Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

インタビュー特集

Entry 2019/04/11
Update

【小林聖太郎監督インタビュー】倍賞千恵子と藤竜也が夫婦を演じた映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』の魅力を語る

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』は、2019年5月10日より全国ロードショー。

これまで、映画『毎日かあさん』『マエストロ!』『破門 ふたりのヤクビョーガミ』など、出演俳優の魅力を存分に引き出し続けてきた小林聖太郎監督。


©︎Cinemarche

監督作品としては、短編オムニバス映画と劇場公開長編作品を合わせて6作目となる映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』。

本作の出演は、これまで日本映画を支えてきた俳優・倍賞千恵子と藤竜也を初共演の夫婦役として迎え、市川実日子、星由里子など実力派俳優が共演しています。

劇場公開に先立ち、小林聖太郎監督にインタビューを行いました

本作に出演した大物俳優たちの魅力と撮影現場での様子。そして、小林監督が映画を撮り続けてきた映像作家としての原点に迫りました。

映画制作の経緯


(C)2019 西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会

──最初に『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』の台本を手に取った時の感想はいかがでしたか?

小林聖太郎監督(以下、小林):旧知のプロデューサーから良い台本があるから読んでみてと言われて、準備稿をプリントアウトしたものを読ませてもらいました。その段階で、主役の倍賞さんと藤さんは決まっていました。

実は助監督時代に藤さんと一緒にお仕事をさせてもらったことがあって、ぜひ監督として一緒にやりたいなと思っていたんです。

妻である有喜子さんの抱える寂しさにフォーカスを当てることで、小さいけれど可愛らしい映画になるのではないかと思いました。

協働する小林組スタッフ


©︎Cinemarche

──撮影は2018年2月から3月にかけて行なったそうですが、季節設定は秋でした。作品のイメージ作りでどのような点を意識しましたか?

小林:斜光というのは、意識しました。撮影・照明部と話し合い、家の中は、意図的にセットのような光を作りました。

ちょっと不自然と思われるようなこともやっていますね。ザ・ナチュラル、というよりはこの家がセットだったら、どのように撮るかな、と思って光を作りました。

場面に合わせて、有喜子さんの気持ちをどう表すかというのを各部で考えて撮りました。

倍賞さんには、映画で育って来た人の力と立ち居振る舞い、立ち姿…曖昧な言い方になってしまいますが、装飾部や照明部の意図を互いがちゃんと理解し、呼応しながら、撮っていけるという安心感がありました。

将棋クラブの日が1日雨になってしまって、土砂降りで外は真っ暗だったんですけど、照明部のみんながライトを当てて、穏やかな日常を感じさせる光を作ってくれました。

それ以外は、天候などにも恵まれて撮影を終えることができました。

倍賞千恵子の存在感


(C)2019 西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会

──主演の倍賞千恵子さんがとても可愛らしかったです。

小林:撮影を担当した清久素延(きよく もとのぶ)さんと、今回は倍賞さんのアイドル映画だよねと話していました(笑)。

どうやって撮るかと考えるまでもなく、倍賞さんのチャーミングさが伝わってきました。初めの3日間は過密なスケジュールで倍賞さんに負担をかけてしまいましたね。

倍賞さんはどんな現場でも、どの作品に対しても、同じように真剣に向き合っておられるのだろうと思うんですね。

女優としてスゴいだけでなく、人間としての魅力がずば抜けている、それが役者としての魅力でもあるという印象を受けました。

倍賞さんのバランスは、娘役を演じた市川実日子さんとも通じるものがありました。

娘役を演じた市川実日子


(C)2019 西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会

小林:市川実日子さんとは、20年前に助監督の時にご一緒しました。

まだその時はモデルから役者をはじめたばかりの頃で、演出部と市川実日子さんとデビュー時の渡辺大さんとで、日活芸術学院の体育館でじっくりリハーサルをやったことがあって、その時と変わらない。芝居がというのではなく、普通というか自然体というか、これは本当に稀有なことなんですね。

母役の倍賞さん、娘役の市川さんの自然な人間としてのバランスが、チャーミングさなのかもしれません。

藤竜也の素顔


(C)2019 西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会

──夫・勝役の藤竜也さんはいかがでしたか?

小林:藤さんはかっこよかったですね。

集合時間の、さらにその前に一人で愛車を運転して来られるんです。地元のチームジャンパーを着て、颯爽と来て、颯爽と帰っていく。

将棋クラブの撮影でお借りした商店街の方が、たまたま藤さんと旧知の方で「お~たっちゃんか!」と交渉が円滑に進んだことも。長く芸能界にいるからこそ普通であろうと心がけておられるのか、地元でも俳優以外の仲間たちとのお付合いを大事にされているようでした。

あと、毎日寝る前に奥様と握手をする、と話しておられました。もしかしたら明日会えないかもしれないからって。

──それは亭主関白の役柄とは大分違いますね。

小林:ご本人は全然違うんです。藤さん自身も、最初に台本を読んだ時に「これは今時、嘘じゃないか?」と思ったようで、様々な年代の地元の仲間たちに話を聞いたらしいんです。

そうしたら亭主関白の方が意外とたくさんいて、「まだまだ、いるんだね〜こういう人は」って驚いていました。

撮影中はカットがかかった後、倍賞さんに「ごめんね。」って。「ひどいなこれは…」って謝りながら演じていらっしゃった。それでも倍賞さんに対して自然と優しさが出てしまう。「お〜い」って呼ぶ声が優しくなってしまって、慌てて「藤さん、仲良し夫婦じゃないんですよ」と(笑)。

──観ている側も、本当にひどい旦那さんだって怒っちゃう。でも最後はほろっとして…(笑)

小林:それは藤さんの力ですね。でもこれは取り扱い注意で、真似したら痛い目に合います。亭主関白でも最後にこれを言ったらいいんだって思ってたら、大間違いですね、フィクションです(笑)。

亡き星由里子との思い出


(C)2019 西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会

──星由里子さんは本作が遺作になってしまいました。監督からみた星さんはどんな女優さんでしたか?

小林:星さんは、女優というものを立体化したらこのような感じになる、まさにザ・女優、という方でした。

僕、一つだけ後悔がありましてね。星さんが衣装合わせの時に、僕に向かって「先生これでよろしいでしょうか?」と言われて、「あ、大丈夫です」って普通に答えてしまったんですよ。

「先生」って言われたことに畏れ多さや居心地の悪さを感じながらも「先生、というのはやめてください!」って否定することもできないような自然な息と間で言われたので……。

昔の撮影所の頃の社員としての監督、女優の関係ってこんな感じだったのかなと、こちらの背筋が伸びるような、いい緊張感を味わらせてもらいました。

──かつては、3人とも所属していた映画会社が違うんですよね。

小林:そうなんですよ!スゴイことですよね。ポスターが「3社3大スター共演」となる。倍賞千恵子(松竹)藤竜也(日活)星由里子(東宝)と、括弧付きが入る(笑)。

さらにスゴイことに、制作部がたまたま飛び込みで行ったお店が、あの(「彼岸花」の!「黒い河」の!「人間の條件」の!)有馬稲子さんがよく行かれているところで、お店の方から撮影のことを聞きつけて、倍賞さんと星さんのシーンの時に差し入れを持ってきてくださったんです。

朝7時半に、有馬稲子さんと倍賞さんと星さんの3人がいらして、撮影どころではなくなって…。倍賞さんが有馬さんに「こちら監督ですよ」って紹介してくださった時には、「監督とか言わないでくださいよ~」って動揺してしまいました(笑)。

そうしたら有馬さんが「私のことなどお忘れでしょうけど」って。最近、脳みそに自信がないので一瞬「どこかでお会いしたことが……?」と焦りましたが<女優として世間に忘れられてる>という意味と悟り、「いやいや、忘れるはずないじゃないですか~!」って…。写真撮ってもらったらよかったなぁ。

映像作家としての源流


©︎Cinemarche

──監督の「家族」というものへのまなざしの温かさが伝わるような作品でした。

小林:僕は助監督として10年弱、劇映画をやってきました。いろいろな撮影現場を経験してきて思うのは、現場の雰囲気の良さと作品の面白さ、温かさと言うのが比例するわけではない。本当に不思議なんですが、あまり関連がないんですね。

だから現場の空気を結果としてよくするということはあっても、そのことを目的とはしていない。

ただ、今回の作品に関して、もしにじみ出てくる温かさのようなものがあったとするならば、とても嬉しいですね。

僕のというよりは、皆さんのおかげですが…そうですね、監督の手腕ということにしておいてください(笑)

──助監督時代多くの監督のもとでお仕事をしてらっしゃいますね。

小林:それは狙ったことではなく必然です。今は同じ監督の下で何本も助監督につくということが難しい時代なので。

劇映画を志したきっかけ


『映画に憑かれて 浦山桐郎―インタビュードキュメンタリー』(1998)原一男・編集

──原一男監督の助手を務めていた時代のお仕事として、原監督の著書で、映画監督の浦山桐郎についてのインタビューを集めた著書『映画に憑かれて 浦山桐郎―インタビュードキュメンタリー』の編集を担当されていますね。

小林:おお…。(書籍を懐かしそうに目にして)『浦山桐郎』の本は、(ドキュメンタリー撮影を含めて)完成までに3年間かかりました。

浦山監督について、当時の俳優、スタッフ、監督、いろいろな方にインタビューをしたんですけれど、とても勉強になりました。

同じエピソードでも微妙に違うんですよね、人の記憶って面白いなって思いました。その中でも、監督のインタビューが一番面白くて。インタビューの趣旨は浦山監督とのエピソードを伺うことなんですが、皆さんまずご自分の話をされるんです。

鈴木清順監督や西河克己監督をはじめ錚々たる監督たちが、自分が助監督になったきっかけとはとか、日活撮影所とはどのようなものだったのか、なんていう話を。全部は書籍には載せ切れないので大半は削らなきゃいけないんですけれど。監督方のお話に惹かれてプロフェッショナルとしての演出部に興味を持ち、劇映画の助監督をやろうと決意しました。


©︎Cinemarche

一番面白かったのは、西村昭五郎さんというロマンポルノの帝王と言われた監督で、まだ当時65〜66歳だったんですが、琵琶湖のほとりにある老人ホームにお住いで、仕事場にはそこから通っていました。まだその時は出始めのパソコン通信で、囲碁をやっているんですよ。長谷川和彦監督とね。お互い五段なんだけど、三段と偽って、そこで荒らしまくっているって、誇らしげに言ってました(笑)。

インタビューは、国民宿舎と一体型となっているホームで、その喫茶室で行ったんですが、そこの従業員の方が西村監督のしもべのようでね。「すごいですね~」って言ったら、「いや、違うんだよ。最初ね、僕が映画監督だって言っても誰も信じなかった。だから日活の後輩に言って、石原裕次郎の映画を送ってもらって、ここでフィルムをかけたら、そうしたらみんなが「はは~」ってね(笑)」と仰っていました。

小林監督からのメッセージ

©︎Cinemarche

──本作をご覧になる観客の方々にメッセージをお願いします。

この映画は、たまたま昭和っぽい夫婦の話ですけど、異性・同性・法律婚・事実婚……どんな形でも他人と共同体を作り、維持するって本当に難しいと思うんです。

だいたい皆、なぜ自分の思いを分かってくれないんだろうって思ってるけど、それは当たり前のことで、「こんな悩みを持っている」って言わないから、相手は気づかない。

言葉によるコミュニケーション不足に心当たりのある方は、パートナーを連れて見に来ると、「危機に至る二歩手前」でお互い話ができ始めていいんじゃないでしょうか。

小林聖太郎(こばやし しょうたろう)プロフィール

1971年3月3日生まれ、大阪府出身。

大学卒業後、ジャーナリスト・今井一の助手を経て、映画監督・原一男主宰の「CINEMA塾」に第一期生として参加。

原一男のほか、中江裕司、行定勲、井筒和幸など多くの監督のもとで助監督として経験を積み、2006年に公開された『かぞくのひけつ』で監督デビューを果たします。同作は第47回日本映画監督協会新人賞、新藤兼人賞を受賞しました。

2011年の映画『毎日かあさん』では、第14回上海国際映画祭アジア新人賞部門で作品賞を受賞。そのほかの監督作品に『マエストロ!』(2015)、『破門 ふたりのヤクビョーガミ』(2017)などがあります。

インタビュー・撮影 / 出町光識

映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』の作品情報

【公開】
2019年5月10日(金)(日本映画)

【原作】
西炯子「お父さん、チビがいなくなりました」(小学館フラワーコミックスα刊)

【監督】
小林聖太郎

【キャスト】
倍賞千恵子、藤竜也、市川実日子、佐藤流司、小林且弥、優希美青、濱田和馬、吉川友、小市慢太郎、西田尚美、星由里子

映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』あらすじ


(C)2019 西炯子・小学館/「お父さん、チビがいなくなりました」製作委員会

3人の子どもを育て上げた後、愛猫チビと穏やかな熟年の時を過ごす勝と有喜子。

夫婦の暮らしは平穏だが、勝は無口、頑固、家では何もしないという亭主関白を絵に描いたような存在でした。

妻として夫に尽くす有喜子でしたが、どこか満足せず、寂しさを感じていました。

ある日、遊びに来た娘の菜穂子に「お父さんと別れようと思っている」と打ち明けます。

そんな矢先、愛猫チビが姿を消してしまいます。有喜子は唯一の心の拠りどころだったチビを失い、少しずつ追い詰められていきます。

有喜子は、なぜ離婚を言い出したのか。そして妻の突然の告白を受けた夫の勝が妻に伝える言葉とは…。

まとめ

小林聖太郎監督がキャストに日本を代表する倍賞千恵子と藤竜也を迎えて描く、熟年期を迎えた夫婦の感動のホーム&ラブストーリー

映画『初恋〜お父さん、チビがいなくなりました』は、2019年5月10日より全国ロードショー

ぜひ、劇場でお見逃しなく!

関連記事

インタビュー特集

【グー・シャオガン監督インタビュー】映画『春江水暖』中国の文人的な視点で“変わりゆく故郷”と“家族”を問う

第20回東京フィルメックス「コンペティション」作品『春江水暖』 2019年にて記念すべき20回目を迎えた東京フィルメックス。令和初の開催となる今回も、アジアを中心にさまざまな映画が上映されました。 そ …

インタビュー特集

【古川雄輝インタビュー】ドラマ「ねこ物件」主人公・優斗の成長をキャスト陣と“ネコンディション”と共に演じる

ドラマ「ねこ物件」はテレビ神奈川、TOKYO MX、BS11ほかにて順次放送! 猫とイケメンが集うシェアハウスが舞台のオリジナルドラマ「ねこ物件」。 シェアハウスの入居条件は「猫に気に入られること」。 …

インタビュー特集

【荒井晴彦監督インタビュー】映画『火口のふたり』日本を代表する脚本家が描く“他人事”としての震災

映画『火口のふたり』は2019年8月23日(金)より新宿武蔵野館ほか絶賛公開中 日活ロマンポルノ、角川映画、さらには文芸作品に至るまで多岐にわたり活躍し、海外でも高い支持を得ている日本を代表する名脚本 …

インタビュー特集

【齊藤工監督×yamaインタビュー】映画『スイート・マイホーム』主題歌という物語の蓋を閉じる“鎮魂歌”×他者と自己に“還元”されていく表現

映画『スイート・マイホーム』は2023年9月1日(金)より全国公開! 作家・神津凛子のデビュー作である同名小説を、俳優として活躍しながら映像制作活動も行い、初の長編監督作『blank13』(2018) …

インタビュー特集

【岡田有甲監督インタビュー】映画『TRAVERSEトラバース』チャンバラを空手に置き換え、困難を乗り越えた姿を描きたい

リアル・アクション映画『TRAVERSE トラバース』2019年12月21日(土)より大阪・シアターセブン、12月27日(金)より京都みなみ会館で公開! 愛知県豊橋市を拠点に活動する空手道豊空会創始者 …

U-NEXT
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学