片も愛情を感じなかったわけではないとも思え、想像はつきません。

詩織を演じた菊地敦子、レンタル夫役の松岡眞吾をはじめ、力のある役者の存在も、映画の主題を明確なものにしています。

また浮気相手の女性など、物語が進むにつれ、忘れ去られてしまいそうな存在の人物にも、最後まで監督の視線が向けられていることにも感銘を覚えました。

【連載コラム】『2022SKIPシティ映画祭【国際Dシネマ】厳選特集』記事一覧はこちら




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