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韓国映画『未成年』あらすじと感想レビュー。初監督キム・ユンソクが大胆にドロ沼愛想劇を描く|2019SKIPシティ映画祭11

  • Writer :
  • 桂伸也

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019エントリー・キム・マンドク監督作品『未成年』が7月20日に上映

埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典が、2019年も開幕。今年で第16回を迎えました。


(c)SHOWBOX /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

そこで上映された作品の一つが、韓国のキム・ユンソク監督が手掛けた長編映画『未成年』

親の愛憎劇のもとで、傷つきながらも様々な感情に身をゆだね、成長していく姿を、二人の少女の関係の変化を交えて繊細に描いた物語です。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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映画『未成年』の作品情報

【上映】
2019年(韓国映画)

【英題】
Another Child

【監督】
キム・ユンソク

【キャスト】
ヨム・ジョンア、キム・ソジン、キム・ヘジュン、パク・セジン、キム・ユンソク

【作品概要】
醜いまでの親の愛想劇の中で出会う二人の少女が、生命の大切さを知り成長していく様を、大胆かつ繊細に描いた美しい作品。

本作が初監督となるキム・ユンソクは、俳優としても活躍しており、映画『チェイサー』で韓国の二大映画賞、青龍映画賞と大鐘賞で主演男優賞を受賞したほか、『哀しき獣』『10人の泥棒たち』『1987、ある闘いの真実』といった大ヒット作でも主演を務め、大きな人気を博しています。

本作は、キム監督が創作劇フェスティバルで上演された舞台に感銘を受け、5年がかりで映画化しました。

メインキャラクターであるジュリを演じるのは、ぺ・ドゥナ主演のゾンビ時代劇シリーズ「キングダム」などに出演するキム・ヘジュン。また、ジュリと対峙するユナを演じたパク・セジンはモデル出身、今作が映画初出演となります。

キム・ユンソク監督のプロフィール


(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

1986年に舞台「欲望という名の電車」でデビューし、90年代は演劇界を中心に活躍しましたが、その後TVドラマ、映画での活動を増やし、主演を務めた『チェイサー』の演技が高く評価され、大鐘賞、青龍映画賞それぞれで主演男優賞を受賞し一気に注目を集めます。

以降『哀しき獣』『10人の泥棒たち』『海にかかる霧』『天命の城』『1987、ある闘いの真実』と多くのヒット作に出演し、人気俳優としての地位を不動のものとする一方、本作で監督デビューを飾りました。

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映画『未成年』のあらすじ


(c)SHOWBOX /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

ある一人の少女が、片田舎の料理屋の女将を密かにのぞき込んでいるシーンから、物語は幕を開けます。やがて少女の存在は女将に気づかれ、慌てて少女は走って逃げていきます。

少女の名はジュリ。彼女は何の変哲もない普通の家庭で生活していましたが、ある日父の浮気の事実を知ってしまいます。その浮気相手の女性が、あの料理屋の女将であり、同級生ユナの母ミヒでありました。

ある日、ジュリは、父がユナの母と浮気をしていることを忠告しますが、逆にミヒが父の子を妊娠していることを知らされ、大きなショックを受けます。

お互いに顔を合わせるたびに口論を行ったジュリとユナ。ついには、ユナはジュリの母に、自分の主人の浮気をばらしてしまいます。

そしてジュリの母はミヒと対面することに。これにより愛想劇はさらにドロ沼化していく中で、ジュリとユナはさまざまな思いを抱き、時に反発しながらも成長を遂げていくが…。

映画『未成年』の感想と評価

本作のストーリー構成は起承転結という形にせず、「最初から浮気の事実を発覚」させたうえで、どう展開していくかというプロットから大胆にはじまります。

近年は音楽制作の現場でも、イントロからAメロ、そしてサビといった定型的な音楽フォーマットがいろんな手法によって崩され、新たな音楽スタイルが築かれているといわれていますが、映画の制作手法にもこの傾向は多く見られるようです。

見る側としては非常に分かりやすいであろう「起承転結」の構成ですが、こういった流れを、敢えて崩そうとする傾向。顕著なものとしては、新海誠監督の『君の名は。』がよい例でしょう。

一度スタートした物語を、展開していく中でさらにオープニング的な演出を加え、見ている側に浮遊感をあたえるような効果を見せています。

このように、常套手段を敢えて崩そうとする傾向の演出は、『SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019』のいくつかのノミネート作品にも見られました。

本作『未成年』はその中でも、最初に全く物語の設定や登場人物などが分からないまま「とある夜に、一人の少女が料理屋の中を密かにうかがっている」という、ミステリアスで怪しい展開からスタートし、親の知らぬ間に娘同士が対立し始めるという、一見カオティックな序盤から物事は進んでいきます。

そういった作りが、結果的にすべての物事が終息するラストに向けて、安定へと急速に着地していくような流れを見せます。キム監督自身が父役として、最後にどうなったか、その展開ですら“納得できる”と、誰もが思うことでしょう。

そんな物事の流れが、まさに川を水が流れるかの如く自然に描かれた本作。その流れの一つ一つに不自然なものが無いよう、撮影に対して丁寧に、真摯に向き合った結果が、作品の繊細さにも現れています。

また、ドロドロの愛想劇を描いたものは、よく韓国映画にありがちと評価される向きもあります。

しかし、キム・ユンソクが初監督を務めた映画『未成年』は、そういった目をそむけたくなるようなおぞましさをはらみながら、最後にはなにか感動のようなものすら見せています。

このような物語に作品を完成させることができた理由は、韓国のお国柄を鮮明に作風に落とし込むことに、ユンソク監督が成功できたからだといってもよいでしょう。

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まとめ


(c)SHOWBOX /(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

映画『未成年』のように、人物関係の伏線がかなり複雑に構成されているのも、韓国映画に多く見られる特徴です。

それにも増して、その関係性に強く縛られず、登場人物が非常にナチュラルに生きている姿は、本作を高く評価できる注目すべき点だともいえます。

そこはやはり数々のヒット作で主演を務めたキム・ユンソク監督の、積み上げてきた俳優としてのキャリアから得た感性と、物語のキャラクターを読み込む知性という、2つのバランスによるものではないでしょうか。

演出としての物語構造の面白さと、キャラクターたちの人間の表情。どちらに強く偏ることもなく淡々とストーリーが進み、見飽きることのない作品を成立させているのが、非常に印象に残る秀作です。

また、キム・ユンソク監督は、映画上映当日に登壇の予定でしたが、急遽スケジュールの都合で映画祭での登壇はかないませんでした。

当日はビデオメッセージにて訪日がかなわなかったことと合わせ、映画祭で直接映画の反応が聞けなかったことの無念さを語りながら、何らかの形で皆さんの前に訪れるよう力強く約束されました。

なお、映画『未成年』は、日本劇場公開に向けて、現在調整が進められているようです。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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