SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019にてタニア・レイモンド、ジオ・ゼッグラー共同監督作品『バッド・アート』が7月15日に上映
埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭」が、2019年も開幕。今年で第16回を迎えました。
そこで上映された作品の一つが、アメリカのタニア・レイモンド、ジオ・ゼッグラー共同監督が手掛けた長編映画『バッド・アート』です。
権威者が評価したことで作品が突然価値を持つ、その一方でたとえ才能があっても無名の芸術家は一向に報われない。そんなアート界が抱える矛盾を、コメディ仕立てのストーリーで描いた作品です。
映画祭には、人気海外ドラマなどにも出演する女優としての顔も持つタニア・レイモンド監督が登場。今回はレイモンド監督にインタビューを行い、自身のバックグラウンドやジオ・ゼッグラー監督との出会い、そしてこの映画で示すメッセージなどを語っていただきました。
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タニア・レイモンド監督のバックグラウンド
──もともと日本には、どのような印象がありましたか?
タニア・レイモンド監督:(以下、レイモンド)実は14、5歳のころ、日本のカルチャーが大好きで、アニメも漫画も大好きでした。手に入るものは全部見たし、アニメEXPOに行ってはコスプレを楽しんでいました。
あと日本のロックバンド、ヴィジュアル系のものとかゴシックロリータにもはまっていました。今はすっかり忘れてしまいましたが、実は日本語の授業も2年間ほど履修していたこともあります。
ティーンエイジャーのころには絵を描いている人のBBSがあり、そこでオンラインで画を書いたりしたこともあって、それをきっかけに日本の人と友達になったり、音楽をシェアしたりして、本当に日本のカルチャーにどっぷりとはまっていました。
──作品と、ご本人の趣味との内容に落差も感じられますね。
レイモンド:確かに。この映画は、私の趣味的なところとは違って美術のことについてですし、非常に知的な要素も入っていると思います。
でも私はいろんなことに興味がある人間です。視覚的なもの、ヴィジュアルなものが好き。日本のヴィジュアル系も、その美しさが好きでした。一方で小さなころから本もたくさん読んでいたし、本を読むのも、美術も大好き。だから、私にはいろんな要素があると思っています。
共同監督ジオ・ゼッグラーとの出会い
──先程、私は「落差」と言ってしまいましたが、ご自身としては意外に遠くない物語とも考えられているのでしょうか。
レイモンド:そうですね。幼いころから自分をアーティスティックに表現したいという欲望があり、それは女優としての仕事にも、今回『バッド・アート』という映画を作ったということにもつながっています。
この映画は美術についての話ですが、それはやっぱりジオ・ゼッグラーとの出会いと、彼のコラボがあってできたことです。また不条理劇としたのは、母がフランス人であり、私がフランス系のアメリカ人であることも関係しています。
というのも、小さいころから戯曲『ゴドーを待ちながら』とか、不条理劇と呼ばれるもの、フランスの伝統としてすごくたくさんありますが、そういったものに非常に慣れ親しんできたので、『バッド・アート』はその辺りも含めて狙っています。
──ゼッグラー監督とは、どのように知り合われたのでしょうか?
レイモンド:SNS上で声をかけて知り合いました。それで彼も私のことを知ってやり取りをするようになっていきました。
そしてある日、ジオから映画を作りたいという話を受けたことがあり、彼は映画制作は未経験だったこともあって、共同監督による映画制作を行うことになりました。
そのころ私はすでに短編を作ったり、MVを作ったりしており、かなり脚本も書いていた中で、ちょうど長編もやりたいと思っていたところだったので、結果的に一緒に作品を手掛けることになりました。
二人で常々感じていた美術業界の矛盾
──初の長編で、このテーマを選ばれた理由は?
レイモンド:ジオと知り合ったころ、彼は美術界の中にいて、私は映画業界の中で美術業界の外側にいたんですが、SNSではいつも「美術業界のこういうところは嫌だね」みたいな話で、二人で盛り上がっていました。
同時に、“これについて、何か二人で一緒にやりたいね”と話していて、それが結果として今回の作品作りにつながりました。
ただ最初は映画ではなく演劇、舞台演劇でやろうとして脚本を書いていたんですが、その脚本をブロードウェイに出演している女優の友達に送って見てもらったときに、是非映画にしたほうがいいと勧められ、映画化の方向へと進みました。
ちなみにこの映画の中で言っていることは、ジオが長い間ずっと感じていることで、どうしても誰かに伝えていきたいと思っていたことでした。
でもただ何かに文章として書いても伝わらないと思い、それなら私の映画業界の経験が生かせるのではと、今回は映画に彼の考えを乗せて書くことを考えました。
いろんな次元で機能するキャラクター
──映画ではリー・ローレンスという、一人風変わりなキャラクターが出てきますが、その役目は?
レイモンド:この映画の大きな問いというのは、何がアートであり、誰がアーティストなのか、ということ。その中で「ジョルダナは絵を描いているけど、彼女はアーティストではない」という話は何度も出てきていて、“アーティストという存在は実在するのか”ということも大きな問いになっています。
リー・ローレンスは、設定上ではジョルダナの雇い主ということになっているのですが、映画では結局その正体は分かりません。
映画ではジョルダナともバイヤーとも違うスタンスのジーンという人間が後半に登場し、ジョルダナにアート、アーティストについて様々なことを言います。彼がリーなのかもしれないと匂わせますが、結局彼がそうなのかどうかも、最後まではっきりしない。
この状態で、もしジーンがリーであるならば、あるいはジョルダナ自身がリーであるならば、といろんな状態が仮定ができるわけですが、それぞれの仮定によって、そのアート、アーティストという意味合いは変わってきます。
その意味で、このキャラクターを置くことで様々な意味合いが変わってくるという、いわばいろんな次元で機能する面白い存在として、物語の中で生かしています。
最小限にとどめた“説明部分”
──映画は起承転結の「起」の部分がほとんどなくいきなり展開しますが、なんらかの意図はあったのでしょうか?
レイモンド:この内容の映画は、こういう構成でしかできないと思ったからです。
大まかには、悪な部分が出てきてどんどん悪くなる、で最後のほうで急にジーンが話し出して、静かにインテリジェントな話をする、という格好です。映画をご覧になるとわかるように、ジョルダナはすべての情報を最初に与えているわけです。
「彼女は絵を描くけど、自身はアーティストではなく雇われている身で、今日で仕事は終わり」最初の3分でその情報の全部は与え、そこから展開していく。しかし結局最初の3分で彼女が言っていることは理解されることはないまま、展開し、ジーンの語りにいくという展開なんです。
その意味では「逆構成」という形式をとっているようにも見える格好になっています。
──「起」の部分がないと思っていたら、実は短いという格好なんですね。
レイモンド:そう、とても短いんです。この映画に関しては、観客に情報を与えなければ与えないほどベターというタイプの映画だとも考えましたので。
実際一般の映画では前置きのような形が存在するのが通例としてよくありますが、むしろ普段の生活を考えると、ある日突如として変な人たちがノックする、という展開の方が私にはリアルにも感じられるし、この作品にも合っていたと思います。
私自身も、一般の映画のようなだんだん積み上げていくというタイプの映画というのは、実はあまり好きじゃなかったりしますね。
タニア・レイモンド監督のプロフィール
女優として活躍する傍ら、MVの監督や脚本家としても活動。アートを主題にしたTVシリーズのパイロット版の脚本をゼッグラーと共同で執筆しており、社会風刺劇や風変わりなコメディに取り組んでいます。
女優としては大人気TVシリーズ『LOST』にアレックス・ルノー役として第二シーズンから最終シーズンまで出演したほか、現在はアマゾンで配信中のビリー・ボブ・ソーントン主演ドラマ『弁護士ビリー・マクブライド』に出演しています。
インタビュー・撮影/桂伸也
映画『バッド・アート』の作品情報
【上映】
2019年(アメリカ映画)
【英題】
Bad Art
【監督】
タニア・レイモンド、ジオ・ゼッグラー
【キャスト】
タニア・レイモンド、ルーリグ・ゲーザ、サラ・ウィンター、マーク・L・ヤング、ジョシュ・スタンバーグ、ヴィンセント・パストーレ、クリスチャン・バンク
【作品概要】
権威者が評価したことこそがアートの価値とばかりに、アーティストの情熱を搾取するアート業界を風刺したスラップスティック・コメディ。
女優として人気海外ドラマでも活躍しているタニア・レイモンドと、本業としてアーティスト活動を行うジオ・ゼッグラーが共同監督として脚本・監督を担当。本作が長編デビュー作となります。
また、『サウルの息子』で主演を担当したルーリグ・ゲーザや、『私はラブ・リーガル』のジョシュ・スタンバーグ、『24 -TWENTY FOUR-』のサラ・ウィンターなど、豪華な出演陣も名を連ねています。
映画『バッド・アート』のあらすじ
無名画家のジョルダナは、収入を得るためにリー・ローレンスと名乗る謎のアーティストに雇われて、あるアトリエで他人名義の絵を描く日々を過ごしていました。
しかしようやくジョルダナの仕事が一段落しようとしていたある日、アトリエに一人の女性が現れます。彼女はある芸術批評誌での評判を聞いて、この場に訪れることに。さらに芸術批評誌での評判を聞いてアトリエに訪れたという人バイヤーが一人、また一人とやってきます。
雇われで描いていた身分であるはずが、自分の知らないところで自分が描いた絵が評価を受け、画をよこせと迫るバイヤーたちに、ジョルダナはうんざりした表情を見せますが…。
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