映画『エリカ38』は、6月7日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー。
2018年9月15日に他界した樹木希林が生前、公私関係なく親しくしていた浅田美代子の代表作になるように、自ら企画し実現のために奔走した映画『エリカ38』。
年齢60歳を過ぎても、38歳と偽って男たちを色香で翻弄し、最後は海外で逮捕された女性・渡部聡子(自称エリカ)の実在の事件を基に製作した作品です。
45年ぶりの映画主演となるエリカ役の浅田美代子の相手役として、愛人の平澤育男役で共演を務めた俳優の平岳大(ひらたけひろ)。
平澤育男という役柄は、自身を大きく見せる雄弁な話術で支援事業説明会で、架空の投資話で大金を掠め取る詐欺師役で、平岳大は見事な長台詞とその語り口調で多くの人たちを欺く演技は圧巻です。
本インタビュー記事は、映画『エリカ38』の公開に先立ち、俳優・平岳大に貴重なお話を伺いました。
映画、ドラマ、舞台とボーダレスに世界的に活躍を見せる平岳大が、本作の魅力と役どころについて語ってくださいました。
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詐欺師平澤役の魅力
──初めて『エリカ38』の台本を読んだ時の印象はいかがでしたか?
平岳大(以下、平):セリフが長いなっていう…(笑)。監督が脚本を書かれていているんですが、あれ?これは日本語が間違っているんじゃないかなという印象を持ちました。
それはわざとそういうセリフなんです。一つ一つ話される言葉の意味はわかるんだけれど、セリフ全体を通して読むと何を言っているかわからない。
その逆も然りで、全体を通すと意味はわかるんだけれど、一つ一つを分解すると意味がわからない。
それが詐欺師の手法なのかもしれない。すごい難題を突きつけられた感じがあって、それでこの役をやってみたくなったんです。
──セリフそのものに興味を持たれたということですか?
平:もちろんセリフもそうなのですが、平澤役に挑戦することに興味を持ったんです。
詐欺師なんですけれど、いかにも詐欺師っぽく、というのも面白くない。
この映画は全体的に、どこまでが被害者でどこまでが加害者かというのがわからない。セリフも役柄も出来事も表裏や白黒がはっきりしないそこに興味が湧いたんです。
──平澤役では相手を信じさせる説得力が求められたと思うのですが、その辺りに関してはいかがですか?
平:平澤の絶対的な自信。みんなが知らないことを知っていて、みんなが知らないことを持っていると思わせる。
でもそれは、すぐに見せるのではなく、話術でちょっとずつ見せていくわけです。
最初の演説の場面も、平澤は圧倒的なオーラがあって、普通に過ごしていたら絶対に手の届かない存在だし、違う世界の人。
でもその人が自分たちのところへ壇上から降りて近づいてきただけで、手の届く存在になったと思える。
壇上でずっと喋っているよりも、平澤と聴衆との関係性の近さが出てきますよね。
あとは、最初カタカナ語をいかにも英語の発音で言うのはどうだろうと思って、例えば「ペンタゴン」も「Pentagon」って(笑)。
本読みの段階でカタカナ語を全部英語としての発音やったんです。木内みどりさんも「何やってるの?」みたいな感じで、結構受けたんですけれど、現場に入ってやったら、監督から「ペンタゴン一つにしておこう」って。唯一そこだけはやらせてもらいました(笑)。
そういうセリフ一つで、彼がどんなところで生きてきたのかというのを匂わしていく。そんな工夫をしました。
──日比遊一監督からは、演技に関してオーダーなどあったのでしょうか?
平:ありました。映画の中でも実際の被害者の方のインタビューを使用しているのですが、監督から「平澤」がよりリアルな存在にみえるよう、参考となる映像を見せていただき、そのイメージに近づけるよう演じてほしい、という依頼を受けました。その映像を見た時に、僕とは全くタイプが違うなと感じました。
この映画はある意味ノンフィクションではあるんだけれど、正確には事実に基づいたフィクションです。
僕が台本から読み取って作り上げた「平澤」という役と、台本の中の「平澤」という人物を二つの違う方向からアプローチをしている感じがあって、互いの平澤像を理解していくのに時間がかかりました。
人間の持つ業の深さへの哀れみ
──作品をご覧になった印象はいかがでしたか?
平:ああ、なんというかすごく可哀想だな…と思いました。エリカがです。
それと、ニュースを見ていて「なんで騙されるのかな」とか「嘘に決まっているのにどうしてはまっちゃうのかな」って思うことがあるんですが、普通の人が巻き込まれていくことの、真実味というか。こうやって信じていくのか、ちょっとした心の隙や心の欲の存在が及ぼす影響を、率直に恐ろしいと感じました。
隙に入り込んでいく機微だったり、そこからもたらされる苦楽が、だんだん大きくなっていく。一瞬にして全てが崩壊していくことへの恐怖。やっぱり真面目に働いていた方がいい(笑)。
あとは、タイでエリカが若い青年と戯れているシーンが印象的でした。
エリカが結局男に振り回される。心の空洞を埋めたいという欲望、業の深さや人間の哀れみが感じられました。
主演浅田美代子さんについて
──エリカ役の浅田美代子さんと共演した感想は、いかがでしたか?
平:樹木希林さんが浅田美代子さんを絶対にエリカ役でと強く要望されていたというのに納得しました。
浅田さんは、どこを押してもするりとかわされてしまうというか、一体どこにそのスイッチを隠し持っているのだろうかと、自然と引き込まれる、そんな魅力のある女優です。それは、おそらくエリカに通じる部分でもあるのだと思いました。
観客の皆さんへのメッセージ
──この映画の見所と観客の皆さんへのメッセージをお願いします。
平:いわゆる詐欺師の話なのでしょうが、エリカ自身は、嘘ではなくその瞬間は本当に信じていんだと思うんです。
エリカは周りの人たちに投資の話をしているときは、自分自身も完全に信じていた。言葉や想いの熱量というのは、自分の真の心に裏打ちされていないと必ずどこかに綻びが出てくる。
騙す側の心理構造というのは結局のところどうなのか、僕はわからないけれど、口から出まかせというよりは、本当にあったことを本当に喋っていたんというような感じがします。
騙すこと、騙されること、という二項対立ではなく、どこかグレーゾーンがある。観客の皆さんにも是非、肩肘張らずに楽しんでいただけたらと思います。
インタビュー/久保田なほこ
撮影/出町光識
平岳大(ひらたけひろ)のプロフィール
1974年7月27日生まれ、東京都出身。
2002年に舞台『鹿鳴館』で俳優デビューを果たす。2016年にNHK大河ドラマ『真田丸』で武田勝頼役を演じ注目を集める。
主なドラマ出演作品に、大河ドラマ「篤姫」(2008/NHK)、連続テレビ小説『梅ちゃん先生』(2012/NHK)、『大岡越前』(2013〜/NHK)など。
映画出演作品に『のぼうの城』(2011/犬童一心、樋口真嗣監督)、『関ヶ原』(2017/原田眞人監督)、『検察側の罪人』(2018/原田眞人監督)などがある。
現在撮影中のNetflix/BBCシリーズのドラマ『GIRI/HAJI』では主人公ケンゾーを演じる。
映画『エリカ38』の作品情報
【企画】
樹木希林
【製作総指揮】
奥山和由
【脚本・監督】
日比遊一
【キャスト】
浅田美代子、平岳大、窪塚俊介、山崎一、山崎静代、小籔千豊、菜葉菜、鈴木美羽、佐伯日菜子、真瀬樹里、中村有志、黒田アーサー、岡本富士太、小松政夫、古谷一行、木内みどり、樹木希林
【作品概要】
2018年9月15日に他界した樹木希林よる、自身初となる企画映画。60歳の年齢を過ぎても38歳と偽って色香で男を騙した女詐欺師の実在の事件を基に描いたヒューマンドラマ。
生前に樹木希林がたっての希望で45年ぶりの映画主演となる浅田美代子がエリカ役は務め、彼女の代表作にしたいと映画化実現に奔走した。樹木は自身の出演は拒んだものの、製作総指揮の奥山からのたっての希望でエリカの母役で出演を果たしている。
演出は『健さん』『ブルー・バタフライ』の日比遊一監督。
映画『エリカ38』のあらすじ
渡部聡子=自称エリカ(浅田美代子)は、水商売をしながら、アメリカ製のサプリメントを扱うネットワークビジネスを行なっていました。
ある日、喫茶店で聡子は、上品な和装の女性に声をかけられます。彼女はの営業していた話に耳に傾け、商品が気になったと、ハンドバッグから取り出した現金20万円でサプリメント15個を買い上げます。
その気っ風の良さに驚く聡子。それから数ヶ月後、伊藤信子(木内みどり)と名乗ったその女性は、聡子が勤めるクラブに平澤育男(平岳大)を連れてやって来ました。
平澤は国境を超えたビジネスを展開していると聡子に語りはじめると、次から次にスケールの大きな話を展開させて持ち出します。
夢中で聴き入ってしまった聡子は、平澤のもつ魅力と熱意に圧倒されてしまいます。やがて聡子は、平澤が手がける途上国支援事業に関わることになっていきました。
聡子は持ち前のチャーミングさと、巧みなセールストークで多くの人たち集め、平澤の持ちかけた支援事業にお金を出資するように理解を求めます。
架空の投資話で大金を集めた聡子は、平澤のいるホテルの部屋に返金を持参すると、2人は肉体的な情を通じた愛人関係となりました。
しかし、平澤が複数の女性と付き合い、自分を裏切っていることを知った聡子は、平澤との連絡を絶ち、金持ちの老人をたらし込んで豪邸を手に入れますが…。
映画『エリカ38』は、6月7日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー。