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Entry 2019/06/06
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映画『エリカ38』あらすじと感想。樹木希林が浅田美代子のために生涯唯一の企画作品|銀幕の月光遊戯 34

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第34回

2019年6月07日(金)より、TOHOシネマズシャンテ他にて、樹木希林Presents、浅田美代子主演の『エリカ38』が全国ロードショーされます。

実年齢を20歳以上詐称し、実態のない支援事業で何十億もの金を不当に集めた女。実際の事件を元に、金への欲望に人間の本性が露呈するノワール要素たっぷりの人間ドラマです。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『エリカ38』のあらすじ


(C)吉本興業

投資詐欺の容疑で国際指名手配されていた渡部聡子容疑者はタイに滞在しているところを当局に拘束され、日本に強制送還。機内で逮捕されました。

護送車に乗った渡部聡子を報道陣が取り囲み、「一部の報道では10億円以上を集め、それを私的利用したと言われていますが」と問いかけました。聡子は笑みをうかべ、「いやだ、そんなの。私も被害者の一人ですから」と応え、「今日もおきれいですね」という声にわるびれず「ありがとう」と微笑むのでした。

クラブでホステスをしながら、健康食品を扱うビジネスを手がける渡部聡子は、ある日喫茶店で、上品な和装の女性に声をかけらます。

あなたのお話を聞いていて商品が気になったと女性は言うと、一つ12000円の商品を15個、ぽんと現金で支払い聡子を驚かせます。

女性は伊藤と名乗り、今度すごい人をあなたに紹介するわと名刺を差し出しました。

数カ月後、伊藤が、聡子が勤めるクラブに男を連れてやってきました。男の名は平澤と言い、世界をまたぐビジネスを展開していると自己紹介します。

あなたが伊藤さんの支えになってあげてください、人は誰かの役にたつことが一番幸せなのです、という平澤に、私にできるかしらと満更でもない調子で聡子は応えました。

聡子は自分の顧客に、平澤が手がける途上国支援事業を紹介します。巧みな平澤のトークに何人もの人が興味を示し、聡子が彼らからのお金を受け取る役目を担うことになりました。

伊藤は聡子に平澤と関係を持つことを暗に薦めます。集めたお金を平澤が待つホテルの部屋に持参した聡子は、平澤と関係を持ち、彼らのもとには続々と金が集まってきました。

聡子は、年配のパトロンを侍らせて、豪邸を買ってもらい、介護施設に入れていた母親を呼び寄せました。

高級車を乗り回し、自宅に顧客を招いて、旨い話をしては金を集め、贅沢三昧の日々。

ある日、聡子は平澤が顧客の女性と関係をもっていることに気付き、彼を裏切ります。金を彼のもとに収めず、私的利用を始めたのです。

しかし、配当が滞るようになると、顧客からは不平が出始め、出資金を返せと大勢でつめかけてくるようになりました。

聡子はタイへ逃走します。聡子はタイで“エリカ”と名乗り、38歳と年齢を20歳も詐称し暮らし始めました。

タイで知り合ったのは、貧しいが誠実そうな若いタイ人の男性でした。“エリカ”は、彼に豪邸を買い与え、恋人同士として暮らし始めますが・・・。


 

樹木希林、生涯唯一の企画作品


(C)吉本興業

2018年に惜しまれつつ、逝去した樹木希林による初めての「企画」作品です。

実際にあった詐欺事件の容疑者の女性を旧知の仲である浅田美代子に演じさせれば面白いのではないかと考えた樹木希林は、ニューヨークで写真家・俳優、映画監督として活躍する日比遊一に監督を打診。別の企画を持ってきた奥山和由に、この企画を売り込んでプロデューサーを引き受けることを承諾させたといいます。

浅田美代子は、樹木希林とも共演したデビュー作であるドラマ『時間ですよ』(1973/TBS)でお茶の間に圧倒的に支持され、またたく間に国民的アイドルとなりました。

1974年には映画『あした輝く』(山根成之監督)で初主演を果たしています。「釣りバカ日誌」シリーズなど、人気映画、ドラマに出演。年齢を重ねていく中、存在感のある確かな演技を見せてきました。

『エリカ38』は、そんな彼女が『あした輝く』以来、45年ぶりに主演する作品となります。

実態のない事業で多額の金を集め、配当が支払えなくなると、タイへと逃走する女性は、これまでの浅田美代子のイメージとはかけ離れたものですが、樹木希林が目論んだように、彼女だからこそ、作品に説得力を与え、“エリカ”という女性に、多くの人々が翻弄された理由が見えてくる作品になっています。

樹木希林は、最初は自分自身の出演を拒んだそうですが、周りの強い希望に応える形で出演を決めたそうです。静かに座っているだけで、多くの感情を呼び起こすその姿に誰もが魅了されることでしょう。

「浅田美代子に代表作を」という友情から始まった企画は、樹木希林の天性のプロデューサー力を証明したものとなりました。

女優・浅田美代子の魅力


(C)吉本興業

窪塚俊介扮するジャーナリストが、事件の被害者や“エリカ”に関わった人々を訪ねてインタビューしていくのですが、それがまるでドキュメンタリーのような雰囲気を漂わせます。

なぜこれほどまでに簡単に人は騙されてしまうのでしょうか? 

平岳大扮する詐欺師の大元、平澤が、カモに向かって喋る内容なんて、まったく何も言っていないに等しく、冷静に聞けば、あきらかにおかしいのですが、その場の雰囲気だとか、自分だけが取り残されたくないというような複雑な心理が働いて、金を出せと自分自身に信号を送ってしまうのでしょうか?

まさに“欲に目のくらんだ狂想曲”というところですが、浅田美代子扮するヒロインを観ていると、どうもただの“欲望”だけではなく、彼女の不思議な人間力が人々を狂わせたのではないかと思われてなりません。

キラキラ光る大きな瞳、親しみやすい笑顔、謙虚な姿勢、人の良さそうな佇まい。それらがその女の作ったキャラクターなのか、生まれつきのものなのかは判断しかねますが、人と接する時の、嫌味のない、好感度を彼女は持っていて、被害者は金儲けという欲にプラスして少しでもたくさんの出資金を出して彼女を喜ばせようとしているかのようです。

ジャーナリストのインタビューに応える人の中には3000万円を騙しとられたにもかかわらず、「騙された気がしない」と告白する人もいます。まるで夢をみていたかのような感覚なのでしょうか? 

もっとも、多くの被害者は、そうではありません。皆でヒロインに詰め寄るシーンがあり、ここにかなりの時間をさいています。

ひとりひとりの主張がダイナミックに描かれるほど、“エリカ”の罪悪感のなさが露呈していき、悲惨なのに滑稽にも感じられるシーンになっています。

枯れた色合い、クールなタッチ


(C)吉本興業

作品の色調は全体に青みがかっています。ヒロインが贅沢三昧をする光景ですら、ギラギラとどぎつい色では表現されません。

高岡ヒロオのカメラはどこか枯れたような色合いで統一されています。遊園地のシーンでも空の青さはおとなしいもので、遊具の色すら掠れたように感じられます。

そうしたトーンを貫きながら、物語は、「発端プロローグ」、「監禁」、「裏切り」といった章ごとにスピーディーに進行していきます。渡邊琢磨の音楽も、ミステリアスで、洗練されていて、犯罪映画、ピカレスクものとしてのクールなタッチが全体を覆っており、魅力的です。

また、ラスボス的存在の会社役員・伊藤に扮する木内みどりの貫禄にはすっかり驚かされました。和服美人のしたたかな悪人に木内みどりを配役したのも樹木希林だそうです。

詐欺師であった“エリカ”が辿る皮肉な結末と共に、エンドロールも是非、席をたたずにお楽しみください。

まとめ


(C)吉本興業

浅田美代子はとてもいい感じで年を重ねてきたのだなぁとこの映画を観て改めて感じました。年相応に見える時、年よりふけて見える時、実際よりうーんと若くみえる時、そんな3つの顔を彼女はまるで使い分けるかのように、様々な表情を見せてくれます。

タイでのロケでは、カメラをまっすぐに見つめ返す現地の人々の顔のショットが印象的です。

インタビューを受ける人々の顔も度々クローズアップされます。そういう点で、本作を“顔”の映画と呼ぶことも可能でしょう。

印象的な顔がずらりと登場してきます。

映画『エリカ38』は、2019年6月07日(金)からTOHOシネマズシャンテ他にて、全国公開されます。

次回の銀幕の月光遊戯は…


(C)2019 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

2019年6月14日(金)より公開のアメリカ映画『ガラスの城の約束』をお届けする予定です。

お楽しみに!

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら


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