連載コラム『いま届けたい難民映画祭2025』第1回
難民映画祭は、難民をテーマとした映画を通じて、日本社会で共感と支援の輪を広げていくことを目的とした映画祭で、世界各地で今まさに起きている難民問題、1人ひとりの物語を届けています。
今年で20回目を迎える難民映画祭。それは、「節目」であると同時に、「続いてしまった現実」を映す鏡でもあります。
第20回難民映画祭では、困難を生き抜く難民の力強さに光をあてた作品をオンラインと劇場で公開します。公開される9作品をCinemarcheのシネマダイバー菅浪瑛子が紹介します。
最初に紹介するのは、命がけで戦火を逃れた5人が語るスーダンの記憶を描いたドキュメンタリー映画『ハルツーム』(2025)です。
スーダンの首都・ハルツームから戦火を逃れ避難した5人の市民のハルツームでの日々と、逃れた後の心境を映し出したドキュメンタリー。
ペットボトル回収をしている少年2人、民主主義を訴える活動家、ドリンク屋台を営むシングルマザー、鳩レースを愛す公務員。
紛争により普通の日常が一変し、1千万人が避難を余儀なくされたスーダン。5人がそれぞれスーダンでの思い出と、命懸けでスーダンを逃れた悲痛な思いを語り、詩的な映像で紡いでいきます。
第20回難民映画祭は2025年11月6日(木)〜12月7日(日)までオンラインにて開催され、『ハルツーム』はオンライン上映のほか、11月6日(木)のオープニング上映イベントとしてTOHOシネマズ 六本木ヒルズ、大阪会場で11月13日(木)にTOHOシネマズ なんばにてそれぞれ1回だけ上映されます。
【連載コラム】『いま届けたい難民映画祭2025』一覧はこちら
『ハルツーム』の作品情報

(C)Courtesy of Native Voice Films
【日本上映】
2024年(ドイツ、イギリス、スーダン、カタール合作映画)
【原題】
Khartoum
【監督】
Anas Saeed、Rawia Alhag、Ibrahim Snoopy、Timeea Mohamed Ahmed、Phil Cox
【作品概要】
撮影スタッフは、2022年からスーダンの首都ハルツームの市民5人を撮影し始めました。しかし、2023年の軍事クーデターにより紛争状態となり、市民5人と撮影スタッフはスーダンを逃れました。
そんな命懸けで逃れた経験や、スーダンでの思い出などを詩的な映像で紡ぎ出したドキュメンタリー。
本作は、ベルリン国際映画祭2025平和映画賞(Peace Film Prize)受賞したほか、ジュネーブ国際映画祭・人権フォーラム2025Gilda Vieira de Mello賞など映画祭で数々の賞を受賞しました。
映画『ハルツーム』のあらすじ

(C)Courtesy of Native Voice Films
ペットボトル回収をしている少年2人、民主主義を訴える活動家、ドリンク屋台を営むシングルマザー、鳩レースを愛す公務員ーースーダンの首都・ハルツームで暮らす5人の市民。
2022年から市民のハルツームでも暮らしを撮影し始めたスタッフでしたが、軍事クーデターによりその日常は一変します。
紛争の激化により1千万にが避難を余儀なくされたスーダンで、5人の市民と撮影スタッフもスーダンから逃れます。
そして、スーダンを命懸けで逃れた経験や、スーダンでの思い出などをグリーンバックを用いて背景画像と合成し、詩的な映像で紡ぎ出します。
諦めない思い、故郷に残る人々への罪悪感、不安……さまざまな感情が映し出されていきます。
映画『ハルツーム』の感想と評価

(C)Courtesy of Native Voice Films
ペットボトル回収をしている少年2人、民主主義を訴える活動家、ドリンク屋台を営むシングルマザー、鳩レースを愛す公務員ーー命がけで戦火を逃れた5人が語るスーダンの記憶を描いたドキュメンタリー映画『ハルツーム』(2025)。
スーダンでは、30年間の独裁政権が終焉し、文民政権による暫定政府が誕生。2020年には暫定政府とRSFとの間で和平協定に関する最終合意が署名されました。
しかし、政情は安定せず2023年に暫定政府によるスーダン国軍とRSFの間で衝突が起き、国民はまたしても危機に晒されます。
スーダンの首都・ハルツームでは、1千万人が避難を余儀なくされ、5人の市民と撮影スタッフもスーダンから逃れます。
スーダンから逃れたのち、グリーンバックの前で、どのようにしてスーダンを逃れたのか、逃れようと思ったきっかけについて、ただ語るのではなく5人の市民が演じ、再現するという試みをしています。
それは時に、思い出したくない恐怖の記憶を呼び覚ますことでもあります。
一方で演じることでそこに自分自身と役という距離が生まれます。演じることは、客観性を持たせてくれることでもあるのです。
苦しい思い出だけではなく、ハルツームで楽しかったこと、明るい記憶について5人の市民にたずねます。
失われてしまった日常、心のユートピア……詩的な映像と共に語られる思い出は、希望を失わず生きていく人々の強さが感じられ、胸が熱くなります。
夢見た文明政権の誕生、やっと民主化の希望が見えてきたところに、またしても軍事衝突によって奪われた市民の日常。
束の間の自由が奪われ、故郷を去らねばならなくなった5人の市民と撮影スタッフの絶望は想像もできないほど大きな悲しみであったことでしょう。
このような状況はスーダンだけではないでしょう。世界を見渡してみれば、民主化に希望が見えたかと思えば逆行し、停戦をしても繰り返す紛争と平穏な日常を奪われ続けている状況があります。
私たちができることは、それでも希望を失わない強さであると改めて考えさせられるドキュメンタリーです。
まとめ

(C)Courtesy of Native Voice Films
スーダンの首都・ハルツームから戦火を逃れ避難した5人の市民のハルツームでの日々と、逃れた後の心境を映し出したドキュメンタリー『ハルツーム』。
本作は、インタビュー形式で市民が体験を語るというのではなく、語りながら自身が役を演じるかのように再現するという手法をとっています。
5人の市民がそれぞれの体験を再現し、他の人の体験の際は、RSFなど他の役を演じています。その様子はどこか「ドラマセラピー」のようでもあります。
さらにグリーンバックで撮影することで背景の映像と組み合わせて詩的な映像を創り出しています。
ドキュメンタリーであり、アーティステックな作品でもあるのです。そのような姿勢は自分の思いをアートに昇華したクリエイターたちによる映画『ミャンマー・ダイアリーズ』(2023)に通じるものがあります。
第20回難民映画祭は2025年11月6日(木)〜12月7日(日)までオンラインにて開催され、『ハルツーム』はオンライン上映のほか、11月6日(木)のオープニング上映イベントとしてTOHOシネマズ 六本木ヒルズ、大阪会場で11月13日(木)にTOHOシネマズ なんばにてそれぞれ1回だけ上映されます。
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