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Entry 2019/06/12
Update

NETFLIXおすすめ映画『ユピテルとイオ』ネタバレ感想と結末までのあらすじ|SF恐怖映画という名の観覧車53

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile053

映画技術の発展と、異常気象や温暖化など漠然とした自然環境に対する危機意識の増大によってか、終末世界を描いた映画が多く製作される近年。

莫大な製作費をかけることでお馴染みのNETFLIXプレゼンツ映画からも新たに、終わり始めた地球で孤独に生きる女性を描いた作品が登場しました。

今回は終末世界を題材としながらも、他の作品にはない独特な雰囲気をまとったNETFLIX独占配信映画『ユピテルとイオ』を、あらすじネタバレを交えご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『ユピテルとイオ』の作品情報

【日本公開】
2019年(NETFLIX独占配信)

【原題】
IO

【監督】
ジョナサン・ヘルパート

【キャスト】
マーガレット・クアリー、アンソニー・マッキー、ダニー・ヒューストン

【作品概要】
『ナイスガイズ!』(2016)などに出演し注目を集める女優マーガレット・クアリー主演で製作されたNETFLIXオリジナル映画。

物語で重要な鍵を握るマイカ役として『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)よりアベンジャーズシリーズに参戦したアンソニー・マッキーが起用されたことでも話題となった。

映画『ユピテルとイオ』のあらすじとネタバレ

度重なる自然の破壊のためか、はたまた地球が人間を追い出そうとしているのか、大気中の成分に毒素が混ざり始め、人間が住めない環境になりました。

人類は木星の衛星「イオ」の軌道上に宇宙コロニーを作り拠点を地球から移し替える「エクソダス計画」を進め、多くの人間が既に地球から脱出をしています。

ガスマスクを装着し毒素の満ちた街の中で調査と使えるものの回収を繰り返し地球で生きる女性サム。

毒素は空気より重いためか低地に溜まるため、山の上ではまだ酸素が残っていて、サムは住居を山の上に構えることで生き延びていました。

イオに移り住んだ恋人のイーロンは、サムにイオに来るようにメールで伝えますが、サムは亡き父の研究を続けるため地球に残る決断をしていました。

毒素が溜まる市街地で生まれた虫を発見したサムは、父の提唱した「蜂が毒に対する耐性を持てば、植物が蘇り地球が復活する」と言う説を信じ、蜂に対し様々な実験を試みていました。

イーロンからの情報で、イオでは地球に似た星への探索を進めるために燃料などの資源を全てつぎ込む計画が立っており、恐らく次の地球からイオへの移動船が最後になるとのことでした。

サムは市街地にある図書館を探索しますが、その時、大きな嵐がサムの拠点である山上を襲い、遺伝子実験を行っていた蜂や野菜などを育てていたビニールハウスなどが全て毒素にやられてしまいます。

翌日には山上から毒素が消えたものの、全てを失ったサムの悲しみは深く、イオへの移動船が出る発射場まで移動する酸素すらも用意が出来ず、イオへも行くことが出来ません。

悲しみに暮れるなか、雲から1隻の気球が現れます。

気球が山上へ不時着すると、気球から男が現れサムの父であるヘンリーに会いに来たと言います。

サムは地球に残った人間が希望を失わないために、ヘンリーの死後もヘンリーの研究音声をラジオで流し続けていたのです。

マイカと名乗るその男はヘンリーに会いに来たと譲らず、助手と名乗るサムに自身の目的を話しませんでした。

サムはヘンリーは山に研究に行っているためしばらく戻らないと嘘をつきマイカに宿泊を勧めます。

翌日、マイカは壊れた施設の修復を手伝い、無愛想ながらも心を開き始めました。

サムが自分の身体に毒素を塗り耐性を高めようとする実験を行っていることや、かつては毒素の中で生きる豚が成功しかけていたことを話します。

しかし、マイカはヘンリーが地球での最後のテレビ放送時に出演した際に話した、「再び地球で暮らせる」と言う発言を信じ地球に残ったことを後悔しているようでした。

マイカはサムの両親の寝室に入ると、サムの母親が地球に残り死んだことをヘンリーの責任であると言い、サムの制止を振り切りヘンリーの研究室に押し入ります。

長年使われていない研究室を見たマイカに対し、サムは父自身が自分の研究を信じておらず死の間際まで後悔し、サムにイオに行くように指示しながら死んだことを話します。

その話しを聞きサムに謝罪するマイカは、サムにイオへの避難船が出る発射場に共に気球で行き、イオへと向かうように誘います。

研究に希望が無く、マイカの頑なな態度と併せ了承したサム。

風向きが変わり次第、気球を飛ばすことになりました。

サムはイオに向かうことをイーロンにメールで告げると、逆にイーロンは新世界の調査隊に加わったと返し、数年以上は会えないことが分かります。

出発の準備をするため蜂の巣から蜂蜜を作るサムとマイカは、巣穴に先日の嵐を生き残った女王蜂がいることに気がつきます。

大きな関心を寄せるマイカでしたが、一方でサムは覇気を失っており興味を示しませんでした。

イーロンが新世界の調査へ向かったことで彼との間に大きな溝を感じていたサムは、風向きが変わらないことに苛立つマイカに関係を迫り、2人は関係を持ちます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ユピテルとイオ』のネタバレ・結末の記載がございます。『ユピテルとイオ』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

翌日、イオへ向かう避難船の発射場所が変わったことを無線で知ったマイカは絶望に暮れます。

マイカの持っていたヘリウムの量では到底その位置までたどり着くことは出来ず、マイカはヘンリーを探しにこの場所へ現れた真の目的を吐露します。

妻と地球に残ったマイカは、妻が病気になったうえに食料が尽き、妻が死んでいく様子を目の前で見ることになり、地球に希望があると提唱していたヘンリーに対する怒りを溜めていたのです。

しかし、この地でヘンリーの想いを継ぎ生きているサムを見たことで、同じことを繰り返さないためにもサムには生きて欲しいと考えていました。

マイカの想いを知ったサムは、毒に満ちている市街地の中に行けばヘリウムがあるはずの場所を知っていると言い、ガスマスクを装着しヘリウムを回収後、気球で発射地点まで向かう計画を立てます。

拠点を出る準備を終え、出発した2人は市街地で順調にヘリウムを回収し、気球に注入します。

マイカが気球の準備をする間に、サムはどうしても足を運びたかった美術館へ行き、最後の展示を眺めていました。

サムが「レダと白鳥」を見ている時、酸素ボンベを変える時間になっても戻らない彼女を心配しマイカが駆け付けました。

マイカから神話の話しを聞いたサムは、自身が良く見る「毒素が満ちている場所でガスマスクをしていなくても生きている夢」の事を話すと、ガスマスクを外しマイカに1人で脱出するように言いました。

1人で気球に乗るマイカ、サムからのメッセージで他の人たちが新世界に惹かれるように自身は地球に惹かれていること、そして人類の帰還を地球で待っていることが告げられます。

毒の中でも死亡せず、憧れだった海を歩くサムの横には小さな子供がいました。

映画『ユピテルとイオ』の感想と評価

終末世界を描いた、いわゆる「ポストアポカリプス」映画は「マッドマックス」シリーズを始めとして根強い人気を持つジャンルです。

NETFLIXはポストアポカリプス作品に特に力を加えており、大人気となりシーズン2も製作されたドラマ「ザ・レイン」や、名優フォレスト・ウィテカーが出演した『すべての終わり』(2018)など、多くの作品を手掛けてきました。

しかし、その中でも『ユピテルとイオ』が異質なのは、このジャンルにはお決まりの要素である「人間同士の略奪」や「信じあうことの難しさ」がメインの題材とはなっていない部分にあります。

人の住めなくなった市街地と、地球の再生の方法を探すサムを中心に描かれた物語は「行動」などの「物理的な動き」と言った要素は少なく淡々と進んでいきます。

本作では、「地球」を「家」と置き換えることで、何かを失った人間がどう生きていくのかを描いた作品であるように思えました。

拠点で生き、あくまでも「地球」と「地球の再生」に固執するサムと、気球で移動し地球からの脱出を考えるマイカ。

どちらが正解と言う明確な答えを出さず、終末世界と言う世界観を基軸に「心理的な動き」をたっぷりと描写した「ポストアポカリプス」映画の新しい形とも言える作品でした。

まとめ

登場人物は主に2人のみで描かれる終わりゆく世界への「希望」と「絶望」。

敢えて多くは描写していないため、物語の数多くの部分の詳細は鑑賞者の考察に委ねられています。

大切な人の意志を継ぎ、「前へ進むこと」も「後ろを振り返ること」も、それぞれがそれぞれの道である、と言うメッセージの込められた本作。

力強くもあり、また心理的に脆くもある、とても人間臭いサムとマイカを演じたマーガレット・クアリーとアンソニー・マッキーの演技も素晴らしい作品でした。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile054では、AIに対する疑念と信頼を描いたNETFLIXプレゼンツ映画最新作『アイ・アム・マザー』(2019)をネタバレあらすじを交えご紹介させていただきます。

6月19日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら


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