2019年8月23日(金)より、キネカ大森ほかで開催される「第6回夏のホラー秘宝まつり2019」。
映画『シオリノインム』は、8月24日(土)の開会式に続く上映作品として登場します。
第6回目となる、日本映画界夏恒例のホラー作品上映イベント「夏のホラー秘宝まつり」。
学生残酷映画祭にて、2010年『FRIEND IS THE DEAD』で審査員特別賞を、翌2011年『へんたい』でグランプリを受賞。それ以降もホラー作品を手掛け続ける、佐藤周監督の作品が登場します。
前回「夏のホラー秘宝まつり2018」で上映された『心霊ツアーズ』に出演、観客投票を含む優勝者として、みごと2019年度【ホラー秘宝ガール】”の座を獲得した松川千紘が主演、体当たりの演技で見せるエロティック・ホラー『シオリノインム』。
松川千紘の初ヌードや初の絡みのシーンが話題となった作品。しかしその先に、想像を超えた恐るべき恐怖が待っていた…。
【連載コラム】「夏のホラー秘宝まつり:完全絶叫2019」記事一覧はこちら
映画『シオリノインム』の作品情報
【公開】
2019年8月24日(土)(日本映画)
【監督・脚本・編集】
佐藤周
【出演】
松川千紘、古谷連、辻凪子
【作品概要】
幽霊に女性が犯されるという、ショッキングな題材に正面から取り組んだホラー映画。
監督は「夏のホラー秘宝まつり2018」で上映された、『怪談新耳袋Gメン 冒険編 前編・後編』の佐藤周。今年は「怪談新耳袋Gメン」シリーズの監督を降板し、この新作映画に臨みました。
「夏のホラー秘宝まつり2018」の上映作品、『心霊ツアーズ』の出演女性タレントオーディションの際、複数の女性タレントが心霊体験として、霊との性的体験を告白しました。それに着想を得て企画された作品です。
なんともキワモノ的な宣伝文句に、心地良く引き寄せられる『シオリノインム』。しかし佐藤周が仕掛けた展開と、それに応えた松川千紘の熱演が、集まった観客の度肝を抜く衝撃作。
映画『シオリノインム』のあらすじ
レストランで働き、今は1人で暮らしている詩織(松川千紘)。彼女は半年前に付き合っていた男と別れ、傷心の日々を送っていた。
ようやく明るさを取り戻し始めた詩織の姿に、ようやく安心する友人のケイコ(辻凪子)。しかし詩織には、誰にも打ち明けられない秘密を抱えていた。
それは彼女が、毎夜“謎の男”に抱かれる夢を見ている事であった。戸惑いつつも、いつしか彼女は淫夢に陶酔してゆく。しかしある夜夢とは思えぬ体験に遭遇し、恐怖を覚えた詩織。
レストランの同僚、ユウスケ(古谷連)は、彼女とケイコの会話を聞いて、詩織を“謎の男”から守ろうと試みる。その行為が効いたのか、詩織は淫夢から解放される。
ところがある夜を境に、“謎の男”は再び詩織の前に現れる。淫夢はさらに現実味を帯びてゆき、ついに“謎の男”は恐ろしい姿を現す。
ついに夢の中だけでなく現実にも現れ、詩織を犯し始めた“謎の男”。日常の生活は崩壊し、詩織は追い詰められてゆく。
“謎の男”の目的とその正体は。現実を支配し始めた淫夢から、果たして詩織は解放されるのか。物語はやがて、恐るべきラストを迎える…。
映画『シオリノインム』の感想と評価
“色情霊”を扱ったホラー映画
毎夜女性を犯す幽霊、と聞いて年期の入ったホラー映画ファンなら、『エンティティー 霊体』という映画を思い出すでしょう。
バーバラ・ハーシーが主演した『エンティティー 霊体』、なぜか度々地上波のテレビ放送され、その際には「美女を毎夜レイプする零体とゴーストバスターたちの死闘」という、ストレート過ぎるキャッチコピーまで付けられます。
何とも無茶が許された時代でした。当時思春期を迎えた男性諸氏には、実に刺激的な共有体験として、記憶に留めている方も多いでしょう。
参考映像:『エンティティー 霊体』(1983)
この映画のお蔭で、“色情霊”という言葉が市民権を得て、当時の心霊番組などで話題となりました。これも年期の入ったオカルトファンには、懐かしい思い出でしょう。
この“色情霊”を久々に真正面から、臆することなく取り上げた意欲作が『シオリノインム』です。この題材を映画にするなら逃げられないシーンにも、堂々と取り組んだ力作です。
ちなみにとある女性の実体験を基に映画化した、とされている『エンティティー 霊体』。クライマックスは、この“色情霊”と科学者の対決を描く、という展開になっています。
一方の『シオリノインム』も“色情霊”との対決を迎えます。その正体を含め佐藤周監督は、この作品で見事な物語の創造に成功しています。
2分に1回ホラーかエロ!
佐藤周監督は「2分に1回、ホラーかエロ!」というコンセプトを自ら掲げ、それと大真面目に向き合って脚本を執筆し、この映画の撮影に臨んだとコメントしています。
その成果は映画を見て確認して頂きたいですが、「2分に1回」という回数以上に、その内容に度肝を抜かれる事が必至です。
佐藤監督は掲げたコンセプトを、「頭の悪そうな」と自虐的に紹介していますが、『シオリノインム』はそのコンセプトから想像される、生優しい映画ではありません。
ホラー映画には、過激なエロ・グロ・バイオレンスで見せる作品が多数あります。その中には、過激な描写の合間に、コメディシーンを挿入して過激さを和らげている作品が数多くあります。
過激な描写だけを重ねる事は、作り手にとっても観客にとっても居心地の悪いもの。笑いを挿入する事で、やましいモノを作った、やましいモノを見ているという罪悪感を和らげる事は、双方にとってちょっとした救いになるものです。
この映画で“謎の男”が姿を現した時、これからコメディにシフトしていくのだ、と想像しました。しかし佐藤監督は、そういった逃げを行いませんでした。
では『シオリノインム』は、過激な描写をひたすら重ねる映画の様に、観客によっては途中で逃げ出すような、“不快な映画”になったのでしょうか。
決してそうではありません。この映画は最後までテーマから逃げる事なく、観客を引きつけたまま、ラストまで突き抜けてゆくのです。
映画を支えた松川千紘の熱演
『シオリノインム』を「令和最初の劇薬映画」と紹介した佐藤監督。撮影中ベテランスタッフが音を上げる姿に、ヤバイものを作っていると自覚した、とも告白しています。
その佐藤監督が、ハードな現場を先陣切って駆け抜けた猛者こそ、松川千紘であったと認めています。彼女のメンタルとフィジカル、両方の強さがあってこの作品が成立したと、手放しで彼女を絶賛しています。
初主演作でヌードになり、数々のエロティックなシーンに挑んだ松川千紘。その演技はプライベート的な空間だけではなく、衆目を集める空間、オープンな空間でも要求されています。
本作の彼女の存在は、いわゆる“ホラー映画の脱ぎ要員”で片づけられるものではなく、映画の軸となるものであり、この役を演じ切った実績は、高く評価されるでしょう。
ヌードになることは撮影前は意識していなかった。しかし直前になって実感が湧き、とても緊張したと語る松川千紘。
しかし思ったより自然にそのシーンの撮影に入ったので、逆に気負わずに演じる事が出来たと、言葉を続けています。
脱いだ事が話題にされる松川千紘ですが、プライベートでの彼女の趣味はキャンドル作り。劇中に登場する、そして重要なアイテムでもある、美しいアロマキャンドルは彼女の手によるもの。
劇中の登場するキャンドルに、演技とは別にある彼女の姿を、どうか想像してあげて下さい。
まとめ
先日「別冊映画秘宝」の田野辺尚人編集長に、「夏のホラー秘宝まつり2019」上映作品についてお伺いした際に、佐藤周監督初の本格的なドラマのホラー映画、『シオリノインム』に注目しているとの言葉を頂きました。
その言葉を踏まえて見たこの作品は間違いなく、“2019年度【ホラー秘宝ガール】”主演のエロティック・ホラー、という言葉から想像する物を越えた、見応えのある作品でした。
主人公を責め苛む“謎の男”の正体については、ここでは記しません。ある意味エロティック・ホラーに釣られて集まった、男性諸氏にとっての真の恐怖、女性諸氏にとっては身近な存在かもしれない、とだけ書いておきましょう。
ところで『シオリノインム』の、「夏のホラー秘宝まつり2019」でキネカ大森での第1回目の上映では、上映前に開会式ならびに舞台挨拶が行われます。
舞台挨拶やトークショーは、上映後の方が映画の内容を踏まえて語られるので、面白い内容になるのが一般的です。
しかし『シオリノインム』は映画を見てしまうと、観客はあれやこれや聞きたくなるわ、女優さんには恥ずかしいやら。この映画に関しては、上映前に行うのが正解でしょう。
あえて上映後に楽しみたい方は、キネカ大森の「夏のホラー秘宝まつり」名物、“ホラーしゃべれ場トークショー”が実施される回もあります。ぜひ、振るってご参加下さい。
映画『シオリノインム』は2019年8月24日(土)より、キネカ大森ほかで開催される「夏のホラー秘宝まつり2019」にて上映!